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ep.17
しおりを挟むドラゴンの首を土産に帝都に帰還したアーサーは、帝都に入り皇宮への道すがら凱旋パレードを行うと、まず皇帝に謁見した。討伐を成功させたアーサーを皇帝は大いに歓迎し、商人たちの噂のとおり「褒美になんでも願いを叶えてやろう」と、多くの家臣たちの前で宣う。
皇帝はアーサーが褒美に何をねだるのかを初めから想定していたのか、動揺することもなく、アーサーが述べた願いを聞き入れたのだった。
アーサーの帰還パーティーは明日開かれることになり、取り入ろうとする貴族たちから逃れやっとのことでグレイスの部屋の前に立つ。
一ヶ月ぶりにグレイスのもとへ帰ってきたことに、アーサーも少し浮足立っていた。気持ちを落ち着けるように一度深呼吸して、扉をノックする。
「おかえりなさい、アーサー」
「……はい、姫様」
姿を見るなり飛びついてくると思っていたのに、穏やかに出迎えられたアーサーは若干拍子抜けしてしまった。
「疲れたでしょう? お茶とお菓子でもいただきながら、話を聞かせてくれるかしら」
見ればテーブルにはすでにティーセットが準備されており、グレイスに促されるまま椅子に腰掛ける。グレイス手ずから紅茶を淹れ、アーサーの前にティーカップを差し出した。
「どこも怪我はしていない?」
「かすり傷程度です」
「良かった……。ずっと心配していたのよ」
「姫様は少しお痩せになりました。ちゃんとお食事はとられていましたか?」
「ふふ、アーサーにはすぐバレちゃうのね」
グレイスがティーカップに触れると、ようやくアーサーの手もティーカップに伸びた。じっと見つめてしまいそうなのを我慢して、グレイスはアーサーに微笑みかける。
「ここに来る前に、お父様に会ってきたんでしょう?」
「はい。労いの言葉をいただきました」
「ほかには?」
「褒美をいただけるそうです」
グレイスがお茶を一口飲むような仕草を見せると、アーサーも同じようにカップに口をつけた。喉が渇いていたのか、喉仏が数回上下するのを見てグレイスは目を細める。
皇帝との謁見で、アーサーは褒美に何を願ったのだろうか。それとも皇帝が勝手に褒美の内容を決めたのだろうか。グレイスはそんなことを考えながら、大きな手がティーカップを慎重にソーサーに置くのを見つめていた。
「……姫様に、申し上げたいことがございます」
「なにかしら?」
「私は、姫様の護衛騎士を……」
――護衛騎士を、やめさせてほしい?
そんな言葉は聞きたくない。そう思った瞬間、アーサーの上体がぐらりと揺れた。
「……っ!?」
「アーサー?」
手で顔を覆い、朦朧とした様子で今にも落ちそうな瞼を精一杯見開いているアーサーの姿に、グレイスは口端を緩める。
そんなグレイスを目にしてアーサーの口唇は彼女の名を刻んだが、それは音にはならなかった。
アーサーの手がすべり、ティーカップが倒れる。中身は空だったため、テーブルクロスが汚れることはなかった。
急激に襲う眠気に抗っていたが、やがてアーサーはテーブルに突っ伏し動かなくなる。グレイスは立ち上がり回り込むと、アーサーの様子をそっと窺った。すーすーと穏やかな寝息を立てて、ぐっすり眠っている。ナズナの助言どおり、強い睡眠薬を選んで正解だったようだ。
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