叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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玖生side

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 紹介された若い娘からしっかり目を見て話せと叱られた。

 祖母は俺が女性に興味を持とうとしないのを心配して紹介したんだろう。ただ、俺は祖母に何を言われようと結婚する気はなかった。

 ただ、祖母は高校生の時に母を亡くしてからの俺を息子のように大切にしてくれていた。
 祖母の頼みは断れない。とりあえず会うことにしただけだ。

 お見合いの類いもここ最近増えてきた。断れない見合いはとりあえず会うだけ。釣書も見ないでとりあえず会っていた。
 そして相手は大抵どこかの令嬢。ちやほやされるのが普通なのだろう、俺の冷たい態度に相手は大抵断ってくる。

 女性から俺に対して踏み込んで文句を言ってくる人などはっきりいって全くいなかった。ほとんどがその真逆。
 自分の家柄や容姿が女性に好かれるというのは高校生ぐらいからわかっていたことだった。

 笑顔で相手を褒めたりすると、大抵勘違いされた。
 だからこそ、相手にそういう気持ちを持たせないためにも極力目を合わせず笑顔を見せないようにしていたのだ。

 祖母からの久しぶりの雷の直後、その娘にも雷を落とされた。
 正直びっくりした。そして初めてしっかり彼女の目を見た。叱られているから見る事が出来たのかもしれない。

 彼女はお見合いのというより、知り合いか友人となるために来たと言っていた。
 そして、彼女も俺に全く興味がないようだった。

 そのことに安心しつつも、少し悔しい気持ちになったのは何故だろう。
 
 何故か、ふくれ面の彼女を見ていたら面白くなってきた。
 興味が出て、祖母に帰って来るなり釣書はないかと聞いたら、ないと言う。

 「おばあさま。すみません、彼女のフルネームをもう一度教えてください」

 「……は?玖生あなたって子は全く、育て方を間違えましたね」

 「おばあさま。いくらでも謝ります。彼女にも怒られました。それで名前を教えてくれと言ったら、自分で調べろと言われたんです」

 「当たり前ですよ。いいですか、一度しか言いませんよ。織原由花さん。華道織原流の次期当主です。年齢は確か二十五歳。お前とは九つも違うのに、叱られたとは。いい薬になりましたね」

 俺はそれを聞いて驚いた。すっかり忘れていたがうっすら思い出したのだ。
 
 『自由に花を活ける人になるのが私の夢。それが私の名前なの』
 
 あの顔。目を合わせたときどこかで見たことがあると思った。面影が残っている……そういうことか。
 
 「由花というのは、自由の由に花と書きますか?」

 「そうよ?」

 思い出した。生け花と聞いてふと思い出したことがあったが、まさか。そうか、彼女だったのか。ただ彼女は何も覚えていないようだ。

 昔、母が入院してすでに昏睡状態だった頃、廊下の隅で足を抱えてすわっている小さな女の子を見かけた。涙を流していたので声をかけた。高校一年だった。制服を着ていた。彼女は多分、小学校低学年だったと思う。

 話を聞いてみるとお父さんとお母さんが事故に遭い、お父さんはすでに亡くなりお母さんも危ないみたいと言っていた。俺は持っているハンカチを貸して涙を拭いてやった。そして名前を聞いた。お花を生ける人になる。お父さんみたいになると言っていた。

 「……おばあさま。彼女ともう一度会いたいので、連絡を取りたいんですが携帯お借りしていいですか?」

 「え?ええ!?玖生、彼女に叱られて名前も教えてもらえなかったんでしょ?それは無理じゃないの?」

 「いや、俺は彼女がなんとなく気に入ったので……友達にしてもらおうかと」

 「……あなたったら。よくわからない子ね。あなたがいいという女性はすべて袖にして、あなたを嫌いだという女性を気に入るって何なのかしら?」

 「彼女は俺が清家の御曹司と知りながら、俺を叱りつけてきました。そういう女性はなかなかいない」

 祖母はわかったという顔をした。そして、苦笑いを浮かべた。

 「いいですけど、私はこれ以上何もしませんよ。あちらの家元もお前の態度に呆れていたようですし、うまくいくとは思えないですけれど……それでもいいのね?」

 俺はニヤリと笑うと祖母を見た。

 「ええ。もちろん」

 「そう。なら、ひとつだけ伝えてちょうだい。清家の本社ビルの受付にひとり空きがあるでしょう?彼女を推薦しようと思っていたの。彼女今失業中なのよ。もちろん家元のお手伝いなどでお花を教えてはいるみたいだけど、前はホテルに勤めていてそこのお花も扱っていたとか……今はそのお仕事がなくなって、家元が心配されていたの。だからお前のことに関係なく紹介しようかと思っていたのよ。でも今日のことがあったから、どうしようかと迷っていたの」

 祖母は携帯電話を貸してくれた。
 
 祖母に言っていないことがある。実はその時彼女を慰めるつもりで自分の母親ももう長くはないと伝えたのだ。だから、寂しいのは君だけじゃないと慰めた。母はすでに昏睡状態で意識がなかったのだ。それから数日して息を引き取った。
 
 だから、彼女に言った慰めは、自分へ言い聞かせているに等しい言葉だった。
 
 その時、なぜだか覚えていないが彼女とお互いの将来の夢について話した。

 父のようにはなりたくない……そんなことも言ったかもしれない。まだ彼女は小学生だったのに、いずれ両親の仕事である華道を大きくなったらやりたいと言っていた。

 そして、お兄ちゃんも大きくなったらおうちのお仕事頑張ってねと言われたのだ。そのまっすぐな彼女の瞳と健気な姿に俺も父を理由に逃げていたことを恥じて、清家の仕事をやっていこうと思ったのだ。

 そして、十七年ぶりに会ったが、またもや俺の懐に入るように忠告をしてきた。

 結婚相手としては全く考えていないが、彼女の率直さが俺にはためになるような気がする。

 自分のテリトリーの中に一応入れておきたいと思った。そうすれば、また何か彼女の発言に触発されて、型どおりの財閥御曹司の未来が少しは面白くなるかもしれないと思っただけだった。

 受付をやらせたら顔を合わせる機会が増える。きっとあの調子で色々ふくれっ面をして言ってくるんだろう。楽しみだ。さっそく連絡しようと行動に起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
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