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第一章 魔法石研究所と新たな力
4-2 氷麗の騎士、圧倒する
しおりを挟む私はシュウ様に連れられ、魔法石研究所内をあちこち見て回ることに。
実験室、測定室、倉庫……聖女たちの生活スペースを除いて全ての部屋を見て回り、残すは元々庭のあった場所――訓練場のみとなった。
訓練場は、大きなドーム型の囲いで空まで覆われていて、外から中を覗くことは全く出来なくなっている。
魔道具を利用して安全も保たれているので、結界を壊すほどの勢いで大暴れしなければ、音も揺れもなく安全だ。
「失礼するよ」
シュウ様が訓練場の扉を開けると、手前側には見学や休憩をするスペースが。そして簡易的な柵で区切られた奥には、もう一重、円形の結界が張られていた。
「所長、お疲れ様っす。それと、聖女様……あれ? 初めまして、っす?」
「こんにちは。ミアと申します、初めまして、騎士様」
目の前の男性は、白い騎士服を着ているから、神殿騎士だ。白銀の髪色だから聖女だと思ったのだろうが、南の丘教会で会ったことがないため、疑問形になったのだろう。
「彼女は南の丘教会の関係者ではない。新しい所員で、あそこで戦っているウィリアム君の婚約者だ」
「げっ、あの激強黒騎士さんの婚約者さん? 恋人の戦いぶりを見に来たんすか?」
「え?」
二人の言葉を聞いて、私は結界に囲まれた訓練スペースに目を向ける。
少し遠いし音もしないので気づかなかったけれど、確かにウィル様の姿が見える。黒騎士服のウィル様は、一人で、白騎士服を着た神殿騎士、五、六人と相対していた。
「ウィル様!?」
四方から襲いかかってくる神殿騎士たちの猛攻にも関わらず、ウィル様は腰に差した剣を抜くこともなく、冷静に回避し続けている。
しびれを切らした神殿騎士の一人が大きく剣を振りかぶった瞬間、ウィル様は一瞬で騎士たちの包囲を抜けた。
すると、それまで回避に徹していたウィル様が、ものすごい速さで剣を抜く。
彼がひとたび銀色の軌跡を描くと、何が起こったのかもわからぬままに、神殿騎士たちは一瞬で地に倒れ伏していたのだった。
「流石だな」
「もう、何度挑んでもああなんすよ。あれ、強すぎません?」
戦いが終了すると共に、円形の結界がふっと消え去る。
それと同時に、入り口側のスペースに待機していた神殿騎士が、ほうと息をついて着席した。どうやら彼が結界を張っていたようだ。
「――闇雲に攻めればいいというものではありません。攻撃が単調で大振りだから、簡単に避けられてしまうんです。何度も言っていますが、相手の表情、視線、筋肉の動き、癖、注目すべきところはたくさん――」
ウィル様は、息が上がった様子もなく、地べたに身を起こした神殿騎士たちに淡々と語っていた。
だが、至極冷静で爽やかなその顔が、こちらの方を向いた瞬間。ウィル様は言葉を止めて、ぱあっと花咲くような笑顔になる。
「ミア! 来ていたんだね!」
「ウィル様、お疲れ様です」
「もう話は終わったの? もしかして所内の見学?」
ウィル様は座り込んでいる神殿騎士の間をぬって、大股でこちらへ向かってくる。
休憩スペースとの境界に設置された低い柵を飛び越えると、満面の笑顔を振りまきながら、嬉しそうに私の手を取った。
先程まで鬼神のごとき強さを見せていたウィル様の豹変するさまを見て、神殿騎士たちが、一様にぽかんと口を開けている。
「ああ、ミアが見ていたなら、もっと派手な技で格好良く決めれば良かったなあ」
「い、いえ、充分すごかったですし、とても格好良かったですわ」
「本当!? 俺、格好良かった!?」
きらきらと目を輝かせるウィル様に、なんだか、ぶんぶん揺れる尻尾と犬耳が幻視されるような気がするのは、なぜだろう。黒い大型犬になつかれているような気分である。
「ウィリアム君、悪いけど後でやってくれ」
「あ、シュウさん、いらしてたんですね。お疲れ様です」
「……ああ」
……シュウ様はずっと私の隣にいたのだが。先程神殿騎士たちの猛攻をいなしていた人と同一人物とは思えない、視野の狭さである。
シュウ様は何とも言えない表情をしていたが、ひとつ咳払いをすると、気を取り直して私に話しかけた。
「さて、ミア嬢。研究所の案内はこれで終わりだ。もうすぐ聖女が一人来るはずだから、後は終業時間まで、こちらのスペースで聖魔法の練習をしてほしい。いいかな?」
「ええ。承知いたしましたわ」
「ウィリアム君。きみは訓練をそのまま続けてくれ。話の途中だったろう?」
「あ、そうでした……すみません、訓練に戻ります」
ウィル様はばつが悪そうに頬を掻いた。私にひとつウィンクを飛ばすと、シュウ様に一礼し、ちゃんと柵を手で押して出入り口から訓練スペースに戻っていく。
「では、何かあったら執務室へ来てくれ。よろしく頼む」
「はい」
そして、訓練場を後にしたシュウ様と入れ替わるように、南の丘教会の聖女が訪れた。
私は、聖女による指導のもとで、聖魔法の練習を始めることになったのだった。
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