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第03話 【基本方針 後編】
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お待たせしました。
建国戦記の3話になります。
急な雪で気温が下がっていますが体調等には気をつけてください。
3連休、晴れて欲しかった…
誤字の指摘や意見、ご感想を心よりお待ちしております。
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建国戦記 第03話 『基本方針 後編』
高野たちは自らの拠点となる場所を3箇所選定した。それらは短期計画として第一次から第三次計画に及び、それぞれの段階で拠点を整備していく計画になっている。 第一次計画は高野たちの起源になる拠点を作る計画を指す。歴史の継続が無いある程度の面積を有する無人島が好ましい。理由は扶桑連邦の面々が出生不明ではいずれ大きな問題に発展していくだろう。それを避けるためのアリバイが必要だったのだ。
第一次計画はアリバイに関わる計画であり、
日本近海に丁度良い島が存在していた。
関東から南南東約1000kmにある小笠原諸島である。
小笠原諸島は1543年10月にスペインのルイ・ロペス・デ・ビリャロボスが指揮するガレオン船が発見するまで無人島だった事と、小笠原諸島の父島の西側には開けた二見湾が存在し、水深の深さからF字型桟橋を整備すれば第3任務艦隊の停泊は難しくない。少ない工事で拠点が作れる点も素晴らしく、扶桑連邦のルーツの一つとして選定されたのだった。
そして、起源は飛鳥時代の天武天皇(てんむ てんのう)からの密命を受けて日本本土から渡海した末裔たちであると通してゆく。
「しかしながら凄まじい設定じゃ」
「でも天武天皇の時代なら喪失した書類も多いですし、
天武天皇はワンマンだった点が追跡を阻む最大の要素になりますよ」
真田は苦笑いするも時間的な問題もあって他の方法がなかった。だが意外と上手くいくような気がすると皆が思い始めている。何より司令官である高野が静かながらも確固たる気魄で行動しているので不安は無い。
――あのような世界を繰り返さないためにも、
確固たる信念で進むしかない――
皆が苦笑を浮かべる一方で、高野は静かに闘志を燃やしていた。高野の気質は温和であったが、見た目以上に精神は頑強である。心理戦の模様が強い対潜戦でも焦らず対応してきた実績を持っているほどだ。
「問題は第二次計画からです」
「そうじゃのう。
この世界に来ての初めての実戦になる。
戦いよりも制圧後の開発や統治が問題だろうなぁ」
第二次計画は幕張上陸作戦だった。穀倉地帯、人的資源を確保しなければ将来の発展が難しいからだ。地方豪族で満足するならともかく、高野たちの目的は大きい。友好国として日本の統一の後押しを行いつつ、太平洋の島々を領有化に伴う生存・経済圏を確保して将来に備えるのが目的だ。
「しばらくは高等教育を施すことは出来ませんが、
税率を下げたり、無益な徴兵を止めるだけでも人心は掴めると思います」
「そうです。
まずは作戦実施を進めましょう」
戦闘での不安は無い。ある程度制限が掛かっている状態であっても軍事技術の差が絶対的に優位なので負けるほうが難しい。何より暴徒鎮圧用の非認性ストレス兵器を使えば、この世界の軍事レベルならば直接戦火を交えずに勝利も可能だった。便利に見える非認性ストレス兵器は戦略的な効果を考えると積極的には使えないが。妖術師などという大多数の人々にネガティブなイメージを持たれてしまっては、統治に支障が出てしまう。
そして実のところ、高野は関東の近代化は急いでいなかった。他の日本の地域と格差があまりにも広がれば禍根へと育つ可能性があったからだ。必要に応じて日本本土内の領土は増やすが、最終的にはその大半を日本の統一政権が樹立した際に返還する計画になっている。扶桑連邦の本命はオーストラリア大陸の開発だったのだ。
「作戦に車輌は投入するのか?」
「少数は投入します。
馬を使うにしても我々の中に馬の扱いに長けた人材が足りません。
何より輸送力が決定的に違います」
「少量の燃料生産ならば問題は無いぞ。
何より早い段階で住民たちに、
発電機や車輌に見慣れてもらったほうが路線も敷きやすいからな」
真田が同意する。
大鳳内のバイオプラントを使えば第五世代バイオ燃料の生産が可能なので、必要以上の負荷をかけなければ当面は安定した生産が可能だった。何より、何もかも文明の利器を隠していては効率が悪い。
同時に高度な工業製品を見せる以上、将来の事を考慮して800年程度で自動車などの開発までに至った技術発展の歴史を考えなければならなかったが、それも真田が担当して作り上げていく事になっている。
真田が担当する仕事とは多かったが、その多くが自ら希望して行っているなのでモチベーションが高まっており苦にはなっていない。
――都市開発と言ったらインフラ整備が欠かせん!
