永劫の誇り – 鹿之助、燃ゆる戦国の灯』

honyarara

文字の大きさ
23 / 42
第四章 – 「威光の軌跡」

威光の軌跡Ⅴ

しおりを挟む
夏の始まりを告げる風が、山陰の村々を柔らかく撫でる頃、毛利家の支配は一層の広がりを見せていた。月山富田城を中心に、旧尼子領の各地では毛利家の家臣団による地場統治が整えられ、兵農分離と村役の制度が徐々に浸透し始めていた。

元就は、軍事力によって得た領地を単なる版図の拡大としてではなく、「統治の器」として捉え、そこに民を宿らせ、文化を育み、秩序を根づかせようとした。山陰の寒村にも読み書きの教習が始まり、寺社への支援が進められるなど、「威光」は刀を掲げずとも人々の心に広がっていく様相を見せていた。

一方、山中鹿之介は、戦場から離れた山間の小集落で、傷を癒す戦友たちと共に密かに身を潜めていた。彼の耳にも、毛利家の仁政と巧みな支配の噂は届いていた。しかし鹿之介は、武力のみをもってそれに抗すことの愚を知っていた。「再び起つとしても、今までと同じではならぬ。時の流れに耳を澄ませ、民の声に応える新しき旗を掲げるべきだ」と、仲間たちに語る彼の声は、戦場の剣のように鋭くはなかったが、確かに強く、温かかった。

やがて毛利家による領国支配は形式上の安定を迎えるが、それは同時に、旧尼子の人々にとって「失われたものの輪郭」が次第に色濃く浮かび上がる時間でもあった。敗者の記憶は葬られず、むしろ語られ始める。それは民草の間に燻る哀惜であり、かつての理想を知る者たちが抱いた静かな祈りであった。

鹿之介が旧臣たちとともに密かに再興を志す「誓いの刻」を迎え、その言葉がかつての尼子家の魂を再び呼び覚ます瞬間へとつながっていく。「失ったのは城ではなく、志だったのかもしれぬ」と呟く鹿之介の眼差しに、仲間たちは再びかつての誓いを重ねる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...