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第四章 魔道具と魔石
2-24 任務はここまで
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「測定終わったよ」
検査を終え会議室に戻ってきたカスター様は、測定結果を記した紙束を、アラザン室長の前に差し出した。
室長が手に取ってチェックしている資料を、同じく管理部から会議室に戻ってきたばかりのビスケ様が横から覗き込む。
「護符の中央にはまってる石、組成が魔石と一致したよ。魔力波形の測定もかけたんだけど、そっちはほぼ空っぽだった」
「ほぼ?」
ビスケ様は、資料から目を上げて、カスター様に質問をした。アラザン室長は、無言でページを繰っている。
「そう、ほぼ。魔力波形の測定結果は、三ページ目以降にある。ちょっと面白いことがわかったから、後でウィルの許可を取ってから実験してみよう」
「そういえば、今更だけど、ウィル君に許可を取らずに測定に回しちゃったわね。怒られちゃうかしら?」
「傷つけたりとかはしてないから大丈夫だろ。ウィルも研究者の端くれだ、この検査の重要性ぐらい理解するさ」
……本業は研究者ではなく魔法騎士なのだが。
まあ、でもウィル様のことだから、魔道具に関係することなら快く応じてくれそうではある。
カスター様は、私の前の机に、ウィル様の落とした『癒しの護符』をそっと置いた。
護符の真ん中にはめられた石は、周りの金属部分と違って傷ひとつなく、美しい輝きを放っている。
――それにしても、こんなに透き通った綺麗な石が、魔石だったなんて。
呪物についていた魔石や、先程ビスケ様が管理部から持ってきた魔石は、真っ黒に濁った靄がかかっていて、どんな石か判別もつかなかった。それに対して、この護符の魔石は、水晶のように光を反射して輝いている。
私が護符の魔石に見とれていると、今まで静かに資料を読み込んでいたアラザン室長が、突然ぼそぼそと話しかけてきた。
「……ねえ、ミア嬢。今日はさすがにもう聖魔法使えないよね……?」
「あ、ええと……大丈夫だと思います」
今日は、『解呪』と『治癒』を一回ずつしかつかっていない。
それに、呪いも怪我も軽いものだったため、すぐに治療を終えられた。魔力にはまだ余裕がありそうだ。
「ちなみに……『浄化』は練習してるかい?」
「いいえ。発動の方法は知っていますが、実際に使ったことはありません」
室長の言った『浄化』は、『混乱』『麻痺』『魔力酔い』などのステータス異常を治す聖魔法だ。ノートや手記を見て、発動方法は勉強したものの、まだ練習はしていない。
というのも、練習する手立てがないのだ。
傷を治す『治癒』のように植物などで代用することもできないし、体調不良の人を用意する訳にもいかない。
ちなみに同じ理由で、『解毒』も試していない。この魔法は、毒物そのものの毒性を消すのは不可能で、体内に入った毒だけしか解毒できないからだ。
ウィル様曰く、自然毒に関しては、毒を持つ生物にとってその毒は体内に存在して然るべきものであるため、毒性を消すのは逆に不自然なことなのだとか。
「……なら、少し試してみないかい? 特別実験室に移動して、副室長が持ってきた魔石に、『浄化』をかけてみてほしいんだ……」
「魔石に、聖魔法を? でも、一人で新しいことに挑戦するのは駄目って、ウィル様が」
「一人じゃないでしょ? ここにいるのはみんなプロフェッショナルよ。しっかりサポートするから、心配せず、どーんとやってみて」
「……確かに、そうですわね。わかりました、やります」
ビスケ様が太鼓判を押してくれた。確かに、心強いメンバーだ。
「ありがとう、ミア嬢。でも、その前に」
ビスケ様は微笑んでお礼を言うと、会議室の鍵を開けてそそくさと移動を始めようとしていたアラザン室長へと、顔を向けた。
「ねえ、室長。ミア嬢に、聞かなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
「……あ……そうだよね。ウィル君に許可を取り忘れたことといい、僕は副室長がいないと本当に駄目だなあ……」
「何言ってるの、そのために私がいるんだからいいのよ。ほら、しゃんとして」
その言葉で、アラザン室長は扉から手を離す。
室長の猫背がちょっとだけまっすぐになり、ごほんと一つ咳払いをして、私の方へ向き直った。
「あのね……本来、ミア嬢に『魔力探知眼鏡』の完成を確認してもらったら、魔法騎士団から依頼されたミア嬢の仕事は、完了するはずだったんだ」
街に蔓延っている呪物を探すこと、そして『ブティック・ル・ブラン』について調査すること――それが、本来の目的だった。
「……僕たちもそう。あとはこの眼鏡を量産したら、呪物探しは魔法騎士団の仕事になって、僕たちは通常業務に戻り、ミア嬢も日常に戻るはずだった」
私は、頷いた。
魔道具で呪物探しができるようになったら、魔法騎士団が仕事を引き継いだ方がスムーズなはずだ。
当初は人手が足りないという話だったが、もうすぐ魔獣討伐のために遠征に出ていた部隊も帰ってくると聞くし、新入団員も間もなく入団の日を迎える。
アラザン室長は、続けた。
「……でも、僕は、もっと呪いのことや魔石のこと、聖魔法のことを知りたいと思ってる。魔石の活用は魔道具の発展に関わってくる話でもあるし、何より、知りたい。研究者として。もっと先まで、真実のその深淵まで――」
ビスケ様も、カスター様も、室長に同意するように、頷く。
「――だけど、ミア嬢は違う。偶然持っていた力のせいで、魔法師団と魔法騎士団に巻き込まれてしまった形だ。……だから……断ってくれても構わないんだけど」
アラザン室長は、頭を下げる。ビスケ様と、カスター様も後に続いた。
「もし、よかったら、今後も魔道具研究室に協力してもらえないだろうか」
「皆さん、どうか頭を上げて――」
「――えっと、待って、何この状況」
――私が返事をしようとしたところで、鍵の開いていた会議室の扉が、外側に開く。
そこには、私を迎えに来たらしいウィル様が、顔を引きつらせて立っていたのだった。
検査を終え会議室に戻ってきたカスター様は、測定結果を記した紙束を、アラザン室長の前に差し出した。
室長が手に取ってチェックしている資料を、同じく管理部から会議室に戻ってきたばかりのビスケ様が横から覗き込む。
「護符の中央にはまってる石、組成が魔石と一致したよ。魔力波形の測定もかけたんだけど、そっちはほぼ空っぽだった」
「ほぼ?」
ビスケ様は、資料から目を上げて、カスター様に質問をした。アラザン室長は、無言でページを繰っている。
「そう、ほぼ。魔力波形の測定結果は、三ページ目以降にある。ちょっと面白いことがわかったから、後でウィルの許可を取ってから実験してみよう」
「そういえば、今更だけど、ウィル君に許可を取らずに測定に回しちゃったわね。怒られちゃうかしら?」
「傷つけたりとかはしてないから大丈夫だろ。ウィルも研究者の端くれだ、この検査の重要性ぐらい理解するさ」
……本業は研究者ではなく魔法騎士なのだが。
まあ、でもウィル様のことだから、魔道具に関係することなら快く応じてくれそうではある。
カスター様は、私の前の机に、ウィル様の落とした『癒しの護符』をそっと置いた。
護符の真ん中にはめられた石は、周りの金属部分と違って傷ひとつなく、美しい輝きを放っている。
――それにしても、こんなに透き通った綺麗な石が、魔石だったなんて。
呪物についていた魔石や、先程ビスケ様が管理部から持ってきた魔石は、真っ黒に濁った靄がかかっていて、どんな石か判別もつかなかった。それに対して、この護符の魔石は、水晶のように光を反射して輝いている。
私が護符の魔石に見とれていると、今まで静かに資料を読み込んでいたアラザン室長が、突然ぼそぼそと話しかけてきた。
「……ねえ、ミア嬢。今日はさすがにもう聖魔法使えないよね……?」
「あ、ええと……大丈夫だと思います」
今日は、『解呪』と『治癒』を一回ずつしかつかっていない。
それに、呪いも怪我も軽いものだったため、すぐに治療を終えられた。魔力にはまだ余裕がありそうだ。
「ちなみに……『浄化』は練習してるかい?」
「いいえ。発動の方法は知っていますが、実際に使ったことはありません」
室長の言った『浄化』は、『混乱』『麻痺』『魔力酔い』などのステータス異常を治す聖魔法だ。ノートや手記を見て、発動方法は勉強したものの、まだ練習はしていない。
というのも、練習する手立てがないのだ。
傷を治す『治癒』のように植物などで代用することもできないし、体調不良の人を用意する訳にもいかない。
ちなみに同じ理由で、『解毒』も試していない。この魔法は、毒物そのものの毒性を消すのは不可能で、体内に入った毒だけしか解毒できないからだ。
ウィル様曰く、自然毒に関しては、毒を持つ生物にとってその毒は体内に存在して然るべきものであるため、毒性を消すのは逆に不自然なことなのだとか。
「……なら、少し試してみないかい? 特別実験室に移動して、副室長が持ってきた魔石に、『浄化』をかけてみてほしいんだ……」
「魔石に、聖魔法を? でも、一人で新しいことに挑戦するのは駄目って、ウィル様が」
「一人じゃないでしょ? ここにいるのはみんなプロフェッショナルよ。しっかりサポートするから、心配せず、どーんとやってみて」
「……確かに、そうですわね。わかりました、やります」
ビスケ様が太鼓判を押してくれた。確かに、心強いメンバーだ。
「ありがとう、ミア嬢。でも、その前に」
ビスケ様は微笑んでお礼を言うと、会議室の鍵を開けてそそくさと移動を始めようとしていたアラザン室長へと、顔を向けた。
「ねえ、室長。ミア嬢に、聞かなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
「……あ……そうだよね。ウィル君に許可を取り忘れたことといい、僕は副室長がいないと本当に駄目だなあ……」
「何言ってるの、そのために私がいるんだからいいのよ。ほら、しゃんとして」
その言葉で、アラザン室長は扉から手を離す。
室長の猫背がちょっとだけまっすぐになり、ごほんと一つ咳払いをして、私の方へ向き直った。
「あのね……本来、ミア嬢に『魔力探知眼鏡』の完成を確認してもらったら、魔法騎士団から依頼されたミア嬢の仕事は、完了するはずだったんだ」
街に蔓延っている呪物を探すこと、そして『ブティック・ル・ブラン』について調査すること――それが、本来の目的だった。
「……僕たちもそう。あとはこの眼鏡を量産したら、呪物探しは魔法騎士団の仕事になって、僕たちは通常業務に戻り、ミア嬢も日常に戻るはずだった」
私は、頷いた。
魔道具で呪物探しができるようになったら、魔法騎士団が仕事を引き継いだ方がスムーズなはずだ。
当初は人手が足りないという話だったが、もうすぐ魔獣討伐のために遠征に出ていた部隊も帰ってくると聞くし、新入団員も間もなく入団の日を迎える。
アラザン室長は、続けた。
「……でも、僕は、もっと呪いのことや魔石のこと、聖魔法のことを知りたいと思ってる。魔石の活用は魔道具の発展に関わってくる話でもあるし、何より、知りたい。研究者として。もっと先まで、真実のその深淵まで――」
ビスケ様も、カスター様も、室長に同意するように、頷く。
「――だけど、ミア嬢は違う。偶然持っていた力のせいで、魔法師団と魔法騎士団に巻き込まれてしまった形だ。……だから……断ってくれても構わないんだけど」
アラザン室長は、頭を下げる。ビスケ様と、カスター様も後に続いた。
「もし、よかったら、今後も魔道具研究室に協力してもらえないだろうか」
「皆さん、どうか頭を上げて――」
「――えっと、待って、何この状況」
――私が返事をしようとしたところで、鍵の開いていた会議室の扉が、外側に開く。
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