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分岐・鍋島真
怒りと恕し(side真)
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保健室の扉あけると、2人は並んで長椅子に座っていた。千晶と華、手を繋いで。
「何があったの?」
僕は割と冷静だった。千晶と華が、同級生とトラブルを起こしたと聞いても。
華が、そいつらに、怪我をさせられたと聞いていても。
ただ、吐きそうなくらい怒ってる。
そして、どうしようかなと考えていた。よりにもよって、僕の大切なヒト、妹と好きな女の子に手を出すなんて。豚さんにするくらいじゃ済まないよね?
「お兄様」
千晶が少し気張った声を出す。
「少し、出ていてもらえませんか」
華は無言だった。ただ床を見ていた。
白い足には、真っ白な包帯。
(震えてる)
なぜ? 怖い?
(何があった?)
僕は一歩踏み出そうとする。華のところへ。
「華、」
「お兄様、あとでお話しますから」
ぴしゃりとした千晶の声。
「車で待っていて」
「……分かったよ」
言われた通りに保健室を出る。入れ違いのように、敦子さんとすれ違う。
目礼だけして、素直に車へ戻った。
後部座席で目を閉じる。
(何があった?)
千晶の細い声。
……華は。華になにがあった?
しばらくして、千晶が車に乗ってくる。
「お待たせいたしました」
ゆっくりと車が動き出した。
「明日、保護者の話し合いがあるそうなのですが、」
いつも通りの声のトーン。少し安心した。
「オトーサマは無理だろうね。僕が出るよ」
「……すみません」
受験生なのに、と千晶は呟くように言う。
「受験より千晶のほうが大事だよ? それに、華も」
そう言うと、千晶は困ったように笑った。
「なにがあったの」
「……大友ひよりちゃん、わかります?」
「うん」
千晶が昔通ってた塾でできた友達で、その関係で華とも親しくなったはずだ。
「その子がですね、……このところいじめを受けてまして」
「いじめ、ね」
「で、ですね。色々ありましてわたしと華ちゃんで、その現場に突入したわけです」
「色々?」
「まぁ、その、先生を呼ぶ時間も惜しかったといいますか。それで、……結局、すぐに相良先生が来てくださったんです。でもその数分の間に、また色々とですね」
千晶は言いにくそうにした。
「色々じゃ分からないよ千晶」
僕は努めて冷静さを装いながら言った。
「ちゃんと話して? それとも加害者の生徒くんから聞き出してほしい?」
「分かりましたお話します」
即答だった。さすが僕の妹、決断が早い。
「突入したとき、ひよりちゃんはイジメ主犯格の女子生徒たちに羽交い締めにされていました」
「うん」
「それを、男子たちがスマホで撮影してまして」
「悪趣味だね」
「ですね」
はぁ、と千晶はひとつため息をついた。
「その、男子生徒たちと華ちゃんは口論になりまして、その時に華ちゃんは押されてしまったんです。それで、足をくじいて」
「……」
僕は黙って窓の外を見た。
白い足の、痛々しい、白い包帯。
「その時に、……男子の1人が、華ちゃんにのしかかるような体勢で」
「は?」
思わずそう返した。
「押し倒してるような感じってこと?」
「そう、ですね……」
言いにくそうな千晶。
僕は今すぐそいつを殺したいと思った。
「あの、」
「ごめん、いいよ、続き話して」
あえてにこりと笑って見せた。そう、できるだけ優雅に。
千晶は少し逡巡する表情を浮かべたけど、やがて口を開いた。
「それで、その時に……酷い言葉を」
「酷い言葉?」
「はい」
千晶は口ごもる。
「聞かせてくれない?」
「あまり言いたくないのです」
千晶はゆるゆると首を振った。
「分かったよ。ただ、いくつか教えて?」
「はい」
「さっきの華、あれはその言葉のせいでああなったの?」
「そう、ですね。ひよりちゃんが助け出されるまでは威勢がいいというか、気が張っていたので元気だったのですが、保健室に移動してから徐々にショックが大きくなったみたいで」
「僕に外に出ていろと言ったのは?」
「……その、少し、男性が怖くなってしまっていたので。あの時の華ちゃんは」
「押し倒されたから?」
「それもありますし、……言われた言葉のせいもあると思います」
なにを言われたんだろう。
「千晶はなにもされてないの」
「はい、わたしは……ほとんど見ていただけで。情けないんですが」
ぎゅっとスカートの裾を握りしめる千晶の頭をそっと撫でた。珍しく抵抗されない。よしよし、なんて千晶にするのいつぶりだろう。
撫でながら考える。
(そいつらは、華を傷つけた)
あんな風に、小さくなって震えて。あんなに気丈な女の子が。
(それに、千晶にこんな悲しい思いをさせた)
千晶は繊細だし責任感も強い。しばらく引きずるだろう。
怒りとイラつきに反比例するように、頭が冷静になっていく。
(どんな風にしようかな)
華を傷つけたやつらを。
家について、夜の間に僕は"色々"考えた。ほんとうに、いろいろ。
でも、と思う。
(華はどうして欲しいかな)
明日、いや、もう今日か、と時計を見ながら思った。直接、……は無理だろうか。オトコになんか会いたくない?
舌打ちが部屋に響く。
とにかく、聞きに行こう。そして華の願う通りにしようと思う。例えそれがどんなに残酷なお願いでも。
(……違うか)
きっと彼女は、それでも恕すんだろう。友人のことはともかく、自分を傷つけたことに関しては。そんな子だから。
だからこそ余計に許せなかった。
「何があったの?」
僕は割と冷静だった。千晶と華が、同級生とトラブルを起こしたと聞いても。
華が、そいつらに、怪我をさせられたと聞いていても。
ただ、吐きそうなくらい怒ってる。
そして、どうしようかなと考えていた。よりにもよって、僕の大切なヒト、妹と好きな女の子に手を出すなんて。豚さんにするくらいじゃ済まないよね?
「お兄様」
千晶が少し気張った声を出す。
「少し、出ていてもらえませんか」
華は無言だった。ただ床を見ていた。
白い足には、真っ白な包帯。
(震えてる)
なぜ? 怖い?
(何があった?)
僕は一歩踏み出そうとする。華のところへ。
「華、」
「お兄様、あとでお話しますから」
ぴしゃりとした千晶の声。
「車で待っていて」
「……分かったよ」
言われた通りに保健室を出る。入れ違いのように、敦子さんとすれ違う。
目礼だけして、素直に車へ戻った。
後部座席で目を閉じる。
(何があった?)
千晶の細い声。
……華は。華になにがあった?
しばらくして、千晶が車に乗ってくる。
「お待たせいたしました」
ゆっくりと車が動き出した。
「明日、保護者の話し合いがあるそうなのですが、」
いつも通りの声のトーン。少し安心した。
「オトーサマは無理だろうね。僕が出るよ」
「……すみません」
受験生なのに、と千晶は呟くように言う。
「受験より千晶のほうが大事だよ? それに、華も」
そう言うと、千晶は困ったように笑った。
「なにがあったの」
「……大友ひよりちゃん、わかります?」
「うん」
千晶が昔通ってた塾でできた友達で、その関係で華とも親しくなったはずだ。
「その子がですね、……このところいじめを受けてまして」
「いじめ、ね」
「で、ですね。色々ありましてわたしと華ちゃんで、その現場に突入したわけです」
「色々?」
「まぁ、その、先生を呼ぶ時間も惜しかったといいますか。それで、……結局、すぐに相良先生が来てくださったんです。でもその数分の間に、また色々とですね」
千晶は言いにくそうにした。
「色々じゃ分からないよ千晶」
僕は努めて冷静さを装いながら言った。
「ちゃんと話して? それとも加害者の生徒くんから聞き出してほしい?」
「分かりましたお話します」
即答だった。さすが僕の妹、決断が早い。
「突入したとき、ひよりちゃんはイジメ主犯格の女子生徒たちに羽交い締めにされていました」
「うん」
「それを、男子たちがスマホで撮影してまして」
「悪趣味だね」
「ですね」
はぁ、と千晶はひとつため息をついた。
「その、男子生徒たちと華ちゃんは口論になりまして、その時に華ちゃんは押されてしまったんです。それで、足をくじいて」
「……」
僕は黙って窓の外を見た。
白い足の、痛々しい、白い包帯。
「その時に、……男子の1人が、華ちゃんにのしかかるような体勢で」
「は?」
思わずそう返した。
「押し倒してるような感じってこと?」
「そう、ですね……」
言いにくそうな千晶。
僕は今すぐそいつを殺したいと思った。
「あの、」
「ごめん、いいよ、続き話して」
あえてにこりと笑って見せた。そう、できるだけ優雅に。
千晶は少し逡巡する表情を浮かべたけど、やがて口を開いた。
「それで、その時に……酷い言葉を」
「酷い言葉?」
「はい」
千晶は口ごもる。
「聞かせてくれない?」
「あまり言いたくないのです」
千晶はゆるゆると首を振った。
「分かったよ。ただ、いくつか教えて?」
「はい」
「さっきの華、あれはその言葉のせいでああなったの?」
「そう、ですね。ひよりちゃんが助け出されるまでは威勢がいいというか、気が張っていたので元気だったのですが、保健室に移動してから徐々にショックが大きくなったみたいで」
「僕に外に出ていろと言ったのは?」
「……その、少し、男性が怖くなってしまっていたので。あの時の華ちゃんは」
「押し倒されたから?」
「それもありますし、……言われた言葉のせいもあると思います」
なにを言われたんだろう。
「千晶はなにもされてないの」
「はい、わたしは……ほとんど見ていただけで。情けないんですが」
ぎゅっとスカートの裾を握りしめる千晶の頭をそっと撫でた。珍しく抵抗されない。よしよし、なんて千晶にするのいつぶりだろう。
撫でながら考える。
(そいつらは、華を傷つけた)
あんな風に、小さくなって震えて。あんなに気丈な女の子が。
(それに、千晶にこんな悲しい思いをさせた)
千晶は繊細だし責任感も強い。しばらく引きずるだろう。
怒りとイラつきに反比例するように、頭が冷静になっていく。
(どんな風にしようかな)
華を傷つけたやつらを。
家について、夜の間に僕は"色々"考えた。ほんとうに、いろいろ。
でも、と思う。
(華はどうして欲しいかな)
明日、いや、もう今日か、と時計を見ながら思った。直接、……は無理だろうか。オトコになんか会いたくない?
舌打ちが部屋に響く。
とにかく、聞きに行こう。そして華の願う通りにしようと思う。例えそれがどんなに残酷なお願いでも。
(……違うか)
きっと彼女は、それでも恕すんだろう。友人のことはともかく、自分を傷つけたことに関しては。そんな子だから。
だからこそ余計に許せなかった。
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