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紹介2
しおりを挟む花材屋さんから帰ってきたら、祖母が縁側に座っていた。
「おばあちゃん、ただいま」
「ああ、おかえり。由花、片付けたらちょっとここへお座り」
自分の横をポンポンと叩いている。
片付け終わると、祖母の横に座った。
「……さっきのはなしでしょ?どうした?」
「清家の大奥様はお見合いじゃなくて友達にでもなってやってほしいっておっしゃるのよ」
私はおかしくて笑ってしまった。なんか、すごく変。
「よくわかんないけど、そのお孫さんという人が了承しないとだめじゃないの?」
「それは大丈夫っていうのよ。事前に聞いたわけじゃないけど、自分が頼んだらまず嫌とは言わないっていうの。うちと一緒ね。お前も私に恩があると思っていて何でも言うこと聞くじゃない」
驚いた。そんなつもりじゃないけど、分かっていたのだと思った。
「おばあちゃん、そんなことないよ。本当に嫌なことは嫌って言う」
おばあちゃんは庭を見ながら笑った。
「そうかしらね?そういうことってあんまりないからね」
話を変えた方がいいと思い、聞いてみた。
「それで、また連絡くるの?」
「そうね。出来れば今週末がいいとおっしゃって……」
「また、急なのね」
「そうね。準備しておいてね。着物を出しておいてちょうだい」
「……もう。別にお見合いじゃなくて、知り合いというか友達になるんだからいいのよ」
「そうもいかないわよ。あちらは財閥だし、変な格好したら恥ずかしいのはこっちよ」
それもそうかと考える。
「わかったわ。そのつもりで準備しておく」
「連絡きたらすぐに教えますから」
そう言って、その時はそれで終わった。
そして、あっけなくお孫さんは了承し、あれよあれよという間に週末となった。
祖母と私も一応着物。大奥様のお着物には比ぶべくもないけれど。
「お久しぶり、由花さんね。お綺麗になられて……。私のこと覚えておられるかしら?」
「もちろんです。ご無沙汰しております」
大奥様は祖母にも挨拶した。
「家元もわざわざご足労ありがとうございます」
「……いいえ。そちらが?」
落ち着いたオーラを纏った背の高い目元がすっきりした美男子。一歩近づいた。
「初めまして。祖母がいつもお世話になっております。清家玖生と申します」
祖母と私に綺麗に頭を下げる。
私は驚いて固まってしまった。想像以上に大人っぽいというか、年齢相応?落ち着いた感じの人だ。声も低いから余計かもしれない。
「ほら、由花」
祖母が背中を叩く。我に返って、挨拶した。
「……は、初めまして。織原由花です」
「……ああ。よろしく」
そう言うと、目線を他へ向けてしまう。
失礼とは言わないけど、なるほどね。興味ないってことか。
「由花さん。家元にもお話ししましたが、孫の玖生はいい年になりますのに全く女性に興味がないようで、お見合いをさせても皆断ってしまって……」
「おばあさま。心配は無用です。私には私の考えがあって女性と距離を置いているのです」
「それにしたって、会社でも周りに女性を置かないようにしているわよね。変な噂が立ってるのよ。せめて知り合いの女性くらい作って友人としてお付き合いぐらいはしてちょうだい。そうでないと……いずれ玖生が継承するときには……」
「おばあさま。それも大丈夫です。まだ父上がいますし……」
「由花さんさえよろしければ玖生の友人になってやっていただけませんか?それなら少しは女性とお話しぐらいできるようになるかと思って……」
玖生さんはため息をついている。断れずに連れてこられたのが実情だとすぐにわかった。
「私など、きっと大人の玖生さんからみたら小娘同然です。私とお話ししていて楽しいかどうかというと少し心配です」
「いや、あなたこそ俺みたいなのと話しても何も面白くないだろうし、かえって迷惑だろう……」
「……玖生いい加減になさい」
大奥様が怒った!大奥様って怒るんだ。いつも穏やかなのに……。
