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第02話 【基本方針 前編】
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建国戦記 第02話 『基本方針 前編』
第三任務艦隊は情報の更新を最優先に着手する。衛星網が存在しないので、高い精度で現在位置を知るには磁気コンパスを頼らなければならない。だが、北磁極と呼ばれる地点は年々移動していたのだ。北磁極の情報を正しいものに更新しないと、艦船や航空機のナビゲート機器に問題を生じてしまう。
故に、北磁極の情報更新を真っ先に取り掛かったのだ。
それらから第三任務艦隊の首脳陣は会議を行い、幾度かの休憩を挟んで基本方針を纏めていた。結局のところ周囲の後押しによって、高野が新勢力の代表として動く事になったのだ。新勢力は3本柱からなり、評議会(最高意思決定機関)、企業、国家の3つから成り立っている。
評議会(最高意思決定機関)は非公開機関であるが全体の戦略を定める機関であり、機密の問題から特定の固有名詞は無い。企業の名称は日本産業複合体あり、新技術の開発、日本圏の経済向上を目的として経済活動を行うのが目的である。国家の名称は扶桑連邦であり、日本の友好国として存在して日本列島に統一政権の後押しと、歪みのない範囲での近代化を推し進めるのを目的としている。 また国家の名称を扶桑連邦にしたのは「扶桑」は日本の異称である事と、「連邦」は各地の自治領を統括し、日本統一と近代化を進めていく政治的共同体意識としての意味合いが強いので、これらを組み合わせて扶桑連邦としていた。
これによって国防軍は連邦軍と改名となる。
3つもの勢力を分散したのは安全対策の意味合いが大きい。
最初は難色を示した高野が新勢力の代表になる事を合意したのは、このまま座視すれば最悪な未来が日本にて繰り返される事を危惧した事が決断の理由である。あの時代における食料危機、資源危機は破滅的であり、先進諸国であっても餓死者が出たほどであった。中国大陸で繰り広げられてきた地球環境に遠慮をしない破滅的な環境破壊の余波を受けた日本でも例外ではない。 ただし高野は最初期に於いては評議会議長、実質的な国家元首、日本産業複合体理事を兼任するが、国家元首、日本産業複合体理事は相応しい後継者が誕生すれば席を譲るつもりである。
そして、この時代に於いて日本の統一政権の礎として期待しているのが、稀代の英雄である織田信長(おだ のぶなが)の父であり、清洲三奉行の一人であり戦国大名の織田信秀(おだ のぶひで)だった。彼はこの時代の戦国大名でありながらも経済の重要性をある程度理解しており、天皇の私的区域である内裏に献金したのは織田信秀と今川義元だけであった点も大きいだろう。第三任務艦隊の首脳陣としても日本国の象徴は天皇しか考えられない。
これらの事から、信秀とのコンタクトの結果によっては、
織田家の後押しを行う計画になっている。
ここまで慎重なのは、慎重に事を運ばなければ統一の後押しを行っても武装した国人や寺社勢力などの勢力を日本国内に残してしまうからだ。大多数に於いて柔軟性に乏しく、農民の犠牲の上に成り立っていた彼らをそのまま残しても、近代国家に至る足枷にしかならない。故に下手に勢力を拡大させては大きな禍根を残しかねなかった。
ここまで手間を掛けるのは、日本人が自分たちの力で国内統一を成し遂げて欲しかったのと、いち早く外国の脅威を正しく認識して欲しかったからだ。それに史実の流れに任せて統一を待つのは日本にある金銀流出の点でも許されなかったし、棄民された民がやがて来るだろう欧州人(南蛮人)に買い取られて、奴隷として消耗していくのは絶対に許してはならない。
また、第3任務艦隊の特異性を忘れてはならないだろう。
擬体達は歳を取らず永遠に若いままであり、不老処置を受けている高野達は永遠の寿命は持っていないが、普通の人々から見れば似たようなものであった。科学的根拠で説明できるような時代でもなく、高野達の持論を推し進める立場を作り上げる必要があったのだ。準備を怠って開発のみを急いだ結果、異端視されて迫害されては本末転倒である。一度でも異端視されてしまえば、それを拭わなければ協力体制にはなれないだろう。そして、異端から通常に戻すだけでも大変な労力を必要とするので、慎重に運ばなければならなかった。
真田は言う。
