氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留

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第四章 『二度目』の舞踏会

3-24 その力明るみに出る時

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 ボールルームの奥にある、王族の控え室。
 扉の前に控えていた騎士は、私とウィル様の顔を見ると、すぐに室内へ通してくれた。

 一番奥の大きなソファには、国王陛下が寝かせられている。ちょうど侍医の診察中だったようだ。
 その隣は簡易的な衝立で仕切られている。王妃殿下、王女殿下がいらっしゃるのだろう。

 黒い騎士服――魔法騎士団の騎士が案内してくれたのは、手前のソファで横になる、王太子殿下の所だった。

「王太子殿下。ご指名なさっていた二名が、到着しました」

 殿下は、騎士の言葉に、かすかに頷いた。
 ボールルームにいた他の貴族や魔法騎士たちと同様の症状が出ているのだろう――呼吸が荒く、苦しそうだ。

「ミア」

 ウィル様に促され、私は一歩前に出て、殿下の前にひざまずいた。

「王太子殿下、私に治療させていただけますか?」

「ああ、頼む……」

 王太子殿下は、迷いなく、私が力を使うことを了承してくれた。
 私はすぐに『浄化ピュリファイ』の聖魔法を唱え始める。
 殿下に手をかざして集中すると、白い光が集まり始め――、

「『浄化ピュリファイ』」

 祝詞のりとの完成と共に、殿下の身体が光に包まれる。
 光が消えると、殿下は穏やかな顔に戻っていた。殿下は目を開け、ソファから身を起こす。

「殿下、お加減はいかがですか?」

「ああ、ありがとう、ミア嬢。すっかり気分が良くなったよ」

 王太子殿下は立ち上がって、周りを見渡す。私も、ウィル様が差し出してくれた手を取って立ち上がった。
 治療に伴って眩い光が満ちたからだろう、室内の視線という視線はすべて私の方に向いていた。

「……今のは……?」

「聖魔法の光か……?」

「王太子殿下の症状が、回復した?」

 ざわざわと、騎士たちや侍医のざわめきが満ちる。

「静かに。ここにいるミア嬢は貴族であるが、事情により聖魔法を習得している。後ほど私から説明をするが、今は口外してはならん」

 王太子殿下がそう告げると、室内は再び静かになった。

「さて、ミア嬢。父上と母上、妹の治療も頼めるか?」

「はい、もちろんで――」

「殿下!」

 私の了承の言葉は、壮年男性の大声に遮られてしまった。国王陛下の側近だろうか。
 王族以外には、騎士と侍医、使用人しかいないこの部屋で、唯一貴族の盛装を纏っているその男性は、とても目立っている。
 服装からして、舞踏会に招待されていた貴族なのだろう。事件の時にちょうどボールルームの外にいて、被害を免れたのかもしれない。

「殿下、なりませぬぞ。信用できぬ者に陛下の治療など――」

「大臣」

 殿下が、大声で喚き散らす貴族男性の言葉を、ぴしゃりと遮る。
 冷静に、しかし自信に満ちあふれた声と表情で、殿下は言葉を続けた。

「私が彼女の身元を保証する。力のほどは、先程皆が見ていた通りだ。教会から聖女が派遣されてくるまで、まだ時間がかかろう……それとも、外務大臣は、それまで父上たちを苦しませ続けるつもりか?」

 話しながら、殿下は貴族男性――どうやら外務大臣らしい――の方へゆっくりと歩みを進める。

「で、ですが、だからと言ってそのような……!」

 赤ら顔でたじろぐ大臣の前を通り過ぎ、殿下は、国王陛下の寝ているソファーまで歩み寄った。

「父上。治療させていただいてよろしいですね?」

 王太子殿下は、陛下の元にひざまずき、尋ねた。

「……うむ」

 陛下は、苦しそうにしながらも、一部始終を見聞きしていたようだ。王太子殿下と、しっかり視線を合わせて、弱々しく頷いた。

 侍医が心配そうにしながらも一歩下がり、使用人や騎士たちは道をあけてくれる。
 先程殿下に反論していた大臣は、忌々しげにこちらを一瞥し、肩をいからせて部屋の出入り口へ向かった。
 ウィル様は、私のそばで大臣を警戒している様子だったが、彼が部屋から出ていくと警戒を解く。
 私に向けて柔らかく微笑むと、一歩横にずれて道を譲り、その場に控えた。

 私は、奥にいらっしゃる陛下の近くまで、ゆっくりと……しかし堂々と歩みを進める。ここで気後れしてはいけない、という思いが私を奮い立たせた。

 立ち上がって横に一歩ずれた王太子殿下と交代するように、私は陛下の目前にひざまずく。

「では、恐れながら、失礼いたします」

 陛下が再び頷いたのを確認してから、私は聖魔法を唱え始めた。

「――『浄化ピュリファイ』」

 聖なる光が、再び室内に満ちていった。
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