永劫の誇り – 鹿之助、燃ゆる戦国の灯』

honyarara

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第四章 – 「威光の軌跡」

威光の軌跡Ⅳ

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春の風が西国の山々を越え、かつての戦地にも新たな季節の気配を運んできた。毛利家の旗が掲げられた月山富田城周辺では、民が徐々に帰還し、焼け落ちた屋根の修繕や、荒れた田畑の耕作が再び始められていた。戦は終わったのだ――しかし、その終焉の静けさは、決して忘却を意味するものではない。

元就は、戦後の民心安定と秩序の維持こそが「威光」の源であることをよく理解していた。彼は戦に勝った者ではなく、「治める者」として振る舞った。敗軍の遺民に対して報復をせず、むしろ慈しみをもって治めるという姿勢をとったことで、多くの豪族や百姓たちに安心感を与えた。そして、旧尼子領内においても、元就はあえて過度な改革を避け、地場の仕組みを尊重する形で統治を開始した。

この柔軟な姿勢が功を奏し、毛利家の評判は旧敵の地においても徐々に高まっていく。特に民の間では「毛利殿は仁政をもって治む」との声が静かに広まり、やがてそれは山陰山陽を貫く「威光」の形となって顕れていった。

しかし、すべてが安寧に向かっているわけではなかった。元就は、尼子家残党が再び一つに結集する兆しを見逃してはいなかった。彼の間者網は、鹿之介が石見や伯耆の旧臣たちと密かに連絡を取っていることを掴んでいたのである。その報告に接したとき、元就は静かに筆を止め、こう呟いた。
「野火は小さいうちに消すが、残り火には敬意をも払わねばなるまい。鹿之介……我が戦を知る者よ、お前の誇りを軽んずることはせぬ。」

だが鹿之介もまた、武力を振りかざすことだけが再興の道ではないことを理解していた。彼は、散在する旧臣を一つにまとめるため、誠意と忠義の心をもって語りかけた。「尼子はまだ終わってはおらぬ。誇りは、志ある者の中に生きている。再び一丸となって歩み出すのだ――今度は、正しき大義と共に。」その言葉に応え、山間の村々や隠れ里から、ひとりまたひとりと旧臣たちが姿を現し始める。

元就の威光が大地を覆う一方で、静かなる再興の炎もまた、確かに息づいていた。ここに、勝者による統治の完成と、敗者の誇りに支えられた再起の序章が同時に始まったのである。
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