叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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  私は華道織原流の家元の孫。今日も床の間に飾る花を家元である祖母に頼まれて活けている。

 「由花。それが終わったらお茶でもしましょう。お弟子さんがくるまで休憩したいわ」

 「はーい。わかりました」

 急いで残っている花材をかたづけると、立ち上がりできあがった花器を両手で持ち上げ、床の間に飾った。
 今日はアヤメやナデシコを使った。できあがりには満足できた。
 
 私は二十五歳になる。
 
 両親は事故で小学生時代に他界している。華道のイベントに出かけた先で交通事故に遭ったのだ。一人っ子だった私にとって、衝撃であり、生きる気力が失われてしまった。
 
 だが、同居していた祖母がまだいる。そして祖母の生け花を継承するはずの父と母がいなくなり、祖母のためにも、織原流のためにも生き続け、今まで以上に真剣に学ばねばならなくなった。

 もう、両親が他界して十七年になる。私自身の生け花はある程度形になってきていたが、まだまだ家元になるには精進が必要だとわかっていた。

 祖母には緑茶、自分はコーヒーを入れてお盆に乗せると祖母のいる部屋へ運んで行った。

 「おばあちゃん。入るわよ」

 「開けるから、待って」

 そういって、祖母が引き戸を開けてくれた。
 祖母の和室は茶室にもなっている。
 
 祖母くらいの人になると、実は茶道も玄人はだし。着付けや日本舞踊などもかなりの腕前。結局、和事に関することはほとんど出来るらしい。祖母が若い頃はそれが普通だったと事もなげに言うが、私には無理だと思う。

 「由花。話があるの」

 コーヒーを飲みながら、ぼーっとしていたらじっと見つめている祖母の目を見て驚いた。いつもと違う目だった。

 こういうときは何か重要な話だとわかっている。私はコーヒーカップを置いて祖母の顔をしっかり見た。

 「なあに?」

 「お前に男性を紹介したいと言われているの」

 「お見合い?」

 「釣書や写真があるわけじゃないのよ。だから……」

 「おばあちゃんに来るはなしってことはお弟子さんから来た話よね?」

 「そう。お前も知っている清家の大奥様からよ」

 清家財閥の大奥様と呼ばれている祖母と同じくらいの歳の清楚なおばあさんの顔を思い浮かべた。
 
 とても優しい人だ。出しゃばらず、噂話もしない。

 裏返すと噂話が大好きな方達も大勢いる。お花のお稽古へ何しに来ているのかしらと思うくらい、話してばかりの人もいるくらいだ。

 そういう困ったさん達とは一線を画す清家の大奥様といわれる方はさすがに大財閥の大奥様だけあって、気品がある。きっと立場上たくさんのお見合い話をあちこちに世話しているんだろうなとひとり想像した。

 「それで?その大奥様が私にどんなすごい人を紹介してきたの?」

 人ごとのように笑って話した。
 だって、とりあえず話を受けるしかない状況だとすぐにわかったからだ。

 「……よほど決心して話してきたんだと思うの。だって他人ではない、孫を紹介したいと言ってきたのよ」

 「……えっ!」

 孫って、まさか、清家の御曹司に当たる人?まだ、おじいさまが総帥らしいから、お父様もいるし、孫なんてまだ遠い話なのかもしれないけど。

 「そのお孫さんって、いくつなの?」

 「三十五歳」

 「私とひとまわり近く違わない?」

 祖母はため息をついた。

 「……そうね。まあ、昔だったらそのくらい普通よ。あなたも年上が好きよね?」

 祖母が目を合わせず、呟いた。
 そう、別れた神田ホテルグループの御曹司はそのお孫さんと同じくらいの歳だった。祖母はそのことを暗に言っているのだ。

 「わかったわ。でも不思議なのよね。どうして、私?もっといいところのお嬢様が一番だと思うのに……」

 「……それにも深いわけがあるようなのよ。玖生君は女性に興味がないらしくて。紹介した人をすべてお断りしてしまうそうなの」

 「どんな理由で?」

 祖母は苦笑いを浮かべた。

 「そこまでは知らないわ。でも、美男子なのは確かよ。祖母である大奥様を迎えに来たことがあって、会ったことはあるのよ」

 「ふーん。で、女嫌いを私に治せっていうことなの?」

 「由花ったら。まあ、そうね、平たく言えばそういうことかもしれないわね」

 「無理でしょ。私だって男性を信じられなくなってるのに、お互いこんなだったらうまくいかないわよ」

 「そうねえ。お互いで異性への失望感をなくすためにお付き合いしてみるのも悪くはないと思うわ」

 「私は申し訳ないけどそういった御曹司と結婚はしたくない。お友達になるくらいなら全然構わないけど、あちらがどうかしらね」

 祖母は私の横顔を見ながら、言っている意味がすぐにわかったようだった。
 御曹司はこりごりなのだ。
 
 「……わかったわ。これから彼女が来るから、貴女の気持ちを伝えておきます」

 「ええ。よろしくね。私はこれから花材屋さんに行ってくるわね」

 「気をつけて」

 「はーい」

 手を上げて祖母を笑わせた。今となってはふたり暮らし。祖母だって若くはない。彼女が望むことは何でもしてあげたい。由花はその御曹司がどんな人か知らないがとりあえず会う決心をした。
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