【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

暴走

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「大丈夫よわたしたちもう大学決まってるんだから」

 ふん、と鹿島先輩たちは学校の食堂で腕を組んで笑った。
 三月の半ば。もう卒業した先輩たちは、私服でここに集まっていた。

「で、でも」
「心配しないで松井さん」

 にこり、と微笑む鹿島先輩。

「おかしいのは学校側。国のガイドラインでも妊娠出産を要因としての強制退学は認められていない」

 戸惑う松井さんを尻目に、先輩たちはやる気に満ちていた。

「これは女性の権利を守るための戦いです」

 私と松井さんは、やたらとやる気満々の先輩たちをじっと見守っていた。
 先輩たちが「準備」のために食堂を出て行って、松井さんはうなだれる。

「き、気持ちは嬉しいけど」
「うん」
「そんなに大ごとにしないで欲しい……」

 私は苦笑いした。まぁ、たしかに本人としてはそんな感じなんだろう。

「ていうか、ふつうに申し訳ない。わたしなんかのために」
「でも、私も松井さんが学校ムリヤリ退学になるのは変だとは思ってるよ」

 正直なところを答えると、松井さんは不思議そうな顔をした。

「なんで?」
「だって松井さん、成績いいし。勉強好きでしょ」

 嫌いならこんな超弩級進学校に来ない。

「あ、それはね、うん」
「それなら、退学にならない手段を探すのはアリかな、と」
「……でも先輩たちはやり過ぎだよね?」

 うん、と私は頷いた。

「立てこもりはね……」
「立てこもりは、やり過ぎだよね」

 うーん、と腕を組んで首を傾げた。私たちの言葉は鹿島先輩の耳にイマイチ届いていなかったようなので。

「水戸さん呼ぶかなぁ」
「聞くかな? 余計怒る? 少しは聞いてくれるかな」
「むー」

 私は眉を寄せた。火に油を注ぐ可能性があるんだよなぁ……。
 とりあえず黒田くんに相談、ってことで黒田くんの学校近くのカフェに移動した。

「あれ、コーヒー大丈夫なの?」

 アイスだし、体冷えないかな。

「ちょっとならいいんだって。ていうか、ツワリで冷たいものしか飲めない」
「うわー、大変だね」

 前世の友達も言ってたなぁ。ツワリ期間中、ひたすら氷ばっか食べてた子とか、フライドポテトしか受け付けなかった子とか、なぜかネギだけ食べられた子とか。

「吐いたりするの?」
「夜はね。昼間はそうでもないんだけど」

 そんな会話をしながら、黒田くんを待つ。

「よう待たせたな」

 自動ドアから入ってきたのは、黒田くんと根岸くん。根岸くんはアイスコーヒーを飲んでる松井さんを見てギョッとした。

「身体冷やすぞ!」
「……」

 松井さんは心底面倒臭そうな顔をした。……過保護なんだろうな根岸くん。まぁそれは置いておいて。

「立てこもりだあ?」

 黒田くんは思い切り眉を顰めてバナナジュースを飲んでいた。部活後のカロリー補充にちょうどいいとか。

「うん。松井さんの退学撤回を求めて」

 学校側の決定は、今月いっぱいでの退学処分。

「退学は俺もどうかと思うけど、立てこもりも同じくらいどうかと思うぜ」
「もうすぐ終業式なんだけど、その体育館を朝から占拠する予定みたい」
「はー」

 黒田くんは呆れたような感心したような声で言った。

「あのヒト行動力あるよな。直線的だけど」

 もうすこし周り見れりゃな、と黒田くんは言う。私もそう思う。黒田くんは少し考えてから、頷いた。

「水戸さんには連絡しとく」
「お願いします」

 松井さんはホッとしたように言う。

「彼氏の言うことなら聞くよね?」
「お前聞かないじゃん」

 そう言う根岸くんを、松井さんは軽く睨む。

「彼氏じゃないもん。赤ちゃんのパパでしょ?」
「……そーだ、パパでした」

 む、と根岸くんは少し気合の入った顔をする。

「根岸くんは今後どうする感じなの?」
「とりあえず部活は早めに引退することにした」

 カバンから何冊か本を取り出す。

「公務員試験、今からカンペキに対策練っとく」
「頑張ってパパ」
「おう!」

 根岸くんは真剣に言った。

「何系受けるの?」
「一応、こいつと同じ」

 根岸くんは黒田くんを指差す。警察官か!

「なるほどねー」

 私が頷いたとき、黒田くんのスマホが揺れた。

「水戸さん」

 黒田くんはスマホ片手にお店から出て行く。私たちはぼんやりそれを見ながら、松井さんの今後について話していた。

「心配してくれる設楽さんにも、それから鹿島先輩たちにも悪いけど……わたしはやっぱり学校、辞めるよ」
「いいの?」

 うん、と松井さんは頷いた。

「あのね、……勉強は嫌いじゃなかったんだけど」
「うん」
「将来の夢はね、専業主婦だったから」
「あ、まじ?」
「うん。叶いそう」

 くすくすと松井さんは苦笑いした。

「浮気しないでね」
「しない!」

 ばしりと背中を叩かれて、根岸くんは何度も頷いた。

「一応、通信で高校は出るつもりだけど」
「うん」

 そう返事をしたとき、黒田くんがシブい顔でお店に戻ってくる。

「……なんだって?」
「俺には止められない、だそーだ。弱々しい声で」
「もう!」

 私は額に手を当てた。

「松井さんが退学を希望してるのを伝える?」
「諦めて言ってるとか思われそう」
「それもそうだよね……」

 うーん、と腕を組む。

「まずは学校側に退学を撤回させて、それから自主退学をする?」
「どうやって?」

 私はふと、あることを思いついた。ある意味、賭けなんだけれど。
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