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第065話 干しカニってすてき?

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 取りいだしたるは、可愛らしい赤い小エビさん。

 そっと差し出すと、マスターがふんふんと嗅いで、そのままぱくっと。

 さくさくかりかりと軽快な音を鳴らして、ほうっと一息。

「旨いな。なんだか、落ち着くというか。懐かしい味だ」

 ひょいっとまた手を出してくるので、ぱちんと叩いておく。

「それは味見用です。それに、そのまま食べるものじゃ無いですよ?」

 そう告げて、厨房への進入の許可を取って歩みを進めます。

 小鍋に水を張って、さらさらと小エビさんを投入しまして。

 準備完了。

 次の話に移ります。

「あの鍋はどうすんだ!?」

 マスターが慌てたように聞いてきますが、小首を傾け返しておきます。

「あれは準備中です。ちょっと時間がかかりますから、先にこちらを済ませてしまいましょう」

 そう告げて、別の袋をどしん。

 ぱかりと開けると、ふんわり、あら良い香り。

「こいつは……」

 差し出したカニを感慨深げに眺めるマスター。

「おい、あれ!!」

「川で見た事あるぞ」

「良く挟まれたよな」

「お前なんて、あそこを……」

「言うなよ!?」

 いつの間にか増えていたお客様兼ギャラリーがぼそぼそと呟く声が聞こえてくるけど、取り敢えず無視無視。

「こいつぁ、食うところ少ないんだよな……。硬いし」

 マスターがぱかりと殻を開こうとしたところを止めて、ジェスチャーで口に放り込む仕草を伝える。

「本気か?」

 目を見張るマスターに、にこやかな頷きを返してみた。

 目を瞑り、何事か念じ、ぶつぶつ呟きながら、意を決したように口に放り込むマスター。

 ギャラリーのどよめきが上がる中、かりっと軽い音が響く。

 こりこり、時々ちょっとごりっ。

 きょとんとした顔で、首を傾げながら、咀嚼を終え嚥下したマスター。

「旨い……な。あれ? こんな硬さだったか? 焼いたら、口の中にいつまでも残ったが……」

 まさに、まさに。

 焼くとがりがりに硬くなっちゃうので、今回はじっくり天日干しです。

 ギャラリーに向かってアピールするように、私もぽいっと。

 かりっと噛んだ瞬間、濃いカニ味噌の香りがふわっと口中に漂い、じんわりと塩味とカニの風味が舌の上に広がります。

 干されて変質した旨味が生とも、焼きとも、蒸しとも違う、何とも豊潤な味となって踊るんです。

 足の先まで、スナック感覚で咀嚼。

 飲み込む瞬間まで香るカニの香り。

 贅沢なお菓子って感じの印象ですね。

 ギャラリーの皆さんも、先程までの戦々恐々とした表情をすっかりと忘れ、興味津々になっています。

 取りあえず、試食にと。

 皿に、さらさらと干しカニを出して、再度マスターと一緒に厨房へ。

 そろそろ戻っている頃でしょう。

 見よ、干しエビの真骨頂を!!
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