北条? 今川? 個人的な恨みは無いが、
路線を敷く障害になるならば滅亡してもらうしかないじゃろう――
と、真田の脳内は若干だが暴走気味あった。
既に彼は関東から尾張まで路線を敷く東海道計画を脳内で構想している。軍事的な目的ではなく周辺地域の発展を考慮したものだが、領主たちからすれば侵略に等しいだろう。冷静な思考を持ち合わせている真田は、いきなり提案するのではなく第三次計画が終わってから議題として挙げる予定だった。
これほどの大計画にもかかわらず、作戦計画から立案まで短時間なのは、"さゆり"とリンクしている大鳳のメインフレーム奥に設置された、日本国防軍技術開発局が開発した51式軍用複合演算機(量子・DNA複合コンピュータ)の計算能力の高さが大きい。
UAV(無人航空機)による高高度からの航空偵察を元に立てられた計画は、特殊作戦群が夜間の間に上陸用の複合艇で上陸を果たして作戦目標を制圧する計画だった。
作戦の概要は次のようなものだ。侵攻拠点は千葉郡にある須賀(幕張)に建設する。橋頭保を確保後にそこから南南東約15kmにある小弓城、東北東に24kmにある本佐倉城、北12km にある米本城、南約25kmにある椎津城、南南西32kmにある佐是城、東64kmにある森山城に特殊作戦群と擬体化工兵隊の合同部隊からなる2個分隊をそれぞれ送り込む。それらの目標制圧を終えてから、上陸地点から南46kmにある久留里城、南南西38kmにある笹子城と南南、東39kmにある真里谷城、南東54kmにある万喜城、南西57kmにある佐貫城、南南西66kmの造海城、南に94kmにある館山城にも部隊を送り込んで一帯を制圧するのだ。千葉氏の家臣である高城胤吉(たかぎ たねよし)が建てたばかりの小金城は当初の作戦が落ち着くまでは狙わない。ともあれ、下総国の中部から房総半島を抑えていく作戦になる。
下総国にある小弓城は足利義明(あしかが よしあき)の居城であり、それ以外の上総国にある城群は大半が上総武田氏の当主である真里谷恕鑑(まりやつ じょかん)の支配下にある城だった。里谷武田氏と同盟を結んでいる安房国(千葉県南部)の里見氏への攻撃は、下総国の一部(千葉県北部)、上総国(千葉県中部)が安定したら行う予定だ。
ただし、高野たちが転移時に持ち込んでいる艦艇兵力と航空兵力は諸勢力に対して不用意な警戒を与えないように大々的には投入しない。もっとも転移時に被った損害もあって、地上戦力以外と一部の艦載機を除いて、実戦投入が可能なものが殆ど無かったのだが。しかし、擬体兵を用いた電撃的な侵攻ならば、相手側が組織的な反撃を講じる前に指揮系統を制圧する事も不可能ではなかった。
それに軍隊に於いて指揮系統が麻痺してしまえば、軍隊の行動は大きく阻害されてしまう。中世の軍隊ならばなおのことだ。そして、隣接している北条氏が早期に事態の急変を知っても対応は出来ないだろう。常識的な判断から敵の勢力が判明しない内は大規模な攻撃は行わない。
こうして、介入に備えて準備を進めていく。
上陸作戦後は支配地域の安定化を進めつつ織田信秀と接触し、経済交流などを通じて親交を深める予定だ。逆説的だが第3任務部隊物は物資不足とはいえ、戦国時代の大名からすれば質量共に十分な物資を有しており、幾らでもやりようがあった。
