氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留

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第一章 デートから始まる長い一日

2-7 報告書 ★ウィリアム視点

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 ウィリアム視点です。

――*――

 愛しいミアとの幸せな初デート……じゃなかった、魔法騎士団の極秘調査を終えた俺は、エヴァンズ子爵家でベイカー男爵から話を聞くことができた。
 今日一日で、ミアの可愛らしい表情がいくつも……じゃない。いくつか新たに分かったことがある。


 一つ目は、呪物に施されていた特殊な細工だ。

 ミアと共に入った宝飾品店で購入したブレスレット。
 ベイカー男爵が骨董品店で購入したという指輪。
 以前、ミアの元に送られてきたストールの、刺繍部分。

 そのいずれにも、『ブティック・ル・ブラン』の刻印や刺繍が入っていた。
 そして――『魔石』と呼ばれる入手困難な宝石を加工、研磨したものが嵌められ、あるいは縫い付けられていたのだ。
 決めつけるには時期尚早だが、『魔石』が呪いの元、もしくは媒介となっている可能性がある。

 魔石は、魔獣の体内――人間でいう『魔核』の部分から出てくるほか、かつて魔族の領土だった地域から時折見つかるアイテムだ。
 素手で触れると体内の魔力を乱され、『魔力酔い』と呼ばれる体調不良に陥る。そのため、魔法騎士団では、発見した場合はその場に埋めるか、持ち帰るとしても慎重に扱うように徹底されている。

 まあ、そうは言っても、魔法騎士団では手袋が制服の一部となっているため、実際に魔石が原因で倒れた者を見たことはない。
 一応、『魔力酔い』を起こした場合は、教会の聖女が対応してくれる手筈だ。

 ちなみに、魔獣を解体して取れた素材は、魔石を含めて全て冒険者ギルドが買い取ってくれる。
 冒険者ギルドは、部隊、個人問わず解体・買い取りの依頼を受けていて、解体済みの素材を、必要な人に販売している組織だ。
 一般人にも販売しているが、魔法師団や医薬関係者、武具・魔道具職人などからの大口注文が主な販路である。

 また、冒険者ギルドは、魔獣の解体だけではなく、薬草の採取や、騎士団が手薄の際には魔獣討伐も請け負っている。冒険者は危険ではあるが、どの地方でも仕事に困ることのない、人気の職業だ。

 魔法騎士団も、魔獣討伐の際は冒険者に同行を依頼し、解体と素材の買い取りを全面的に任せている。
 皮やツノ、牙などの魔獣素材は比較的高額で買い取ってくれるので、依頼料を差し引いても資金源になる。ウィンウィンの関係だ。

 魔石は、魔獣素材の中でも安価で取引される。
 実は、魔力を孕み危険な割に、活用法がいまだに見つかっていないのだ。魔法師団でも長年研究が行われているが、うまく魔力を取り出すことができないらしい。

 またその危険性から、冒険者ギルドでも、一般向けの窓口では魔石を販売することはなく、一般人には魔石の存在自体が知られていない。知っているのは魔獣と戦う機会がある者と、研究者ぐらいだ。

 魔石の大きさは、魔獣によって異なるが、一般的な魔獣から取れる物は子供の拳ほどのサイズだ。
 その見た目は、光を全て吸い込むような、妖しい美しさのある黒い石だが、宝飾品には向かない。
 魔力酔いの関係で直に触れることはできないし、小さな魔石クズでも魔力酔いは起こるため、研磨や加工も難しい。どうしても加工の際に削りカスが飛び散るからだ。

 ――それにしても、このように扱いも難しく手に入りにくい素材を、誰が、どうやってストールやアクセサリーに加工したというのか。
 冒険者ギルドに探りを入れれば、個人的に、あるいは組織的に、魔石を大量に買い取った者が判明するかもしれない。
 もしかしたら、そこから『ブティック・ル・ブラン』の尻尾を掴める可能性がある。

 ただし、冒険者ギルド内に『ブティック・ル・ブラン』の関係者がいる可能性も捨てきれないから、慎重に動かなくてはならない。


 そして、新たにわかったことの二つ目。

 ベイカー男爵に言われて気がついたのだが、街の診療所で比較的安価に対応できる感染症や外傷と違って、教会に呪いを解いてもらうのには、相応の金銭が必要になる。
 今は貴族中心に流行っているように見えるが、もしかしたら教会に行っておらず、噂に上らないだけで、平民街にも密かに呪いが蔓延している可能性があるのではないか?
 平民街にある診療所に話を聞きに行くか、ミアと共に一度街を歩き回ってみる必要がありそうだ。


 三つ目は、商人ギルドか職人ギルドが呪物の納品に関与している可能性。

 今日見つけた呪いのブレスレットは、宝飾店の店主によると、商人ギルド、職人ギルドを経由して卸されたもののようだ。
 こちらも冒険者ギルドと同様に、関係者が紛れ込んでいる可能性を考慮して、慎重に対応する必要がある。

 調べる順番は、魔石を卸している冒険者ギルド、商人ギルドに呪物を一括納品した職人ギルド、最後に宝飾店へ呪物を卸した商人ギルドの順だ。

 ――可能なら、商人ギルドには関わりたくない。
 商人は、金になると思えば情報すらも売買したがる。金払いが良いうちはいいが、そうでなくなれば、すぐに敵に回ってしまう可能性もあるのだ。
 職人ギルドまでで、呪物の出どころがわかれば良いが。

 
 それから……これは、今日判明したというわけではないが、ガードナー侯爵家についてだ。

 俺が調べたところによると、ガードナー侯爵家自体は、古くからある由緒正しい家だった。
 だが、侯爵家当主は入り婿。現当主の妻が、ガードナー侯爵家の血を引く後継者のようだ。

 現当主は、王立貴族学園に通っていた時に侯爵夫人の同級生だった男性らしいのだが――その素性は、いくら調べても、出てこなかった。

 いや、正確には、表向きの・・・・身元はしっかりしているのだ。

 北部辺境伯の五男。王城勤めの文官になるために、王立貴族学園に入学。
 文官候補生として勉学に励んでいたものの、現侯爵夫人に見初められて婿入り。
 それ自体は、何も不思議ではない。実際、上に四人も兄がいたら、領地に戻る必要もないだろう。

 だが。
 よくよく精査してみると、大規模な情報操作の痕跡があった。
 どうやら、本物の・・・辺境伯の五男は、幼い頃に流行り病で死亡しているようなのだ。

 となると、ガードナー侯爵は一体何者なのか。どこから来たのか。
 辺境伯や侯爵夫人、侯爵家の関係者は、何をどこまで知っているのか。

 さらに詳しく調べようと間者を放っていたが、何者かに阻止され、それ以上調査を進めることはできなかった。

 ――以前、俺に呪物の捜査命令が下った際に、父上は魔法騎士団を動かせない理由の一つとして「北部で怪しい動きがある」と言っていた。
 内乱か、他国とのいざこざか、魔獣関係か……とにかく、今は北部辺境伯領もごたついているはず。

 俺の個人的な事情で、これ以上魔法騎士団や父上の手を煩わせるわけにはいかない。
 この件は、俺の心の内にだけしまっておこう。


「さて……と。報告書をまとめて……いや、その前に」

 ――ミアの近くに一人、隠密を置いておいた方がいいだろう。
 今日ミアに頼んでおいたあのことで、ミアの妹が動いたとしたら、近いうちに『対象』は子爵家を出るはずだ。

 さらに言うと、最近までシナモンと行っていた郵便の集配所への調査結果から、『対象』は『ブティック・ル・ブラン』と関わりがある可能性も浮上した。
 個人的な理由だけで隠密を使うことはできないが、『対象』が例の呪いと関係している可能性を提示すれば、充分な理由となり得るだろう。

 俺は家令の手配した隠密に指示を出すと、エヴァンズ子爵と魔法通信で最後の確認をする。
 それから、父上に提出する報告書の作成に取り掛かったのだった。
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