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第六章 オースティン伯爵家へ
2-34 新緑色の贈り物と、はじめての
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私が目を閉じると、ウィル様のシトラスの香りに、ふわりと包まれた。
その体温も間近に感じられるのに、触れそうで触れなくて、なんだかそわそわする。
「はい、できたよ」
ウィル様はそう囁くと、私から一歩離れた。
首の後ろに冷たい感触と、少しの重みを感じる。
私は目を開き、自らの胸元に触れる。
そこには、淡い新緑色の輝きを放つ、美しい宝石が飾られていた。
「これ……私に?」
ウィル様は、優しく目を細めて頷いた。
「素敵……!」
ウィル様の瞳と同じ色の宝石と、私の髪と同じ白銀色のチャームがついたペンダントトップが、プラチナのチェーンで留められている。
宝石に触れていると、何だか温かいものがじわりと溢れ出して、幸せな気持ちになる。なんて素晴らしい贈り物だろう。
「ウィル様、嬉しいです……! ありがとうございます」
「喜んでもらえてよかった」
以前街で買ってもらった、ペリドットとアクアマリンのブローチも、すごく嬉しかった。ウィル様と会う時は毎回身につけていて、今日もドレスの胸元で輝いている。
けれど、今回の宝石は、ペリドットとも違う――もっと温かみがあって、ウィル様の瞳の色に本当にそっくりだ。
「本当に綺麗……。これは、何の石ですか? ペリドットとも違うような……」
「俺とミアとの愛の結晶だよ」
人が感動しているのに、いきなりズレた冗談を言う彼に、私は一瞬フリーズしてしまった。
「あいっ……、やめてください、変なこと言うの! 台無しです!」
「はは、ごめんごめん」
ウィル様は楽しそうに謝る。頬が熱い。
「冗談はさておき、これは、ミアが浄化した魔石を削って加工し、俺がさらに魔力を注いだものなんだ。だから、ミアの聖力と俺の魔力が、この石には込められている」
だから愛の結晶か。言いたいことはわかるけれど、言葉の選択が間違っている。やめてほしい。
「本来の俺の魔力の色は、青緑色。ミアの聖力の色が、純白。この魔石には、ミアの聖力が強く残っている状態だったから、俺の魔力と混ざりあってこの色になったんだと思う」
確かに、『魔力探知眼鏡』の原型となった眼鏡でウィル様の魔力を見せてもらった時、青緑色の魔力がウィル様の身体を覆っていた。私が魔法の練習をしたいと言い出した時だ。
「だから、魔石がこの色になったのは偶然なんだけど……ねえ、ミア。でも、これ、すごいことだと思わない? 俺たちはやっぱり一緒になる運命――」
ウィル様はそんなことを言いながら、私の頬に手を伸ばす。私は耐えきれなくなって、ウィル様の言葉を遮った。
「も、も、もういいですから!」
「ふふ、ごめん。いじめすぎちゃったかな」
ウィル様は、そう言って私の頬から手を離した。
「……でも、なんだか、これをつけているとウィル様が守ってくれているみたいに感じられて、安心しますわ。本当に、ありがとうございます」
「どういたしまして。ミア――改めて、誕生日、おめでとう」
ウィル様は、私にゆっくりと顔を近づける。ウィル様は私の額にそっと口づけをした。
私は顔がじわじわと熱くなっていくのを自覚する。
「ウィル様……」
私は潤んでゆく目元を隠そうともせず、ウィル様の瞳をじっと見つめた。
美しい新緑色に、吸い込まれるように。
「ああ、その表情――、本当に可愛い」
ウィル様は、熱い吐息をこぼして、囁く。
甘えるように、今度は頬に、ひとつ。
「――ねえ、ミア。ミアのその表情を知ってるのは、俺だけ……だよね?」
「……え……?」
「オスカー殿も、知らないよね?」
なぜ、ここでお兄様の名が出てくるのだろう。
ウィル様は、熱に浮かされたような、蕩けたような表情なのに、少しだけ不安そうだ。
私は、ウィル様の目を見つめて、即答した。
「もちろんですわ。私には、ウィル様だけです。ウィル様……、お慕いしております」
「……っ!」
ウィル様の瞳に、隠しようもなく喜色が浮かぶ。
そして、彼は、掠れた声で囁いた。
「ミア、好きだよ」
正面から、ウィル様の顔が近づいてくる。
私は、そっと目を閉じた。
音もなく、優しく。
柔らかな感触が、唇にふれる。
触れていたのは、ほんの少しの時間だったと思うけれど――私には、一瞬にも、永遠にも感じられた。
離れていく唇を惜しむように、私は瞼を持ち上げる。
「……ふふ。これ以上一緒にいたら、歯止めが効かなくなりそうだな」
ウィル様は、困ったようにそう言って、私から体を離した。
耳まで真っ赤に染まっているが、きっと、私も似たようなものだろう。
「困ったことがあったら、何でも言って。いつでも俺の部屋を訪ねてくれて構わないからね」
「はい……ありがとうございます」
「じゃあ……おやすみ、ミア」
「おやすみなさい」
ウィル様は、名残惜しげに客室から出て行った。
甘い微笑みと、シトラスの香りを残して――。
【第二部 完】
その体温も間近に感じられるのに、触れそうで触れなくて、なんだかそわそわする。
「はい、できたよ」
ウィル様はそう囁くと、私から一歩離れた。
首の後ろに冷たい感触と、少しの重みを感じる。
私は目を開き、自らの胸元に触れる。
そこには、淡い新緑色の輝きを放つ、美しい宝石が飾られていた。
「これ……私に?」
ウィル様は、優しく目を細めて頷いた。
「素敵……!」
ウィル様の瞳と同じ色の宝石と、私の髪と同じ白銀色のチャームがついたペンダントトップが、プラチナのチェーンで留められている。
宝石に触れていると、何だか温かいものがじわりと溢れ出して、幸せな気持ちになる。なんて素晴らしい贈り物だろう。
「ウィル様、嬉しいです……! ありがとうございます」
「喜んでもらえてよかった」
以前街で買ってもらった、ペリドットとアクアマリンのブローチも、すごく嬉しかった。ウィル様と会う時は毎回身につけていて、今日もドレスの胸元で輝いている。
けれど、今回の宝石は、ペリドットとも違う――もっと温かみがあって、ウィル様の瞳の色に本当にそっくりだ。
「本当に綺麗……。これは、何の石ですか? ペリドットとも違うような……」
「俺とミアとの愛の結晶だよ」
人が感動しているのに、いきなりズレた冗談を言う彼に、私は一瞬フリーズしてしまった。
「あいっ……、やめてください、変なこと言うの! 台無しです!」
「はは、ごめんごめん」
ウィル様は楽しそうに謝る。頬が熱い。
「冗談はさておき、これは、ミアが浄化した魔石を削って加工し、俺がさらに魔力を注いだものなんだ。だから、ミアの聖力と俺の魔力が、この石には込められている」
だから愛の結晶か。言いたいことはわかるけれど、言葉の選択が間違っている。やめてほしい。
「本来の俺の魔力の色は、青緑色。ミアの聖力の色が、純白。この魔石には、ミアの聖力が強く残っている状態だったから、俺の魔力と混ざりあってこの色になったんだと思う」
確かに、『魔力探知眼鏡』の原型となった眼鏡でウィル様の魔力を見せてもらった時、青緑色の魔力がウィル様の身体を覆っていた。私が魔法の練習をしたいと言い出した時だ。
「だから、魔石がこの色になったのは偶然なんだけど……ねえ、ミア。でも、これ、すごいことだと思わない? 俺たちはやっぱり一緒になる運命――」
ウィル様はそんなことを言いながら、私の頬に手を伸ばす。私は耐えきれなくなって、ウィル様の言葉を遮った。
「も、も、もういいですから!」
「ふふ、ごめん。いじめすぎちゃったかな」
ウィル様は、そう言って私の頬から手を離した。
「……でも、なんだか、これをつけているとウィル様が守ってくれているみたいに感じられて、安心しますわ。本当に、ありがとうございます」
「どういたしまして。ミア――改めて、誕生日、おめでとう」
ウィル様は、私にゆっくりと顔を近づける。ウィル様は私の額にそっと口づけをした。
私は顔がじわじわと熱くなっていくのを自覚する。
「ウィル様……」
私は潤んでゆく目元を隠そうともせず、ウィル様の瞳をじっと見つめた。
美しい新緑色に、吸い込まれるように。
「ああ、その表情――、本当に可愛い」
ウィル様は、熱い吐息をこぼして、囁く。
甘えるように、今度は頬に、ひとつ。
「――ねえ、ミア。ミアのその表情を知ってるのは、俺だけ……だよね?」
「……え……?」
「オスカー殿も、知らないよね?」
なぜ、ここでお兄様の名が出てくるのだろう。
ウィル様は、熱に浮かされたような、蕩けたような表情なのに、少しだけ不安そうだ。
私は、ウィル様の目を見つめて、即答した。
「もちろんですわ。私には、ウィル様だけです。ウィル様……、お慕いしております」
「……っ!」
ウィル様の瞳に、隠しようもなく喜色が浮かぶ。
そして、彼は、掠れた声で囁いた。
「ミア、好きだよ」
正面から、ウィル様の顔が近づいてくる。
私は、そっと目を閉じた。
音もなく、優しく。
柔らかな感触が、唇にふれる。
触れていたのは、ほんの少しの時間だったと思うけれど――私には、一瞬にも、永遠にも感じられた。
離れていく唇を惜しむように、私は瞼を持ち上げる。
「……ふふ。これ以上一緒にいたら、歯止めが効かなくなりそうだな」
ウィル様は、困ったようにそう言って、私から体を離した。
耳まで真っ赤に染まっているが、きっと、私も似たようなものだろう。
「困ったことがあったら、何でも言って。いつでも俺の部屋を訪ねてくれて構わないからね」
「はい……ありがとうございます」
「じゃあ……おやすみ、ミア」
「おやすみなさい」
ウィル様は、名残惜しげに客室から出て行った。
甘い微笑みと、シトラスの香りを残して――。
【第二部 完】
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