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第一章 デートから始まる長い一日
2-1 氷麗の騎士が異常に甘いです
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透き通った青が広がっているのは、まだ少し肌寒い、三月の空。
花の蕾も膨らみ始め、中にはちらほらと咲き始めた気が早い花たちが、街路を彩り始めている。
私とウィリアム様を乗せた馬車は、きれいに整備された石畳の上を、のんびりと進んでいた。
このあたりは、貴族やその関係者が利用する商店街だ。
とはいえ、平民の利用する商店が並ぶ区域と違い、まったくごちゃごちゃしていない。
道も馬車がすれ違えるぐらい広く、掃除も行き届いているし、きっちりとブロックに分かれて、規則的な配列で建物が立ち並んでいる。
オースティン伯爵家の馬車には、耐震と防音の効果がある魔道具が設置されていて、平らな道ではほとんど揺れないしお尻も痛くならず、とても快適だ。
ちなみに、防音の魔道具は以前からあったが、耐震の魔道具はまだ世の中に出回っていない。
聞けば、魔法師団からテスターとして供されたものだそうで、不具合がないかどうかの実験も兼ねているのだそうだ。
以前から魔法師団の研究を手伝っていたウィリアム様は、魔法騎士団への早期入団が決まっても、こうして魔法師団への協力を続けている。
ほどなくして、馬車はゆっくりと止まった。
どうやら、目的地に到着したようである。
「さあ、着いたよ、ミア」
「ありがとうございます、ウィリアム様」
先に馬車を降りたウィリアム様が、私に手を差し伸べてくれる。
私がその手を取って馬車から降りると、ウィリアム様がくい、と手を引いた。
「わっ」
私は当然バランスを崩すが、転んでしまうことはない。
そのままウィリアム様の胸元に抱え込まれて、ふわりと甘いシトラスの香りが広がった。
「な、なにを」
「――ミア。違うだろう?」
「えっ?」
私が抗議するようにウィリアム様を見上げると、彼は私を片方の腕で支えながら、もう片方の手で私の髪を弄びはじめた。
「ウィリアム様、私、何か――」
「それだよ。今の」
「……っ」
ウィリアム様は手に取った一房の髪に、ちゅっと音を立てて口づける。
私は恥ずかしくてさらに上気せあがってしまいながらも、彼が何を求めているのかに、ようやく思い当たった。
「う……、ウィル様」
「そう、正解。よくできました」
私が言い直すと、ウィリアム様――いや、ウィル様は満足そうに微笑み、頭を優しく撫でてくれた。
愛称で呼ぶことを許可してもらいはしたが、いまだに慣れなくて、『ウィル様』と呼ぶことに抵抗がある。
「さあ、行こうか。仕事も兼ねてはいるけれど、こうして堂々とミアをデートに連れ出せるのは嬉しいよ」
そう。ウィル様の言った通り、今日はただ街に買い物をしに来たわけではない。
魔法騎士団に早期入団したウィル様と一緒に、街に出回っている可能性がある『呪物』――呪いが込められたアイテムを探しに来たのだ。
「ミア。今日は楽しもうね」
「は、はい」
ウィル様は私から身体を離した。同時に視界が開放されて、私たちが予想以上に目立っていたことに気がつく。
なんせ、ウィル様はおひとりでもかなり目立つ容姿をしているし、同世代の令嬢令息の中ではちょっとした有名人なのだ。
魔力が多い証拠である黒髪はかなり珍しい上、容姿端麗で、自信に満ちた輝かしいオーラに溢れている。
異性からはうっとりした憧れの眼差しが、同性からはやっかみの籠った視線が送られていた。
馬車の陰に隠れていたとはいえ、普段は周囲に笑顔など見せることのない『氷麗の騎士』が、女性を抱き寄せ、甘い笑顔を見せているのだ。目立たないわけがなかった。
目を丸くしている者や、中には指をさしている、ちょっぴり失礼な者までいる。
私はどうしようもなく恥ずかしくて、少しうつむいた。
一方、ウィル様は全く気にしている様子がない。私たちが目立っていることに気づいていないのだろうか。
