氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留

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第一章 魔法石研究所と新たな力

4-3 『加護』の魔法

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 私はその後、訓練場を訪れた聖女に、聖魔法を教わることになった。
 ひとまず、今までに覚えてきた聖魔法を一通り、彼女に見てもらい、確認することに。

「ミアさんの聖魔法は、効果がすごく高いんだね」

「そうですか?」

「うん。詠唱も発動方法も私たちと同じなのに、何が違うんだろ」

 聖女はそう言って首をひねるが、答えは出なかったようだ。

「まだ力は残ってる?」

「はい、大丈夫です」

「だったら、残り時間も少ないけど、今日は『加護』の魔法を教えるね。やったことはないよね?」

「ええ」

「じゃあ、まずは『加護』の魔法の特性を覚えるところからだね。この魔法は、簡単に言うと自分以外の人に聖属性のバフを付与するものだから、一人では発動できない魔法なの。だから必ずペアで練習をするんだけど……まずは、ミアさんに私の『加護』をかけてみるね」

 そう言って聖女は、『加護』の魔法を唱え始めた。

「『加護ホーリーグレイス』!」

 聖女が詠唱を終えると、治癒や解呪の時に放たれるのと同じ、白い聖魔法の輝きが、私の身体全体を包み込んだ。
 なんだか肌の表面をさわさわと撫でられているような、奇妙な感じだ。少し鳥肌が立つ。
 肌に纏う、他人の力が何となく気持ち悪くて、私は心の中で、嫌だなぁ、と思ってしまった。
 その瞬間――。

 バリン!

 音を立てて、聖女の『加護』は壊れ、身体から全て剥がれ落ちてしまったのだった。

「えっ?」

「うーん、弾かれたかぁ」

 ――私が、無意識に何かしてしまったのだろうか。
 そう不安になって、私は聖女に謝罪した。

「ご、ごめんなさい」

「ううん、ミアさんが悪いわけじゃないんだよ。よくあることなの。この『加護』の魔法って、相性があるんだ」

「相性……ですか?」

「そう。神殿騎士にこの魔法をかけても、十人に三人には弾かれちゃう。聖力の相性かなあ?」

 身体に纏わりつく聖力が気持ち悪いと感じたのは、私と彼女の力の相性が良くなかったからなのかもしれない。

「これは聞いた話なんだけど、逆に百人いたら一人ぐらいは、想定以上の効果を発揮する場合もあるらしいよ。とにかく、私じゃあミアさんに『加護』をかけることはできなかったけど、こんな感じの魔法なの。詠唱を教えるから、覚えてね」

 その後、聖女から『加護』の詠唱を教わり、発動方法やコツなどをメモに書き留めたところで、終業時間となった。
 ウィル様はいつの間にか訓練場から出ていたようで、外の扉から入ってきて、私を迎えに来てくれたのだった。

「ミア、お待たせ。迎えに来たよ」

「ウィル様、ありが――」

「あっ、ちょうどいいところに! ミアさん、最後に、この人に『加護』をかけてみるから、ちょっと見てて」

「え? いや……俺は遠慮するよ」

 ウィル様は聖女が何をしようとしているのか察知したらしく、断ろうとしたが、彼女はもう詠唱を始めていた。
 彼は困ったように私に目配せをしたが、危害を加えるわけでもなければ、勉強になることでもあるので、私は頷いた。

「――『加護ホーリーグレイス』!」

 彼女が詠唱を終えると、ウィル様の身体が光に包まれる。
 光がおさまると、きらきらとした光の粒を身に纏ったウィル様が、不思議そうな表情で、自分の身体を確認していた。

「ふぅ、弾かれなかったぁ。私と騎士さん、相性悪くないみたいだね」

「相性……?」

 ウィル様は顔を顰めて、聖女の言葉を繰り返す。

「うん、そう。聖力の相性が悪いと、この魔法は弾かれちゃうの。逆に相性がいいと、しっかり『加護』が定着するんだよ」

 ウィル様は、後ろを向いて剣を抜き、素振りをしている。身体を動かす感覚も変わるのだろうか。

「ミアさん、これが『加護』の魔法だよ。帰る前にちゃんと見せられてよかった。――『解除クリア』」

 聖女が『加護』を解除すると、ウィル様の身体が強い光を放ち、纏っていた光の粒が消え去る。ウィル様は剣をおさめると、光が消えていくのを眺めていた。

「放っておいても、定着させた聖力を使い切れば『加護』は切れるけど、通常は『加護』と『解除』はセットだから、忘れないようにね。じゃあ私は戻るよ。ミアさん、またね」

「は、はい。ありがとうございました」

 そう言って、聖女は訓練場の扉から出て行き、室内には私とウィル様だけが取り残されたのだった。
 ウィル様は、聖女が出て行った方を見たまま、難しい顔をして顎に手を当て、何かを考えている。

「えっと……ウィル様……帰りましょうか」

「あ、ああ。そうだね」

 ウィル様はハッとしたように私を振り返ると、いつも通りに手を差し出し、馬車までエスコートしてくれた。


 馬車に乗り込むなり、ウィル様はカーテンを閉め、向かいに座る私に質問をした。

「ねえ、ミア。ミアも、『加護』を使えるようになったの?」

「いえ、まだやり方を教わっただけで、実践はしていませんわ」

「――なら、今すぐ俺にかけてみてよ」

「え? でも……」

「いいから」

「わ、わかりましたわ」

 私に頼むウィル様の表情はすごく真剣で、私は、覚えたての『加護』の魔法をさっそく唱え始めた。
 聖女に見せるために聖魔法をたくさん使ったので、少し疲れているが、聖力の容量にはまだ余裕があるはずだ。

「――『加護ホーリーグレイス』」

 祝詞の完成と同時に、私の聖力がウィル様を包み込み――、

「え……どうして……?」

 私の聖力は、音を立てて弾かれることこそなかった。
 しかし、ウィル様の身体にぐんぐん聖力が吸われていき、なかなか定着しない。

「こ、これは……?」

「どうして……? なぜ定着しないの……?」

 ウィル様は、驚いた顔で自身の身体を確認している。

「まさか……」

 魔法は、問題なく発動した。ということは、もしかしたら、聖女の言っていた聖力の相性というものが、悪いのかもしれない。

「ううん……、そんなの、いや」

 ウィル様と魔法の相性が悪いなんて、嫌だ。認めたくない。
 もしそうだったら、ウィル様が聖剣技を扱おうとするときには、別の聖女が彼のそばで――。

 私は、ウィル様に『加護』を定着させようと、さらに聖力を込めた。
 しかし。

「……どう、して……?」

「……っ、しまった、ミア!」

 私の聖力は、ウィル様に定着することなく、尽きてしまった。
 ウィル様の焦る声が耳に届くが、私の意識は遠のき、そのまま倒れてしまったのだった。
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