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過去に繋がる今3
しおりを挟む玖生さんの前にシャーベットとコーヒーが出てきた。
「ピーマンもそうだが、実は甘いものもあまり得意じゃないんだ。だから、いつもシャーベットにしてもらっている。君は甘いのが好きだったらケーキとかのったプレートにしてもらうか?」
「ううん。一緒にしてちょうだい」
「遠慮しないでいいんだぞ。ここのスイーツも有名だ」
「じゃあ、帰りに少し頂いて帰るわ。おばあちゃんに差し入れする」
そう言うと、彼がウエイターに頼んでくれた。
「由花。話したい事ってなんだ?」
「玖生さんこそ何?」
「由花、俺は……」
「私の話があなたの決意の手助けになるなら、先に話すわ」
「由花、お前……」
「玖生さん。総帥を継ぐんでしょ?おうちの仕事を継ぐってあのとき言ってたじゃない」
「あのとき?」
こちらを光る目が見つめた。
私は鞄から袋を出した。そして、彼の目の前に置いた。
「なんだ?」
「開けてみて……」
彼が袋を開けてそのハンカチを手にした。そして、じっとそれを見つめると私へ視線を返した。やはりあなたのものだったのね。私に何も尋ねない。
「あなたのでしょ?イニシャルが入ったハンカチなんて持っている高校生の男の子。普通の家ではないと大人になって気付いたけど、顔が思い出せなかった」
「どうして俺だとわかったんだ?」
「おばあちゃんの病院の中庭で急に思い出したの。家元を継ぐことを色々迷っていたけど、思い出したら吹っ切れた。昔、制服を着たお兄さんと約束したもの。たしかおうちの仕事を一緒に将来やろうねって……。ハンカチを探したらびっくりした。あなたのイニシャルだった。偶然かもしれないからあなたのおばあさまに確認した。当時玖生さんが病院へ来ていたか思いきって聞いてみたの。そしたら……」
「由花。俺は君の名前を聞いてすぐ思い出したよ。あのとき、君は俺に話してくれたんだよ。自由に花を活けるという意味の名前だと……」
「……え?」
「あのとき泣いていた小学生の女の子が君だとわかったが、だから付き合いたいと思ったわけではない。俺と真正面から向き合ってくれた君だから付き合いたいと思ったんだ」
「でも、教えてくれても良かったのに……」
「そうだな。でも俺を見ても君は気付かない。覚えていないんだとわかったし、ご両親の辛い記憶と重なるかもしれないから言わない方がいいだろうと思っていたんだ」
「そうだったのね」
「当時俺はこの仕事をやるべきか、父のこともあってとても迷っていた。小学生の君になぜだか俺はそのことを話してしまったんだ。君は一生懸命話を聞いてくれた。そしてお兄ちゃんも一緒におうちの仕事しようよと言ってくれたんだ」
「ごめんなさい。詳しい内容はもう覚えていないの。ただ、一緒に頑張ろうと言ってくれたのは覚えてる」
「君のひと言があって、今の俺がある。本当にありがとう」
「私こそ。玖生さんに今も支えられて私は家元を継ぐ決心をしたのよ。こちらこそありがとう」
「俺が総帥を継ぐという話を聞いたのか?おばあさまだな?」
「そう。そして、あなたのおじいさまが考えている結婚相手が海外にいるという話も聞いたわ」
「……!」
息をのんだ彼の様子に、私は冷静に話を続けた。
「結婚が総帥になる条件だとすると、今すぐ結婚が必要ということでしょ?」
「由花、俺はおじいさまの考えている相手と結婚する気はない」
「でも、結婚しないと総帥を継げないとしたら?」
「……そんなことはない」
「嘘だわ。おばあさまもおっしゃっておられたわよ。奥様が必要だって。そのために女性嫌いを克服させたくて、私をカウンセラーのつもりで紹介したんだから……」
「由花。何が言いたい?俺の気持ちをわかっていながらそんなことを言うのか?」
正面から彼を見つめてはっきり言った。
「玖生さん、聞いて。私もあなたが好き。でもどうしても踏み出せなかった。前に付き合っていた健吾と同じであなたも御曹司だったから……それに健吾よりもずっと大きな財閥の御曹司。私なんて不釣り合いなのはわかりきってる」
「何言ってるんだ、由花。俺が好きと今言ったな?それなら何も心配するな。君の踏み出せない気持ちもわかっていた。だから俺の気持ちを押しつけても無理だと思って、君の気持ちがこちらに向くのを必死で待っていた」
私は彼を見つめたまま続けた。
「でも今すぐに結婚はできない。私もこれから家元を継ぐという将来の夢に向かって一番大切な一歩を踏み出す時なの。ふたつの大きな事をいっぺんに出来ない。その余裕がないの」
「そうだな。それもわかっている。俺はもうすぐアメリカへ行く。しばらく帰れないだろう」
「それも聞いたわ」
玖生は由花のことをじっと見つめた。そして深く息を吐き、ゆっくり口にした。
「由花、結婚前提で付き合ってくれ」
「ええ……でも結婚を少しだけ待ってくれる?」
「ああ。もちろんだ……やっとお前の気持ちが手に入った。いくらでも待つよ」
「あなたを信じてるから告白したの。でも、結婚を待たせることはできないとわかっているつもりよ。だから覚悟はしている。清家のおじいさまが許して下さらなかったら……夢を実現させるために私のこと捨てても……」
「俺を信じてるといった先から何を言おうとしている?」
由花は頭を振った。
「由花。俺たちは幼い頃からの夢を実現する最後の一歩まで来た。俺はお前の行く先の邪魔はしたくないが、お前を諦めることもしない。安心して進め」
嬉しくて涙が出た。
「おい、由花」
立ち上がった玖生さんは私の側に来ると、私が渡したハンカチで涙を拭いてくれた。
「由花は泣き虫だろ。また、これを貸すことになるとはな……」
そう言って、私の手にハンカチを握らせた。
「アメリカから帰ってきたら返してくれよ」
ハンカチで顔を覆いながらうなずく私を彼は優しく抱き留めた。
そして立ち上がらせると、荷物を持って外へ出た。
運転手はいなかったので、そのままタクシーを呼んでもらい、車に乗った。
私を抱きよせ、一緒にタクシーへ乗りこんだ。そして家まで送ってくれた。
タクシーを通りに待たせて、一緒に門をくぐり、歩いていつもの玄関先まで送ってくれた。
「送り狼になりたいところだが、今そうなるとアメリカへ行きたくなくなる。帰ってきてからにするからな」
そう言って、軽くおでこにキスを落とした。私はそんな彼をじっと見上げた。
すると彼は私の目を見て軽くため息を落とした。そして急に顎をつかまれた。腕が腰に回り、気付けば唇が重なった。
「……ん、はあ」
唇が一瞬離れて息を吐いた。すると、また何度も角度を変えて軽いキスを繰り返した。
「ここまでだ。本当に狼になりそうだ。その目で見られると欲しくなる」
そう言って、まぶたの上にキスを落とし、後ろを向いて帰って行った。
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