26 / 27
26.痴漢ですか?
しおりを挟む
「敗者は何も語るつもりはない」
ドクター中森は顔をそらして、それだけを独白していた。
しかし何か思うところがあるのか、すぐにまた言葉を続ける。
「だがあえて言うならば、妻が言っている事は間違っている。悪は妻や娘を実験体にしようとした私であって、妻には非はない。もっともあのおかしな宗教から離れてくれるのであれば、それに越した事は無いがね」
顔を背けたまま告げたドクター中森に、優羽の母が再び涙をこぼす。
「あなた……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「何を謝ることがある。私が悪いと言っているのだ。お前のすべき事は私をなじる事であって、謝罪など必要はない」
ドクター中森は顔を背けたままではあったが、その目頭に涙が浮かんでいるのは隠せていなかった。
「……今のお父さんは、昔のお父さんが戻ってきている。そう思えます」
優羽がぽつりと呟く。
「お父さん、お母さん。私からのお願い。もういちど家族みんなでやり直してほしい。今のお父さんとお母さんならやり直せる。財産はみんななくなってしまったかもしれないけど、二人がいてくれたら私それだけでいいよ」
『優羽……』
二人の声が重なる。
一人はつぼの中に入ったままではあり、シュールな姿ではあった。しかし家族の心はつながっているようにも思えた。
「この家族はなんとかやりなおしがききそうだな」
誠は少し遠巻きにして優羽とその家族達を見つめていた。
最初は優羽の記憶探し、幽霊の正体探しだったはずなのに、全く予想していない方向に話しは進んでいった。
実際かなり危険な事もあり、どうして赤の他人である優羽のためにそこまでしたのだろうかと不意に頭をよぎる。
最初はただ部屋にいたからに過ぎなかった。とりつかれてしまったから仕方なく力を貸してあげていただけだ。
ただ優羽とふれ合ううちに、少しずつ彼女の優しさも知っていた。
一緒に過ごしているうちに一緒にいる事が当たり前のようになっていた。
だけど考えてみるとそれほど長い間という訳でも無い。ほんの一週間程度の事件だった。実際まだ休みも終わっていない。
しかしその一週間の間が、とても濃い時間を過ごしていた。
「まさかマッドサイエンティストと戦う事になるとはなぁ……」
口の中で声には出さずに呟く。
当たり前のようにとらえていたが、あまりといえばあまりの展開だった。この事件がなければ美朱が術を使えるなんて事も知らなかっただろう。
「……まぁいい経験だった……かな」
無理矢理自分の心を納得させると、辺りを見回してみる。
「佐由理さん。あの様子をみる限り、優羽達はたぶんもう大丈夫じゃないか。霊体発生装置も壊れて実験も出来なくなった。危険はもうない、と思うのだけど」
「そうだな。私が知る限り、霊体発生装置はそれなりに高額な装置だ。予備はもうないはずだし、簡単に新しいものを作るという訳にもいかないだろう」
佐由理は淡々と答える。
それからその言葉に継ぐようにして、美朱が口を開く。
「ま、それに何かあったら叔父さんがすぐに感知できると思う。いちおう叔父さん経由でしばらくは監視してもらう事になると思うけど」
「うむ。もうすでに連絡はついておる。この戦いには間に合わなかったが、こういった事態に備えた手練れを数人派遣してもらう事になっておるでな。もう近くまできておるはずじゃ。そしてドクター中森から事情を聴取して、件の団体を破棄する事になるじゃろう」
錯乱坊主は合掌してなにやら祈りを向けていた。何に対する祈りかはわからなかったが。
「なら、俺たちはそろそろ行こうか。家族水入らずの時間を過ごさせてやりたい」
誠の言葉に皆もうなずく。ドクター中森は縛られているため、どちらにしてもすぐ何を出来るという訳でもない。
もともと誠は何が出来るという訳でも無い。ただいつの間にか優羽のために力を貸していただけだ。後始末は錯乱坊主の呼んだという手練れとやらに任せても問題ないだろう。
誠達は静かにこの場を後にする。
ただ優羽達家族がもういちどやり直せる事を祈って。
あれから一週間ほどが過ぎた。今までの事が何も無かったかのように、平穏な時間を過ごしていた。
