氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留

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第四章 魔道具と魔石

2-26 浄化 ★視点変更あり

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 言われた通り、壁に設置された機器の端末に、『浄化ピュリファイ』の聖魔法を流し込んでいく。
 使用した感覚は『解呪アンチカース』と似たような感じだが、呪いを解くよりも魔力消費が少なくて、ちょっとだけ楽だ。

 だが、魔法自体は簡単でも、機材……いや、魔石はぐんぐんと私の聖力を吸い取っていく。
 私は、目を閉じて集中する。

 瞼の裏で、光がはじけて、くらくらする。
 このままでは、まだまだ浄化しきれない。
 もっと、力を込めないと。

「――ア、もう……」

 もっと。
 まだまだ、もっと――。

「――ミア。もういい、やめるんだ、ミア!」

 制止の声が届くと同時に、強く腰を引かれる。
 私は、ハッとして目を開き、『浄化ピュリファイ』の魔法を中断した。

 ずっしりと重くなった身体に、私はようやく、自分の聖力が底をつきかけていたことに気がついた。
 ウィル様が、私を腕の中にしっかり閉じ込めて、心配そうに声をかける。

「ミア……無茶しすぎだよ」

「……ウィル様……ごめんなさい」

 ウィル様は、そのまま私を横抱きにした。

「きゃっ、わ、私、重いですわよ」

「重くないよ。むしろ軽すぎるぐらいだ。……とにかく、もう休んだ方がいいね」

 ウィル様は私を抱き上げたまま、アラザン室長の方へ向き直り、目礼をした。

「室長、今日は、このまま帰ります。後で魔法通信をいただけますか」

「……わかった……ミア嬢、無理させてごめん。ウィル君、ありがとう」

「あの……中途半端で、申し訳ございません」

「……いや、中途半端じゃないよ。むしろ……。とにかく、ありがとう。ウィル君を通じて、また連絡するよ」

 ウィル様に抱き込まれていて、魔石がどうなったのか、私の位置からは見えなかった。
 まだまだ浄化が終わった感触はなかったが……少しは役に立てただろうか。


――*――

 ウィリアム視点に変わります。



 帰りの馬車で、俺の肩にもたれて、愛しいミアは寝息を立てていた。
 ミアに、あれほど膨大な聖力が宿っていたなんて。
 魔力と聖力の違いはあるが、保有魔力の総量は、俺と同じぐらい――いや、俺よりも多いかもしれない。

 ミアは、すさまじい集中力で『浄化ピュリファイ』の魔法を発動し続けていた。
 黒かった魔石の色がすっかり抜けて、無色透明に変わっても。
 それから、透明だった魔石が、次第に白い輝きを帯び始めても。

 きっと、魔石が機材に繋がれていて直接見ることができなかったから、浄化がすでに完了したことに気がつかず、魔法を使い続けてしまったのだろう。
 そして、あの白い魔石の輝きは……『癒しの護符』にはめ込まれていた魔石が、最初に放っていた輝きと同じだった。
 おそらく、あの白い光こそが、聖魔法の輝きなのだろう。

 となると、疑問が次々と湧いてくる。

 ――教会の与えてくれた護符に、なぜ魔石が?
 教会は、魔石をどこから手に入れ、どうやってあの小さなサイズに加工した?
 そもそも、どうして教会は、魔石の扱い方を知っていた……?

「教会、癒しの護符、魔石……呪い」

 俺は考えを整理しようと、気になることを、小さく声に出して羅列していく。

「ブティック・ル・ブランの呪物。魔石を縫い付ける前の生地を製作していたのはリリー・ガードナー嬢。ガードナー侯爵家は、神殿騎士団の家系。……神殿騎士団なら、魔獣討伐もするから、魔石を入手できる。神殿騎士団が守るのは、聖女……すなわち、教会・・

 全部の考えが一巡りして、思考の始まりに、戻ってくる。
 ――まさか。
 恐ろしい考えが、俺の頭をよぎる。
 だが、この考えが正しいならば、全ての辻褄が合う。合ってしまう。

「……呪いの蔓延には、教会が関わっている……?」

 まだ正式に平民街を調査した訳ではないものの、例の病が報告されているのは、貴族が中心。
 貴族は、病を治すためなら、教会に多額の寄付をすることを厭わない。

 言い方は悪いが、呪いが蔓延すればするほど利益を被るのは、誰か?
 魔族を除けば、それは、唯一呪いを解く力を持つ、教会だけなのだ。

「ん……」

 俺の肩で、ミアが小さく身じろぎをした。
 膝にかけたブランケットを、引き上げるような仕草をしている。
 どうやらいつの間にか、冷たい魔力が漏れ出ていたようだ。

「ふう……」

 俺は深呼吸して、無意識に垂れ流していた氷の魔力を引っ込める。
 もしも俺の思った通り、呪いの件に教会が関わっているのなら――。

「……これ以上、ミアを関わらせるわけにはいかないな」

 遅かれ早かれ、教会と魔法騎士団は、対立することになる。
 ――ミアを任務に巻き込んで、教会にミアの秘密が露見してしまうことだけは、絶対に避けたい。
 
 穏やかな顔で眠るミアに、目を覚まさなくなってしまった、逆行前のミアの姿が重なる。

「ミアは、必ず守る。教会の闇を暴いて、それから――」

 俺はグッと拳を握り締める。

「……絶対に、生き残ってみせる。ミアのためにも」

 ――『魔女』が求める『賢者の石』。

 卑金属を金に変える。
 呪いや毒、不治の病までたちまち治す。
 『命の水』を精製し、それを飲んだものは不老不死になる。

 様々な伝説があるが、『魔女』が『賢者の石』を求める理由は、おそらく一つ。

 ――『魔女』には感謝しているが、ミアと過ごす未来は、俺のものだ。
 『魔女』なんかに、俺の時間は一秒たりともくれてやるものか。

 決意を新たに、俺は、膝の上で日記をつけはじめた。
 耐震の魔道具を設置しているこの馬車は、ほとんど揺れることがなく、文字を書くのも難しくない。

 逆行してから、俺は毎日、日記をつけていた。
 逆行前は日記をつける習慣はなかったが……もしもの時のためだ。
 自分自身の気持ちや魔道具の開発アイデア――それからミアとの思い出を、可能な限り細かく書き記している。

 この日記が役に立つ日が来ないことを祈って、それでも俺は、文字に想いを託す。
 一言一句、丁寧に。
 愛を、想いを、思い出を込めて――。
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