叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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過去に繋がる今2

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 「どうかしらねえ。神田さんはあなたに執着してるらしいじゃない。いいわねえ、若くて可愛いとお仕事がたくさん来て。でもいい気にならないことね。本来うちがやっていたところにスポットでもあなたが平気で入ること自体許せないわ。同じ事を他の流派の牙城でもやってみたら?どうなるか楽しみね」

 周りはこそこそと遠巻きにこちらを見ながら話している。
 
 「私も中田オーナーがツインスターホテルにどちらの流派を使われているか確認しませんでしたので、ご迷惑おかけしたのなら謝ります。ただ、今後の契約などの話にはなっていませんので、ご安心下さい。これからは十分気をつけます」

 悔しかったが頭を下げた。
 すると、家元は嬉しそうにきびすを返し、取り巻きと話し始めた。

 「大丈夫?」

 振り向いて見ると、見たことのない人だった。まだ若い。彼女が言う。

 「考え方が古いわよね。牙城って何?そんなもの、いくらでも崩される可能性があるのに、なにか暗黙の不可侵条約でも結んでるのかしらね?オーナーがあなたに惹かれて変えたとして何の問題があるの?あまり気にしないほうがいいわ」

 「ありがとう。あなたもまだ若いわね」

 「ふふふ。私は新興流派よ。流派が小さいし、認められるまでも大変だった。さっきの人達は私が何かしても大して気にしないわ、きっと。東京周辺にしかお弟子さんもいないしね。あなたの所のような歴史のある全国規模のところは標的にされやすいのかもしれないわね」

 「そうかもしれないけど、気をつけないと私のせいで織原のお弟子さんが中傷される」

 「そうね。何かあれば愚痴なら聞くわよ。私は樋口早樹。よろしくね」

 彼女と一緒にいたので、その後何も言ってこなかった。
 
 ただ、今回のはなしは五十嵐流だけでなく多くのところで噂になっていると彼女からも聞いた。

 女性が多いこの業界で噂話が広がりやすい。何も知らずおそらくお弟子さん達に不信感が広がっている。説明が必要だと痛感した。

 「お疲れ様でした」

 そう言って、周りには頭を下げた。おばあちゃんのことを誰も聞いてこない。うちに対する悪評が広まっているのだろう。
 
 時計を見るともう六時になろうというところだった。

 急いで片付け、一旦自宅へ戻った。

 引き出しから、大切にしまってあった袋を取り出し、鞄に入れた。

 「これから行きます。着いたら下で連絡します」

 玖生さんにそうメールした。

 すると、食事はしたかとひとこと返事が来た。まだと答えたが、既読になっても返事がこない。きっと相当忙しいのだろう。

 タクシーで本社につくと、電話がなった。玖生さんだった。

 「車が上から見えた。食事に行こう。店を予約しておいた。下に行くから待ってろ」

 「はい」

 そう言うと、彼が降りてきて名前を呼びながら微笑んでくれた。

 先ほど協会であった嫌な出来事を忘れさせてくれる笑顔だった。彼との大事な話の前だ。頭を切り替えようと思った。 
 
 「お疲れ様です。今、大丈夫でした?」

 「ああ。お前が来るならこの時間だろうと思ってそれに合わせて片付けていたからな」

 「さすがですね、清家玖生さん」

 彼は驚いたように私を見つめ、答えた。

 「なんだ、どうした?気持ち悪い」

 「素直になっているところよ。私もあなたのように成長しないとね」

 「はは、そうだな。でも俺は毒舌を由花の前では封印したが、他人にもそうかといえばそうでもない。成長したかというとそうでもないな」

 「あら、だめじゃない」

 「いいんだよ。愛嬌を振りまくのは別な意味で余計な仕事が増える。俺の立場上も慎みが必要だ」

 意地の悪い笑みを浮かべ笑っている。

 「どこに行くの?」

 「そうだな。フレンチなんてどうだ?」

 「そんな……この間鍋焼きうどんを作った私にそれを聞く?でも連れて行ってくれるんだったらどこでもいいわ」

 「ああ、歩いてすぐだ。よく家族で使っているところだから、すぐに予約が取れた」

 私の手を握る。こんなこと初めて。驚いて顔を見る。

 「ダメか?」

 「……玖生さん」

 「今が攻めどきだろ。違うか?」

 私があっけにとられているのを面白そうに見ている。
 
 フレンチレストランは素晴らしい内装。食器。テーブルセッティング。何もかもが一流という雰囲気だった。

 玖生さんの顔を見ただけで、支配人が現れ、丁寧にお辞儀する。

 奥にある個室へ通された。

 「ワインでいいか?」

 「ええ」

 支配人と玖生さんが打ち合わせているのを呆然と眺めながら、美しい調度品に囲まれたこの部屋にも目が吸い寄せられた。

 美しいものを見るのは私にとっても勉強になる。色合いやこの店にもある花はもちろん、新しい刺激が何より活けるときの材料となる。

 次々と運ばれてくる目にも美しい料理。

 色合いは花にもたとえることができ、盛り付けの仕方は高さの違いや皿との相性など、もちろん、盛り付けの基本を押さえながら料理人のセンスが生きる。

 花の世界にも共通するのだ。どんな花器を使うか。花材と活けるときの枝振りを生かした剪定、その高さ。全体のまとめ方。華道と同じ。基本を押さえつつ、活ける人のセンスが問われる。

 「本当に美味しいし、素晴らしい盛り付け。私にとって最高の教材だわ。素敵なところに連れてきてくれてありがとう。この間のお店もそうだけど、さすが玖生さん。私が行かれないようなところばかりよ」

 「……嫌みかそれは」

 「嫌みじゃなくて、妬みね、ふふふ」

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