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6.どうしてこうなった
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「まぁ、とにかくだ。まずはそこの教会だな」
誠は優羽の言葉を遮り、逆を登る道を急ぐ。
優羽は「はいっ」と勢いのある声で答えると、誠の後へと慌てて続いた。
それほど大きな坂道という訳でもない。すぐに登りおえる。
目の前にはよくいえば歴史を感じさせる、率直に言えばかなり古ぼけた教会が建っていた。元は真っ白だったのだろう壁は、長い年月で薄汚れていたし、いくつかひび割れている箇所もある。
そもそも神父がきちんといて、この建物が管理されているのかも怪しかった。全くと言って人の気配が感じられなかったし、辺りは完全に静まり返っている。
その様子に誠は少し眉を寄せてから、優羽の方へと振り返る。
「どうだ。何か記憶に残らないか」
誠が訊ねると、優羽は首を傾げて、それから目の前の建物をしばらく凝視していた。
それから不意に指先を立てて、何度か軽く振るわせる。
「ぜんぜん駄目ですね」
「そうか。まぁ、期待はしていなかったけど、残念だな」
誠は溜息を漏らして、それから一応とばかりに教会の方へと近づいてみる。誰かいるのかはわからなかったけれど、中も見られるのならそれに越したことはない。
扉を開けようと手をかけてみる。しかし鍵がかけられているらしく、扉は微動だにしなかった。
「開かないな。呼び鈴のようなものもなさそうだし、ってことは、ここはもう使われてないのかもしれないな」
そうだとすれば、ここが優羽の記憶に残っている可能性は低いって事かと、声には出さずに続ける。
それならばこれ以上ここにいても仕方がない。誠はすぐに振り返って、坂を下ろうと一歩足を踏み出していた。
しかし優羽はそこから去ろうとはしない。
じっと教会の方を見つめ続けている。
優羽が歩き出そうとしていないことは、誠にもすぐにわかった。何か空気が薄くなるような感覚を覚えていたからだ。
今までは優羽の方が追いかけてきていたから感じた事は無かったが、どうやら優羽と離れようとした事が原因のようだった。
優羽は誠と離れる事が出来ないと告げていたが、もしかすると優羽も離れようとした時にこんな感じを受けていたのかもしれない。
「どうした。やっぱり何か思い出したか」
誠のかける声に、優羽は軽く首を振るった。しかしそれとは別に、確かに後ろ髪を引かれる様子を見せている。
ただそれも少しの間の事で、すぐに優羽は誠を追い抜いて、今度は一人で先に向かい始める。
「いえ何かちょっと変な感じしたなーって思ったのですけど。まぁ、何でもないですよっ。さぁ、次、行きましょう。つぎ」
優羽はそのまま急ぎ足、歩いている訳ではないので、その表現は少し正しくはないかもしれないが、進む速度を増す。
ただある程度先に進んだところで、ぴたりと動きを止めると、慌てた様子で振り返る。
「ところで、次ってどこでしょうか?」
やや首を傾げながら訊ねる優羽に、誠は大きく溜息を漏らした。
「そうだな。次は双葉女子学園の辺りにでも向かってみるか」
誠はとりあえず思いついたカトリック系の学校の名を告げてみる。
双葉女子は小高い丘の上にある幼稚園から大学まで続く私立女学校の名門だ。カトリック系の教育でも有名で、お嬢様学校として近隣の住民には良く知られている。
もちろん男子である誠は構内に立ち入る事は出来ないが、特徴のある建物の一群は目にする事が出来る。もし優羽がそこの生徒だったとすれば、少しは記憶に残っているかもしれない。
あまり期待は出来なかったが、思い当たる節が少ないのだから仕方ない。心の中で呟いて、それから特に理由もなかったが、誠はやや足を速めて先を急いだ。
今度は遠目に校舎が見えてくる。カトリック系だけあって、校舎の中央には十字が飾られていた。さきほどの教会とどこか似た雰囲気を醸し出している。
今日は休日だけあって、あまり人気はないようだ。それでも校庭の方からは、いくらか活気のある声が漏れ聞こえてくる。恐らくは部活動の途中だろう。
「どうだ。何か思い出さないか」
まだ校舎までは少し距離があるものの、だいぶん近く見えてきている。もし記憶に残っているのだとすれば、反応を見せてもおかしくはない。
「うーん。あ、誠さんっ」
不意に優羽が声を高くする。
「どうした。何か思い出したか」
突然の反応に誠もわずかに期待を込めた問いを返す。
優羽は誠の様子に目を開いて、それから急に校舎の方へと走りだした。
正確には宙に浮かんでいるのだから、飛んでいると表現する方が正しいのかもしれないが、優羽はしっかり交互に足を出して進んでいた。
もっともその足は全く地面にはついていなかったが。
「誠さん、誠さんっ。大変です」
「どうした。何が」
優羽をおいかけて走るが、優羽は全く足を止めようとはしない。
一直線に走るその姿は真剣そのもので、誠の事など忘れたかのようだ。
だが次第に優羽が向かう先に、一本の木がある事に気がつく。そしてその枝の上で、仔猫が震えてしがみついている事も。
恐らくは登るだけ登って降りられなくなったのだろう。このくらいの猫であれば、まれにだがみかける風景だ。
「ていっ」
優羽は枝に飛びついて仔猫をキャッチしようとする。やはり仔猫を助けようとしていたのだろう。
しかし優羽の伸ばした手は触れる事もなく、そのまま仔猫をすり抜けていく。
「あれ」
「ふにゃっ!?」
優羽は間抜けな声を漏らしたが、仔猫は驚きの為か掴んでいた枝を離してしまう。
「ちっ」
誠は舌打ちを漏らすと、すぐに仔猫へと飛び込む。
後になって冷静に考えてみれば、猫なのだからこれくらいの高さから落ちても普通の着地したのかもしれない。
しかし優羽が慌てていたせいか、誠も落ち着きを失っていた。
地面に着地する前の仔猫をキャッチすると、そのまま一回転して綺麗に立ち上がる。
「誠さんっ、ナイスですっ」
優羽の声が響く。
「にゃあっ」
だがその声に驚いたのか、仔猫はすぐに誠の手の中から逃れると、そのまま慌てて逃げ去っていく。
「あ、こら。恩知らずー。お礼くらいいいなさーい」
優羽の声が仔猫に向けて放たれるが、仔猫は全く聞いてはいない。もちろんそもそも聞こえていないのかもしれないが。
「ま、しょうがないだろ。野良なんだし」
小声で呟く。
それから振り返って、元の場所に戻ろうとした。その瞬間だった。
「きゃーっ。侵入者がっ、誰か誰かきて」
背中の方から声が響く。
振り返ると、この学校の生徒とおぼしき少女が驚きの表情を覗かせていた。
はっとして辺りを見回してみる。
優羽が走り出したので気がつかなかったが、どうやらいつの間にか校舎の中にまで入り込んでいたようだった。
もちろんここは女子校だけに、中は男子禁制である。だからこそ不審者が入り込むような事もあるだろう。
そして誠がいまその不審者として扱われている事は、誰の目にも明らかだった。
「ち、違う」
必死に否定しようとするが、実際にいま校舎の中に入り込んでしまっている。否定しようにも信じてくれる人はいないだろう。
それどころか、幽霊の案内で仔猫を助ける為に入った等と、本当の事を話そうものなら、完全に頭のおかしい人として扱われてしまうのは必須である。
「誰か、誰かきてっ」
少女は誠の言葉を聞く様子もない。
このままここにいれば、間違いなく捕まってしまうだろう。
さらに辺りからざわざわと声が聞こえてくる。人が集まりだしているに違いなかった。
突然の状況に誠はとにかく駆け出していた。
出来れば誤解を解きたかったが、誠の言い分が通じるとは思えない。
証拠となる猫もどこかに行ってしまったし、優羽の姿は恐らく誰も見えないだろう。
「誠さん、どこに行くんですかっ」
状況を理解していない優羽は、きょとんとした声で訊ねる。
「逃げるんだよっ」
悲痛な色を含ませながら、誠は言い放つとそのまま校舎の陰の方に駆け込んでいく。
この時も冷静に考えれば門の外へと逃げれば良かったのだが、そちらには出会った少女がいただけに、思わず構内の奥の方に入り込んでしまっていた。
「どこだ。痴漢は!」
先生のものだろうか、男性の声も響いていた。どうやら誠を探しているらしい。
幸い全員振り切った様ではあるが、逃げ切れるかどうかはわからない。辺りを見回っているようだから、下手に動けばすぐ見つかってしまうだろう。
もっとももしかすると防犯カメラ等で姿を記録されているかもしれない。古い学校なのもあり、そういったものはぱっと見では見つけられなかったが、もしあれば万事休すだ。
「どうしたものか」
このままでは勘違いされたまま変質者として警察に突き出されてしまうだろう。しかし今更誤解だと言っても通じるはずもない。
しかし逃げ切るには、ここからでは少々遠く、間違いなくそれまでに見つかってしまうだろう。
途方に暮れそうになったその瞬間だった。
「あんた何やってんのよ」
誠は優羽の言葉を遮り、逆を登る道を急ぐ。
優羽は「はいっ」と勢いのある声で答えると、誠の後へと慌てて続いた。
それほど大きな坂道という訳でもない。すぐに登りおえる。
目の前にはよくいえば歴史を感じさせる、率直に言えばかなり古ぼけた教会が建っていた。元は真っ白だったのだろう壁は、長い年月で薄汚れていたし、いくつかひび割れている箇所もある。
そもそも神父がきちんといて、この建物が管理されているのかも怪しかった。全くと言って人の気配が感じられなかったし、辺りは完全に静まり返っている。
その様子に誠は少し眉を寄せてから、優羽の方へと振り返る。
「どうだ。何か記憶に残らないか」
誠が訊ねると、優羽は首を傾げて、それから目の前の建物をしばらく凝視していた。
それから不意に指先を立てて、何度か軽く振るわせる。
「ぜんぜん駄目ですね」
「そうか。まぁ、期待はしていなかったけど、残念だな」
誠は溜息を漏らして、それから一応とばかりに教会の方へと近づいてみる。誰かいるのかはわからなかったけれど、中も見られるのならそれに越したことはない。
扉を開けようと手をかけてみる。しかし鍵がかけられているらしく、扉は微動だにしなかった。
「開かないな。呼び鈴のようなものもなさそうだし、ってことは、ここはもう使われてないのかもしれないな」
そうだとすれば、ここが優羽の記憶に残っている可能性は低いって事かと、声には出さずに続ける。
それならばこれ以上ここにいても仕方がない。誠はすぐに振り返って、坂を下ろうと一歩足を踏み出していた。
しかし優羽はそこから去ろうとはしない。
じっと教会の方を見つめ続けている。
優羽が歩き出そうとしていないことは、誠にもすぐにわかった。何か空気が薄くなるような感覚を覚えていたからだ。
今までは優羽の方が追いかけてきていたから感じた事は無かったが、どうやら優羽と離れようとした事が原因のようだった。
優羽は誠と離れる事が出来ないと告げていたが、もしかすると優羽も離れようとした時にこんな感じを受けていたのかもしれない。
「どうした。やっぱり何か思い出したか」
誠のかける声に、優羽は軽く首を振るった。しかしそれとは別に、確かに後ろ髪を引かれる様子を見せている。
ただそれも少しの間の事で、すぐに優羽は誠を追い抜いて、今度は一人で先に向かい始める。
「いえ何かちょっと変な感じしたなーって思ったのですけど。まぁ、何でもないですよっ。さぁ、次、行きましょう。つぎ」
優羽はそのまま急ぎ足、歩いている訳ではないので、その表現は少し正しくはないかもしれないが、進む速度を増す。
ただある程度先に進んだところで、ぴたりと動きを止めると、慌てた様子で振り返る。
「ところで、次ってどこでしょうか?」
やや首を傾げながら訊ねる優羽に、誠は大きく溜息を漏らした。
「そうだな。次は双葉女子学園の辺りにでも向かってみるか」
誠はとりあえず思いついたカトリック系の学校の名を告げてみる。
双葉女子は小高い丘の上にある幼稚園から大学まで続く私立女学校の名門だ。カトリック系の教育でも有名で、お嬢様学校として近隣の住民には良く知られている。
もちろん男子である誠は構内に立ち入る事は出来ないが、特徴のある建物の一群は目にする事が出来る。もし優羽がそこの生徒だったとすれば、少しは記憶に残っているかもしれない。
あまり期待は出来なかったが、思い当たる節が少ないのだから仕方ない。心の中で呟いて、それから特に理由もなかったが、誠はやや足を速めて先を急いだ。
今度は遠目に校舎が見えてくる。カトリック系だけあって、校舎の中央には十字が飾られていた。さきほどの教会とどこか似た雰囲気を醸し出している。
今日は休日だけあって、あまり人気はないようだ。それでも校庭の方からは、いくらか活気のある声が漏れ聞こえてくる。恐らくは部活動の途中だろう。
「どうだ。何か思い出さないか」
まだ校舎までは少し距離があるものの、だいぶん近く見えてきている。もし記憶に残っているのだとすれば、反応を見せてもおかしくはない。
「うーん。あ、誠さんっ」
不意に優羽が声を高くする。
「どうした。何か思い出したか」
突然の反応に誠もわずかに期待を込めた問いを返す。
優羽は誠の様子に目を開いて、それから急に校舎の方へと走りだした。
正確には宙に浮かんでいるのだから、飛んでいると表現する方が正しいのかもしれないが、優羽はしっかり交互に足を出して進んでいた。
もっともその足は全く地面にはついていなかったが。
「誠さん、誠さんっ。大変です」
「どうした。何が」
優羽をおいかけて走るが、優羽は全く足を止めようとはしない。
一直線に走るその姿は真剣そのもので、誠の事など忘れたかのようだ。
だが次第に優羽が向かう先に、一本の木がある事に気がつく。そしてその枝の上で、仔猫が震えてしがみついている事も。
恐らくは登るだけ登って降りられなくなったのだろう。このくらいの猫であれば、まれにだがみかける風景だ。
「ていっ」
優羽は枝に飛びついて仔猫をキャッチしようとする。やはり仔猫を助けようとしていたのだろう。
しかし優羽の伸ばした手は触れる事もなく、そのまま仔猫をすり抜けていく。
「あれ」
「ふにゃっ!?」
優羽は間抜けな声を漏らしたが、仔猫は驚きの為か掴んでいた枝を離してしまう。
「ちっ」
誠は舌打ちを漏らすと、すぐに仔猫へと飛び込む。
後になって冷静に考えてみれば、猫なのだからこれくらいの高さから落ちても普通の着地したのかもしれない。
しかし優羽が慌てていたせいか、誠も落ち着きを失っていた。
地面に着地する前の仔猫をキャッチすると、そのまま一回転して綺麗に立ち上がる。
「誠さんっ、ナイスですっ」
優羽の声が響く。
「にゃあっ」
だがその声に驚いたのか、仔猫はすぐに誠の手の中から逃れると、そのまま慌てて逃げ去っていく。
「あ、こら。恩知らずー。お礼くらいいいなさーい」
優羽の声が仔猫に向けて放たれるが、仔猫は全く聞いてはいない。もちろんそもそも聞こえていないのかもしれないが。
「ま、しょうがないだろ。野良なんだし」
小声で呟く。
それから振り返って、元の場所に戻ろうとした。その瞬間だった。
「きゃーっ。侵入者がっ、誰か誰かきて」
背中の方から声が響く。
振り返ると、この学校の生徒とおぼしき少女が驚きの表情を覗かせていた。
はっとして辺りを見回してみる。
優羽が走り出したので気がつかなかったが、どうやらいつの間にか校舎の中にまで入り込んでいたようだった。
もちろんここは女子校だけに、中は男子禁制である。だからこそ不審者が入り込むような事もあるだろう。
そして誠がいまその不審者として扱われている事は、誰の目にも明らかだった。
「ち、違う」
必死に否定しようとするが、実際にいま校舎の中に入り込んでしまっている。否定しようにも信じてくれる人はいないだろう。
それどころか、幽霊の案内で仔猫を助ける為に入った等と、本当の事を話そうものなら、完全に頭のおかしい人として扱われてしまうのは必須である。
「誰か、誰かきてっ」
少女は誠の言葉を聞く様子もない。
このままここにいれば、間違いなく捕まってしまうだろう。
さらに辺りからざわざわと声が聞こえてくる。人が集まりだしているに違いなかった。
突然の状況に誠はとにかく駆け出していた。
出来れば誤解を解きたかったが、誠の言い分が通じるとは思えない。
証拠となる猫もどこかに行ってしまったし、優羽の姿は恐らく誰も見えないだろう。
「誠さん、どこに行くんですかっ」
状況を理解していない優羽は、きょとんとした声で訊ねる。
「逃げるんだよっ」
悲痛な色を含ませながら、誠は言い放つとそのまま校舎の陰の方に駆け込んでいく。
この時も冷静に考えれば門の外へと逃げれば良かったのだが、そちらには出会った少女がいただけに、思わず構内の奥の方に入り込んでしまっていた。
「どこだ。痴漢は!」
先生のものだろうか、男性の声も響いていた。どうやら誠を探しているらしい。
幸い全員振り切った様ではあるが、逃げ切れるかどうかはわからない。辺りを見回っているようだから、下手に動けばすぐ見つかってしまうだろう。
もっとももしかすると防犯カメラ等で姿を記録されているかもしれない。古い学校なのもあり、そういったものはぱっと見では見つけられなかったが、もしあれば万事休すだ。
「どうしたものか」
このままでは勘違いされたまま変質者として警察に突き出されてしまうだろう。しかし今更誤解だと言っても通じるはずもない。
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