【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
261 / 702
分岐・鍋島真

怒りと恕し(side真)

しおりを挟む
 保健室の扉あけると、2人は並んで長椅子に座っていた。千晶と華、手を繋いで。

「何があったの?」

 僕は割と冷静だった。千晶と華が、同級生とトラブルを起こしたと聞いても。
 華が、そいつらに、怪我をさせられたと聞いていても。
 ただ、吐きそうなくらい怒ってる。
 そして、どうしようかなと考えていた。よりにもよって、僕の大切なヒト、妹と好きな女の子に手を出すなんて。豚さんにするくらいじゃ済まないよね?

「お兄様」

 千晶が少し気張った声を出す。

「少し、出ていてもらえませんか」

 華は無言だった。ただ床を見ていた。
 白い足には、真っ白な包帯。

(震えてる)

 なぜ? 怖い?

(何があった?)

 僕は一歩踏み出そうとする。華のところへ。

「華、」
「お兄様、あとでお話しますから」

 ぴしゃりとした千晶の声。

「車で待っていて」
「……分かったよ」

 言われた通りに保健室を出る。入れ違いのように、敦子さんとすれ違う。
 目礼だけして、素直に車へ戻った。
 後部座席で目を閉じる。

(何があった?)

 千晶の細い声。
 ……華は。華になにがあった?
 しばらくして、千晶が車に乗ってくる。

「お待たせいたしました」

 ゆっくりと車が動き出した。

「明日、保護者の話し合いがあるそうなのですが、」

 いつも通りの声のトーン。少し安心した。

「オトーサマは無理だろうね。僕が出るよ」
「……すみません」

 受験生なのに、と千晶は呟くように言う。

「受験より千晶のほうが大事だよ? それに、華も」

 そう言うと、千晶は困ったように笑った。

「なにがあったの」
「……大友ひよりちゃん、わかります?」
「うん」

 千晶が昔通ってた塾でできた友達で、その関係で華とも親しくなったはずだ。

「その子がですね、……このところいじめを受けてまして」
「いじめ、ね」
「で、ですね。色々ありましてわたしと華ちゃんで、その現場に突入したわけです」
「色々?」
「まぁ、その、先生を呼ぶ時間も惜しかったといいますか。それで、……結局、すぐに相良先生が来てくださったんです。でもその数分の間に、また色々とですね」

 千晶は言いにくそうにした。

「色々じゃ分からないよ千晶」

 僕は努めて冷静さを装いながら言った。

「ちゃんと話して? それとも加害者の生徒くんから聞き出してほしい?」
「分かりましたお話します」

 即答だった。さすが僕の妹、決断が早い。

「突入したとき、ひよりちゃんはイジメ主犯格の女子生徒たちに羽交い締めにされていました」
「うん」
「それを、男子たちがスマホで撮影してまして」
「悪趣味だね」
「ですね」

 はぁ、と千晶はひとつため息をついた。

「その、男子生徒たちと華ちゃんは口論になりまして、その時に華ちゃんは押されてしまったんです。それで、足をくじいて」
「……」

 僕は黙って窓の外を見た。
 白い足の、痛々しい、白い包帯。

「その時に、……男子の1人が、華ちゃんにのしかかるような体勢で」
「は?」

 思わずそう返した。

「押し倒してるような感じってこと?」
「そう、ですね……」

 言いにくそうな千晶。
 僕は今すぐそいつを殺したいと思った。

「あの、」
「ごめん、いいよ、続き話して」

 あえてにこりと笑って見せた。そう、できるだけ優雅に。
 千晶は少し逡巡する表情を浮かべたけど、やがて口を開いた。

「それで、その時に……酷い言葉を」
「酷い言葉?」
「はい」

 千晶は口ごもる。

「聞かせてくれない?」
「あまり言いたくないのです」

 千晶はゆるゆると首を振った。

「分かったよ。ただ、いくつか教えて?」
「はい」
「さっきの華、あれはその言葉のせいでああなったの?」
「そう、ですね。ひよりちゃんが助け出されるまでは威勢がいいというか、気が張っていたので元気だったのですが、保健室に移動してから徐々にショックが大きくなったみたいで」
「僕に外に出ていろと言ったのは?」
「……その、少し、男性が怖くなってしまっていたので。あの時の華ちゃんは」
「押し倒されたから?」
「それもありますし、……言われた言葉のせいもあると思います」

 なにを言われたんだろう。

「千晶はなにもされてないの」
「はい、わたしは……ほとんど見ていただけで。情けないんですが」

 ぎゅっとスカートの裾を握りしめる千晶の頭をそっと撫でた。珍しく抵抗されない。よしよし、なんて千晶にするのいつぶりだろう。
 撫でながら考える。

(そいつらは、華を傷つけた)

 あんな風に、小さくなって震えて。あんなに気丈な女の子が。
 
(それに、千晶にこんな悲しい思いをさせた)

 千晶は繊細だし責任感も強い。しばらく引きずるだろう。
 怒りとイラつきに反比例するように、頭が冷静になっていく。

(どんな風にしようかな)

 華を傷つけたやつらを。
 家について、夜の間に僕は"色々"考えた。ほんとうに、いろいろ。
 でも、と思う。

(華はどうして欲しいかな)

 明日、いや、もう今日か、と時計を見ながら思った。直接、……は無理だろうか。オトコになんか会いたくない?
 舌打ちが部屋に響く。
 とにかく、聞きに行こう。そして華の願う通りにしようと思う。例えそれがどんなに残酷なお願いでも。

(……違うか)

 きっと彼女は、それでもゆるすんだろう。友人のことはともかく、自分を傷つけたことに関しては。そんな子だから。
 だからこそ余計に許せなかった。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人生の攻略本を拾いました~彼女の行動がギャルゲー感覚で予測できるので、簡単にハーレム……とおもいきや誰かが死んでしまうらしい~

星上みかん(嬉野K)
恋愛
ギャルゲーマスターに攻略本を与えた結果。 この作品は、 【カクヨム】 【ノベルアップ+】 【アルファポリス】 に投稿しております。 ☆ 会話が苦手で、女性と楽しく話すなんて縁がない主人公。 ある日『人生の攻略本』と書かれた本を拾う。その本には学校でもトップクラスの美少女4人の攻略法が示されていた。まるで未来予知のように、彼女たちの行動が示されていたのである。 何を言えば好感度が上がるのか。どの行動をすれば告白されるのかまで、詳しく書かれていた。 これを使えば簡単に彼女およびハーレムが作れる、と浮足立つ主人公。 しかし攻略本を読み進めていくと、どうやらとあるキャラクターが死んでしまうようで。 その人の死は回避したい。しかし誰が死んでしまうのかはわからない。 ということで、全員と仲良くならないといけない。 仕方がなく、やむを得ず、本意ではないけれどハーレムを作ることになってしまう。 あくまでも人命救助に必要なだけですよ。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...