24 / 36
噂と決意1~玖生side
しおりを挟む玖生はアメリカへ行く前に親友の鷹也と会った。
「玖生。清家総帥がとうとうお前になるらしいと財界ですでに噂になってる。俺と会うということは、決心したんだな」
「ああ」
ツインスターホテルのオーナールームへ来ていた。他人に聞かれたくないので、ここを選んだのだ。
「ということは、彼女に結婚を申し込んだんだろ。まさか断られた?」
「いや……結婚前提で付き合うことになった」
鷹也は満面の笑みで祝福してくれた。
「そうか、よかったな玖生。お前の幸せを見届けられて俺も安心だ。だが、付き合ってる時間なんてないだろ?結婚は条件だっただろ」
「だが……彼女にも都合がある」
「玖生。耳に入れておきたいことがある。そしてお前にわびておく」
「なんだ?」
「うちのこの間の創業パーティーで織原さんを使ったことが悪い噂になっている」
「なんだと?」
玖生は鋭い目で鷹也を見た。
「神田と彼女が付き合っていたことが諍いの言葉から漏れた。あのとき、俺はお前が心配で、彼女がきちんとした女性か確認したくて仕事を頼んだ。実はその後今までうちのホテルで花の契約をしていた五十嵐流の家元が俺と彼女の仲を勘違いして、仕事を取られたと吹聴して回っている。神田と付き合っていたことをほのめかして、神田の仕事も彼女が色仕掛けで取ったかのように言い、俺がまた彼女に惑わされて仕事を回したかのように言われているんだ」
玖生はギリギリと手を握りしめた。
「それは……お前、噂を撤回したんだろうな?」
「もちろんだ。すぐに撤回した。だが、彼女を使った理由は当初五十嵐流の家元には個人的理由と言ってしまったのが憶測を呼んだようだ。だが、事実を話すのも彼女のためにならない。適当にごまかしたが、すでに遅かったようだ。本当にすまない」
鷹也は頭を下げた。
「わかった。由花はそのことを知っているのか?」
「どうだろう……お前に何も言ってなかったか?」
「彼女は俺が大事な時期だとわかっているから何も言わないだろう」
「悪いな、玖生。こんなことになるとは思わなかったんだ」
「いや、お前のせいじゃないだろ。その五十嵐流とやらをまた使っているんだろう?」
「ああ」
「次に花を活けにくるのはいつだ?」
「ちょっと待て。調べてくる」
そう言って鷹也は部屋から担当に連絡した。
「玖生。ちょうど今日来るらしい」
「いつ来る?」
「いつもは昼時だ。これから来るだろう」
「噂を流したその家元が来るのか?」
「ああおそらくは。俺に他へ依頼させないよう、釘を指すために、あれ以降必ず家元がわざわざ来る」
「わかった」
俺は由花へ電話すると、昼をツインスターホテルで一緒にとらないかと誘った。アメリカへ行くまであまり間がないので、出来るだけ会いたいと言ったら何とかして行くと可愛いことを言ってきた。
「玖生、何する気だ?」
「荒療治といこう」
玖生がニヤリと笑う。鷹也はこういう玖生に逆らえないとわかっているのでため息をついた。
「わかったよ。その代わり、あまり派手にやるなよ」
「ああ。任せろ」
そう言うと、由花がくるまでエントランスへ降りて少し話しをした。
すると入り口から由花が入ってきたのが見えた。俺と鷹也が一緒にいるのを見つけるなり、すぐに鷹也へ向かって駆けてきた。そして深々と頭を下げた。
「中田さん、きっとご迷惑をおかけしてますよね。私のせいで変な噂になってしまっているようで、本当に申し訳ありませんでした」
やはり、知っていたのか。俺が鷹也をひと睨みすると、鷹也は慌てて由花の頭を上げさせた。
「いや、こちらこそ悪かった。君に頼んだ理由を個人的な理由と言ってしまったせいだ」
「私もそういったことに思い至らず、未熟だからです。以前いた神田ホテルのこともこんなに噂になっていたなんて知らずに……」
由花は唇を噛んだ。
「由花。どうしてお前に鷹也が依頼したのか、その本当の理由を噂を流した元凶に教えてやろう」
「え?」
鷹也は今日が二週間に一度の花を代える日で、五十嵐流の家元が来ると話した。
由花が驚いて立ち止まり、俺たちの顔を不安げに見た。
「由花は俺にエスコートされとけ」
そう言って、自分の腕に彼女の手を引っ張り絡ませた。
「玖生さん、や、やだ、何するの……?」
彼女はびっくりして、手を引こうとした。
そうはさせじと上から手を重ねた。
「い、いや、ダメよ。あなたまで巻き込みたくない。それにあなたは今、継承前の大事な時期よ。お願いやめて。スキャンダルになる」