第三次計画はオーストラリア大陸西部に上陸して拠点を構築する計画を指す。オーストラリア大陸西部が選ばれたのは、この地域は先住民のアボリジニが殆どいない事と、磁鉄鉱、鉄鉱石、鉛、天然ガス、ボーキサイト、金の採掘が可能だった点だ。上陸予定地のスワン川河口部は桟橋によって着岸水深を確保すれば、内陸の開発が容易に行える点も大きいだろう。スワン川河口部を直線化してドックを進めれば近代化にも耐えられる将来性も兼ね備えていた。工兵隊の一部を派遣して小規模ながらも先行開発を行う。
そして日本本土では当面は磁鉄鉱で補って、
5.6年後を目処に鉄鉱石の採掘を開始する予定だ。
「まずは第一次計画で拠点を構築してから、
日本本土との連絡用にクリッパー型帆船が良いと思われます」
「そうだな素材には木材を加工したバイオ素材を使おう」
この手の話題に鋭い理解を示す真田が反応する。
生分解性繊維材の生産が可能なバイオプラントを使えば木材の加工も難しくない。木材などの植物を加工した方が生分解性繊維材よりも早く生産できるのも魅力だった。
船の方向性について話しが進む。方向性として決まったのは洋上で安定しつつも高速を誇るクリッパー型に近いが、戦闘艦ではなく船は商船としての機能を最優先にしてサイズは小型に抑える。なまじ大型船を建造しても日本の港では湾岸工事を行っていない港では僅かな例外を残して着岸水深の問題で停泊が出来ないので最初はこの程度で十分だった。それに、小型船ならば主要構造材にバイオ素材を用いて建造すれば、機帆船としての機能も取り入れても最小限の金属と56式大型立体印刷機で必要機材を生産が可能な利点がある。後はドックで組み立てれば良く、短時間に作れる点も大きな魅力であろう。
そして、最初に帆船を建造するのは、不要な誤解と恐怖を与えない事が目的だった。希少な物資の消耗も押さえられる点も大きいし、まずは交易と交流が目的だからだ。無論、徐々に帆船の比率を下げていき、5年を目処に技術革新を理由に普通の船舶を投入していく予定だ。
「一つ提案があります」
高野が会議室のテーブルに埋め込まれている制御卓を操作すると、
中央の大型モニターに情報が映し出される。
情報を見た会議の場に沈黙が広がった。
映し出された情報は今後予想される環境変化の予想図である。
情報は他国の技術発達に伴って発生する環境への負荷によって生じる自然破壊や、経済活動の拡大に伴う資源不足などの予想が書かれていた。当然の懸念であろう。自分たちや日本がリサイクルを重視し、環境に配慮した文明を作り上げても、他の国々が追従しなければ意味が無かった。
他国に技術援助を行うにしても、そう簡単ではない。
いつかはそれが軍事技術に転用されてしまうだろう。例を挙げるならば、電気分解による金属回収技術は各方面の軍事技術にも繋がる。故に軍事転用した力を自分たちに向けられては本末転倒だった。歴史を見ても判るように条約で環境保護を掲げても経済発展を理由に簡単に脱却されてしまう。そして、大量消費社会にならないように発展を妨害していくにしても限界がある。露骨に行えば当然ながら、抑制された方は恨むだろう。中世の社会ですらも船舶資材や薪燃料の確保の為にかなりの速度で森林破壊が進んでいた。
何より地磁気や北磁極は1831年から21世紀にかけて、100年で6%ほどの割合で弱まり続けていたのだが、21世紀には行ってから北磁極が異常な移動を始めており、連動するように地磁気の減退率が更に増している。このように地磁気の永年変化か地磁気逆転のどちらかを迎える予兆が出ていたので、問題としては此方のほうが大きい。
地磁気が弱まれば、それによって大気圏内への進入を大きく阻んでいた宇宙線の入射量が増大して環境と生物への影響が懸念される。若者の言葉で言うならば「地球ヤバイ」であろうか。もちろん地磁気が回復する可能性もあったが、指導者として希望的観測に頼るわけには行かなかった。
「第三次計画が終了次第、
対応した計画を立ち上げていくべきと考えています」
「確かに危険じゃな…
政府存続計画のようなものなら直ぐに用意はできるだろう、
民族規模の生存となると数世紀の時間が必要だろう」
真田が言う政府存続計画とは、アメリカ合衆国で核戦争勃発に備えて政府高官や軍事指揮官と、その機能を残すために作られた計画である。地球規模で全面核戦争が起きても日本民族が文明的に生き残れるような環境を用意する計画が必要になるだろう。壮大な高野の提案であったが反対意見は無かった。
こうして、第一次計画、第二次計画、第三次計画の基本案をまとめ終えると、高野は人権を有している電子知性体を内外問わず人間として紹介する方針を取り固めた。高野の意見は最もであろう。戦国時代の人間にアンドロイドを説明しても通じる訳がない。
その指示に伴って、"さゆり"は自分の姓に尊敬、敬愛する上官である、高野の姓を名乗ることを許してもらえるように懇願した。それに対して高野は「もっと良い姓があるのに」と苦笑いしながら了承すると、"さゆり"は喜色満面に喜び、改めて日本を良くしていこうと誓ったのだ。
建国戦記の3話になります。
急な雪で気温が下がっていますが体調等には気をつけてください。
3連休、晴れて欲しかった…
誤字の指摘や意見、ご感想を心よりお待ちしております。
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建国戦記 第03話 『基本方針 後編』
高野たちは自らの拠点となる場所を3箇所選定した。それらは短期計画として第一次から第三次計画に及び、それぞれの段階で拠点を整備していく計画になっている。 第一次計画は高野たちの起源になる拠点を作る計画を指す。歴史の継続が無いある程度の面積を有する無人島が好ましい。理由は扶桑連邦の面々が出生不明ではいずれ大きな問題に発展していくだろう。それを避けるためのアリバイが必要だったのだ。
第一次計画はアリバイに関わる計画であり、
日本近海に丁度良い島が存在していた。
関東から南南東約1000kmにある小笠原諸島である。
小笠原諸島は1543年10月にスペインのルイ・ロペス・デ・ビリャロボスが指揮するガレオン船が発見するまで無人島だった事と、小笠原諸島の父島の西側には開けた二見湾が存在し、水深の深さからF字型桟橋を整備すれば第3任務艦隊の停泊は難しくない。少ない工事で拠点が作れる点も素晴らしく、扶桑連邦のルーツの一つとして選定されたのだった。
そして、起源は飛鳥時代の天武天皇(てんむ てんのう)からの密命を受けて日本本土から渡海した末裔たちであると通してゆく。
