精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

文字の大きさ
66 / 106

第066話 干したエビは素敵

しおりを挟む
 壁にかけられた松明と竈の炎に照らされた厨房。

 食材を置くテーブルには先程水に浸した干しエビが鎮座している。

 実は先程マスターに出したカニに関しては、ソフトシェルクラブ。

 要は脱皮したての柔らかいカニを選別して干したものとなる。

 流石にさくさくと食べられるほどカニの殻は柔いものではない。

 常に一定数以上の脱皮したてのカニがいるようなので。

 そのまま食べるのはそちらで問題無いかなと。

 で、硬いカニをどうしたのかというと。

 出汁に使おうかと考えました。

 いやぁ。

 身が小さいので、干すと身が縮んでしまって焼いても美味しくなかったのです。

 水で戻すと、良い味の出汁が出て好評でしたので、そちらは村専用で。

 というかですね。

 濃い目の出汁の味なんて知らなかった村のお姉様方が完全に魅了されまして。

 絶対に手放さない、売るなんてとんでもないと。

 まぁ、そもそもの数が少なめなので良いのですが。

 もっと大量かつ手入れが難しくなかったのが、こちらのエビ。

 それでも、蒸したエビの甲殻をむきむきした思い出は一生忘れないと思います。

 もうね、リサさんですら死んだ目をしてましたから。

 で、剥き身の状態で干されたエビは水を含んで、オレンジ色の輝きを放っています。

 若干濁ったこちらの戻し汁。

 これは捨てちゃうものではありません。

 下手をすると、今日のメインはこの戻し汁かも知れないというほど重要です。

 マスターに手元を確認してもらいながら、深鍋に戻し汁と刻んだ干しエビを投下。

 後はハクサイとチンゲンサイの合いの子みたいな葉物野菜をどんと投入です。

 こちら、村でもこの寒い時期にぽこぽこと出来上がる良い子なのです。

 太陽をたっぷり浴びた葉は甘味たっぷりで、干し肉なんかと一緒に炊いてもじゅわっと美味しいです。

 この時期不足しがちなビタミンを補える画期的な植物といえるでしょう。

 で、最後にマスターからとっておきのこちら。

 果実の皮を手で一個一個剥いて、醸造したお酒。

 まぁ、白ワインですね。

 ちょっと高いのですが、そちらをとぽとぽ。

 後は、味を調えてちょっと強めの火で炊きこんでいきます。

 待ち時間は、マスターに干しエビの戻し方をレクチャー。

 お店の方では、そろそろお客様も増えてきたのか。

 先程のカニの話題が厨房の中まで聞こえてきます。

 ふんわりと漂ってくるのは、民現コンロで焼いた魚の香りですね。

 どうも、水産物づいたのか、今日は魚デーと皆さんしゃれこむご様子です。

 そんな時間が経過し、葉物野菜がくたっとなったところで完成。

 ざくりっとほのかに残る繊維を断ち、切り分けてマスターに差し出します。

「食べなれてっぞ?」

 若干胡散臭そうに告げるマスター。

 私とリサさんは、にやにや笑いでどぞどぞと奨めるだけです。

 はくりっと、大口で葉っぱと干しエビを口に入れるマスター。

 ぐじゅっと咀嚼しようとした瞬間、目を見開きます。

 ガツガツを文字通り表したように荒々しく咀嚼し、飲み込んだ瞬間瞑目。

 瞑った目をかっと見開き、皿をテーブルに置きました。

「なんだこれ……。エビだったか? さっき食ったやつの味に近いんだが……。それだけじゃねえな。奥行きが出来て、口の中で躍りやがる……。うめぇ……。でも、優しい味だ」

 はっきりとした旨味を認識したのは、初めてなのでしょう。

 私もお相伴に預かって一口。

 スプーンで切った葉っぱは若干筋を残しながらついっと持ち上がり、口の中へ。

 噛んだ瞬間、とろりとした感触と共に熱と旨味をがっしり背負った野菜の甘味が舌の上にぺたりと貼り付きながら流れます。

 干した海老は旨味を凝縮しながらも太陽の力でまた別の方向性へ進み、深く優しい味へと変化を遂げました。

 その旨味をしっかりと覆い、それでいて馴染みながら一個の味として作り上げているのは、このハクサイもどきのポテンシャルでしょうね。

「冬の寒い夜。お酒を飲んだ後、外に出る前にこれを食べるというのはどうでしょう。お腹がぽかぽかしていれば、帰るまでに風邪なんて怖くないかもしれません」

 私の言葉に、むむむっと渋面を浮かべるマスター。

 理由は分かっている。

 あの白ワイン。

 マスターが愛飲しているもので、それほど量も無く、店にも出していない。

 秘蔵の一品だからだ。

「大量に作れば、使う量は知れています。今後は大手を振って買えるとなれば……」

「皆まで言うな!!」

 こう見えて、愛妻家のマスター。

 財布を握られている男性というのは、こういう時に弱いです。

 と。

 厨房の入り口には、鈴生りの顔、顔、顔。

 どうも、ハクサイのとろっと煮の香りが漏れて、お店に広がったようですね。

「謀ったな?」

「何のことやら」

 食わせろーっと怨嗟の表情でこちらを見つめる欠食児童ならぬ欠食おっさんの群れ。

 まぁ、近い内にメニューに並ぶのは間違いないでしょう。

「あぁ、他にもこの干しエビ、使い道があって……」

「そっちを先に教えろよ!!」

 あい、すいませーん。

 えへへ。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

処理中です...