隣の祖母は何も言わず黙って見ている。
私は空気が悪くなってきて、つい言ってしまった。
「あ、あの。この後は、私達だけで少しお話ししますので、大奥様とおばあちゃんはこのままここにいらしてください。私達は庭にでも行きますから……」
「……わかった。そうしよう」
玖生さんはそう言うと、立ち上がって祖母に頭を下げた。
「申し訳ございません。少しお話ししてこちらでお送りしますので、この後は私にお任せ頂けますか?」
「……ええ。よろしくね」
そう言って、私に目配せした。私もうなずいて、大奥様へ挨拶してふたりで席を立った。
綺麗な庭だ。春の緑が眩しい。
「……あの」
「君はこの話どう思ってる?」
相手へ聞く前に、まず自分で答えたらいいのに……。私は顔に出ていたかもしれない。
「ああ、すまない。俺のことは少し話してあると祖母が言っていたから、甘えていたかもしれない。君に興味がないとかではないんだ。ただ……」
「……お見合いではなく、知り合いになって、女性不審を少しでも治してあげてと言われて来ました」
池の前で立ち止まり、話す。
「……祖母が俺を心配してそちらに話を持っていったんだろう。迷惑かけてすまなかった。すぐに結婚を望んでいるなら、別な良い人をこちらで紹介しよう」
私は彼を見上げ、目を合わせ話をした。
「私は失恋したばかりです。それも、男性に裏切られたようなものです。私は今あまり男性を信じられないし、恋を出来るような状態ではありません」
彼は驚いたんだろう。初めて私の顔をまともに見た。
「そうだったのか。それなら、何故?」
「あなたの話は聞いてました。大奥様は玖生さんを心配して私を友人にして、女性と少しでも打ち解けて欲しいんですよ」
「それはわかっている。まあ、見合いは最近多くてね。すべて断っているが何度言ってもわかってもらえない」
「何か理由があるんでしょ?私もそうですから……でも目を合わせないのは相手に失礼です」
「目を合わせて笑顔を見せると皆何故か俺が相手を好きだと思うらしい。自信過剰なようだが、色々あったんだ。相手に気がないと思わせるには目を合わせないのが一番効果的だった。そうすると大抵相手が呆れるのか断ってくる」
「それは、あなたからそれ以外に感じることがあるからだと思います」
彼はまた驚いたんだろう。息を呑んだ。
「……何を?」
「あなたは、相手に社交辞令を言うほどへりくだる必要を感じていない。相手は真剣に聞いてもらえないと思えば、適当になります。何もそんな態度を取らなくても、お断りすることはできるはずです。それこそもったいない。お友達として話が合う人もいるかもしれないのに……」
彼は右手で顔を覆い、笑い出した。
「なかなか言うな。君、名前は……ごめん、生け花の宗家?」
名前も覚えてないのか。というより、女の人を紹介されると真面目に相手のこと見ても聞いてもいないのね。どうしようもない。
「教えません。知りたいなら自分から探してください。それに知らないでここへ来たこと自体、私的には友人としても失格です」
彼は目を光らせこちらを見た。射抜くような瞳。先程までの様子とは別人のようだった。
「確かに失礼だったな、すまない。君のおばあさまにこの結果をどう話すつもりだ?」
「ありのままに話します。相手の名前も知らずに来たあなたとは到底友達になれそうになかったって……」
「俺も君に叱られたとおばあさまには伝えよう」
こちらを見て口角を上げて笑っている。悪い笑い方。嫌だ、この人。適当か、怖いかどっちかじゃないの。
タクシーを呼んで帰ろうとしたら、彼の運転手が待っていて、一緒に乗せられた。
結局うちへ先に回って、下ろされた。車の中では話さなかった。
「ありがとうございました。お元気で」
そう言った私に、ひと言。
「ああ、またな」
そう言って私のことを見る。自信満々の笑顔で車の窓からこちらを見ている。
そして、私が驚いている間に車はいなくなった。
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