「しかしながら凄まじい設定じゃ」
「でも天武天皇の時代なら喪失した書類も多いですし、
天武天皇はワンマンだった点が追跡を阻む最大の要素になりますよ」
真田は苦笑いするも時間的な問題もあって他の方法がなかった。だが意外と上手くいくような気がすると皆が思い始めている。何より司令官である高野が静かながらも確固たる気魄で行動しているので不安は無い。
――あのような世界を繰り返さないためにも、
確固たる信念で進むしかない――
皆が苦笑を浮かべる一方で、高野は静かに闘志を燃やしていた。高野の気質は温和であったが、見た目以上に精神は頑強である。心理戦の模様が強い対潜戦でも焦らず対応してきた実績を持っているほどだ。
「問題は第二次計画からです」
「そうじゃのう。
この世界に来ての初めての実戦になる。
戦いよりも制圧後の開発や統治が問題だろうなぁ」
第二次計画は幕張上陸作戦だった。穀倉地帯、人的資源を確保しなければ将来の発展が難しいからだ。地方豪族で満足するならともかく、高野たちの目的は大きい。友好国として日本の統一の後押しを行いつつ、太平洋の島々を領有化に伴う生存・経済圏を確保して将来に備えるのが目的だ。
「しばらくは高等教育を施すことは出来ませんが、
税率を下げたり、無益な徴兵を止めるだけでも人心は掴めると思います」
「そうです。
まずは作戦実施を進めましょう」
戦闘での不安は無い。ある程度制限が掛かっている状態であっても軍事技術の差が絶対的に優位なので負けるほうが難しい。何より暴徒鎮圧用の非認性ストレス兵器を使えば、この世界の軍事レベルならば直接戦火を交えずに勝利も可能だった。便利に見える非認性ストレス兵器は戦略的な効果を考えると積極的には使えないが。妖術師などという大多数の人々にネガティブなイメージを持たれてしまっては、統治に支障が出てしまう。
そして実のところ、高野は関東の近代化は急いでいなかった。他の日本の地域と格差があまりにも広がれば禍根へと育つ可能性があったからだ。必要に応じて日本本土内の領土は増やすが、最終的にはその大半を日本の統一政権が樹立した際に返還する計画になっている。扶桑連邦の本命はオーストラリア大陸の開発だったのだ。
「作戦に車輌は投入するのか?」
「少数は投入します。
馬を使うにしても我々の中に馬の扱いに長けた人材が足りません。
何より輸送力が決定的に違います」
「少量の燃料生産ならば問題は無いぞ。
何より早い段階で住民たちに、
発電機や車輌に見慣れてもらったほうが路線も敷きやすいからな」
真田が同意する。
大鳳内のバイオプラントを使えば第五世代バイオ燃料の生産が可能なので、必要以上の負荷をかけなければ当面は安定した生産が可能だった。何より、何もかも文明の利器を隠していては効率が悪い。
同時に高度な工業製品を見せる以上、将来の事を考慮して800年程度で自動車などの開発までに至った技術発展の歴史を考えなければならなかったが、それも真田が担当して作り上げていく事になっている。
真田が担当する仕事とは多かったが、その多くが自ら希望して行っているなのでモチベーションが高まっており苦にはなっていない。
――都市開発と言ったらインフラ整備が欠かせん!
北条? 今川? 個人的な恨みは無いが、
路線を敷く障害になるならば滅亡してもらうしかないじゃろう――
と、真田の脳内は若干だが暴走気味あった。
既に彼は関東から尾張まで路線を敷く東海道計画を脳内で構想している。軍事的な目的ではなく周辺地域の発展を考慮したものだが、領主たちからすれば侵略に等しいだろう。冷静な思考を持ち合わせている真田は、いきなり提案するのではなく第三次計画が終わってから議題として挙げる予定だった。
これほどの大計画にもかかわらず、作戦計画から立案まで短時間なのは、"さゆり"とリンクしている大鳳のメインフレーム奥に設置された、日本国防軍技術開発局が開発した51式軍用複合演算機(量子・DNA複合コンピュータ)の計算能力の高さが大きい。
UAV(無人航空機)による高高度からの航空偵察を元に立てられた計画は、特殊作戦群が夜間の間に上陸用の複合艇で上陸を果たして作戦目標を制圧する計画だった。
作戦の概要は次のようなものだ。侵攻拠点は千葉郡にある須賀(幕張)に建設する。橋頭保を確保後にそこから南南東約15kmにある小弓城、東北東に24kmにある本佐倉城、北12km にある米本城、南約25kmにある椎津城、南南西32kmにある佐是城、東64kmにある森山城に特殊作戦群と擬体化工兵隊の合同部隊からなる2個分隊をそれぞれ送り込む。それらの目標制圧を終えてから、上陸地点から南46kmにある久留里城、南南西38kmにある笹子城と南南、東39kmにある真里谷城、南東54kmにある万喜城、南西57kmにある佐貫城、南南西66kmの造海城、南に94kmにある館山城にも部隊を送り込んで一帯を制圧するのだ。千葉氏の家臣である高城胤吉(たかぎ たねよし)が建てたばかりの小金城は当初の作戦が落ち着くまでは狙わない。ともあれ、下総国の中部から房総半島を抑えていく作戦になる。
下総国にある小弓城は足利義明(あしかが よしあき)の居城であり、それ以外の上総国にある城群は大半が上総武田氏の当主である真里谷恕鑑(まりやつ じょかん)の支配下にある城だった。里谷武田氏と同盟を結んでいる安房国(千葉県南部)の里見氏への攻撃は、下総国の一部(千葉県北部)、上総国(千葉県中部)が安定したら行う予定だ。
ただし、高野たちが転移時に持ち込んでいる艦艇兵力と航空兵力は諸勢力に対して不用意な警戒を与えないように大々的には投入しない。もっとも転移時に被った損害もあって、地上戦力以外と一部の艦載機を除いて、実戦投入が可能なものが殆ど無かったのだが。しかし、擬体兵を用いた電撃的な侵攻ならば、相手側が組織的な反撃を講じる前に指揮系統を制圧する事も不可能ではなかった。
それに軍隊に於いて指揮系統が麻痺してしまえば、軍隊の行動は大きく阻害されてしまう。中世の軍隊ならばなおのことだ。そして、隣接している北条氏が早期に事態の急変を知っても対応は出来ないだろう。常識的な判断から敵の勢力が判明しない内は大規模な攻撃は行わない。
こうして、介入に備えて準備を進めていく。
上陸作戦後は支配地域の安定化を進めつつ織田信秀と接触し、経済交流などを通じて親交を深める予定だ。逆説的だが第3任務部隊物は物資不足とはいえ、戦国時代の大名からすれば質量共に十分な物資を有しており、幾らでもやりようがあった。
第三次計画はオーストラリア大陸西部に上陸して拠点を構築する計画を指す。オーストラリア大陸西部が選ばれたのは、この地域は先住民のアボリジニが殆どいない事と、磁鉄鉱、鉄鉱石、鉛、天然ガス、ボーキサイト、金の採掘が可能だった点だ。上陸予定地のスワン川河口部は桟橋によって着岸水深を確保すれば、内陸の開発が容易に行える点も大きいだろう。スワン川河口部を直線化してドックを進めれば近代化にも耐えられる将来性も兼ね備えていた。工兵隊の一部を派遣して小規模ながらも先行開発を行う。
そして日本本土では当面は磁鉄鉱で補って、
5.6年後を目処に鉄鉱石の採掘を開始する予定だ。
「まずは第一次計画で拠点を構築してから、
日本本土との連絡用にクリッパー型帆船が良いと思われます」
「そうだな素材には木材を加工したバイオ素材を使おう」
この手の話題に鋭い理解を示す真田が反応する。
生分解性繊維材の生産が可能なバイオプラントを使えば木材の加工も難しくない。木材などの植物を加工した方が生分解性繊維材よりも早く生産できるのも魅力だった。
船の方向性について話しが進む。方向性として決まったのは洋上で安定しつつも高速を誇るクリッパー型に近いが、戦闘艦ではなく船は商船としての機能を最優先にしてサイズは小型に抑える。なまじ大型船を建造しても日本の港では湾岸工事を行っていない港では僅かな例外を残して着岸水深の問題で停泊が出来ないので最初はこの程度で十分だった。それに、小型船ならば主要構造材にバイオ素材を用いて建造すれば、機帆船としての機能も取り入れても最小限の金属と56式大型立体印刷機で必要機材を生産が可能な利点がある。後はドックで組み立てれば良く、短時間に作れる点も大きな魅力であろう。
そして、最初に帆船を建造するのは、不要な誤解と恐怖を与えない事が目的だった。希少な物資の消耗も押さえられる点も大きいし、まずは交易と交流が目的だからだ。無論、徐々に帆船の比率を下げていき、5年を目処に技術革新を理由に普通の船舶を投入していく予定だ。
「一つ提案があります」
高野が会議室のテーブルに埋め込まれている制御卓を操作すると、
中央の大型モニターに情報が映し出される。
情報を見た会議の場に沈黙が広がった。
映し出された情報は今後予想される環境変化の予想図である。
情報は他国の技術発達に伴って発生する環境への負荷によって生じる自然破壊や、経済活動の拡大に伴う資源不足などの予想が書かれていた。当然の懸念であろう。自分たちや日本がリサイクルを重視し、環境に配慮した文明を作り上げても、他の国々が追従しなければ意味が無かった。
他国に技術援助を行うにしても、そう簡単ではない。
いつかはそれが軍事技術に転用されてしまうだろう。例を挙げるならば、電気分解による金属回収技術は各方面の軍事技術にも繋がる。故に軍事転用した力を自分たちに向けられては本末転倒だった。歴史を見ても判るように条約で環境保護を掲げても経済発展を理由に簡単に脱却されてしまう。そして、大量消費社会にならないように発展を妨害していくにしても限界がある。露骨に行えば当然ながら、抑制された方は恨むだろう。中世の社会ですらも船舶資材や薪燃料の確保の為にかなりの速度で森林破壊が進んでいた。
何より地磁気や北磁極は1831年から21世紀にかけて、100年で6%ほどの割合で弱まり続けていたのだが、21世紀には行ってから北磁極が異常な移動を始めており、連動するように地磁気の減退率が更に増している。このように地磁気の永年変化か地磁気逆転のどちらかを迎える予兆が出ていたので、問題としては此方のほうが大きい。
地磁気が弱まれば、それによって大気圏内への進入を大きく阻んでいた宇宙線の入射量が増大して環境と生物への影響が懸念される。若者の言葉で言うならば「地球ヤバイ」であろうか。もちろん地磁気が回復する可能性もあったが、指導者として希望的観測に頼るわけには行かなかった。
「第三次計画が終了次第、
対応した計画を立ち上げていくべきと考えています」
「確かに危険じゃな…
政府存続計画のようなものなら直ぐに用意はできるだろう、
民族規模の生存となると数世紀の時間が必要だろう」
真田が言う政府存続計画とは、アメリカ合衆国で核戦争勃発に備えて政府高官や軍事指揮官と、その機能を残すために作られた計画である。地球規模で全面核戦争が起きても日本民族が文明的に生き残れるような環境を用意する計画が必要になるだろう。壮大な高野の提案であったが反対意見は無かった。
こうして、第一次計画、第二次計画、第三次計画の基本案をまとめ終えると、高野は人権を有している電子知性体を内外問わず人間として紹介する方針を取り固めた。高野の意見は最もであろう。戦国時代の人間にアンドロイドを説明しても通じる訳がない。
その指示に伴って、"さゆり"は自分の姓に尊敬、敬愛する上官である、高野の姓を名乗ることを許してもらえるように懇願した。それに対して高野は「もっと良い姓があるのに」と苦笑いしながら了承すると、"さゆり"は喜色満面に喜び、改めて日本を良くしていこうと誓ったのだ。
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でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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