あとから正ヒロインが現れるタイプのヒーローが夫だけど、今は私を溺愛してるから本当に心変わりするわけがない。

柴田

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6話

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 仮面舞踏会も終わり、いつもどおり公爵家へと送ってくれた馬車の中。
 フィーナは、馬車の扉を開けようとするディートリヒの手を握った。驚いて振り向いたディートリヒの手に、震える指を絡める。
 きっと今、フィーナの顔は真っ赤に染まっているだろう。彼女を見たディートリヒが、何かを察してハッとしたようにつられて赤面するほどに。

「……陛下。わたくしを、あなたの皇后にしてくださいますか……?」

 照れと緊張で震える唇で告げると、ディートリヒは声にならない様子でフィーナの名を呼んだ。彼もまた感激に打ち震えていて、フィーナと絡めた指に徐々に力がこもっていった。
 席を立ったディートリヒが、皇家の馬車とはいえ狭いところでフィーナの前に片膝をつく。

「もちろんだ。ああ、もちろんだともフィーナ。夢じゃないだろうな? 見てくれ、私の手を。こんなに震えている」

 ディートリヒの手を、フィーナが両手でそっと包み込む。
 するとディートリヒは堪えるように唇を噛んだ。それからすぐ我慢の限界を迎えたらしく、ディートリヒは熱い眼差しでフィーナを見上げてくる。

「キスしても?」

 恥ずかしくて小さく頷くことしかできないフィーナの頬に、ディートリヒの大きな手が触れる。そっと彼の顔が近づいて、やがて唇が重なった。
 柔らかく触れ合い、離れる。そのままの距離で見つめ合い、どちらからともなくまた唇を重ね、今度は舌を絡め合わせた。

 ディートリヒの手も、唇も、舌も熱い。胸がドキドキと太鼓のようにうるさく鳴っているのに、頭はぼーっとする。ディートリヒのキスはとても優しく、そして官能的だった。

「はぁ、……フィーナ」
「陛下……」

「ディーーーートリヒ!!!」

 バンッと大きな音で馬車の扉が開かれる。
 家の前についたというのに、いつまでたっても出てこないのを不審に思ったコルン公爵が、痺れを切らして乗り込んできた。

「邪魔が入ったな」

 ディートリヒはいたずらっぽく笑う。
 もしコルン公爵が現れなかったら、あのあと一体どうなってしまっていたのだろうかと想像を膨らませ、フィーナはポッと頬を赤らめた。

「ディートリヒ! 貴様という奴は!」
「お父さま、皇帝陛下ですよ!」
「今は公の場でもないからかまわないさ。それに、これから私の義父になる人だ。そうだろう?」
「……っ、はい!」
「え? え? どういうことだフィーナ? まさか……っ」
「お父さま。わたくし、皇后になります」
「フィーナ!!!?」


   ◇◇◇


 コルン公爵の多少の反対はあったものの、今日ディートリヒとフィーナの結婚式が盛大に行われた。

 長らく新しい皇后を迎えなかった皇帝の結婚を喜ぶ声もあれば、皇太子妃だったフィーナを皇后に迎えることを良く思わない声ももちろんあった。
 だがフィーナがこれまで努力して築き上げた淑女の鑑という印象と、皇太子妃だった頃手がけた仕事の成果、また彼女の人となりを知ると誰もが二人の結婚を祝福した。
 皇太子の廃嫡により一時揺らいだ皇家の権威が、皇后を迎えたことにより再び確固たるものとなって輝きだす。

 結婚式のあとに開かれたパーティーを途中で退席し、二人は皇宮にある部屋に戻ってきていた。
 一旦別れ、皇后の部屋に入ったフィーナを迎えた侍女たちにより身体を隅々まで磨き上げられる。

 薄手のネグリジェを着たフィーナは、夫婦の寝室に繋がる扉をおずおずと開いた。

「フィーナ、おいで」

 既にベッドに腰掛けていたディートリヒに促され、緊張の面持ちで歩み寄る。ディートリヒはガウン姿だ。ディートリヒも湯を浴びたようで、いつも整えられている髪がおりているせいか、より若く見えた。

「ワインだ。そなたも飲むか?」
「いただきます」

 緊張を和らげるためには、お酒を飲むのが一番いいだろう。そう思ってグラスを受け取り、フィーナはワインをぐいっと飲み干した。

 こういった行為は、初めてというわけではない。アレクセイと夫婦だったのだから当然だ。
 それなのに、ディートリヒとの初夜にとてつもなく緊張している自分がいてフィーナは戸惑っていた。決して嫌だからではない。むしろ式の間も、パーティーのときからもずっと期待に胸が高鳴ってしまっていた。とうとう二人きりの夫婦の空間にきてしまい、そわそわと落ち着かない。

「はは、いい飲みっぷりだが、ほどほどにな」
「は、はいっ」

 普段と変わらない様子のディートリヒが少し恨めしい。初夜に緊張しているのは自分だけなのだ。
 空になったグラスをディートリヒに取られ、サイドテーブルに置かれる。
 ディートリヒは隣に座るフィーナを見て苦笑した。

「そんなに硬くならないでくれ」
「む、むりです……っ、緊張するし、ドキドキするし、陛下もいつもよりっ、素敵で……」
「あんまりかわいいことを言うんじゃない」

 ディートリヒがため息をつく。その息は熱かった。

「……陛下」
「名前を呼んで」
「ディートリヒ様、……っあ」

 ディートリヒの指が、首筋をくすぐりながらフィーナの髪を後ろに流す。

「……綺麗だ、フィーナ」

 ネグリジェを着た華奢な身体を眺め、初めて見るフィーナの扇情的な姿にディートリヒは喉仏を上下させる。
 フィーナに対して情けないところを見せたくないと余裕ぶるディートリヒだが、彼もまた愛しの妻と迎える初夜に密かに緊張していた。

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