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第六章 タイムリープと魔女の代償
3-33 多忙な理由
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連載を再開致します。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
ウィル様とようやくディナーの約束を取り付けた私は、オースティン伯爵家のテラスでひとり、ウィル様の帰宅を待っていた。
舞踏会が終わっても、私はいまだ、オースティン伯爵家に滞在させてもらっている。
同じ屋敷で寝泊まりしているというのに、例の舞踏会以降、ウィル様はとても忙しそうで、全然会う機会がなかった。
待つことしばし。
久しぶりに顔を合わせるウィル様は、疲れからか、前よりも少しやつれているように感じる。
「ミア、お待たせ」
「ウィル様……お忙しいのにご無理を言って、申し訳ございません」
「ううん、いいんだ。俺もミアの顔を見たいと思っていたところだよ」
ウィル様は、席から立ち目礼した私を、突然正面からぎゅっと抱きしめた。
「ウィル様……?」
「ああ、ミア。ここ数日、ずっとこうしたかった。好き……、好き」
ウィル様は、私を抱く力を強くして、肩の上に顔をうずめる。
彼はそのまま、すりすりと顔を動かす。さらさらの黒髪が頬を撫でてゆき、くすぐったい。
いつも以上に甘い声で、好き、と連呼するウィル様に、私は少しだけぎょっとした。
「ど、どうされたのです?」
「ううん……ここのところ、ミア不足だったから。しばらくこうしていてもいい?」
やはり疲れているのだろう。私はしばらく、ウィル様のしたいようにさせたのだった。
*
私がようやくウィル様に解放されたのを見計らって、給仕係が、ディナーを用意し始める。
前菜、スープ、メインと食事が進んでいく合間に、ウィル様は、ここ最近多忙だった理由を話してくれた。
「――魔法騎士団の通常業務に加えて、新しい研究所の準備にかり出されていたんだ。聖女たちをずっと王城に留めておくわけにもいかないからね」
確かに、傷病者の治療が終わったのに、ずっと王城内に聖女たちが留まっていては、怪しまれるだろう。彼女たちを安全な場所に移すのは、最優先事項である。
「とりあえず研究所の場所だけは確保して、魔道具や結界魔法で安全を担保したら、すぐに護送。それから屋敷の改修、改装……彼らの生活に必要な物資を揃えるのと同時に、研究用の資材を運搬。人事とか経理とか、そういうのは父上やアシュリー様、シュウさんが大急ぎで調整してるけど、とにかく人手が足りなくてね」
「まあ……そうだったのですね。言って下されば、お手伝いしましたのに」
「ふふ、ミアは優しくて真面目だね。そういうところ、好きだよ」
ウィル様はそう言って、優しい笑顔を向けてくる。
「でも、残っているのは力仕事と事務仕事だし、搬入さえ終わってしまえば、敷地内での力仕事は神殿騎士たちが率先してやってくれるから、大丈夫。まだ訓練施設も完成していないし、鍛錬がてら、身体を動かす仕事はちょうどいいみたいだ。――そうそう、聖女たちにも頼み事をしたんだけど、そちらはなかなか進まなくてね……」
聖女たちには、研究設備が整うまでの間で、聖魔法の一覧と使用方法を、資料としてまとめるように依頼したらしい。
だが、ここで問題が発生した。聖女たちの識字率が、驚くほど低かったのである。
「聖女たちは、生まれてからずっと教会の中。聖魔法も、生活に必要なことや簡単な歴史も、すべて口伝で教わってきたらしくてね。もちろん学園には通わないし、家庭教師も来ない」
私は、エヴァンズ子爵家の長女として教育を受けてきたから、問題なく文字を扱える。しかし、教会の聖女には、本を読んだり、手紙を書いたりする文化はなかったようだ。
「外部から入団してきた神殿騎士の方が、ずっと識字率が高かったんだ。けれど、これから研究を進めるためにも、彼女たちには読み書きや簡単な計算を勉強してもらわないと、困る場面が出てくる。だから、今は文字を扱える神殿騎士が、聖女たちに字を教えているところなんだ」
「あら? でも、ステラ様は手記を書き残して下さったけれど」
「クロム殿かジュード殿に教わったんじゃないかな。ステラ様は外での生活も長かったんだろう?」
「確かに、そうですわね」
言われてみれば、ステラ様の場合はいずれ外で生活することを夢見て、積極的に文字を教わっていた可能性もある。
「今後も、こうして想定していなかった問題が色々と起こってくるだろう。けれど、『魔法石』や聖魔法の研究が進めば、たくさんの人の命を救うことができるかもしれない。――それに、ミアの命だって」
「……私の、命?」
「……うん」
そのタイミングで、メインディッシュも終わり、デザートと紅茶が運ばれてくる。
ウィル様が合図をすると、給仕係は頭を下げて、テラスからいなくなった。
「ミア……その」
「……ウィル様……?」
ウィル様は、何かを言おうとして、言葉にならず、口を開けては閉じることを数度、繰り返した。
私は、彼の準備が整うのを、じっと待つ。新緑色の瞳が、暗く揺れている。
「――実は、今まで、きみに言えなかったことがあるんだ。隠していた訳ではないんだけど……話すのが怖くて、ずっと先延ばしにしていた」
強く深い不安と恐怖を浮かべるウィル様に、私は驚きつつも、頷いた。
視線を彷徨わせるウィル様が、時間をかけてゆっくりと言葉を紡ぎ出すのを、私は固唾を飲んで見守った。
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