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第四章 『二度目』の舞踏会
3-23 魔石のピアス
しおりを挟む白いローブをはためかせ、男を中心とした強い風が、音を立てて巻き上がる。
――その瞬間。
キンッ!
甲高い音と共に、白ローブの男の周囲に、分厚い氷の壁が現れた。
『なにっ!?』
中に閉じ込められた男自身は凍り付いていない。氷の壁を利用して器用にその動きを封じるにとどめたようだ。
男は剣を床に刺し、中から壁を叩くが、分厚い氷壁はびくともしない。
魔法の氷壁を張ったのは、先程まで動けなかったはずの――、
「ウィル様!? お身体は!?」
「ああ。これのおかげで、時間はかかったけれど、動けるようになった」
ウィル様は、厳しい視線を氷壁の中の男に向けたまま、耳に飾られているピアスに触れた。
「ピアスの……?」
ウィル様のピアスには、私とお揃いの魔石――彼自身の魔力と、私の『浄化』が込められたものが使われている。
顔色を見る限りまだ万全ではなさそうだが、『浄化』の効果によるものか、歩いたり魔法を扱ったりできるぐらいにまで回復したようだ。
「これで奴はしばらく動けないはず。異変に気づいた騎士たちがもうすぐ応援に来るはずだから、ミアは――」
ウィル様が私に何か言おうとしたその時、白ローブの男が、ひときわ強く氷壁を叩く。
その拍子に男のフードがめくれ上がり、彼は緑色の髪と瞳を、私たちの前にさらした。
「……! その顔」
ウィル様も、気がついたようだ。
「ヒース……!」
そう。
白いローブを着て、国王陛下を襲った不審者の正体。
それは、以前マーガレットの従僕を務めていた、ヒースだったのだ。
氷壁の中のヒースは、口元に巻いていた布を思い切り剥ぎ取る。
『……頼む、助けてくれ……リリーが、殺される……!』
氷壁越しでくぐもってはいるが、必死に叫ぶヒースの声は、こちらまでしっかり届いた。
デイジー嬢に髪を掴まれていたリリー嬢の姿が脳裏に浮かび、私は急ぎ入り口の扉を振り返る。
ウィル様も私につられて入り口に目を向けるが、そこにはすでに、二人の姿はなかった。
そのかわりに、複数の足音がこちらへ近づいてくる。
「陛下、ご無事ですか! すぐに治療を。まずは安全な場所へご移動願います」
先頭を切って国王陛下に声をかけたのは、魔法騎士団長――ウィル様の父、オースティン伯爵だった。
足音の主は、応援に来た魔法騎士団員たちだったようだ。オースティン伯爵は、近くの騎士に指示を飛ばす。
「すぐに傷病者の手当をする。まずは国王陛下と、王族の方々を別室に」
「「「はっ」」」
数名の魔法騎士が指示に従い、王族をその場から丁重に連れ出した。
オースティン伯爵は、私たちの方に向き直り、厳しい表情を少しだけ緩めて、小さく頷く。
「待たせたな、ウィル、ミア嬢。よく持ちこたえた」
「父上……はい」
張り詰めていたウィル様の表情が、やわらぐ。
私もほっとして、密かに息をついた。
すぐ横で、コンコン、と氷壁をノックする音がして、私たちはそちらに目を向ける。
「おい、そこの不審者」
氷壁の中のヒースに声をかけたのは、濃い青色の短髪、片方の目を眼帯で覆っている騎士だ。
「リリー嬢なら心配ない。デイジー嬢と侯爵夫人も一緒に保護した」
『……そう、か……』
ヒースは力が抜けたように、背中から氷壁にもたれかかった。
「父上、エリオット兄上、ありがとうございます」
ウィル様が礼をすると、オースティン伯爵と、青い短髪の騎士――ウィル様の兄、エリオット様は頷く。
「さて、ミア嬢」
オースティン伯爵は、私の方に視線だけ向けると、口元を隠して小声で私に指示を出した。
「――陛下のご容態は、侍医が診るだろうが、この症状……おそらく聖女の力が必要になる。ミア嬢も、別室へ」
「父上……それは、ミアに治療を、ということですか?」
私のかわりにウィル様が、驚いた様子で、オースティン伯爵に尋ね返した。
「そうだ。むしろ今を逃したら、この状況の中、ミア嬢とウィルだけがまともに動けたことに対しての説明ができない」
「なるほど……」
確かに、犯人であるヒースを除いて、症状が出ず自由に動けたのは私とウィル様だけ。
正確にはウィル様は一度症状が出たらしく膝をついていたが、魔石のピアスのおかげで動けるようになった。
症状が治まりそうな気配もない他の人からしたら、私とウィル様が動けた理由など想像もつかないだろうし――怪しいことこの上ないだろう。
「現場が落ち着いたら私もすぐに向かう。説明やその後のことは、私たちと王太子殿下に任せなさい」
「はい、承知いたしました」
「ウィルも一緒に。さあ、行きなさい」
「はっ」
オースティン伯爵は私たちに指示を出し終わると、他の騎士の元に行き、指示を飛ばしはじめた。
私とウィル様は、にわかに騒がしくなったボールルームを後にして、王族の運ばれた部屋へと急いだのだった。
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