「ミア、そんなに顔を真っ赤にして、照れているのかい? 心配しなくても、君はいつも通り可愛いよ。恥ずかしがらないで、顔を上げて」
ウィル様は、そう言って私の顎に手を当て、そっと顔を上げさせる。
すぐ近くで、新緑色の瞳が、陽光を浴びキラキラと輝いていた。
「……っ、もう、ウィル様!」
「ふふ、やっぱり可愛い。さあ、そろそろ行こうか」
私が震える声で文句を言うと、ウィル様は私の顎から手を離した。
かわりに彼が差し出した腕に、私はそっと指を添える。
ウィル様は周囲が見惚れるほどの完璧な笑顔を浮かべたまま、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出したのだった。
「気になった店があったら遠慮せずどんどん言ってくれ。ミアの入ってみたい店も、それから――気になる気配が感じられた店も、逐一ね」
「――はい」
後半は声を落として、私にだけ聞こえる声量で囁く。
私がしっかりと返事をすると、ウィル様は頷いて、それから普通の声量で、捲し立てるように話し始めたのだった。
「そうだ、君に新しいドレスを何点か贈りたいと思っていたんだ。街歩きに着られるような、カジュアルなものをね。まずは、服飾店に行ってみようか。宝飾店や魔法雑貨店、話題の菓子店にも行きたいな。それから、途中でレストランに入って食事も――」
普段は無口なウィル様が、私と腕を組んで楽しそうに話しているのを見て、道行く人たちも皆、目を丸くしていた。
けれどやっぱり、ウィル様は人々の視線など意に介さず、ニコニコしている。
……浮かれているのか。
いや、それにしても浮かれすぎだろう。
人前なのに、わざとらしいほどベタベタして……もしかしたら、本当にわざとやっている?
目立つのは少し恥ずかしいけれど、堂々としているウィル様に対して、隣にいる私がうつむいて歩くのはおかしい。それに、下を向くたびに、ウィル様の空いている方の手が、私の顔に伸びてくる。
私は諦めて、彼に合わせて胸を張った。
背筋をまっすぐにして微笑みながら、時折相槌を返しつつ、道を行くのだった。
花の蕾も膨らみ始め、中にはちらほらと咲き始めた気が早い花たちが、街路を彩り始めている。
私とウィリアム様を乗せた馬車は、きれいに整備された石畳の上を、のんびりと進んでいた。
このあたりは、貴族やその関係者が利用する商店街だ。
とはいえ、平民の利用する商店が並ぶ区域と違い、まったくごちゃごちゃしていない。
道も馬車がすれ違えるぐらい広く、掃除も行き届いているし、きっちりとブロックに分かれて、規則的な配列で建物が立ち並んでいる。
オースティン伯爵家の馬車には、耐震と防音の効果がある魔道具が設置されていて、平らな道ではほとんど揺れないしお尻も痛くならず、とても快適だ。
ちなみに、防音の魔道具は以前からあったが、耐震の魔道具はまだ世の中に出回っていない。
聞けば、魔法師団からテスターとして供されたものだそうで、不具合がないかどうかの実験も兼ねているのだそうだ。
以前から魔法師団の研究を手伝っていたウィリアム様は、魔法騎士団への早期入団が決まっても、こうして魔法師団への協力を続けている。
ほどなくして、馬車はゆっくりと止まった。
どうやら、目的地に到着したようである。
「さあ、着いたよ、ミア」
「ありがとうございます、ウィリアム様」
先に馬車を降りたウィリアム様が、私に手を差し伸べてくれる。
私がその手を取って馬車から降りると、ウィリアム様がくい、と手を引いた。
「わっ」
私は当然バランスを崩すが、転んでしまうことはない。
そのままウィリアム様の胸元に抱え込まれて、ふわりと甘いシトラスの香りが広がった。
「な、なにを」
「――ミア。違うだろう?」
「えっ?」
私が抗議するようにウィリアム様を見上げると、彼は私を片方の腕で支えながら、もう片方の手で私の髪を弄びはじめた。
「ウィリアム様、私、何か――」
「それだよ。今の」
「……っ」
ウィリアム様は手に取った一房の髪に、ちゅっと音を立てて口づける。
私は恥ずかしくてさらに上気せあがってしまいながらも、彼が何を求めているのかに、ようやく思い当たった。
「う……、ウィル様」
「そう、正解。よくできました」
私が言い直すと、ウィリアム様――いや、ウィル様は満足そうに微笑み、頭を優しく撫でてくれた。
愛称で呼ぶことを許可してもらいはしたが、いまだに慣れなくて、『ウィル様』と呼ぶことに抵抗がある。
「さあ、行こうか。仕事も兼ねてはいるけれど、こうして堂々とミアをデートに連れ出せるのは嬉しいよ」
そう。ウィル様の言った通り、今日はただ街に買い物をしに来たわけではない。
魔法騎士団に早期入団したウィル様と一緒に、街に出回っている可能性がある『呪物』――呪いが込められたアイテムを探しに来たのだ。
「ミア。今日は楽しもうね」
「は、はい」
ウィル様は私から身体を離した。同時に視界が開放されて、私たちが予想以上に目立っていたことに気がつく。
なんせ、ウィル様はおひとりでもかなり目立つ容姿をしているし、同世代の令嬢令息の中ではちょっとした有名人なのだ。
魔力が多い証拠である黒髪はかなり珍しい上、容姿端麗で、自信に満ちた輝かしいオーラに溢れている。
異性からはうっとりした憧れの眼差しが、同性からはやっかみの籠った視線が送られていた。
馬車の陰に隠れていたとはいえ、普段は周囲に笑顔など見せることのない『氷麗の騎士』が、女性を抱き寄せ、甘い笑顔を見せているのだ。目立たないわけがなかった。
目を丸くしている者や、中には指をさしている、ちょっぴり失礼な者までいる。
私はどうしようもなく恥ずかしくて、少しうつむいた。
一方、ウィル様は全く気にしている様子がない。私たちが目立っていることに気づいていないのだろうか。
「ミア、そんなに顔を真っ赤にして、照れているのかい? 心配しなくても、君はいつも通り可愛いよ。恥ずかしがらないで、顔を上げて」
ウィル様は、そう言って私の顎に手を当て、そっと顔を上げさせる。
すぐ近くで、新緑色の瞳が、陽光を浴びキラキラと輝いていた。
「……っ、もう、ウィル様!」
「ふふ、やっぱり可愛い。さあ、そろそろ行こうか」
私が震える声で文句を言うと、ウィル様は私の顎から手を離した。
かわりに彼が差し出した腕に、私はそっと指を添える。
ウィル様は周囲が見惚れるほどの完璧な笑顔を浮かべたまま、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出したのだった。
「気になった店があったら遠慮せずどんどん言ってくれ。ミアの入ってみたい店も、それから――気になる気配が感じられた店も、逐一ね」
「――はい」
後半は声を落として、私にだけ聞こえる声量で囁く。
私がしっかりと返事をすると、ウィル様は頷いて、それから普通の声量で、捲し立てるように話し始めたのだった。
「そうだ、君に新しいドレスを何点か贈りたいと思っていたんだ。街歩きに着られるような、カジュアルなものをね。まずは、服飾店に行ってみようか。宝飾店や魔法雑貨店、話題の菓子店にも行きたいな。それから、途中でレストランに入って食事も――」
普段は無口なウィル様が、私と腕を組んで楽しそうに話しているのを見て、道行く人たちも皆、目を丸くしていた。
けれどやっぱり、ウィル様は人々の視線など意に介さず、ニコニコしている。
……浮かれているのか。
いや、それにしても浮かれすぎだろう。
人前なのに、わざとらしいほどベタベタして……もしかしたら、本当にわざとやっている?
目立つのは少し恥ずかしいけれど、堂々としているウィル様に対して、隣にいる私がうつむいて歩くのはおかしい。それに、下を向くたびに、ウィル様の空いている方の手が、私の顔に伸びてくる。
私は諦めて、彼に合わせて胸を張った。
背筋をまっすぐにして微笑みながら、時折相槌を返しつつ、道を行くのだった。
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