「いいか、由花。お前は俺と結婚前提で付き合うことになったはずだが、間違いか?」
ちろりと睨むと、驚いた顔をしてこちらを見た。
「……まさか、公表するつもり?」
「ああ。俺の覚悟を内外に見せるいい機会だ」
「だめよ、こんなやり方。私のせいで……」
「だからやるんだ」
インカムで何階に家元がいるか、鷹也が確認した。目配せした鷹也の後をついていく。由花は俺の腕を引っ張り、行かせまいとする。
手を叩き、顔を覗きこみ、笑顔を見せてやる。
それでも泣きそうな彼女を見て、わざと頬に軽くキスしてやった。
びっくりしたのだろう、真っ赤になった。彼女の腕の力がそのとたんに抜けた。
4
あなたにおすすめの小説
傷痕~想い出に変わるまで~
櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。
私たちは確かに愛し合っていたはずなのに
いつの頃からか
視線の先にあるものが違い始めた。
だからさよなら。
私の愛した人。
今もまだ私は
あなたと過ごした幸せだった日々と
あなたを傷付け裏切られた日の
悲しみの狭間でさまよっている。
篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。
勝山 光との
5年間の結婚生活に終止符を打って5年。
同じくバツイチ独身の同期
門倉 凌平 32歳。
3年間の結婚生活に終止符を打って3年。
なぜ離婚したのか。
あの時どうすれば離婚を回避できたのか。
『禊』と称して
後悔と反省を繰り返す二人に
本当の幸せは訪れるのか?
~その傷痕が癒える頃には
すべてが想い出に変わっているだろう~
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
あなたより年上ですが、愛してくれますか?
Ruhuna
恋愛
シャーロット・ロックフェラーは今年25歳を迎える
5年前から7歳年下の第3王子の教育係に任命され弟のように大事に大事に接してきた
結婚してほしい、と言われるまでは
7/23 完結予定
6/11 「第3王子の教育係は翻弄される」から題名を変更させて頂きました。
*直接的な表現はなるべく避けておりますが、男女の営みを連想させるような場面があります
*誤字脱字には気をつけておりますが見逃している部分もあるかと思いますが暖かい目で見守ってください
病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】
藤原遊
恋愛
病弱な王女として生きてきたけれど、実は転生者。
この世界は、私が前世で読んだ小説の中――そして、弟こそが私の“推し”だった。
本来なら、彼は若くして裏切られ、命を落とす未来。
そんなの、見過ごせるわけない。
病弱を装いながら、私は政敵を操り、戦争を避け、弟の道を整えていく。
そして、弟が王になった時。
「姉さんは、ずっと僕のそばにいて」
囲われることも、支配されることも、甘い囁きも……本望だった。
禁忌の距離で紡がれる、姉弟×謀略×溺愛の異世界転生譚。
【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。
ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
菱沼あゆ
恋愛
ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。
一度だけ結婚式で会った桔平に、
「これもなにかの縁でしょう。
なにか困ったことがあったら言ってください」
と言ったのだが。
ついにそのときが来たようだった。
「妻が必要になった。
月末までにドバイに来てくれ」
そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。
……私の夫はどの人ですかっ。
コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。
よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。
ちょっぴりモルディブです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる