氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留

文字の大きさ
98 / 193
第三章 繋がりゆく縁

3-19 二重スパイ

しおりを挟む

 アシュリー様の口から出た『ガードナー』の家名に、私たちは思わず反応してしまった。
 アシュリー様もシュウ様も、私たちに視線を向ける。

「……申し訳ございません」

 ウィル様は、バツが悪そうに謝罪した。私も頭を軽く下げる。

「いえ、仕方ありません。ガードナー侯爵家は神殿騎士団の家系……驚くのも無理はないでしょう」

「二重スパイというのは?」

「文字通りの意ですよ。私はローズを通して、神殿騎士団や教会の情報を受け取る。ローズは、私から得た王家の情報を流す。もちろん、こちらから流す情報は、差し障りのない情報だけですがね」

 ウィル様が尋ねると、アシュリー様は眼鏡を指で押し上げつつ、答えてくれた。

「つまり……ローズ嬢も、アシュリー殿と共に二重スパイの役目を負っているのですか? その……ご気分を害されたら申し訳ないのですが……」

「ああ、信用できませんよね。当然です。特に、ローズの妹――デイジー・ガードナーが、貴方たちに迷惑をかけたようですし」

「ご存じでしたか」

「ええ。ガードナー家の動向は、ローズから聞いていますからね。それで、質問の答えですが……ローズに関しては、信用して構いません。彼女は個人的な事情から、現神殿騎士団との対立を強く望んでいます。私との関係も、世間一般の婚約関係というよりは、互いの望みを叶えるためのビジネスパートナーに近いものですから」

「私も保証しよう。ガードナー侯爵家はかなり真っ黒な家だが、ローズ嬢は信頼できる」

 続いて、シュウ様がローズ様の事情について、補足する。

「アシュリーの婚約者、ローズ嬢は、本来なら神殿騎士団長の座に就いてもおかしくない身だったんだ。彼女はガードナー侯爵夫人の連れ子で、父親は侯爵家の縁者。王国内で、最も神殿騎士団長の血を濃く受け継いでいる人物だ。ただ――彼女は、女性だった」

「女性だからといって、神殿騎士が務まらないわけではないのですが。ご存じの通り、教会は古い体質ですから……女性の神殿騎士は前例がないということで、入団を認められませんでした。身分も性別も関係ない、実力主義の魔法騎士団とは、何もかもが違う。ローズは、王家の助力を得て、教会と神殿騎士団の改革をしたいと思っているのです」

「なるほど……。ところで、教会はなぜ王家の情報を欲しているのですか?」

「……ここからは、まだ確たる証拠を得られていない情報なのですが……どうやら、教会は隣国王家と何かしらの繋がりがあるようです。数年前――私にローズとの婚約の話が来たのも、シュウにリリー嬢からの婚約打診が来たのも、今思えば、王国の内部情報が目的だったと考えられます」

 シュウ様の『婚約騒動』には、リリー・ガードナーが関係していたようだ。どこかで聞いたようなとは思っていたが、そういえば、お母様が一度、ガードナー侯爵家の事情について説明してくれたことがあった気がする。
 シュウ様は片思いだったとウィル様から聞いたが、果たして彼は、リリー様の現状を知っているのだろうか……。

 そして、アシュリー様の言葉には、とんでもない情報が含まれていた。
 ウィル様は顎に手を当て、眉をひそめて、その言葉を繰り返す。

「――隣国との内通、ですか」

「ええ。現在は休戦中ですが、北部に位置するかの国は寒く、土地も痩せています。おいそれと王家が手を出せない教会に息をひそめて、いまだこの国の国土を狙っているのでしょう」

「国王陛下には、上奏しないのですか?」

「……まだ確証が持てないのです。宰相閣下にも、『証拠を持ってこい』と一蹴されてしまいました。王太子殿下には一足先にお伝えしているのですが、殿下もタイミングを見計らっているようですね」

 確たる証拠がないのであれば、国王陛下の耳に入れることはできないのだろう。アシュリー様のお父上――宰相閣下も、証拠がなくては動けないのかもしれない。

「ただ、今度開かれる舞踏会で、何かしらの行動を起こすのではないかという情報が出てきたため、密かに警戒を強めています。魔法騎士団にも、間もなく何らかのお達しがあるかと」

「舞踏会……! それは……!」

「もしや、魔法騎士団の方でも何か情報を入手しているのですか?」

「……っ、いえ、その……」

 ウィル様は、珍しく歯切れが悪い返答をする。
 そして、ちらりと私たちの方を見ると、アシュリー様に向き直った。

「……実は、お役に立てるかもしれない情報があります。ですが、今は……。後ほど、シュウさんと三人で、お時間をいただくことはできませんか?」

 ――どうやら、私や魔道具研究室のメンバーには、聞かれたくない話のようだ。

「ふむ……」

「終業後であれば、私は構わないぞ」

「……では、日没後、魔法騎士団の方へお邪魔しても?」

「ええ。お願いいたします」

 ウィル様とアシュリー様、シュウ様の三人は、今日の業務が終了した後に会う約束を取り付け、その場はお開きとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...