変わった事といえば、ときどき美朱が連絡をとってくるようになったくらいで、大きくは何も変わらない。
学校も始まり、毎日それなりに忙しい日々を過ごしていた。
今日も学校が終わり、一人暮らしの部屋に戻ってきたところだ。
部屋の鍵を開けて、そして扉を開ける。
部屋の真ん中に少女がたたずんでいた。
腰までのびた長い黒髪が、真っ白なワンピースを引き立てている。くりんとした大きな瞳に、整った鼻先。艶やかな紅い唇は、微かな笑みを覗かせている。
すらりと伸びた細い足。右手には銀色の、左手には金色のブレスレットを身につけており、よりいっそう彼女の可憐さを引き立てている。
どこか全体的に儚げな色彩を帯びて、触れれば消えてなくなりそうにも思えた。物憂げな瞳は、少女の柔らかな顔立ちをよりいっそうに引き立てている。まるでこの世の物ではないかのように。
透き通るような白い肌は、どこか儚げで触れれば消えてしまうかのようだ。
確かに見覚えがある少女は、誠が部屋の中に入るや否や大きな声で告げる。
「ち、痴漢ですかっ」
どこかで聴いた唐突な少女の台詞に、思わず誠は咳き込んでいた。
「ぶはっ。げほっげほっ」
「あ。だ、大丈夫ですか。でもほら、痴漢とかしようとするから、そういう目にあうんですよっ。悪い事したらいけませんっ」
少女はやや眉をつりあげて告げると、指先を一本たてて左右に振るう。
「だ、誰が痴漢だよっ。誰が」
誠は何とか息を整えながら、目の前の少女に向かって声を荒げる。しかし少女は誠の言う事がわからないとばかりに眉を寄せると、上げていた手を降ろして、その腕を組みなおす。
「え、違うんですか。突然部屋の中に入ってくるからてっきり。えーっと、じゃあ」
少女はしばらく首を傾けながら考え出すと、それからすぐにまた指を立てて誠へと向ける。
「私を助けてくれた、王子様ですか?」
口元に笑みを浮かべながら、にやにやとした目元を覗かしている。
「いや、王子様なんかじゃねぇよ」
溜息まじりに答える。心底呆れた声だった。
「ふふ。変わりませんね、誠さん」
「……お前もな。優羽」
目の前で笑う少女、優羽は誠を部屋の中に待ち構えていた。
だけど彼女はもう部屋の中で浮かんではいない。ごく普通の少女だ。当然霊体ではないので壁を抜けたりもできないはずた。
「どうやって部屋に入ったんだよ。鍵かかっていただろ」
疑問を口にすると優羽はまってましたとばかりに口を挟む。
「錯乱坊主さんに協力してもらって、神仏の加護でちょちょっとですね」
「それピッキングによる不法侵入だろっ」
「まぁそうとも言います」
「そうとしかいわねぇよ!」
思わずつっこみの声を上げる。それからふと思い当たって優羽へとたずねる。
「さっきの台詞は俺と優羽が出会った時の」
「はい。そうですね。誠さん。私と誠さんが出会った、あの時の台詞です」
「思い出したのか?」
「思い出したというか……」
優羽は少しだけ顔を赤らめながら、俯いて告げる。
「実のところ忘れてなかったんですよね。てへ」
「おいっ!?」
舌を出しながら告げる優羽に、誠は思わずつっこみを入れてしまう。
「正確にいうと起き上がってすぐは記憶が混乱していて、わかっていませんでした。なので最初は忘れていたのと同じだったと思います。でもあの後、私の家にいく途中でだんだんと少しずつ思い出してきたんですよね。それでどうしたものかなぁと思っていたんですけど、言い出すタイミングがなくてですね。まぁ、私の趣味的にもちょっと面白いかなと思いましてっ」
「……そういや、こいつ人をからかうのが趣味の悪魔のような女だったよ」
「わー。誠さん、ひどい事いいますね。それでも私の王子様ですか?」
「王子じゃねぇっつってんだろ。おい」
誠は照れくさくなって顔を背ける。王子等と言われると背中がむずがゆくなる。
「そうですね。王子様じゃないですよね。だって」
言いながら優羽は誠の胸元へと寄り添う。
「だって誠さんは、私の旦那様ですから」
「ちょ……おま……ま、まだ夫婦じゃねぇよ!?」
慌てて優羽の言葉を否定する。
それと同時に優羽はにやりと口元をゆがませて、誠へと顔を見上げる。
「まだ……なんですね?」
「え、いや」
