BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

文字の大きさ
141 / 151
<ジルベール>シリアス ルート

17

しおりを挟む
 響く音に、頭を抱える。意識をそらすように、息を大きく吸う。ゆっくりとはいて、何度か繰り返すうちに音は小さくなっていった。
 嫌な音が聞こえなくなると同時に、映像も声も消えていく。
 ―― なんでだろうか
 見たくもないし聞きたくもなかった。なのに消えてしまうと、胸が締め付けられるような苦しさを感じる。

「おまたせ……」
「手間をかけて、すまない」
 戻ってきたジルベールに、謝罪を伝える。迷惑をかけている自覚はあるから、ちゃんと謝った方が良いと思った。別におかしな事は、言ってない。なのにジルベールが、目を見開いた。持っている茶器をテーブルに置くと、何か言おうとして口を閉じたのが見える。

「良かったら、使って」
 なぜだがハンカチを、差しだしてくる。白い綺麗な――なんでハンカチを渡してくるんだ。茶をこぼしたりしてないぞ。万が一こぼしたとしても、こんな綺麗な真っ白いハンカチを、使えるわけがない。 
 訳が分からないが、好意で貸そうしてくれるのは理解できる。ただ使いどころがないから、必要ないと伝えようとした。けどその前に頬にハンカチが、あてられる。
「ごめんね、勝手に」
 なぜだが悲しげな表情をしている。
 行動の意味が分からずに理由を尋ねようとする前に、ハンカチが離れた。
 ―― 濡れている?
 白いからはっきりとは、分からない。けどジルベールの手にあるハンカチが、濡れているように見える。
 思いつく理由は、一つしかない。ハンカチを当てられたのと逆側の頬を触る。
 ―― なんで俺は、泣いてるんだ?

「迷惑になるな……もう帰る」
「そんなことない。迷惑だなんて、思わないよ」
 気づかないうちに、泣いていた。もう自分で色々と、制御出来ていない気がする。
 これ以上、ここにいないほうが良いと思った。バグに加えて、その影響で俺自身もおかしいことになっている。

「体調が悪そうに見えて、様子が可笑しくて、あげくにいきなり泣き出す。迷惑以外の何だと言うんだ」
「君を迷惑だなんて、思ったりしない」
 どう考えても、迷惑でしかない。なのにジルベールは、引き留めてくる。
 ―― 分かってる
 ジルベールは人が好いから様子がおかしいのを通り越して、不審な俺を放っておけないんだろう。

 ―― 分かっているだろう
 気遣いを、受けてるだけだ。心配してくれているだけだ。理解しているのに、苛立ちが沸いてでてくる。そのせいで声の調子が、荒くなってしまった。
 
「ジルベール、お前が人が良いのは、知っている。けどわざわざ面倒なことに関わろうとするな。お前に良い事なんて、一つもないぞ。言い辛かろうが、迷惑ならはっきりと言った方が良い」
「……迷惑だよ」
「それでいい。邪魔したな」
 酷いことをしたかもしれないと思う。ジルベールは良い奴だから、俺の事を迷惑だとはっきり告げたことがない。言い辛いのもあると思う。なのに口に、出させてしまった。
 けどはっきり拒絶されないと、いつまでも此処に留まってしまうような気がした。一人になりたくないという思いと、ジルベールの迷惑だから帰るべきだという思いとが混在している。迷惑になると分かっているのに、留まりそうになることに比重が傾きそうだった。だから口に出させた。嫌な奴だという自覚はある。
 もう一度、謝罪してから、背を向ける。足を踏み出したら、なぜか後ろに引かれた。確認するとジルベールが、俺の手首を掴んでいる。

「迷惑をかけたのに、なにもしないで帰るつもり?」
 謝罪だけでは、足りないらしい。まあそうか、色々と面倒をかけている。詫びはなにがいいだろうか。あまり動かない頭のせいで、何も思いつかない。
「悪いと思っているなら、ここに残って。今は、一人にならないで」 
「これ以上、迷惑をかけるつもりはない。離せ。帰る」
 離せと言っても、一向につかまれた手は離れていかない。このままだと、留まってしまいそうになる。さっさと帰るべきだというのにだ。

「迷惑かけた君に、選択肢なんてない。だから俺のために、ここに残って」
「残ったら迷惑の継続だろう。なんで迷惑をかけるのが、お前のためになるんだ。……おかしな奴だな、お前は」
 迷惑だと口にしたのに、自分のために残れという。訳が分からない。整合性がない。なのに少しおかしく感じて、張り詰めていたものがすとんと緩んだ気がした。
 笑うところじゃないのに、笑いそうになる。声だか溜息だか自分でも分からない音が、口から出たのが聞こえる。きっと表情は何時も通り変わってないだろう。笑う差分なんて、ないからな。けど外側が変わらなくても、内側は軽くなって少しだけ痛みが消えた気がした。

『僕のこと、嫌いになった?』
『どうされたんですか?』
 あれほど帰るべきだと思っていたのに、気づいたら椅子に座っていた。そのタイミングで、またバグが見えた。ジルベールのおかげか、嫌な感覚にはならない。
 子供の声と、視界には白い人がいる。白い髪に緑の目、光の術士の特徴だ。

『だって迷惑かけちゃったでしょ、だから嫌いに……』
『なりませんよ。それに迷惑だなんて、思いません』
 姿形は似てないのに、まるでジルベールみたいだ。迷惑をかけたという子供に、そんなことはないと優しく否定を口にしている。
『本当?』
『ええ。それにもし本当に迷惑をかけたとしても、かまいません。貴方様はまだ子供なんです。これから沢山の色んな経験をして、時には沢山誰かに迷惑をかけてしまうこともあるでしょう。でもそれでも、良いんです』
 穏やかで優しい声だ。細まった目には慈しみが、溢れている。これだけで子供を、どれだけ大事にしているかが分かる。

『迷惑かけるのに?』
『ええ、あっでも悪いことして思ったら、ちゃんとごめんなさいをしましょうね』
 敬語を使っているから、家族ではないのかも知れない。関係がよく分からない。ただ子供がこの人のことを、慕っているのは分かった。

『うん』
『あと、ありがとうも、ちゃんと伝えましょう』
『うん、――。ごめんなさい。それとありがとう』
 ―― そうだ
 迷惑をかけたんだから、ちゃんと謝らないとな。あとありがとうも、ちゃんと言おう。
 ――にも、ちゃんと伝えるって約束したんだから
『はい、ちゃんと受け取りました。ふふっ――様は、どんな風に立派に成長されるのでしょうね。私、今から楽しみです』
『ずっと一緒?』
 優しい目と声が、向けられる。それが嬉しかった。だって僕も、大好きだから。
 ―― なんだ?
 子供の考えていることが、頭の中に流れ込んできてるのだろうか。俺はそんなこと考えていないのに、まるで自分のことのようにおかしく交じり合う。

『ええ、ずっとお側にお仕えします』
『約束?』
『ええ、約束です。ずっとお側に、おりますよ』
 ―― ごめんなさい
 子供の声が、聞こえた。他にはなにもない。ただ震える声が、響いて聞こえる。繰り返し繰り返し、子供の今にも消えそうな声が溶けて消えていく。
 けれど子供に向けられていた優しい声は、二度と聞こえてこなかった。 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

美形令息の犬はご主人様を救いたい

BL
シエノークは美しき侯爵令息ルスランの忠実なしもべであり、犬だった。ルスランを盲信し、王家に叛逆するルスランを支え、ルスランが王家の騎士に斬られて命を落とすまで傍にいた。その後、シエノークもまた命を落とし、──ベッドの上で目を覚ました。9歳に戻ったシエノークはご主人様であるルスランの破滅を防ぐことを決意する。/美形令息×美形令息の犬

【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶
BL
 BLゲームじゃないのに、嫌われから溺愛って嘘でしょ? 不遇の若き王×モブの、ハートフル、ファンタジー、ちょっとサスペンスな、大逆転ラブです。  乙女ゲーム『愛の力で王(キング)を救え!』通称アイキンの中に異世界転生した九郎は、顔の見えない仕立て屋のモブキャラ、クロウ(かろうじて名前だけはあったよ)に生まれ変わる。  子供のときに石をぶつけられ、前世のことを思い出したが。顔のないモブキャラになったところで、どうにもできないよね? でも。いざ、孤島にそびえる王城に、王の婚礼衣装を作るため、仕立て屋として上がったら…王を助ける人がいないんですけどぉ? 本編完結。そして、続編「前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ?」も同時収録。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...