氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留

文字の大きさ
102 / 193
第四章 『二度目』の舞踏会

3-23 魔石のピアス

しおりを挟む

 白いローブをはためかせ、男を中心とした強い風が、音を立てて巻き上がる。

 ――その瞬間。

 キンッ!

 甲高い音と共に、白ローブの男の周囲に、分厚い氷の壁が現れた。

『なにっ!?』

 中に閉じ込められた男自身は凍り付いていない。氷の壁を利用して器用にその動きを封じるにとどめたようだ。
 男は剣を床に刺し、中から壁を叩くが、分厚い氷壁はびくともしない。

 魔法の氷壁を張ったのは、先程まで動けなかったはずの――、

「ウィル様!? お身体は!?」

「ああ。これのおかげで、時間はかかったけれど、動けるようになった」

 ウィル様は、厳しい視線を氷壁の中の男に向けたまま、耳に飾られているピアスに触れた。

「ピアスの……?」

 ウィル様のピアスには、私とお揃いの魔石――彼自身の魔力と、私の『浄化ピュリファイ』が込められたものが使われている。
 顔色を見る限りまだ万全ではなさそうだが、『浄化ピュリファイ』の効果によるものか、歩いたり魔法を扱ったりできるぐらいにまで回復したようだ。

「これで奴はしばらく動けないはず。異変に気づいた騎士たちがもうすぐ応援に来るはずだから、ミアは――」

 ウィル様が私に何か言おうとしたその時、白ローブの男が、ひときわ強く氷壁を叩く。
 その拍子に男のフードがめくれ上がり、彼は緑色の髪と瞳を、私たちの前にさらした。

「……! その顔」

 ウィル様も、気がついたようだ。

「ヒース……!」

 そう。
 白いローブを着て、国王陛下を襲った不審者の正体。
 それは、以前マーガレットの従僕フットマンを務めていた、ヒースだったのだ。

 氷壁の中のヒースは、口元に巻いていた布を思い切り剥ぎ取る。

『……頼む、助けてくれ……リリーが、殺される……!』

 氷壁越しでくぐもってはいるが、必死に叫ぶヒースの声は、こちらまでしっかり届いた。
 デイジー嬢に髪を掴まれていたリリー嬢の姿が脳裏に浮かび、私は急ぎ入り口の扉を振り返る。

 ウィル様も私につられて入り口に目を向けるが、そこにはすでに、二人の姿はなかった。
 そのかわりに、複数の足音がこちらへ近づいてくる。

「陛下、ご無事ですか! すぐに治療を。まずは安全な場所へご移動願います」

 先頭を切って国王陛下に声をかけたのは、魔法騎士団長――ウィル様の父、オースティン伯爵だった。
 足音の主は、応援に来た魔法騎士団員たちだったようだ。オースティン伯爵は、近くの騎士に指示を飛ばす。

「すぐに傷病者の手当をする。まずは国王陛下と、王族の方々を別室に」

「「「はっ」」」

 数名の魔法騎士が指示に従い、王族をその場から丁重に連れ出した。
 オースティン伯爵は、私たちの方に向き直り、厳しい表情を少しだけ緩めて、小さく頷く。

「待たせたな、ウィル、ミア嬢。よく持ちこたえた」

「父上……はい」

 張り詰めていたウィル様の表情が、やわらぐ。
 私もほっとして、密かに息をついた。

 すぐ横で、コンコン、と氷壁をノックする音がして、私たちはそちらに目を向ける。

「おい、そこの不審者」

 氷壁の中のヒースに声をかけたのは、濃い青色の短髪、片方の目を眼帯で覆っている騎士だ。

「リリー嬢なら心配ない。デイジー嬢と侯爵夫人も一緒に保護した」

『……そう、か……』

 ヒースは力が抜けたように、背中から氷壁にもたれかかった。

「父上、エリオット兄上、ありがとうございます」

 ウィル様が礼をすると、オースティン伯爵と、青い短髪の騎士――ウィル様の兄、エリオット様は頷く。

「さて、ミア嬢」

 オースティン伯爵は、私の方に視線だけ向けると、口元を隠して小声で私に指示を出した。

「――陛下のご容態は、侍医が診るだろうが、この症状……おそらく聖女の力が必要になる。ミア嬢も、別室へ」

「父上……それは、ミアに治療を、ということですか?」

 私のかわりにウィル様が、驚いた様子で、オースティン伯爵に尋ね返した。

「そうだ。むしろ今を逃したら、この状況の中、ミア嬢とウィルだけがまともに動けたことに対しての説明ができない」

「なるほど……」

 確かに、犯人であるヒースを除いて、症状が出ず自由に動けたのは私とウィル様だけ。
 正確にはウィル様は一度症状が出たらしく膝をついていたが、魔石のピアスのおかげで動けるようになった。
 症状が治まりそうな気配もない他の人からしたら、私とウィル様が動けた理由など想像もつかないだろうし――怪しいことこの上ないだろう。

「現場が落ち着いたら私もすぐに向かう。説明やその後のことは、私たちと王太子殿下に任せなさい」

「はい、承知いたしました」

「ウィルも一緒に。さあ、行きなさい」

「はっ」

 オースティン伯爵は私たちに指示を出し終わると、他の騎士の元に行き、指示を飛ばしはじめた。
 私とウィル様は、にわかに騒がしくなったボールルームを後にして、王族の運ばれた部屋へと急いだのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

処理中です...