言いよどむ誠に優羽はにやりと笑う。
「言質とりましたよ。これで私と誠さんは、婚約者ですねっ」
「お、おい勝手に決めるな」
「だって決めましたもん。それとも、誠さんは私じゃ嫌ですか? 私じゃものたりませんか? まぁ確かに胸とかあんまりないですけど。はっ、さては巨乳愛好家ですか。巨乳お姉さんに赤ちゃんみたいにバブバブして甘やかされたいんですか? うわぁ、マニアックですねっ」
あきらかにからかい半分で告げる優羽に誠はため息を漏らす。このまま言わせておけば、ずっと優羽にペースを握られたままなのは間違いないだろう。
「違うわっ。俺の好みはな、明るくて朗らかで、ちょっと天然入ってて、けど一生懸命で。誰よりも家族想いな長い黒髪の細身の女の子だよ」
「ずいぶん具体的でピンポイントな好みですね」
優羽は少し渋い顔をする。何やら答えが気にくわなかったのだろうか。
それでも誠は胸元にいる優羽をじっと見つめて、大きく息を吐き出したあと、はっきりと告げる。
「つまり、お前の事だよ。優羽。どうやら俺はお前の事を好きになってしまったみたいだ。夫婦とかはまだ早いけど、お前さえ良かったら俺とつきあってくれ」
「え。えええええええええっ!? えええええええ!? ええー!?」
誠の精一杯の告白に優羽がすっとんきょうな声を上げる。あくりの驚きように、優羽の端正な顔立ちが少し崩れてしまっている。
「ちょ……おま。そこまで驚かなくてもいいだろ」
「だって、驚きますよ。そりゃあ。だって誠さん、そんなそぶり全く見せなかったじゃないですか。いつも告げるのは私の方で、誠さんは否定してばっかりで。あの時だって私まだ誠さんにお礼もいっていなかったのに、誠さんいつの間にかいなくなっちゃってるし。もしかしたら本当は嫌われているのかもって思ってましたよっ。なんですかいったいっ。私の気持ちはどうしたらいいんですかっ。もうもうもうもうもうっ」
優羽は誠の胸元をぽかぽかと殴りつけながら、声を張り上げていた。
でも次第に叩きつける力が弱く、ゆっくりとしたものに変わっていき、最後には誠の胸元にすがりつくように手をおいていた。
「誠さんのおかげです。誠さんが私を助けてくれたから。だから、こうして元に戻れたんです」
「まぁ俺はほとんど何もしてないけどな。美朱や錯乱坊主の力を借りてばかりで」
照れくさそうに顔を背けて頬をかく誠に、優羽はゆっくりと首を振るう。
「違います。確かに美朱さんにも錯乱坊主さんにも力は借りました。お二人にも感謝しています。でもその力を借りられたのは誠さんのおかげです。誠さんが私のために私の正体を探そうとしてくれたから。誠さんが助けてくれたから。だから誠さんのおかげなんです」
優羽は誠の胸元によりそったまま、上目遣いで誠の顔を見上げる。
「だから私は誠さんが好きです。誠さんが大好きです。誠さんが私でいいのなら……」
優羽は言葉をいちどとぎらせる。
少しだけ息を飲み込む音が聞こえた。
「よろしくお願いします」
優羽ははっきりとそう告げる。
誠と優羽の二人は、こうして確かに気持ちがつながり合っていた。
「でも私、天然じゃないですから好みとは外れてますよね?」
優羽は少し首をかしげながら告げる。
あまりその辺りの感覚はつながっていないようだった。
ドクター中森は顔をそらして、それだけを独白していた。
しかし何か思うところがあるのか、すぐにまた言葉を続ける。
「だがあえて言うならば、妻が言っている事は間違っている。悪は妻や娘を実験体にしようとした私であって、妻には非はない。もっともあのおかしな宗教から離れてくれるのであれば、それに越した事は無いがね」
顔を背けたまま告げたドクター中森に、優羽の母が再び涙をこぼす。
「あなた……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「何を謝ることがある。私が悪いと言っているのだ。お前のすべき事は私をなじる事であって、謝罪など必要はない」
ドクター中森は顔を背けたままではあったが、その目頭に涙が浮かんでいるのは隠せていなかった。
「……今のお父さんは、昔のお父さんが戻ってきている。そう思えます」
優羽がぽつりと呟く。
「お父さん、お母さん。私からのお願い。もういちど家族みんなでやり直してほしい。今のお父さんとお母さんならやり直せる。財産はみんななくなってしまったかもしれないけど、二人がいてくれたら私それだけでいいよ」
『優羽……』
二人の声が重なる。
一人はつぼの中に入ったままではあり、シュールな姿ではあった。しかし家族の心はつながっているようにも思えた。
「この家族はなんとかやりなおしがききそうだな」
誠は少し遠巻きにして優羽とその家族達を見つめていた。
最初は優羽の記憶探し、幽霊の正体探しだったはずなのに、全く予想していない方向に話しは進んでいった。
実際かなり危険な事もあり、どうして赤の他人である優羽のためにそこまでしたのだろうかと不意に頭をよぎる。
最初はただ部屋にいたからに過ぎなかった。とりつかれてしまったから仕方なく力を貸してあげていただけだ。
ただ優羽とふれ合ううちに、少しずつ彼女の優しさも知っていた。
一緒に過ごしているうちに一緒にいる事が当たり前のようになっていた。
だけど考えてみるとそれほど長い間という訳でも無い。ほんの一週間程度の事件だった。実際まだ休みも終わっていない。
しかしその一週間の間が、とても濃い時間を過ごしていた。
「まさかマッドサイエンティストと戦う事になるとはなぁ……」
口の中で声には出さずに呟く。
当たり前のようにとらえていたが、あまりといえばあまりの展開だった。この事件がなければ美朱が術を使えるなんて事も知らなかっただろう。
「……まぁいい経験だった……かな」
無理矢理自分の心を納得させると、辺りを見回してみる。
「佐由理さん。あの様子をみる限り、優羽達はたぶんもう大丈夫じゃないか。霊体発生装置も壊れて実験も出来なくなった。危険はもうない、と思うのだけど」
「そうだな。私が知る限り、霊体発生装置はそれなりに高額な装置だ。予備はもうないはずだし、簡単に新しいものを作るという訳にもいかないだろう」
佐由理は淡々と答える。
それからその言葉に継ぐようにして、美朱が口を開く。
「ま、それに何かあったら叔父さんがすぐに感知できると思う。いちおう叔父さん経由でしばらくは監視してもらう事になると思うけど」
「うむ。もうすでに連絡はついておる。この戦いには間に合わなかったが、こういった事態に備えた手練れを数人派遣してもらう事になっておるでな。もう近くまできておるはずじゃ。そしてドクター中森から事情を聴取して、件の団体を破棄する事になるじゃろう」
錯乱坊主は合掌してなにやら祈りを向けていた。何に対する祈りかはわからなかったが。
「なら、俺たちはそろそろ行こうか。家族水入らずの時間を過ごさせてやりたい」
誠の言葉に皆もうなずく。ドクター中森は縛られているため、どちらにしてもすぐ何を出来るという訳でもない。
もともと誠は何が出来るという訳でも無い。ただいつの間にか優羽のために力を貸していただけだ。後始末は錯乱坊主の呼んだという手練れとやらに任せても問題ないだろう。
誠達は静かにこの場を後にする。
ただ優羽達家族がもういちどやり直せる事を祈って。
あれから一週間ほどが過ぎた。今までの事が何も無かったかのように、平穏な時間を過ごしていた。
変わった事といえば、ときどき美朱が連絡をとってくるようになったくらいで、大きくは何も変わらない。
学校も始まり、毎日それなりに忙しい日々を過ごしていた。
今日も学校が終わり、一人暮らしの部屋に戻ってきたところだ。
部屋の鍵を開けて、そして扉を開ける。
部屋の真ん中に少女がたたずんでいた。
腰までのびた長い黒髪が、真っ白なワンピースを引き立てている。くりんとした大きな瞳に、整った鼻先。艶やかな紅い唇は、微かな笑みを覗かせている。
すらりと伸びた細い足。右手には銀色の、左手には金色のブレスレットを身につけており、よりいっそう彼女の可憐さを引き立てている。
どこか全体的に儚げな色彩を帯びて、触れれば消えてなくなりそうにも思えた。物憂げな瞳は、少女の柔らかな顔立ちをよりいっそうに引き立てている。まるでこの世の物ではないかのように。
透き通るような白い肌は、どこか儚げで触れれば消えてしまうかのようだ。
確かに見覚えがある少女は、誠が部屋の中に入るや否や大きな声で告げる。
「ち、痴漢ですかっ」
どこかで聴いた唐突な少女の台詞に、思わず誠は咳き込んでいた。
「ぶはっ。げほっげほっ」
「あ。だ、大丈夫ですか。でもほら、痴漢とかしようとするから、そういう目にあうんですよっ。悪い事したらいけませんっ」
少女はやや眉をつりあげて告げると、指先を一本たてて左右に振るう。
「だ、誰が痴漢だよっ。誰が」
誠は何とか息を整えながら、目の前の少女に向かって声を荒げる。しかし少女は誠の言う事がわからないとばかりに眉を寄せると、上げていた手を降ろして、その腕を組みなおす。
「え、違うんですか。突然部屋の中に入ってくるからてっきり。えーっと、じゃあ」
少女はしばらく首を傾けながら考え出すと、それからすぐにまた指を立てて誠へと向ける。
「私を助けてくれた、王子様ですか?」
口元に笑みを浮かべながら、にやにやとした目元を覗かしている。
「いや、王子様なんかじゃねぇよ」
溜息まじりに答える。心底呆れた声だった。
「ふふ。変わりませんね、誠さん」
「……お前もな。優羽」
目の前で笑う少女、優羽は誠を部屋の中に待ち構えていた。
だけど彼女はもう部屋の中で浮かんではいない。ごく普通の少女だ。当然霊体ではないので壁を抜けたりもできないはずた。
「どうやって部屋に入ったんだよ。鍵かかっていただろ」
疑問を口にすると優羽はまってましたとばかりに口を挟む。
「錯乱坊主さんに協力してもらって、神仏の加護でちょちょっとですね」
「それピッキングによる不法侵入だろっ」
「まぁそうとも言います」
「そうとしかいわねぇよ!」
思わずつっこみの声を上げる。それからふと思い当たって優羽へとたずねる。
「さっきの台詞は俺と優羽が出会った時の」
「はい。そうですね。誠さん。私と誠さんが出会った、あの時の台詞です」
「思い出したのか?」
「思い出したというか……」
優羽は少しだけ顔を赤らめながら、俯いて告げる。
「実のところ忘れてなかったんですよね。てへ」
「おいっ!?」
舌を出しながら告げる優羽に、誠は思わずつっこみを入れてしまう。
「正確にいうと起き上がってすぐは記憶が混乱していて、わかっていませんでした。なので最初は忘れていたのと同じだったと思います。でもあの後、私の家にいく途中でだんだんと少しずつ思い出してきたんですよね。それでどうしたものかなぁと思っていたんですけど、言い出すタイミングがなくてですね。まぁ、私の趣味的にもちょっと面白いかなと思いましてっ」
「……そういや、こいつ人をからかうのが趣味の悪魔のような女だったよ」
「わー。誠さん、ひどい事いいますね。それでも私の王子様ですか?」
「王子じゃねぇっつってんだろ。おい」
誠は照れくさくなって顔を背ける。王子等と言われると背中がむずがゆくなる。
「そうですね。王子様じゃないですよね。だって」
言いながら優羽は誠の胸元へと寄り添う。
「だって誠さんは、私の旦那様ですから」
「ちょ……おま……ま、まだ夫婦じゃねぇよ!?」
慌てて優羽の言葉を否定する。
それと同時に優羽はにやりと口元をゆがませて、誠へと顔を見上げる。
「まだ……なんですね?」
「え、いや」
言いよどむ誠に優羽はにやりと笑う。
「言質とりましたよ。これで私と誠さんは、婚約者ですねっ」
「お、おい勝手に決めるな」
「だって決めましたもん。それとも、誠さんは私じゃ嫌ですか? 私じゃものたりませんか? まぁ確かに胸とかあんまりないですけど。はっ、さては巨乳愛好家ですか。巨乳お姉さんに赤ちゃんみたいにバブバブして甘やかされたいんですか? うわぁ、マニアックですねっ」
あきらかにからかい半分で告げる優羽に誠はため息を漏らす。このまま言わせておけば、ずっと優羽にペースを握られたままなのは間違いないだろう。
「違うわっ。俺の好みはな、明るくて朗らかで、ちょっと天然入ってて、けど一生懸命で。誰よりも家族想いな長い黒髪の細身の女の子だよ」
「ずいぶん具体的でピンポイントな好みですね」
優羽は少し渋い顔をする。何やら答えが気にくわなかったのだろうか。
それでも誠は胸元にいる優羽をじっと見つめて、大きく息を吐き出したあと、はっきりと告げる。
「つまり、お前の事だよ。優羽。どうやら俺はお前の事を好きになってしまったみたいだ。夫婦とかはまだ早いけど、お前さえ良かったら俺とつきあってくれ」
「え。えええええええええっ!? えええええええ!? ええー!?」
誠の精一杯の告白に優羽がすっとんきょうな声を上げる。あくりの驚きように、優羽の端正な顔立ちが少し崩れてしまっている。
「ちょ……おま。そこまで驚かなくてもいいだろ」
「だって、驚きますよ。そりゃあ。だって誠さん、そんなそぶり全く見せなかったじゃないですか。いつも告げるのは私の方で、誠さんは否定してばっかりで。あの時だって私まだ誠さんにお礼もいっていなかったのに、誠さんいつの間にかいなくなっちゃってるし。もしかしたら本当は嫌われているのかもって思ってましたよっ。なんですかいったいっ。私の気持ちはどうしたらいいんですかっ。もうもうもうもうもうっ」
優羽は誠の胸元をぽかぽかと殴りつけながら、声を張り上げていた。
でも次第に叩きつける力が弱く、ゆっくりとしたものに変わっていき、最後には誠の胸元にすがりつくように手をおいていた。
「誠さんのおかげです。誠さんが私を助けてくれたから。だから、こうして元に戻れたんです」
「まぁ俺はほとんど何もしてないけどな。美朱や錯乱坊主の力を借りてばかりで」
照れくさそうに顔を背けて頬をかく誠に、優羽はゆっくりと首を振るう。
「違います。確かに美朱さんにも錯乱坊主さんにも力は借りました。お二人にも感謝しています。でもその力を借りられたのは誠さんのおかげです。誠さんが私のために私の正体を探そうとしてくれたから。誠さんが助けてくれたから。だから誠さんのおかげなんです」
優羽は誠の胸元によりそったまま、上目遣いで誠の顔を見上げる。
「だから私は誠さんが好きです。誠さんが大好きです。誠さんが私でいいのなら……」
優羽は言葉をいちどとぎらせる。
少しだけ息を飲み込む音が聞こえた。
「よろしくお願いします」
優羽ははっきりとそう告げる。
誠と優羽の二人は、こうして確かに気持ちがつながり合っていた。
「でも私、天然じゃないですから好みとは外れてますよね?」
優羽は少し首をかしげながら告げる。
あまりその辺りの感覚はつながっていないようだった。
0
あなたにおすすめの小説
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた
歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。
剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。
それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。
そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー
「ご命令と解釈しました、シン様」
「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」
次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
高塚くんの愛はとっても重いらしい
橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。
「どこに隠れていたの?」
そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。
その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。
この関係は何?
悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。
高塚くんの重愛と狂愛。
すれ違いラブ。
見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。
表紙イラストは友人のkouma.作です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる