112 / 193
第五章 反撃の狼煙
3-32 魔法石研究所
しおりを挟む「――決めたぞ。私、王太子の名のもと、新たな組織を設けることとしよう」
王太子殿下は、自分のアイデアが気に入ったのか、何度も頷いている。
「魔法師団と魔法騎士団による、合同研究施設だ。王太子肝入りの『魔法石』を研究する施設で、魔法師団と魔法騎士団から有識者を数名ずつ招聘、独自に研究開発を進める」
「それは、魔法師団から『魔法石』の研究を切り離すということですか?」
「そうだ。そうすれば研究内容を秘匿しつつも、魔石の購入ルートを確保できる。『魔法石』の生成も、ミア嬢一人に任せるのではなく、聖女たちにも手伝ってもらえるだろう。魔法騎士団は彼らの護衛をしつつ、神殿騎士から秘伝を教わることが可能だ」
確かに、今後『魔法石』を世に送り出すつもりなのであれば、私一人で魔石を浄化したり、聖魔法を込めるのには限界がある。聖女の手は、多ければ多いほど良い。
「研究内容が極秘で、部外者の立ち入りを禁ずるという触れ込みをすれば、聖女たちの身を隠すのにも役立つだろう。仮に教会に気づかれても、魔法騎士団や魔法師団、王城内で匿うよりは大ごとにならない。どうだろうか」
「……それならば、魔法騎士団としては問題ありません。研究内容の保護のために、魔法騎士が常駐し、警戒していると見せかけることもできる」
オースティン伯爵は、王太子殿下に向けて頷いてみせた。殿下は満足そうに口角を上げる。
「魔法師団も、賛成です」
シュウ様は、言葉を選ぶように、ゆっくりと話し出す。
「私自身も、今回の事件とは関係なく、そろそろ『魔法石』の研究を、魔法師団から切り離すべきではと考えていました。最近、魔法師団内の一部の勢力が活発化してきたので」
「ああ、そうだな」
王太子殿下は頷く。魔法師団内の一部の勢力とは、シュウ様を師団長から引きずり下ろそうとする人たちのことだろう。
「それから……研究施設ということなら、研究責任者が必要ですよね?」
シュウ様は、なおも考えを巡らせながら、真剣な表情で、殿下に尋ねた。
「そうだな。表に立つ代表は私となるが、別で責任者を立てる必要はあるな」
「なら、お願いがあります。私を研究責任者として、推薦してもらえませんか?」
「それは心強いが……シュウ、そなたは魔法師団長という立場だ。兼任は難しいのではないか?」
「――魔法師団長は、辞任します」
シュウ様は、きっぱりと言い切った。
皆が各々に驚きの表情を浮かべ、室内は一瞬、水を打ったように静かになる。
「……いま、何と?」
「私は、魔法師団長を辞任します。所詮私は、前師団長の体調が回復するまでの、つなぎの師団長でしたから」
「……そうか」
やはり、聞き間違いではなかったようだ。
そして、シュウ様の意思も固いようだ――辞任については、以前から考えていたのだろう。
「わかった。引き抜きと言うことならば、後腐れもなく辞任できるか。その方がシュウにとっても良いだろうしな」
「ええ。次の師団長は、魔法師団内で仲良く話し合って決めてもらった方が、皆も納得するでしょう」
「まあ……だが、魔法師団長の人事ともなると、流石に私一人の判断では動かせん。施設の承認を貰うことができたら、その時に私から提案してみよう」
「ありがとうございます」
殿下の渋い顔と、シュウ様の安心したような、すっきりしたような表情が、対照的だ。
殿下は続けて、マリィ嬢たちの方へと向き直る。
「で、だ。聖女マリィよ、そなたはこの提案、どう見る」
「はいぃ、とっても嬉しいご提案ですぅ! ぜひよろしくお願いしますぅ」
「そなたも良いか? 神殿騎士の……」
「はっ。クロムと申します」
「クロム殿だな。貴殿はどう思うか」
「もちろん、俺は賛成です」
マリィ嬢とクロム様も、すんなりと提案を受け入れた。
