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第五章 忍び寄る影
2-29 妹との和解
しおりを挟むダイニングルームに向かうと、お母様、お兄様、マーガレットの三人が揃っていた。
扉は開放されていて、話し声が聞こえてくる。今は、マーガレットが王立貴族学園でのことを話しているようだ。
「――それで、先生が気にかけて下さっているので、学園ではつつがなく過ごせておりますわ。ですが、あれから、デイジーお姉様のお姿が見えないのです」
「デイジー嬢が? どうしたのかしらね」
「他のご令嬢に聞いても、皆様、ご存じないようで……、あっ」
マーガレットは、話している途中で、私たちの姿が見えたことに気がついたらしく、声を上げた。
「あら、ミア。ウィリアム君も、ようこそいらっしゃい」
「本日は、ご家族の大切な席にお招きいただき、ありがとうございます」
ウィル様がお母様に向けて丁寧に挨拶をすると、がたんと音を立てて、マーガレットが立ち上がった。
「あ、ああああの」
突然顔を真っ青にしてどもりはじめるマーガレットに、ウィル様は眉を寄せる。
「おおおオースティン様。わたくし、その、あの……今まで、申し訳ございませんでした! わわわたくし、今まで――」
マーガレットは、しどろもどろになりながらも、自分の犯してしまった罪をウィル様に話し始めた。
ウィル様は、にこりともせず、しかし冷たい魔力を身体から発することもなく、時折頷きながら静かに聞いている。
「――全ては、お姉様に側で笑っていてほしくて始めたことです。でも、でも……、お姉様の幸せは、わたくしではなく、オースティン様の隣にありました。わたくし、どんな罰でも受け入れます」
「……マーガレット嬢、顔を上げて」
ウィル様は、表情こそ緩めないものの、穏やかな声でそう言った。
「人の幸せは、他人が決めるものではない。それがわかったなら、二度と、勝手に人の想いを踏みにじるようなことはしないでほしい」
「……はい」
ウィル様は、マーガレットの返事に満足そうに頷くと、用意されていた席に向かい、お母様に許可を取って座った。私も、ウィル様の隣席に腰を下ろす。
呆気に取られて動かずにいるマーガレットに、ウィル様が声をかけた。
「……座ったらどうだ?」
「あっ……あの、罰は」
「罰なら、もう充分受けただろう? ミアが君を不問にすると決めたのなら、私もミアに倣うつもりだ」
「……っ! あ、あ、ありがとうございます……!」
ウィル様は、マーガレットに対して、やはり欠片ほども笑顔を見せない。
マーガレットとの間には、いまだに確執があるようだが、ひとまず和解することができたようだ。
私はホッとして、隣に座るウィル様にお礼を言った。
「あの、ウィル様。妹を許して下さり、ありがとうございます」
「ああ。ミアを悲しませたくないからね」
私が話しかけると、ウィル様はこちらを向き、私にだけ甘く微笑んだのだった。
*
それから少ししてお父様が合流し、食事会が始まった。
テーブルには特別なご馳走が並び、デザートにはもちろん、苺のケーキ。
ウィル様は、「本当のプレゼントは、後で」と耳元で囁いて、私に花束を贈ってくれた。
「ミア。十五歳の誕生日、おめでとう」
みんなが笑顔で誕生日を祝ってくれて、先程あったことも忘れ、私の心はすっかり安らいだ。
マーガレットやお兄様から学園の話を聞いたり、お母様が最近王都で流行っているファッションやスイーツの話をしてくれたり、お父様が魔獣の出ない安全な狩場についてウィル様と情報交換したり。
時間はあっという間に過ぎていって、そろそろお開きになろうかという頃。
お父様は、ダイニングの窓を閉めさせ、シェリーとセバスチャンを残して、全ての使用人を下げた。
「……最後に、皆に話しておくべきことがある。いや、正確には、オスカーとマーガレットにだ」
お父様は、緊張した面持ちでそう切り出したのだった。
――お兄様と、マーガレットに。
お父様は、私の出生の秘密を明かすつもりなのだ。
私はウィル様をちらりと見る。
ウィル様は、厳しい表情をしてはいるものの、お父様を止める様子はない。
彼も、お父様と同じく、もうこれ以上秘密を抱えておけないと感じているのだろう。
「これから話すことは、絶対に秘密にすると誓ってほしい。外部の人間にはもちろん、子爵家の使用人たちにもだ。この秘密が明るみに出れば、ミアに危害が及ぶこととなるだろう。最悪、一生ミアと会うことができなくなってしまう可能性もある」
「……っ」
「お、お姉様に!? 一生会えないなんて、絶対に無理です! 死ぬより辛いですわ!」
お兄様は静かに目を見開き、マーガレットは青い顔をして盛大に狼狽え始めた。
「とにかく、この秘密を知っているのは、今この部屋にいる者と、一部の信用できる外部の人間だけ。絶対に秘密を守ると、誓えるか」
「もちろんですわ!」
「はい、僕も約束します」
マーガレットとお兄様が秘密を守ると誓ったのを確かめると、お父様は、私の方へと視線を向ける。
私が小さく頷いたのを見て、お父様は、十五年間守り続けていた秘密を、ついに明らかにしたのだった。
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