六畳一間。幽霊つきっ ~部屋を借りたら幽霊少女もついてきました~

香澄 翔

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21.愛を取り戻せ

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「優羽!?」

 誠が優羽の名前を呼ぶが、彼女は全く反応しない。

「まずいわね。彼女の気配が全く違うものになっている。道理で気配も感じない訳よね」

 美朱は苦虫をつぶしたような表情で言葉を漏らす。

「それって……」

「気配っていうのは言ってみればその人の霊体の波動のようなもの。個人毎に違う形をもっている。それがまるで変わってしまっているって事は、彼女はもう私達の知っている優羽ちゃんじゃない。全く違う人格になってしまっているってことね」

 美朱はやや身構えながら、優羽の方を見つめていた。

『ざっつらいと! えくせれんと! そのとーりっ。U-02はすでにすべての心を失っている。もはや兵器として完成しているのだよ。あとは性能試験を残すのみという訳だよ。そしてそれは君達がこの場で担ってくれる』

「そんな……優羽。俺だ。誠だっ。優羽、聞こえないか。返事をしてくれ、優羽っ」

 必死で呼びかけるが、優羽はまるで反応はしない。

『無駄だよ。無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄むだむだむダムダムダム……ん。途中でダムになってしまったっ。ええいっ。なんとないうことだっ。まぁよい。そんなことより、いけU-02よ。奴らを焼き払え』

「な!?」

 ドクター中森の台詞に思わず身構える。
 しかし優羽はまるで微動だにしない。

『しまった。幽体兵器にはそんな機能はついてなかったかっ』

「って、おいっ」

 思わず突っ込みの声を上げてしまう。

『そもそも兵器といいつつも偵察用がメインだからろくな攻撃手段はもってなかったわっ。まぁよい。どちらにしても霊には触れない事には違いないっ。さぁU-02よ。絞め殺すのだ!』

 ドクター中森の言葉に優羽はゆっくりと動き始める。

「優羽。俺だよ、誠だっ。元に戻ってくれ、優羽っ」

 必死の呼びかけにも優羽は応えようとしない。そしてゆっくりとその手を誠に向けて伸ばす。

「優羽……」

 誠はその手を避けようとすらせず、そのままその場に立ち尽くしていた。
 そして優羽の手が誠の首に触れようとした瞬間だった。

「そこまでじゃ。止まるがよいっ」

 錯乱坊主が叫ぶと同時に優羽の体がぴたりと動きを止める。

『なに……!?』

 ドクター中森が驚愕の声を漏らす。

『馬鹿な。U-02は私の言葉以外は誰の命令もきかぬはず……』

「まぁ、命令ならそうかもしれんがの。ワシは命令などしてはおらぬ。術の力で強制的に霊の動きを止めておるだけじゃ。ワシほどの高位の坊主ともなればこのくらいの事は大した事ではない」

 錯乱坊主は腕を伸ばしたまま見えない何かをつかむように力を込めていた。

「とはいえいつまでもこのままという訳にはいかぬ。滅してしまうのであればどうという事もないがの。さすがにそれはできんので、こうして強制的に動きを止めておると言う訳じゃ。さぁ。いまのうちに機械を壊すのじゃ」

「わ、わかったじいさん。恩に着る」

 誠は言いながら霊体発生装置の方へと向き直る。そしてあらかじめ懐にしまっておいた金槌を振りかざした、その瞬間だった。

『おっと。待ちたまえ。確かに霊体発生装置を壊せば、この術は解けてU-02は元に戻るだろう。だがその代わりに洗脳術の方はもう元には戻らんぞ』

「なに!?」

『幽体分離の術自体はたしかに霊体発生装置によるものだ。だから術が不完全になり元に戻るのは君達の推測通りだ。しかしU-02が私の命令をきくようにした術は別だ。いまこうして幽体が発生している状態でかけた術だからな。この状態で解かねば元通りには出来ないぞ』

「なに……本当なのか!?」

 誠は錯乱坊主の方へと視線を向けるが、錯乱坊主も首を横に振るう。

「わからぬ。ただ機械を壊されたくないゆえの出任せかもしれぬ……かもしれぬが、しかし本当かもしれぬ。人を操るような術はワシらの学ぶ術にはないよってな」

『疑うなら壊してみてはどうかね。まぁ私としても霊体発生装置を壊されるのは痛いが、所詮機械に過ぎぬからな。機械はまた作ればよい。貴重な実験体を失うのも痛いが、しかし君達にとってはU-02を失うのはそれ以上なのではないかね』

「くそっ……。わからねぇ。どうすりゃいいんだ」

 誠がいらついた声でつぶやく。
 だがその問いに答えられるものは誰もいなかった。

『まぁそれにいくらそちらの坊主が力のある術士だとしても、いつまでもU-02を抑え続けるという訳にもいくまい。結局は君達は何も出来ないという訳だ』

「……!?」

 誠は言葉を返すことすらできなかった。

 おそらくドクター中森の言う言葉は間違ってはいないだろう。優羽を成仏させるのでもあれば、錯乱坊主なら簡単に行えるだろう。

 しかしただ抑えるだけとなればいつかは限界がくる。そうした時に何が出来るのか、誠にはわからない。

「優羽、気がついてくれ。優羽。応えてくれ、優羽!」

 誠は優羽へと近づいていく。優羽は何の反応も見せない。

「言っただろ。お前、術が解けたら俺と夫婦になってもいいって。元に戻ってくれよ。優羽」

 誠は優羽を包み込むように抱きしめる。
 だけど誠は優羽の体に触れる事はできない。
 ただその手はすり抜けていくだけだ。

「なぁ……元に、元に戻ってくれよ。優羽」

 誠の頬に唐突に涙がこぼれていた。それはそのまま優羽の霊体の上をすりぬけて、通り抜けていく。
 いやそう思えた瞬間だった。

 鈍い衝撃音が走った。
 まるで電気がスパークしたかのような、激しい衝撃によって誠の体がはじき飛ばされる。

「ぐはっ!?」

 思わずうめき声を漏らす。
 だがそれと同時に霊体発生装置から煙りが発せられていた。

「なん……だ!?」

 何が起きているのか、誠には理解できない。
 しかし同時に優羽が閉じていたまぶたを、大きく見開いていた。

「誠さんを泣かしてるのは誰ですかっ。私は許しませんよっ。だれですかっ!?」

「ゆ……う!? 戻ったのか!?」

 いつもの通りのどこかピントのずれた言葉を漏らした優羽に、誠は思わずかけよっていく。少し体が痛んだが、幸いそれほどの怪我はないようだ。

「誠さんっ。大丈夫ですか!? もう泣かないでくださいっ。私が絶対に守りますから!」

 優羽は何事も無かったかのように、誠のそばによっていつも通りふわふわと浮かんでいた。

『なんだと。私の洗脳術が何もしていないのに解けたというのか!? いや、そうか。私の研究は霊体と電気に共通性がある事に気づいた事から始まったもの。すなわち霊体は静電気の塊のようなものだ。そこに異物である不純物が入った水滴が落ちた事により、一部術式がショートして霊体発生装置にまでフィードバックしたのか。まさか幽体兵器にそんな弱点があるとは、これは新しい発見だよ。いや、これは面白い』

 なにやら関心したような声をドクター中森は放つ。

「ちがいますっ。私と誠さんの愛の力です! 愛の奇跡です!」
「ちょ。おま、恥ずかしい事言うな!?」

 優羽の声に誠は思わず照れた声を漏らす。顔が赤くなっているんじゃないかとすら思う。

『愛の奇跡か。まぁ別にそれでも良いが、だとしたら私の愛の力でお前を取り戻しでも出来るというのかね』
「貴方になんか愛なんてありませんっ。私の愛は誠さんだけに向かっているんです!」

 恥ずかしい事をまっすぐに告げる優羽だったが、しかしドクター中森は静かに笑い声を漏らしていた。

『おや、つれない事を言うね。まぁそれも仕方ないか。娘はやがて父親から離れていくものだろうからね。いやー、ははは。こりゃあ困ったね』

「え……!?」
「なんだって……!?」

 ドクター中森の言葉に思わず訊き返さずにはいられなかった。
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