「物資がもう少し残っている間に、
この時代に来ていればのう、
かなりの楽が出来なのに残念じゃよ」
「それは言えていますね。
あれらの物資があれば、日本の近代化も早まったでしょう」
大鳳には上陸部隊の物資を補うためと災害発生時の救難拠点、そして自衛隊時代から続く慢性的な弾薬不足の解決策として巨大な収容空間を活かした生産設備が相応に搭載されていたが、度重なる戦闘と修理によって、あらかたの物資は消費していたのだ。
現在の大鳳に残されている生産施設は、資材再利用の小型分解炉を始め、生分解性繊維材と第五世代バイオ燃料などを生産するバイオプラントと、搭載部隊などで使用する補充部品や装甲の生産が可能な大型3Dプリンター「56式大型立体印刷機」が2基と、小型3Dプリンター「58式立体印刷機」が10基だった。立体印刷機はどれも汎用機なので専用機材と比べれば生産性は落ちる。給養員が使用している食品生産用の立体印刷機もあったが、そちらは材料を食材カートリッジに特化しているので工業品として使うのはあまり適していない。
「そうじゃな…
現状では大規模生産は難しいとしか言いようがない。
分解炉を使えば資源化が可能なのは幸いか」
「それと上陸用部隊が乗っていた事が不幸中の幸いですね」
暗い話題だけではない。
大鳳には台湾軍の拠点強化に協力していた軽装備の1個擬体化工兵中隊(205名)に加えて強襲揚陸艦に相応しく、連隊戦闘団のほぼ半分規模の戦力として特殊作戦郡に属する4個中隊の特殊作戦群(合計820名:擬体化兵が615名)が乗船していたのだ。大鳳に残された設備に加えて、これらの兵員は大きな財産と言えるであろう。
高野が口を開く。
「さゆりの言う通りです。
無い事を悔やむより、補う方法を考慮しましょう」
「となると必要なのは食糧と磁鉄鉱だな…
特に食糧は燃料に転化できるだけに重要じゃ」
「そうなると艦艇修理は最低限に留めて、
現状は補給物資と拠点用の資材生産に絞るしかない。
加えて補充の厳しい資材は供給源が整うまでは、
極力使わないようにして行きましょう」
高野が物資関連の方針を定めた。資材があるとはいえ、そこから工業地帯をいきなり作れるわけではない。限られた資材の問題もあって出来ることは限られていた。物資及び各種生産機材が完全状態に保っていた大鳳だったならば、高野達の苦労は半減していたであろう。
さゆりが尋ねる。
「戦力の投入はどの様な比率で行いますか?」
地上戦力として期待できるのは特殊作戦郡の4個中隊と2個擬体化工兵中隊である。この時代では近代兵器を装備すれば工兵であっても脅威的な地上戦力であるが、戦闘任務よりも開発任務に従事させたいので、戦力としては数えられない面があった。
「最初の作戦が完了次第、
特殊作戦郡は一部を除いて全てを領土開発に回します。
領土開発計画に関しては……」
「良ければ開発計画の詳細な立案はワシにやらせてくれぬか?」
普段の真田らしくない態度であったが高野の言葉を遮る様に発言する。
自信ありげに発言する様子を見て高野は頷く。
「判りました、お任せします」
「感謝する!」
真田は上機嫌に答えた。
都市開発ゲームの愛好家でもある彼にとって都市開発は夢であり、
しかも祖国日本の発展に関係する開発となればやる気の大きさは半端ではない。
「詳細な開発計画は真田准将に一任するとして、
まずは分解炉で早埼の空コンテナを解体し、
初期領土開発用の資材生産に当てていくのがベターでしょう」
「うむ。それまでは鉄材に関しては小規模生産で対応するしかないのう。
建築資材にはバイオ素材とセラミックを多用して補うとして……
まぁ、鉄に関しては最初は磁鉄鉱で十分じゃな」
磁鉄鉱とは全世界どこでもある鉱物資源である。不純物を取り除き、鉄の含有量を上げる選鉱処理を行えば、踏鞴製鉄の原料となるものであった。この時代の鉄としては十分なものだ。そして鉄を重要視するのは利用頻度が高く、また低い技術力でもリサイクルが容易だった点が大きかった。扶桑連邦はともかく、この世界の勢力ではバイオ素材を渡されても活用するのは難しい。利便性から鉄が選ばれるのは当然の流れであった。
調査の結果、大破の損傷を受けている天津風の解体も進めていく。だが、6000トン程度の鉄では近代的な中規模鉄橋を2つ程、作り上げた時点で無くなってしまうので資材の使用は慎重を期す必要がある。それ以上に有事の際には目に見える抑止戦力として護衛艦が必要なので、それ以上の解体は行えなかった。どちらにしても、最初の内は小規模の磁鉄鉱でも生産は補えるが、本格的な開発を行うならば鉄鉱石を産出する鉱山の開発を行わなければ効率の面から早晩に立ち行かなくなるのは間違いない。
それに現段階で大名が連合して損害かまわず攻めてこられては、最低限の資源採掘を確保しなければ数に劣る第3任務艦隊では効率が悪くなってしまう。戦国時代の技術水準から比べて強大な火力を有しているが、後方支援体制の無い近代戦力など何時までも戦えるものではない。それに無駄な戦いは可能な限り避けるべきだった。正常な軍事センスを有する高野たちには、これらの事が痛いほどわかっていたのだ。
真田が言葉を続ける。
「当面は磁鉄鉱で補いつつ、鉄鉱石の入手が軌道に乗れば、
幕張の地に炉頂圧発電を兼ねた電気炉型大型高炉を作れば良いじゃろう」
「電気炉型大型高炉ですか……
資源面を考慮すると、
国外に設置に設置するのが先になりそうですね。
国内は早くて50年後位ですか」
「まぁな。 だが、大型艦艇を量産するわけでもない。
しばらくはこれで十分じゃろう」
そうですね、と全員が同意する。
それから、統治と食料計画について話が進んで行き、やがて会議進行役のさゆりが休憩を提案すると全員の同意を得て30分の休憩となった。適度な休憩を挟むことによって思考の低下を防ごうとするさゆりのきめ細やかさが伺える配慮であろう。
休憩を終えて、議が再開する。
統治と食料計画の概要を無事にまとめ終えて、次の議題へと進んでいく。
「日本側、というか織田側への兵器や技術の供与は段階を経て進めます。
小銃と簡単な機材から始めるほうが教えやすいですから」
「それと彼らが暴走しても止めるのが容易だからだろ?」
真田の指摘に高野が同意する。
兵器や技術の供与を小出しにするのは、相手側が馴染む時間を与えるのと、冷静に考える時間を与える、両方の意味があった。そして、高野たちは、この時代の統一政権が誕生した際に、いきなり民主主義が誕生するとは全く思っていない。何より発生する土壌が培われていないからだ。故に日本の統一政権で穏便な範囲の帝国主義が誕生するぐらいなら上出来だと思っていたが、隋の第2代皇帝煬帝(ようだい)のような危険極まりない存在が誕生するとなると話は違う。そのような政権になったら止めなければならないし、そうならないように手段を講じておく必要があった。
「その通りです。
まずは真田准将には廉価武器の開発をお願いします」
「それならボルトアクション式の適当なライフルで良いじゃろう。
この時代の勢力相手ならば十分だし、整備もそれほど難しくない」
この時代からすればボルトアクション式ライフルは、前装式滑腔銃身のマスケット銃(火縄式)を大きく通り越した銃であったが、扶桑連邦としては問題視していない。現在の手工業の状態ではコピーして量産するのは無理があった。量産を目論んで工業力を整備するなら扶桑連邦としては好都合だったのだ。むしろ、自ら近代化を推し進めてくれるなら大成功と言えるだろう。 なにより、供与するボルトアクション式ライフルは扶桑連邦軍の6型特殊戦闘服(旧名:防弾チョッキ6型)を貫通することは出来ないものを用意する。
扶桑連邦は万が一の危険性を忘れてはいなかった。それ以前に非認性ストレス兵器を使えば銃すら使わずに制圧が可能なので、万が一に備えての策といえるだろう。また、無制限に供与するのではなく適正価格による販売形態を採る。一方的に与える関係は歪になり、良い結果を生まないことを高野たちは歴史や個人的な経験から深く理解していたのだ。
こうして、満場一致によってボルトアクション式ライフルの開発が決定する。
「今後の計画ですが、
資源採掘に関してはオーストラリア大陸への進出から本格化させていきます。
まずは関東への地盤固めを優先します」
オーストラリア大陸は彼らの入植を経て扶桑大陸と呼ばれる事になる。
「暫くはコンテナ解体で凌げるし、磁鉄鉱の利用も行える。
計画的に進めれば物資不足にはならないじゃろう。
まずは足場固めと準備を進めましょうぞ」
物資の消費などを素早く計算した真田准将が同意した。
周囲に反対意見は無い。
むしろ早く作戦実行に移りたくて気持を高めている面子すら居たのだ。
さゆりの入れたお茶を飲みながら真田が思い出したように口を開く。
「ああ、一つ提案がある。
内々のときは地理名称は我々の時代のものを使用したいのだが良いか?
慣れないしデジタルマップを改変するのも面倒じゃて」
「提督、宜しいでしょうか?」
"さゆり"が尋ねると高野が応じる。この時代でも幕張と言う地名はあったが、元々は千葉郡の西側一帯を指す名称だった。
「確かに幕張を須賀というのも違和感を感じます。
公式に於ける地名変更は追々進めるとして、
当面はそれで行きましょう」
最初は須賀と呼ぶのは仕方がないと真田は受け入れる。流石に脈略が無い行動を行うのはおかしいからだ。そう思いながらも真田は幕張への上陸作戦が待ち遠しかった。祖国をより良い方向に進めていけると思うだけでも心が高ぶって仕方がない。そして、彼らの話は自分たちの拠点を作るための話へと移っていく。
-------------------------------------------------------------------------
【あとがき】
ある程度は扶桑側の話を書いていきますが、織田側の話を希望する人が居ましたら教えてください。数に応じて増やして行きたいと思います。
誤字の指摘や意見、ご感想を心よりお待ちしております。
第三任務艦隊は情報の更新を最優先に着手する。衛星網が存在しないので、高い精度で現在位置を知るには磁気コンパスを頼らなければならない。だが、北磁極と呼ばれる地点は年々移動していたのだ。北磁極の情報を正しいものに更新しないと、艦船や航空機のナビゲート機器に問題を生じてしまう。
故に、北磁極の情報更新を真っ先に取り掛かったのだ。
それらから第三任務艦隊の首脳陣は会議を行い、幾度かの休憩を挟んで基本方針を纏めていた。結局のところ周囲の後押しによって、高野が新勢力の代表として動く事になったのだ。新勢力は3本柱からなり、評議会(最高意思決定機関)、企業、国家の3つから成り立っている。
評議会(最高意思決定機関)は非公開機関であるが全体の戦略を定める機関であり、機密の問題から特定の固有名詞は無い。企業の名称は日本産業複合体あり、新技術の開発、日本圏の経済向上を目的として経済活動を行うのが目的である。国家の名称は扶桑連邦であり、日本の友好国として存在して日本列島に統一政権の後押しと、歪みのない範囲での近代化を推し進めるのを目的としている。 また国家の名称を扶桑連邦にしたのは「扶桑」は日本の異称である事と、「連邦」は各地の自治領を統括し、日本統一と近代化を進めていく政治的共同体意識としての意味合いが強いので、これらを組み合わせて扶桑連邦としていた。
これによって国防軍は連邦軍と改名となる。
3つもの勢力を分散したのは安全対策の意味合いが大きい。
最初は難色を示した高野が新勢力の代表になる事を合意したのは、このまま座視すれば最悪な未来が日本にて繰り返される事を危惧した事が決断の理由である。あの時代における食料危機、資源危機は破滅的であり、先進諸国であっても餓死者が出たほどであった。中国大陸で繰り広げられてきた地球環境に遠慮をしない破滅的な環境破壊の余波を受けた日本でも例外ではない。 ただし高野は最初期に於いては評議会議長、実質的な国家元首、日本産業複合体理事を兼任するが、国家元首、日本産業複合体理事は相応しい後継者が誕生すれば席を譲るつもりである。
そして、この時代に於いて日本の統一政権の礎として期待しているのが、稀代の英雄である織田信長(おだ のぶなが)の父であり、清洲三奉行の一人であり戦国大名の織田信秀(おだ のぶひで)だった。彼はこの時代の戦国大名でありながらも経済の重要性をある程度理解しており、天皇の私的区域である内裏に献金したのは織田信秀と今川義元だけであった点も大きいだろう。第三任務艦隊の首脳陣としても日本国の象徴は天皇しか考えられない。
これらの事から、信秀とのコンタクトの結果によっては、
織田家の後押しを行う計画になっている。
ここまで慎重なのは、慎重に事を運ばなければ統一の後押しを行っても武装した国人や寺社勢力などの勢力を日本国内に残してしまうからだ。大多数に於いて柔軟性に乏しく、農民の犠牲の上に成り立っていた彼らをそのまま残しても、近代国家に至る足枷にしかならない。故に下手に勢力を拡大させては大きな禍根を残しかねなかった。
ここまで手間を掛けるのは、日本人が自分たちの力で国内統一を成し遂げて欲しかったのと、いち早く外国の脅威を正しく認識して欲しかったからだ。それに史実の流れに任せて統一を待つのは日本にある金銀流出の点でも許されなかったし、棄民された民がやがて来るだろう欧州人(南蛮人)に買い取られて、奴隷として消耗していくのは絶対に許してはならない。
また、第3任務艦隊の特異性を忘れてはならないだろう。
擬体達は歳を取らず永遠に若いままであり、不老処置を受けている高野達は永遠の寿命は持っていないが、普通の人々から見れば似たようなものであった。科学的根拠で説明できるような時代でもなく、高野達の持論を推し進める立場を作り上げる必要があったのだ。準備を怠って開発のみを急いだ結果、異端視されて迫害されては本末転倒である。一度でも異端視されてしまえば、それを拭わなければ協力体制にはなれないだろう。そして、異端から通常に戻すだけでも大変な労力を必要とするので、慎重に運ばなければならなかった。
真田は言う。
「物資がもう少し残っている間に、
この時代に来ていればのう、
かなりの楽が出来なのに残念じゃよ」
「それは言えていますね。
あれらの物資があれば、日本の近代化も早まったでしょう」
大鳳には上陸部隊の物資を補うためと災害発生時の救難拠点、そして自衛隊時代から続く慢性的な弾薬不足の解決策として巨大な収容空間を活かした生産設備が相応に搭載されていたが、度重なる戦闘と修理によって、あらかたの物資は消費していたのだ。
現在の大鳳に残されている生産施設は、資材再利用の小型分解炉を始め、生分解性繊維材と第五世代バイオ燃料などを生産するバイオプラントと、搭載部隊などで使用する補充部品や装甲の生産が可能な大型3Dプリンター「56式大型立体印刷機」が2基と、小型3Dプリンター「58式立体印刷機」が10基だった。立体印刷機はどれも汎用機なので専用機材と比べれば生産性は落ちる。給養員が使用している食品生産用の立体印刷機もあったが、そちらは材料を食材カートリッジに特化しているので工業品として使うのはあまり適していない。
「そうじゃな…
現状では大規模生産は難しいとしか言いようがない。
分解炉を使えば資源化が可能なのは幸いか」
「それと上陸用部隊が乗っていた事が不幸中の幸いですね」
暗い話題だけではない。
大鳳には台湾軍の拠点強化に協力していた軽装備の1個擬体化工兵中隊(205名)に加えて強襲揚陸艦に相応しく、連隊戦闘団のほぼ半分規模の戦力として特殊作戦郡に属する4個中隊の特殊作戦群(合計820名:擬体化兵が615名)が乗船していたのだ。大鳳に残された設備に加えて、これらの兵員は大きな財産と言えるであろう。
高野が口を開く。
「さゆりの言う通りです。
無い事を悔やむより、補う方法を考慮しましょう」
「となると必要なのは食糧と磁鉄鉱だな…
特に食糧は燃料に転化できるだけに重要じゃ」
「そうなると艦艇修理は最低限に留めて、
現状は補給物資と拠点用の資材生産に絞るしかない。
加えて補充の厳しい資材は供給源が整うまでは、
極力使わないようにして行きましょう」
高野が物資関連の方針を定めた。資材があるとはいえ、そこから工業地帯をいきなり作れるわけではない。限られた資材の問題もあって出来ることは限られていた。物資及び各種生産機材が完全状態に保っていた大鳳だったならば、高野達の苦労は半減していたであろう。
さゆりが尋ねる。
「戦力の投入はどの様な比率で行いますか?」
地上戦力として期待できるのは特殊作戦郡の4個中隊と2個擬体化工兵中隊である。この時代では近代兵器を装備すれば工兵であっても脅威的な地上戦力であるが、戦闘任務よりも開発任務に従事させたいので、戦力としては数えられない面があった。
「最初の作戦が完了次第、
特殊作戦郡は一部を除いて全てを領土開発に回します。
領土開発計画に関しては……」
「良ければ開発計画の詳細な立案はワシにやらせてくれぬか?」
普段の真田らしくない態度であったが高野の言葉を遮る様に発言する。
自信ありげに発言する様子を見て高野は頷く。
「判りました、お任せします」
「感謝する!」
真田は上機嫌に答えた。
都市開発ゲームの愛好家でもある彼にとって都市開発は夢であり、
しかも祖国日本の発展に関係する開発となればやる気の大きさは半端ではない。
「詳細な開発計画は真田准将に一任するとして、
まずは分解炉で早埼の空コンテナを解体し、
初期領土開発用の資材生産に当てていくのがベターでしょう」
「うむ。それまでは鉄材に関しては小規模生産で対応するしかないのう。
建築資材にはバイオ素材とセラミックを多用して補うとして……
まぁ、鉄に関しては最初は磁鉄鉱で十分じゃな」
磁鉄鉱とは全世界どこでもある鉱物資源である。不純物を取り除き、鉄の含有量を上げる選鉱処理を行えば、踏鞴製鉄の原料となるものであった。この時代の鉄としては十分なものだ。そして鉄を重要視するのは利用頻度が高く、また低い技術力でもリサイクルが容易だった点が大きかった。扶桑連邦はともかく、この世界の勢力ではバイオ素材を渡されても活用するのは難しい。利便性から鉄が選ばれるのは当然の流れであった。
調査の結果、大破の損傷を受けている天津風の解体も進めていく。だが、6000トン程度の鉄では近代的な中規模鉄橋を2つ程、作り上げた時点で無くなってしまうので資材の使用は慎重を期す必要がある。それ以上に有事の際には目に見える抑止戦力として護衛艦が必要なので、それ以上の解体は行えなかった。どちらにしても、最初の内は小規模の磁鉄鉱でも生産は補えるが、本格的な開発を行うならば鉄鉱石を産出する鉱山の開発を行わなければ効率の面から早晩に立ち行かなくなるのは間違いない。
それに現段階で大名が連合して損害かまわず攻めてこられては、最低限の資源採掘を確保しなければ数に劣る第3任務艦隊では効率が悪くなってしまう。戦国時代の技術水準から比べて強大な火力を有しているが、後方支援体制の無い近代戦力など何時までも戦えるものではない。それに無駄な戦いは可能な限り避けるべきだった。正常な軍事センスを有する高野たちには、これらの事が痛いほどわかっていたのだ。
真田が言葉を続ける。
「当面は磁鉄鉱で補いつつ、鉄鉱石の入手が軌道に乗れば、
幕張の地に炉頂圧発電を兼ねた電気炉型大型高炉を作れば良いじゃろう」
「電気炉型大型高炉ですか……
資源面を考慮すると、
国外に設置に設置するのが先になりそうですね。
国内は早くて50年後位ですか」
「まぁな。 だが、大型艦艇を量産するわけでもない。
しばらくはこれで十分じゃろう」
そうですね、と全員が同意する。
それから、統治と食料計画について話が進んで行き、やがて会議進行役のさゆりが休憩を提案すると全員の同意を得て30分の休憩となった。適度な休憩を挟むことによって思考の低下を防ごうとするさゆりのきめ細やかさが伺える配慮であろう。
休憩を終えて、議が再開する。
統治と食料計画の概要を無事にまとめ終えて、次の議題へと進んでいく。
「日本側、というか織田側への兵器や技術の供与は段階を経て進めます。
小銃と簡単な機材から始めるほうが教えやすいですから」
「それと彼らが暴走しても止めるのが容易だからだろ?」
真田の指摘に高野が同意する。
兵器や技術の供与を小出しにするのは、相手側が馴染む時間を与えるのと、冷静に考える時間を与える、両方の意味があった。そして、高野たちは、この時代の統一政権が誕生した際に、いきなり民主主義が誕生するとは全く思っていない。何より発生する土壌が培われていないからだ。故に日本の統一政権で穏便な範囲の帝国主義が誕生するぐらいなら上出来だと思っていたが、隋の第2代皇帝煬帝(ようだい)のような危険極まりない存在が誕生するとなると話は違う。そのような政権になったら止めなければならないし、そうならないように手段を講じておく必要があった。
「その通りです。
まずは真田准将には廉価武器の開発をお願いします」
「それならボルトアクション式の適当なライフルで良いじゃろう。
この時代の勢力相手ならば十分だし、整備もそれほど難しくない」
この時代からすればボルトアクション式ライフルは、前装式滑腔銃身のマスケット銃(火縄式)を大きく通り越した銃であったが、扶桑連邦としては問題視していない。現在の手工業の状態ではコピーして量産するのは無理があった。量産を目論んで工業力を整備するなら扶桑連邦としては好都合だったのだ。むしろ、自ら近代化を推し進めてくれるなら大成功と言えるだろう。 なにより、供与するボルトアクション式ライフルは扶桑連邦軍の6型特殊戦闘服(旧名:防弾チョッキ6型)を貫通することは出来ないものを用意する。
扶桑連邦は万が一の危険性を忘れてはいなかった。それ以前に非認性ストレス兵器を使えば銃すら使わずに制圧が可能なので、万が一に備えての策といえるだろう。また、無制限に供与するのではなく適正価格による販売形態を採る。一方的に与える関係は歪になり、良い結果を生まないことを高野たちは歴史や個人的な経験から深く理解していたのだ。
こうして、満場一致によってボルトアクション式ライフルの開発が決定する。
「今後の計画ですが、
資源採掘に関してはオーストラリア大陸への進出から本格化させていきます。
まずは関東への地盤固めを優先します」
オーストラリア大陸は彼らの入植を経て扶桑大陸と呼ばれる事になる。
「暫くはコンテナ解体で凌げるし、磁鉄鉱の利用も行える。
計画的に進めれば物資不足にはならないじゃろう。
まずは足場固めと準備を進めましょうぞ」
物資の消費などを素早く計算した真田准将が同意した。
周囲に反対意見は無い。
むしろ早く作戦実行に移りたくて気持を高めている面子すら居たのだ。
さゆりの入れたお茶を飲みながら真田が思い出したように口を開く。
「ああ、一つ提案がある。
内々のときは地理名称は我々の時代のものを使用したいのだが良いか?
慣れないしデジタルマップを改変するのも面倒じゃて」
「提督、宜しいでしょうか?」
"さゆり"が尋ねると高野が応じる。この時代でも幕張と言う地名はあったが、元々は千葉郡の西側一帯を指す名称だった。
「確かに幕張を須賀というのも違和感を感じます。
公式に於ける地名変更は追々進めるとして、
当面はそれで行きましょう」
最初は須賀と呼ぶのは仕方がないと真田は受け入れる。流石に脈略が無い行動を行うのはおかしいからだ。そう思いながらも真田は幕張への上陸作戦が待ち遠しかった。祖国をより良い方向に進めていけると思うだけでも心が高ぶって仕方がない。そして、彼らの話は自分たちの拠点を作るための話へと移っていく。
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【あとがき】
ある程度は扶桑側の話を書いていきますが、織田側の話を希望する人が居ましたら教えてください。数に応じて増やして行きたいと思います。
誤字の指摘や意見、ご感想を心よりお待ちしております。
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セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
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