470 / 702
【高校編】分岐・黒田健
直情型直進ガールとツンデレガール
しおりを挟む
「許せない」
鹿島先輩は怒っている。とても。
私たちがいるのは、学校からほど近いファストフードの奥まった席。私、大村さん、そして松井さんは、松井さんの希望で仁と鹿島先輩に話を聞いてもらっていた。
今後の進路とか、とりあえず身近なひとに話を聞いてみたかったらしい。
けどまぁ、それどころじゃなくなった。鹿島先輩、ものすごいキレよう。
「退学、ってどういうこと」
「いえ、それは諦めが」
松井さんは手を振る。
「ですので、これから通信とかで」
「通信でウチとーーってわたしは卒業しているけれど、でも同じレベルの授業が受けられるとでも?」
「そ、それは」
私たちの学校はトップレベルの進学校、って言っていいと思う。そのぶん、先生や授業の質も高い。
「ダメよ。そんなのは許されないわ」
「せ、先輩」
「先生っ」
「ハイ」
仁は両手を上げている。
「どうにかしてください」
「いや、僕も色々頑張ったんですよ? ほんとに」
松井さんが申し訳なさそうに眉を下げた。
「先生だけは味方してくれたんですけど」
「や、ごめんね結局どうともできなくて」
「譲り合ってる場合ですか」
ばしり、と鹿島先輩。
「徹底的に抗議すべきです。妊娠出産で学ぶ権利を奪われてたまるもんですか!」
そして、先輩は鼻息荒くこう言った。「考えがあります、少し待っていて」ーーと。
お店を出て、仁はみんなを車で送ってくれた。私はさいごのひとり。
「お前はさ~」
最後のひとりたる私を送り届けるために運転しながら、ふと仁は聞いてきた。
「どう思ってんの?」
「へ?」
「あんま発言しなかったけど」
「うーん」
聞かれて、考える。
「そうだねぇ」
松井さんちは、なんだか「こうなったらしょうがない」みたいな感じらしい。割とポジティブだ。
(まぁ、根岸くんが誠心誠意ってとこが大きいのかも)
辞めて働く、と言っていたけれど、将来的なことを見据えてそれはやめたらしい。
「発言しなかった、っていうよりはどうしたらいいか見当もつかない」
「へえ?」
「だって松井さんの人生だし」
「案外クールだなお前」
意外そうに、ちらりと目線を向けてこられた。
「だって分かんないもん」
私の中には、女子高生……にはなりきれてないかもなんだけど、まぁ「華」としての自分と、「前世」で大人だった自分とが同居してて、その双方で考え方とかもちょっと違ったりする。
「でも、松井さんのために何かしたい、とは思ってる」
「退学には反対なかんじ?」
「そりゃ、」
そーでしょ、と小さく言った。
「松井さん成績悪いわけじゃないし、赤ちゃんご実家で見てもらえるって話だし」
「そうしたら学校通えるって?」
「通えるでしょ?」
「まー、今まで通りってわけにはいかねーだろうけど、まぁ」
「だからね、変だとは思うけど……てか、鹿島先輩」
「あー」
仁は軽く眉をよせた。
「何か考えがある、って言ってたな」
「あの人ねぇ」
私は目を細めた。
「こう、だから。こう」
目の横に両手をまっすぐ置く。
鹿島先輩って、思い込むと、直情型直進ガールなとこがある。
「なんかね、……しでかす気がします」
「……俺も」
仁は軽く嘆息したあと、軽い調子でこう続けた。
「お前らも気をつけろよ」
「? 何が」
「いや、避妊。まぁ黒田はしっかりしてそうだけど」
「は!?」
避妊、避妊って!
「セクハラ!」
「セクっ……いや、俺は単に心配して」
「余計なお世話でえええす」
べえ、と舌をだしてやる。
「ていうか、まだだしっ」
「え」
仁は思わず、って感じでこっちを見た。
「ちょ、あぶない、前見て、前っ」
「あ、ごめ、はい」
変な汗が出た。運転中になにしてくれてるのもう!
「……変? まだしてないの」
「いや、あいつらしいなとは……へー」
「なによ」
「なにが」
「なんか機嫌良くなったから」
「そんなことないけどさ」
家の前にぴったりと付けられた車。
「送ってくれてありがと」
「んー」
ひらひら、と手を振る仁。
「……やっぱ機嫌良くない?」
「気のせい気のせい」
私は首をひねりながら仁の車をみおくった。一体なんだったんだか。
「お帰り華」
玄関を入ると、シュリちゃんもちょうど帰宅したところみたいだった。ずいぶん慣れてきて、ただいまお帰りくらいは言ってくれる。
「ただいま、……あ、ねえシュリちゃん」
「なによ」
「高校生で妊娠したら学校やめるべき?」
シュリちゃんは靴を脱ごうとした姿勢のまま、たっぷり十数秒は黙って、地を這うような声で「は?」と目を細めた。
「黒田、アイツ」
「え?」
その時やっと私はシュリちゃんの誤解に気がつく。シュリちゃんの目線は私のお腹と顔をウロウロしていた。
「あんのクソ男、なにがまだヤってないよヤってんじゃないのよ何アンタもそんな平然としてんのよバカなの!?」
「ちが、ごめん、違うの」
慌てて手を振る。
「私じゃない」
「……は?」
「私じゃなくて、友達」
シュリちゃんはジッと私を見つめたあと、肩を落とした。
「なに、……もう、焦らせないでよ」
その声がほんとに力が抜けたかんじで、私は「へへ」と笑ってしまう。
「心配してくれたんだ」
「は!?」
ぎゅん、って効果音をつけたくなる勢いでシュリちゃんは振り向いた。
「ち、違うわよ! そんなんじゃないわよバカ華! バーカっ」
「シュリちゃんて」
ツンデレだよね、という言葉は何とか飲み込んだ。そんなこと言ったら、あとでなに言われるか分かりませんからね。へへ。
鹿島先輩は怒っている。とても。
私たちがいるのは、学校からほど近いファストフードの奥まった席。私、大村さん、そして松井さんは、松井さんの希望で仁と鹿島先輩に話を聞いてもらっていた。
今後の進路とか、とりあえず身近なひとに話を聞いてみたかったらしい。
けどまぁ、それどころじゃなくなった。鹿島先輩、ものすごいキレよう。
「退学、ってどういうこと」
「いえ、それは諦めが」
松井さんは手を振る。
「ですので、これから通信とかで」
「通信でウチとーーってわたしは卒業しているけれど、でも同じレベルの授業が受けられるとでも?」
「そ、それは」
私たちの学校はトップレベルの進学校、って言っていいと思う。そのぶん、先生や授業の質も高い。
「ダメよ。そんなのは許されないわ」
「せ、先輩」
「先生っ」
「ハイ」
仁は両手を上げている。
「どうにかしてください」
「いや、僕も色々頑張ったんですよ? ほんとに」
松井さんが申し訳なさそうに眉を下げた。
「先生だけは味方してくれたんですけど」
「や、ごめんね結局どうともできなくて」
「譲り合ってる場合ですか」
ばしり、と鹿島先輩。
「徹底的に抗議すべきです。妊娠出産で学ぶ権利を奪われてたまるもんですか!」
そして、先輩は鼻息荒くこう言った。「考えがあります、少し待っていて」ーーと。
お店を出て、仁はみんなを車で送ってくれた。私はさいごのひとり。
「お前はさ~」
最後のひとりたる私を送り届けるために運転しながら、ふと仁は聞いてきた。
「どう思ってんの?」
「へ?」
「あんま発言しなかったけど」
「うーん」
聞かれて、考える。
「そうだねぇ」
松井さんちは、なんだか「こうなったらしょうがない」みたいな感じらしい。割とポジティブだ。
(まぁ、根岸くんが誠心誠意ってとこが大きいのかも)
辞めて働く、と言っていたけれど、将来的なことを見据えてそれはやめたらしい。
「発言しなかった、っていうよりはどうしたらいいか見当もつかない」
「へえ?」
「だって松井さんの人生だし」
「案外クールだなお前」
意外そうに、ちらりと目線を向けてこられた。
「だって分かんないもん」
私の中には、女子高生……にはなりきれてないかもなんだけど、まぁ「華」としての自分と、「前世」で大人だった自分とが同居してて、その双方で考え方とかもちょっと違ったりする。
「でも、松井さんのために何かしたい、とは思ってる」
「退学には反対なかんじ?」
「そりゃ、」
そーでしょ、と小さく言った。
「松井さん成績悪いわけじゃないし、赤ちゃんご実家で見てもらえるって話だし」
「そうしたら学校通えるって?」
「通えるでしょ?」
「まー、今まで通りってわけにはいかねーだろうけど、まぁ」
「だからね、変だとは思うけど……てか、鹿島先輩」
「あー」
仁は軽く眉をよせた。
「何か考えがある、って言ってたな」
「あの人ねぇ」
私は目を細めた。
「こう、だから。こう」
目の横に両手をまっすぐ置く。
鹿島先輩って、思い込むと、直情型直進ガールなとこがある。
「なんかね、……しでかす気がします」
「……俺も」
仁は軽く嘆息したあと、軽い調子でこう続けた。
「お前らも気をつけろよ」
「? 何が」
「いや、避妊。まぁ黒田はしっかりしてそうだけど」
「は!?」
避妊、避妊って!
「セクハラ!」
「セクっ……いや、俺は単に心配して」
「余計なお世話でえええす」
べえ、と舌をだしてやる。
「ていうか、まだだしっ」
「え」
仁は思わず、って感じでこっちを見た。
「ちょ、あぶない、前見て、前っ」
「あ、ごめ、はい」
変な汗が出た。運転中になにしてくれてるのもう!
「……変? まだしてないの」
「いや、あいつらしいなとは……へー」
「なによ」
「なにが」
「なんか機嫌良くなったから」
「そんなことないけどさ」
家の前にぴったりと付けられた車。
「送ってくれてありがと」
「んー」
ひらひら、と手を振る仁。
「……やっぱ機嫌良くない?」
「気のせい気のせい」
私は首をひねりながら仁の車をみおくった。一体なんだったんだか。
「お帰り華」
玄関を入ると、シュリちゃんもちょうど帰宅したところみたいだった。ずいぶん慣れてきて、ただいまお帰りくらいは言ってくれる。
「ただいま、……あ、ねえシュリちゃん」
「なによ」
「高校生で妊娠したら学校やめるべき?」
シュリちゃんは靴を脱ごうとした姿勢のまま、たっぷり十数秒は黙って、地を這うような声で「は?」と目を細めた。
「黒田、アイツ」
「え?」
その時やっと私はシュリちゃんの誤解に気がつく。シュリちゃんの目線は私のお腹と顔をウロウロしていた。
「あんのクソ男、なにがまだヤってないよヤってんじゃないのよ何アンタもそんな平然としてんのよバカなの!?」
「ちが、ごめん、違うの」
慌てて手を振る。
「私じゃない」
「……は?」
「私じゃなくて、友達」
シュリちゃんはジッと私を見つめたあと、肩を落とした。
「なに、……もう、焦らせないでよ」
その声がほんとに力が抜けたかんじで、私は「へへ」と笑ってしまう。
「心配してくれたんだ」
「は!?」
ぎゅん、って効果音をつけたくなる勢いでシュリちゃんは振り向いた。
「ち、違うわよ! そんなんじゃないわよバカ華! バーカっ」
「シュリちゃんて」
ツンデレだよね、という言葉は何とか飲み込んだ。そんなこと言ったら、あとでなに言われるか分かりませんからね。へへ。
0
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる