24 / 27
24.決着の時
しおりを挟む
優羽が母と呼んだ女性は優羽のようには金と銀と腕輪はしていない。そのためかはわからないが、どこかうつろな瞳をしており、優羽のような意思は感じさせない。
「こうした自体も想定はしていたからね。多少無理はしているが、U-01に登場願ったという訳だ。さぁ、いけ。U-01よ、焼き払え!」
「え……!?」
優羽が慌てて身構えるが、何も起こりはしない。
「しまった。幽体兵器にはそんな機能はついてなかったわ」
「そのやりとりはもう一度やっただろっ。それよりも自分の娘だけじゃあきたらず、妻までも実験体か。なんて奴だよっ」
誠はややいらいらとしながらも、ドクター中森をにらみつける。
「幽体兵器には攻撃方法がない。あるのは霊体から触れられる事を利用した束縛のみ。そうだろ」
「ほう。よく覚えておるな。その通りだよ。……U-02の場合はね」
ドクター中森が言い放つと同時にU-01と呼んだ優羽の母の霊が大きく手を上げる。
同時に頭上から稲光が放たれる。
誠はあわてて身を翻すが、避けきれない。誠に稲光が激突する。
「ぐぅぅぅぅっ」
まるで強い電気ショックを浴びたかのように衝撃が走る。
「誠さんっ。大丈夫ですかっ、誠さん!」
優羽が慌てて駆け寄るが、誠は声を返さない。いや衝撃のために返せなかった。
「霊体と電気の関係は前に話しただろう。幽体とある種の電気の波は類似点がある。逆に言えば霊体は電気を操る事ができる。よくホラー映画などで突如電気が消えたりするだろう。あれもある意味では正しい話なのだよ」
ドクター中森は淡々と言葉をつづる。その声は誠の耳にも何とか届いていた。
「う……く……そうかよ……」
誠はなんとか声を絞り出すと、ドクター中森を再びにらみつける。
「もっとも電気も使いすぎればバッテリーから充電量が減るように、霊体も同じだ。使いすぎればその存在ごとは失われてしまう。だからU-02にはこの機能は持たせなかった。これでも娘の事を愛しく思っているからね」
ドクター中森は平然とした顔で告げる。誠の体はしびれが残っているのか、まともには動かない。
「娘はダメでも、妻ならいいってわけ。呆れるわね」
「まぁ。そういうわけでもない。最初の実験体だけに加減が難しくてね。この力も本来は使うつもりはなかったが、この場を切り抜けるためにはやむを得まい。君達を取り押さえなくてはならないからね」
「お父さんっ……。もうやめて。いまならまだ戻れるよ。私、怒ってないから。もうやめよう。こんな研究やめて、またみんなで一緒に暮らそう。ねぇ、お父さん!」
ドクター中森を見つめながら優羽が叫ぶ。
しかしドクター中森はゆっくりと首を横に振るう。
「残念ながらその提案は首肯できない。出来るものならそうしたかったがね。私はもうこの研究を続けるしか選択肢はないのだよ」
「どうしてなの、お父さんっ」
優羽は父であるドクター中森を呼ぶが、しかしもはやドクター中森は優羽の声が聞こえていないかのように妻の霊体の方へと向き直る。
「さあ、U-01。後はあの娘を倒すのだ。あの娘さえいなくなれば、術を使えるものはいない。すなわちお前に抗えるものはいなくなる。さあ娘を取り押さえるのだ」
ドクター中森の声に応えるかのように、優羽の母の霊体が美朱の元へと向かっていく。
「そうやすやすとやられる訳にはいかない。私だって術士の端くれなんだからっ」
美朱は何やら両手で印を切り始める。
「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤。龍手、雷霆をもって素を動かせ。震!」
以前に使っていた八卦術とか言う術を唱える。
だが今回は静電気どころではなく、その手に激しい雷が生まれ、雷撃と化してドクター中森へと向かう。
だがその前に優羽の母の霊体が立ちふさがっていた。
「……しまっ!?」
雷撃は霊体を打ち抜き、そして霊体はその威力の前に消滅――してはいなかった。
「残念だったね。U-01は霊体。ある種の電気のようなものだと言ったが、霊体兵器には雷、すなわち電気の術は効果がない。それどころかむしろエネルギーと化す事ができる」
「そんな……まさか……」
美朱にとっては信じがたい事だったのかもしれない。さきほどの驚愕の声はどうみても優羽の母を傷つけてしまったと思って漏らしたものだった。つまり通常の霊であれば十分な効果を発揮したはずなのだ。
だが霊体兵器である優羽の母の霊体には効果が無いどころか、逆にその力を増していた。
「……八卦術はまともに唱えれば、大抵の霊やらは消し去る力がある。今回はあの人を殺してしまう訳にはいかないから手加減したとはいえ、それでも平然としていられるものじゃない」
美朱はその内心を思わず声に漏らしていた。それほど驚きであったのだろう。
「お母さん……無事でよかった……けど」
優羽は安堵の息を漏らすが、しかし明らかに目の前の優羽の母はその力を増している。霊体に雷撃をまとわせ、今にもはち切れるといわんばかりに。
「まいったわね……私が使える術でまともに戦える術はあれだけ。震、すなわち雷の術以外は会得してないの。これは、ピンチ、と言うしかないかしらね」
美朱は言いながらも誠の前に立って、優羽の母と対峙する。
優羽の母はゆらゆらとゆれ、ときおり電撃から漏れる火花をまき散らしながら、少しずつこちらへと向かってきている。
「美朱、優羽と一緒に逃げろ……! 俺は何とかする。お前はもともと巻き込まれただけだ。お前と優羽だけなら逃げられる……だから」
誠が思わず声を上げる。
しかしそれでも美朱は動こうとはしない。
「馬鹿言ってるんじゃない。そんな焼け焦げた体で何が出来るっていうの。いま私がいなくなれば、あんた間違いなく死ぬ。曲がりなりにも術を使えるのは私だけなんだから」
美朱の言葉に誠は息を飲み込む。
もちろん誠には美朱がいなくなればすぐにそうなるだろう事はわかっていた。わかっていたが、それでも美朱をこれ以上巻き込む訳にはいかない。そう思っていた。
「お母さんっ、もうやめて。思い出して。正気に戻って!」
優羽が美朱の隣、誠の前へと歩み寄る。それからドクター中森の方へと向かって、大きな声で叫んでいた。
「……おとうさん、やめてっ。私が実験に必要だっていうなら使ってくれていいから、二人を巻き込まないで!」
「ふむ。優羽が戻ってくるというなら、それも考えてもいい」
ドクター中森は少し思案をするかのように、あご先に拳をあてる。
「馬鹿いってんじゃない。優羽ちゃんが傷ついたら、そこの馬鹿が悲しむ。私はそんなのみたくないの」
「美朱さん……でもっ」
「私に使える術はもうない……けど。でもね」
美朱は少しだけ口角をあげて、そして自信満々につぶやく。
「まだ奥の手を残してるのよね」
告げたすぐ後だった。
遠くから何かの音が響いてくる。その音は次第に大きくなって、近づいてきているのがわかった。
「何の音……いや、これはエンジン音か」
ドクター中森が感心したように声を漏らす。
同時に高らかに響く音を漏らしながら、一台のバイクが門をくぐりぬけて走り込んでくる。
「ナイスタイミング!」
「待たせたなっ」
この声と共にフルフェイスのヘルメットの間から長い黒髪をなびかせながらバイクでドクター中森へと突っ込んでいく。
急激な勢いにドクター中森も避けきれず、優羽の母のガードも間に合っていない。
アクセルを全開にしたまま登場したライダースーツの女性が、ドクター中森を左腕でつかむ。
そしてそのままバイクから飛び降りて、ドクター中森を取り押さえる。
バイクが勢いのまま洋館の壁に激突して壁の一部を破壊していた。
「さぁ、ドクター中森。貸しは返してもらうぞ」
「その声は……佐由理くんか。君がここにくるのは想定していなかったな」
「貴方にはずいぶんと貸しがあるのでね。美朱くんから連絡をもらってからすぐに飛んできたよ。妹の件が貴方がしでかした事だったとは想像もしていなかったが、そうと知ったからには貴方をそのままにはしていられない」
ライダースーツの女性、佐由理はドクター中森を取り押さえたまま誠達の方へと頭を向ける。
「美朱くん。U-01の霊体発生装置が館の中にあるはずだ。それを破壊してしまうんだ。そうすればもはやドクター中森には対抗手段はない」
「そうか。わかった。誠っ、優羽ちゃん、ここは私と佐由理さんに任せて急ぐのよ。私が優羽ちゃんのお母さんを何とか抑える。だから今のうちにはやくっ」
美朱が叫ぶ。
「で、でもっ」
「優羽、いくぞっ。考えてる時間はない」
誠は優羽の手をとって、館の方へ向かっていく。
走るたびに体に痛みが響きわたったが、何とか歯を食いしばる。
背中で美朱が何やら術を唱えているのがわかった。美朱にはドクター中森と優羽の母を一人で抑える事は難しかったのかもしれないが、いまはドクター中森は佐由理が押さえつけている。優羽の母だけであれば、何とか抑える術があるのかもしれない。
「わかりました……! 美朱さん、お願いしますっ。すぐに戻ってきますから」
優羽は大きな声で答えると、誠と共に館の中へと向かっていく。
さきほどドクター中森が出てきた玄関をくぐり、そして中を見回してみる。
サイズは大きいものの建物としては特別な事はない、ごく普通の家だ。
「優羽っ。霊体発生装置はそれなりに大きなサイズがある。それを配置出来るような部屋を覚えているか」
「あ、はいっ。使っていない部屋が一階に沢山ありましたから、おそらくはそのどれかだと思いますっ」
「よしっ。案内してくれ」
廊下を駆け出して、そして片っ端から部屋の扉をあけていく。
どの部屋も鍵はかかっておらず、中はただの空き部屋だった。
「ここも違うか。次だっ」
いくつかの部屋をたどり、そしてある部屋のドアを開けようとした時、その部屋にだけは鍵がかけられていた。
「開かねぇっ、この部屋か!?」
「はいっ。ここも使っていなかったはずなので、可能性は高いと思いますっ」
「鍵は……ないよな。仕方ない力尽くで開けるしかねぇ!」
誠は思い切り部屋の扉を蹴り飛ばす。たが扉が開く様子はない。
「なら、これでどうだっ」
思い切り体当たりをかます。
雷撃の残した傷のせいで体中に激痛が走ったが、しかし扉はびくともしなかった。
「くそっ……ひらかねぇ……!?」
何度も体当たりをするが、しかし扉は開こうとしない。
同時に庭の方で何やら強烈な光が放たれていた。
『きゃぁぁぁぁ!?』
美朱の悲鳴が響き渡る。
「っ……!? 美朱!?」
美朱は優羽の母を抑えられなかったのかもしれない。
そうなると佐由理も一人ではドクター中森と優羽の母を抑える事はできないだろう。
やがて階段を上る音が響いてくる。
「……手こずらせてくれたが、ここまで……だな」
息も絶え絶えではあったが、ドクター中森が廊下のむこう側に現れていた。
そしてその後ろに優羽の母の姿もあった。やはり抑えきれはしなかったのだろう。
「くそ……ここまできて諦められるかよっ」
体当たりを続けるが、まだ扉は開かない。
そしてやがてドクター中森が近づこうとした瞬間だった。
突然窓ガラスが大きな音を立てて割れ砕けていた。
いや窓ガラスから何かが飛び込んできていたのだ。
「ひょーっほっほっほっ。名を清四郎。姓を道明寺。誰が呼んだか、桜餅坊主ここに推参っ」
「な、なに!?」
派手な登場と共に錯乱坊主がドクター中森に向けて、何かを投げつけていた。
同時にそれはドクター中森へと絡みつき、拘束していく。
「我が力は術のみにあらず。様々な術具もあるっ。術の力が残っておらずとも、拘束数珠を使えばしばらくの間、おぬしの身動きを止める程度の事は出来る。そしてこの程度の扉、ワシにとっては障害のうちに入らぬっ」
言いながら誠の方へと振り返り、懐から何やら一本の針金のようなものを取り出していた。
「ピッキングかぁぁぁぁぁ!?」
「何を言う。神仏の加護じゃ。ありがたやありがたや」
言いながらも鍵穴へ針金を突っ込んでしばらく動かすと、すぐにかちゃりと音を立てて開く。
「さぁ、行くが良い。装置を壊すのじゃ。あとはワシが引き受けよう」
「わかった。優羽、いくぞっ」
錯乱坊主の言葉にうなずくと、誠はすぐに優羽と共に部屋の中に入る。
そこには優羽が捕らえられていたのと同じような装置が据え付けられていた。
そして優羽と同じように四十代くらいに見える女性が眠っていた。さきほどみた優羽の母の姿だ。
「霊体発生装置に間違い無い。これを壊せばすべては終わる」
誠は辺りを見回してみる。さすがに素手で破壊するのは難しい。
「誠さんっ、これを使いましょう」
優羽が部屋の奥においてあった大きな壺を指し示す。
「よしっ。わかったって、重いぞ、これ」
「私も抱えますっ。誠さんはそちらをもってくださいっ」
「わかった! いくぞ、せーのっ」
声を上げて二人で大きな壺を抱え上げる。
「させるかぁぁぁぁ!」
同時にドアの奥からドクター中森の声が響く。
そのむこうがわに倒れている錯乱坊主の姿が見えた。さすがの錯乱坊主ももともと力を使い果たしていたため、抑えきれなかったのかもしれない。
だがもうすでに優羽と装置へ向かって駆けだしていた。このままの勢いでぶつければ装置は確実に破壊出来るはずだ。
「せーーーのっ」
装置に向かって壺を投げ落とす。
その間にドクター中森が飛び込んでくる。
そして。
がん!! と鈍い音が響いた。
ドクター中森の頭に壺がぶつかって。
「「あ……」」
優羽と声が重なっていた。
ドクター中森の体がふらふらと揺れる。
そしておぼつかない足取りのままこちらに向かってきて、そしてそのままぱったりと倒れ気を失っていた。
「……まぁ、この間に壊しちまうか」
誠はどこかやり場のない空気の中で呟いていた。
「こうした自体も想定はしていたからね。多少無理はしているが、U-01に登場願ったという訳だ。さぁ、いけ。U-01よ、焼き払え!」
「え……!?」
優羽が慌てて身構えるが、何も起こりはしない。
「しまった。幽体兵器にはそんな機能はついてなかったわ」
「そのやりとりはもう一度やっただろっ。それよりも自分の娘だけじゃあきたらず、妻までも実験体か。なんて奴だよっ」
誠はややいらいらとしながらも、ドクター中森をにらみつける。
「幽体兵器には攻撃方法がない。あるのは霊体から触れられる事を利用した束縛のみ。そうだろ」
「ほう。よく覚えておるな。その通りだよ。……U-02の場合はね」
ドクター中森が言い放つと同時にU-01と呼んだ優羽の母の霊が大きく手を上げる。
同時に頭上から稲光が放たれる。
誠はあわてて身を翻すが、避けきれない。誠に稲光が激突する。
「ぐぅぅぅぅっ」
まるで強い電気ショックを浴びたかのように衝撃が走る。
「誠さんっ。大丈夫ですかっ、誠さん!」
優羽が慌てて駆け寄るが、誠は声を返さない。いや衝撃のために返せなかった。
「霊体と電気の関係は前に話しただろう。幽体とある種の電気の波は類似点がある。逆に言えば霊体は電気を操る事ができる。よくホラー映画などで突如電気が消えたりするだろう。あれもある意味では正しい話なのだよ」
ドクター中森は淡々と言葉をつづる。その声は誠の耳にも何とか届いていた。
「う……く……そうかよ……」
誠はなんとか声を絞り出すと、ドクター中森を再びにらみつける。
「もっとも電気も使いすぎればバッテリーから充電量が減るように、霊体も同じだ。使いすぎればその存在ごとは失われてしまう。だからU-02にはこの機能は持たせなかった。これでも娘の事を愛しく思っているからね」
ドクター中森は平然とした顔で告げる。誠の体はしびれが残っているのか、まともには動かない。
「娘はダメでも、妻ならいいってわけ。呆れるわね」
「まぁ。そういうわけでもない。最初の実験体だけに加減が難しくてね。この力も本来は使うつもりはなかったが、この場を切り抜けるためにはやむを得まい。君達を取り押さえなくてはならないからね」
「お父さんっ……。もうやめて。いまならまだ戻れるよ。私、怒ってないから。もうやめよう。こんな研究やめて、またみんなで一緒に暮らそう。ねぇ、お父さん!」
ドクター中森を見つめながら優羽が叫ぶ。
しかしドクター中森はゆっくりと首を横に振るう。
「残念ながらその提案は首肯できない。出来るものならそうしたかったがね。私はもうこの研究を続けるしか選択肢はないのだよ」
「どうしてなの、お父さんっ」
優羽は父であるドクター中森を呼ぶが、しかしもはやドクター中森は優羽の声が聞こえていないかのように妻の霊体の方へと向き直る。
「さあ、U-01。後はあの娘を倒すのだ。あの娘さえいなくなれば、術を使えるものはいない。すなわちお前に抗えるものはいなくなる。さあ娘を取り押さえるのだ」
ドクター中森の声に応えるかのように、優羽の母の霊体が美朱の元へと向かっていく。
「そうやすやすとやられる訳にはいかない。私だって術士の端くれなんだからっ」
美朱は何やら両手で印を切り始める。
「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤。龍手、雷霆をもって素を動かせ。震!」
以前に使っていた八卦術とか言う術を唱える。
だが今回は静電気どころではなく、その手に激しい雷が生まれ、雷撃と化してドクター中森へと向かう。
だがその前に優羽の母の霊体が立ちふさがっていた。
「……しまっ!?」
雷撃は霊体を打ち抜き、そして霊体はその威力の前に消滅――してはいなかった。
「残念だったね。U-01は霊体。ある種の電気のようなものだと言ったが、霊体兵器には雷、すなわち電気の術は効果がない。それどころかむしろエネルギーと化す事ができる」
「そんな……まさか……」
美朱にとっては信じがたい事だったのかもしれない。さきほどの驚愕の声はどうみても優羽の母を傷つけてしまったと思って漏らしたものだった。つまり通常の霊であれば十分な効果を発揮したはずなのだ。
だが霊体兵器である優羽の母の霊体には効果が無いどころか、逆にその力を増していた。
「……八卦術はまともに唱えれば、大抵の霊やらは消し去る力がある。今回はあの人を殺してしまう訳にはいかないから手加減したとはいえ、それでも平然としていられるものじゃない」
美朱はその内心を思わず声に漏らしていた。それほど驚きであったのだろう。
「お母さん……無事でよかった……けど」
優羽は安堵の息を漏らすが、しかし明らかに目の前の優羽の母はその力を増している。霊体に雷撃をまとわせ、今にもはち切れるといわんばかりに。
「まいったわね……私が使える術でまともに戦える術はあれだけ。震、すなわち雷の術以外は会得してないの。これは、ピンチ、と言うしかないかしらね」
美朱は言いながらも誠の前に立って、優羽の母と対峙する。
優羽の母はゆらゆらとゆれ、ときおり電撃から漏れる火花をまき散らしながら、少しずつこちらへと向かってきている。
「美朱、優羽と一緒に逃げろ……! 俺は何とかする。お前はもともと巻き込まれただけだ。お前と優羽だけなら逃げられる……だから」
誠が思わず声を上げる。
しかしそれでも美朱は動こうとはしない。
「馬鹿言ってるんじゃない。そんな焼け焦げた体で何が出来るっていうの。いま私がいなくなれば、あんた間違いなく死ぬ。曲がりなりにも術を使えるのは私だけなんだから」
美朱の言葉に誠は息を飲み込む。
もちろん誠には美朱がいなくなればすぐにそうなるだろう事はわかっていた。わかっていたが、それでも美朱をこれ以上巻き込む訳にはいかない。そう思っていた。
「お母さんっ、もうやめて。思い出して。正気に戻って!」
優羽が美朱の隣、誠の前へと歩み寄る。それからドクター中森の方へと向かって、大きな声で叫んでいた。
「……おとうさん、やめてっ。私が実験に必要だっていうなら使ってくれていいから、二人を巻き込まないで!」
「ふむ。優羽が戻ってくるというなら、それも考えてもいい」
ドクター中森は少し思案をするかのように、あご先に拳をあてる。
「馬鹿いってんじゃない。優羽ちゃんが傷ついたら、そこの馬鹿が悲しむ。私はそんなのみたくないの」
「美朱さん……でもっ」
「私に使える術はもうない……けど。でもね」
美朱は少しだけ口角をあげて、そして自信満々につぶやく。
「まだ奥の手を残してるのよね」
告げたすぐ後だった。
遠くから何かの音が響いてくる。その音は次第に大きくなって、近づいてきているのがわかった。
「何の音……いや、これはエンジン音か」
ドクター中森が感心したように声を漏らす。
同時に高らかに響く音を漏らしながら、一台のバイクが門をくぐりぬけて走り込んでくる。
「ナイスタイミング!」
「待たせたなっ」
この声と共にフルフェイスのヘルメットの間から長い黒髪をなびかせながらバイクでドクター中森へと突っ込んでいく。
急激な勢いにドクター中森も避けきれず、優羽の母のガードも間に合っていない。
アクセルを全開にしたまま登場したライダースーツの女性が、ドクター中森を左腕でつかむ。
そしてそのままバイクから飛び降りて、ドクター中森を取り押さえる。
バイクが勢いのまま洋館の壁に激突して壁の一部を破壊していた。
「さぁ、ドクター中森。貸しは返してもらうぞ」
「その声は……佐由理くんか。君がここにくるのは想定していなかったな」
「貴方にはずいぶんと貸しがあるのでね。美朱くんから連絡をもらってからすぐに飛んできたよ。妹の件が貴方がしでかした事だったとは想像もしていなかったが、そうと知ったからには貴方をそのままにはしていられない」
ライダースーツの女性、佐由理はドクター中森を取り押さえたまま誠達の方へと頭を向ける。
「美朱くん。U-01の霊体発生装置が館の中にあるはずだ。それを破壊してしまうんだ。そうすればもはやドクター中森には対抗手段はない」
「そうか。わかった。誠っ、優羽ちゃん、ここは私と佐由理さんに任せて急ぐのよ。私が優羽ちゃんのお母さんを何とか抑える。だから今のうちにはやくっ」
美朱が叫ぶ。
「で、でもっ」
「優羽、いくぞっ。考えてる時間はない」
誠は優羽の手をとって、館の方へ向かっていく。
走るたびに体に痛みが響きわたったが、何とか歯を食いしばる。
背中で美朱が何やら術を唱えているのがわかった。美朱にはドクター中森と優羽の母を一人で抑える事は難しかったのかもしれないが、いまはドクター中森は佐由理が押さえつけている。優羽の母だけであれば、何とか抑える術があるのかもしれない。
「わかりました……! 美朱さん、お願いしますっ。すぐに戻ってきますから」
優羽は大きな声で答えると、誠と共に館の中へと向かっていく。
さきほどドクター中森が出てきた玄関をくぐり、そして中を見回してみる。
サイズは大きいものの建物としては特別な事はない、ごく普通の家だ。
「優羽っ。霊体発生装置はそれなりに大きなサイズがある。それを配置出来るような部屋を覚えているか」
「あ、はいっ。使っていない部屋が一階に沢山ありましたから、おそらくはそのどれかだと思いますっ」
「よしっ。案内してくれ」
廊下を駆け出して、そして片っ端から部屋の扉をあけていく。
どの部屋も鍵はかかっておらず、中はただの空き部屋だった。
「ここも違うか。次だっ」
いくつかの部屋をたどり、そしてある部屋のドアを開けようとした時、その部屋にだけは鍵がかけられていた。
「開かねぇっ、この部屋か!?」
「はいっ。ここも使っていなかったはずなので、可能性は高いと思いますっ」
「鍵は……ないよな。仕方ない力尽くで開けるしかねぇ!」
誠は思い切り部屋の扉を蹴り飛ばす。たが扉が開く様子はない。
「なら、これでどうだっ」
思い切り体当たりをかます。
雷撃の残した傷のせいで体中に激痛が走ったが、しかし扉はびくともしなかった。
「くそっ……ひらかねぇ……!?」
何度も体当たりをするが、しかし扉は開こうとしない。
同時に庭の方で何やら強烈な光が放たれていた。
『きゃぁぁぁぁ!?』
美朱の悲鳴が響き渡る。
「っ……!? 美朱!?」
美朱は優羽の母を抑えられなかったのかもしれない。
そうなると佐由理も一人ではドクター中森と優羽の母を抑える事はできないだろう。
やがて階段を上る音が響いてくる。
「……手こずらせてくれたが、ここまで……だな」
息も絶え絶えではあったが、ドクター中森が廊下のむこう側に現れていた。
そしてその後ろに優羽の母の姿もあった。やはり抑えきれはしなかったのだろう。
「くそ……ここまできて諦められるかよっ」
体当たりを続けるが、まだ扉は開かない。
そしてやがてドクター中森が近づこうとした瞬間だった。
突然窓ガラスが大きな音を立てて割れ砕けていた。
いや窓ガラスから何かが飛び込んできていたのだ。
「ひょーっほっほっほっ。名を清四郎。姓を道明寺。誰が呼んだか、桜餅坊主ここに推参っ」
「な、なに!?」
派手な登場と共に錯乱坊主がドクター中森に向けて、何かを投げつけていた。
同時にそれはドクター中森へと絡みつき、拘束していく。
「我が力は術のみにあらず。様々な術具もあるっ。術の力が残っておらずとも、拘束数珠を使えばしばらくの間、おぬしの身動きを止める程度の事は出来る。そしてこの程度の扉、ワシにとっては障害のうちに入らぬっ」
言いながら誠の方へと振り返り、懐から何やら一本の針金のようなものを取り出していた。
「ピッキングかぁぁぁぁぁ!?」
「何を言う。神仏の加護じゃ。ありがたやありがたや」
言いながらも鍵穴へ針金を突っ込んでしばらく動かすと、すぐにかちゃりと音を立てて開く。
「さぁ、行くが良い。装置を壊すのじゃ。あとはワシが引き受けよう」
「わかった。優羽、いくぞっ」
錯乱坊主の言葉にうなずくと、誠はすぐに優羽と共に部屋の中に入る。
そこには優羽が捕らえられていたのと同じような装置が据え付けられていた。
そして優羽と同じように四十代くらいに見える女性が眠っていた。さきほどみた優羽の母の姿だ。
「霊体発生装置に間違い無い。これを壊せばすべては終わる」
誠は辺りを見回してみる。さすがに素手で破壊するのは難しい。
「誠さんっ、これを使いましょう」
優羽が部屋の奥においてあった大きな壺を指し示す。
「よしっ。わかったって、重いぞ、これ」
「私も抱えますっ。誠さんはそちらをもってくださいっ」
「わかった! いくぞ、せーのっ」
声を上げて二人で大きな壺を抱え上げる。
「させるかぁぁぁぁ!」
同時にドアの奥からドクター中森の声が響く。
そのむこうがわに倒れている錯乱坊主の姿が見えた。さすがの錯乱坊主ももともと力を使い果たしていたため、抑えきれなかったのかもしれない。
だがもうすでに優羽と装置へ向かって駆けだしていた。このままの勢いでぶつければ装置は確実に破壊出来るはずだ。
「せーーーのっ」
装置に向かって壺を投げ落とす。
その間にドクター中森が飛び込んでくる。
そして。
がん!! と鈍い音が響いた。
ドクター中森の頭に壺がぶつかって。
「「あ……」」
優羽と声が重なっていた。
ドクター中森の体がふらふらと揺れる。
そしておぼつかない足取りのままこちらに向かってきて、そしてそのままぱったりと倒れ気を失っていた。
「……まぁ、この間に壊しちまうか」
誠はどこかやり場のない空気の中で呟いていた。
0
あなたにおすすめの小説
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた
歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。
剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。
それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。
そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー
「ご命令と解釈しました、シン様」
「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」
次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
高塚くんの愛はとっても重いらしい
橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。
「どこに隠れていたの?」
そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。
その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。
この関係は何?
悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。
高塚くんの重愛と狂愛。
すれ違いラブ。
見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。
表紙イラストは友人のkouma.作です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる