叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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過去に繋がる今1

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 金曜日。久しぶりに清家本社ビルへ行った。

 早朝からビルを開けてもらい、花を活け終わったところだった。会社の人や受付の人達が出勤し出した。

 「おはようございます、須藤さん。急にいなくなってすみませんでした」

 由花は須藤に駆け寄って、頭を下げた。

 「あー、織原さん!来たのねー。会いたかったわ。おばあさんは大丈夫なの?」

 「ええ、おかげさまで。来週には退院出来そうなんです」

 「そう。なんか、秘書の人が言ってたけど織原流を継承するんだって?大変だね。おばあさんの病気がきっかけなんでしょ?」

 「ええ。いつかそうなるとは思ってましたけど、急だったので皆さんにご迷惑おかけしてしまって、本当にごめんなさい」

 「しょうがないわよ。でも寂しいわー。結構私達いいコンビだったと思うのよ。ほら、来客のランク付けとか……まだ途中だったのに。楽しかったなー」

 最後の方は小さい声で言う。ふたりで吹き出して笑ってしまった。

 「私も残念です。出来るなら戻りたいくらい。やっと慣れてきたところだったし、お仕事丁寧に教えて頂いたのに申し訳ないです」

 「今度、花の仕事で来るとき時間に余裕があったら、昼か夜でもいいからさ、健ちゃんの店へまた一緒に行こうよ。この間も心配してたんだ、健ちゃんが織原さんのこと」

 「私も行きたいです!」

 ふたりで手を取り合ってはねていたら、後ろから声をかけられた。

 「おはよう。元気そうだな。ところで健ちゃんとは誰だ?」

 ふたりで振り向いて、頭を下げた。

 「おはようございます。玖生さん」

 私は須藤さんの方を見た。すると、彼女がいたずらな目を光らせている。

 「健ちゃんは織原さんと一緒に行ったお店の店員の名前です。彼女が休んでいると話したら心配していたんです、とーっても」

 小首をかしげて玖生さんに須藤さんが言う。何なの、その言い方。絶対勘違いされる。

 「ちょ、ちょっと須藤さん、違うでしょ」

 「何が違うのよ、ほんとじゃないの」

 玖生さんの顔が険しくなっていく。後ろにいる秘書の男性がちろりと心配そうにこちらを見た。

 「玖生さん、健ちゃんっていうのはね、須藤さんの……」

 私の口を須藤さんが押さえた。そしてにっこり笑う。
 すると、玖生さんはくるりと後ろを向いてエレベーターホールへ歩き出した。

 須藤さんはピースサインをしながら私を見て、笑いながら受付へ戻っていく。信じらんない。

 私は走って玖生さんを追いかけた。
 エレベーターに乗ろうとしていたところを、待ってと大きな声を出したがすでに遅く、二人は乗って扉が閉まった。

 私がはあはあと息を切らして立ち尽くしていたら、何故か再びそのエレベーターの扉が開いた。そして、玖生さんがわたしの腕を引っ張ってエレベーターに入れると、今度は秘書の背中を押して外に出して扉を閉めてしまった。

 秘書の人の驚いた表情が忘れられない。

 カードをかざし、最上階を押すと私を囲って睨むと低い声で言う。

 「さっきの健ちゃんとは誰だ?」

 「それはね、須藤さんの彼氏でカフェのオーナーです」

 「何だと?」

 「須藤さんがわざと玖生さんに言ったのよ。いたずら大好きなの、彼女」

 「……つまり、お前と特別な関係じゃないんだな?」

 「もちろんよ。一度しか会ったことないもの」

 はーっと大きなため息をついて、私の肩に頭を乗せた。
 チンという音と共に、ドアが開いた。

 彼は私の腕を引っ張り、自分の部屋へ入れると鍵をかけた。

 「由花。今日の夜、時間取れるか?少し大切な話をしたい」

 「ええ。いいわ。私も話したいことがあります」

 少し驚いた顔をしてこちらを見ている。

 「……何かあったのか?」

 「そうね、あったわね」

 「何があった?困ったことか?すぐに話せと言っただろ」

 私は彼の慌てぶりを見て、少し笑った。

 「ううん。困ったことじゃない。そうね、少し困ったけど決めたの」

 「何を?」

 「それを夜話すんでしょ、玖生さんの話も聞かないとね」

 「……」

 「また、お前のところに行っていいか?遅くならないようにするから……」

 「無理しないでいいのよ。今すごく忙しいんでしょ。私がここにもう一度来るわ」

 「お前、どうして仕事のこと知って……」

 「ふふふ。疲れたらまた元気になれるよう抱きしめてあげるね」

 そう言うと、すごい力で彼が私を抱き寄せた。ぎゅっと抱きしめられた。

 「……お前、どうして急にここでそういうこと言う?」

 「玖生さんこそ、朝からダメでしょ。いっぱい働いて疲れたら抱きしめてあげるって言ったのよ」

 彼は黙ったまま私を抱きしめ、あのときのように首筋にキスをした。

 「……あっ、だめ」

 「その声……反則だ」

 私を見る目は男の欲望に満ちた目だった。私は目をそらすことができずに、息をのんだ。
 
 だが、彼はそれ以上何もしなかった。そして黙って私の手を引いて部屋を出ると、すぐに私をエレベーターに放り込んだ。

 「夜楽しみにしてる。連絡してこい」

 そう言って、扉を閉められた。

 火照った顔を見られないように、下を向きながら急いで片付けると帰った。
 
 須藤さんはすでに仕事中。会ったら真っ赤な顔をからかわれるところだった。

 昼過ぎから華道協会の打ち合わせに出席した。始まる前に、突然『五十嵐流』という古参の流派の家元から声をかけられた。周りにまだ大勢残っているときだった。

 「織原さん、家元はその後どう?」

 「はい。おかげさまで来週頭には退院出来そうです。ご心配おかけしました」

 「ねえ、聞きたいことがあるの。あなた、どうやってツインスターホテルの装花の仕事を手に入れたの?まさか、神田グループの時と同じ方法じゃないでしょうね?」

 悪意を隠しもしない言い方に驚いた。周りも雑談をやめてこちらを見ている。

 「この間、ツインスターホテルの創業祭にあなたが花を飾ったのは何故かしら?今まであそこのホテルはうちがやらせて頂いていたのよ。オーナーから依頼がなかったから変だと思っていたら、織原流に頼んだというじゃない。理由を聞いたら、個人的理由とおっしゃるのよ」

 私は青くなった。理由などとても話せない。個人的理由と中田さんがおっしゃったぐらいだ。

 「私も詳しくは聞いておりませんが、その時だけだったと思います」

 「それはそうでしょうね。しかも招待客だった神田さんと一悶着起こしたらしいじゃない、聞いたわよ。要するに、ツインスターホテルの中田オーナーに乗り換えたからじゃないの?」

 私はびっくりして、五十嵐流家元を見た。

 「違います!中田オーナーにも失礼ですから、憶測で変なことをお話しになるのはやめて下さい」

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