「よし。形にはなりそうだな。では、これで承認を取ることとする。あとは魔法師団、魔法騎士団から、それぞれ信頼できる団員を数人引き抜く。人選は現団長の二人に任せよう。それから、ミア嬢……そなたも施設の職員ということでいいな?」
「えっ」
私の方にも突然話が回ってきて、思わず驚き、肩を跳ねさせてしまった。
「えっと、私も、参加してよろしいのですか?」
「ああ、もちろんだ。他の聖女もいるし、身の安全にさえ気をつけてくれるならば、教会のように行動を制限するつもりもない。もし引き続き研究に協力してくれる意思があるなら、そなたにとっても都合の良い隠れ場所だと思うが」
「ええ、私がお役に立てるなら、喜んで!」
このまま『魔法石』の研究を手伝うことで、たくさんの人の役に立てるなら、それは私にとっても喜ばしいことだ。
私が笑顔で返事をすると、殿下も満足そうに頷き返した。
「あとは……南の丘教会の聖女たちが減っていることを、できる限り長い期間、誤魔化さなくてはならない。マリィ嬢、クロム殿、上手くやれるか?」
「はい! 任せて下さいぃ!」
「ええ、俺はそういった工作は得意ですから。ご心配なく」
*
こうして。
新しい施設――『魔法石研究所』の設立に関する話は、その後もとんとん拍子に進んだ。
事前にそうなることがわかっていて、根回しでもされていたかのように、設立の承認もあっという間に下りた。
国王陛下は「正解だ」と言わんばかりに、満足気に頷いたとか。
施設の建物は、競売にかけられていた没落貴族の邸宅を購入し、利用することになった。
鍵を取り替え、魔道具による簡易結界と神殿騎士による結界を二重に貼り、家名の記された表札は、『魔法石研究所』と書き換えられる。
庭園には簡素な囲いが建てられる予定だ。その中に認識阻害と防音の魔法陣を敷けば、騎士たちの訓練場に早変わりする。
サロンは実験室、応接間は測定室、ライブラリーは資料室と化した。魔法師団から買い上げた中古の機器や資料が、続々と運び込まれていく。
執務室はそのまま、職員が執務を行う部屋に。客室やパントリー、ダイニングルームなどは、聖女たちと神殿騎士たちの生活空間になる。
目が回るようなスピードで準備が進められ、あっという間に聖女たちも護送される。
そして、研究所は王太子殿下の名のもと、所長として魔法師団からシュウ様を引き抜き、あれよあれよと開設された。
――ここに、教会と魔族への反撃の狼煙が、密かに上がることとなったのである。
*
そして――皆がその準備に奔走している頃。
私にようやく、ウィル様と二人で話をする機会が訪れた。
舞踏会の日、牢屋でウィル様が口にした、『前回』『今回』という言葉。
思い返せば、ウィル様は、折に触れて『今回は』とか、『もう二度と』とか、私の理解が及ばないことを口にし、行動を起こしていた。
その理由を、本当はもっと早く確かめたかったのだが、あれ以降ウィル様が多忙で、なかなか会えずにいたのである。
「……今日こそ、聞けるといいなぁ」
ようやくディナーの約束を取り付けた私は、オースティン伯爵家のテラスで、ウィル様の帰宅を待つ。
ひとりで眺める星空は、なんとなくいつもより暗い感じがして、私は少し心細くなった。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
いつもお読みくださり、ありがとうございます!
ここまでで、第五章『反撃の狼煙』は完結となります。
第六章は、七月末頃に連載再開致します。
次章では、ついにウィルが、ミアに逆行のことを話します! 順調に書き進めておりますので、お楽しみに♪
では、度々お休みしてしまい申し訳ないのですが、しばしお待ちくださいませ。
21
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる