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第二章 魔女に会う方法
4-8 定期報告
しおりを挟むそれから数日後。
私は、ウィル様とシュウ様と一緒に、王城を訪れていた。研究所代表の王太子殿下への定期報告も兼ねており、今は応接室で殿下の到着を待っている。
ちなみに、今日は『加護』の魔法と聖剣技の実演をする予定もあり、私は昨日から聖力を温存していた。
「今日こそ、ウィル様に『加護』を定着させてみせますわ」
「ミア、張り切るのはいいけど――」
「わかっております。倒れないように制御しますから、ご心配なさらないで下さい」
私も、時と場合はそれなりにわきまえているつもりである。
躍起になって聖力を使い果たし、王城で倒れるなんて醜態をさらすわけにはいかない。
「ウィリアム君。きみの方こそ、聖剣技は修得済みなのか? あの後、ミア嬢の『加護』は受けていないのだろう?」
「ええ。ミアが『加護』をかけてくれた日の晩に、聖力を剣に宿す方法は身につけました。翌日、訓練場で神殿騎士に確認してもらい、彼らのお墨付きももらっていますよ」
「流石だな。神殿騎士の教えを請わず、自力で身につけたのか?」
「ええ、話だけは聞いていましたので。神殿騎士には驚かれましたが、聖力さえ自在に動かせれば、他属性の魔法剣と大差ありません。武器を通じて、宿っている魔法を瞬間的に放つことが出来るという点も同じ。ただ、聖魔法は回復・浄化の指向性を持つ力ですから、人間に対しての攻撃手段にはなり得ない。神殿騎士は、魔獣に向けて放つと、相手の動きを少しの間止めたり遅くすることが可能と言っていましたが、実際にどういう魔法効果を持つのか、直接見てみないとわかりませんね」
「なるほど。機会があれば試してみてもらいたいが、そう都合良く魔獣が王都近辺に出てくることもないからな。ところで、その浄化指向性と効果範囲の話だが――」
ウィル様は魔法のこととなると早口になる。私は聞いていてもちんぷんかんぷんなのだが、シュウ様は全部しっかり理解しているようだ。話題はより専門的で高度な内容に移っていった。
*
ウィル様とシュウ様が専門的な話をしていると、しばらくして、応接室の扉がノックされた。
王太子殿下と全身鎧の近衛騎士が室内に入ると、応接室の扉は閉め切られ、魔道具による防音処理がされる。
「待たせたな。前置きはいい、早速報告を聞こう」
全身鎧の騎士には、聞かれても問題ないようだ。殿下の信用する騎士なのだろう。
「では早速――」
シュウ様はテーブルの上に用意していた資料を広げ、これまでの研究の成果を王太子殿下に報告していく。途中で、魔法石のサンプルがいくつか入った包みを開けて殿下の前に置くと、殿下は興味深そうに手に取って眺めた。
「――報告は以上となります」
「ふむ。順調なようで、何よりだ。ところで、生成した魔法石の使い途は決まっているのか?」
「いえ。現在は、聖魔法を込めた魔法石を魔法騎士団に供与し、実戦で試用してもらうことを考えています。ただ、予算の面を考えると、ずっと無料で供与し続けることはできません。量産が可能になれば、魔法石の販売を検討する必要があります」
「そうだな。魔法騎士団への魔法石の供与は、認可しよう。試用期間が終わり、販売を開始する時期が近づいたら、販売価格や数量のコントロール、販売先などを検討する必要がある……その際はまた詳しい案を提出してくれ」
「承知致しました。それと、こちらのサンプルは王太子殿下に献上致しますので、お納めください」
「ああ、ありがたく受け取っておこう。感謝する」
王太子殿下は魔法石を包みの中に戻すと、全身鎧の騎士を手招きした。
騎士はすぐに呼びかけに応え、殿下の斜め後ろに控える。
「次は、『加護』だな。聞いた話によると、ウィリアム君に『加護』をかけるとイレギュラーが起こると。よって、まずは、こちらの騎士に『加護』をかけてみてもらいたい。ミア嬢、良いか?」
「ええ、もちろんですわ」
私は立ち上がると、全身鎧の騎士と共に、少し広い場所に移動した。
「騎士様、ご準備はよろしいですか?」
騎士が頷いたのを確認し、私は詠唱に入る。
「『加護』」
ウィル様にかけた時と異なり、『加護』の聖力は騎士の身体の表面をなぞるだけで、あまり吸い込まれていく感覚はなかった。むしろ、表面をコーティングしていくような感じだ。
以前、聖魔法を教えてくれた聖女が言っていた通り、聖力はある程度のところで注げなくなり、騎士の身体にパキッと定着したのだった。
「終わりましたわ」
私がそう告げると、全身鎧の騎士は、自身の両手を閉じたり開いたりして、まじまじと観察している。光の粒が、きらきらと辺りに舞っていた。
「これが……。どうだ、『加護』をかけられた感覚は?」
「ええ、身体を聖なる力に覆われ、守られているような感覚がございますわ」
「「えっ」」
騎士が話し出した瞬間、私とウィル様は驚きの声をあげた。全身鎧を着た騎士の声が、女性のものだったからだ。
シュウ様はわかっていたようで、特に驚きを示していない。
「身体も軽く、力が湧いてくるようですわ。これが『加護』の力なのですね――守られながら力を底上げされているような安心感がございますが、長時間になると、心身に負荷がかかりそうです。わたくしでしたら、一刻もしたら疲れて動けなくなってしまいそうですわね」
「そうか、わかった。ミア嬢、『解除』を」
「は、はい」
私がすぐさま『解除』を行うと、女性騎士は、マントをつまみ、優雅にカーテシーをしたのだった。全身鎧はかなり重いはずなのだが、彼女は相当な筋力を持っているようだ。
「協力ありがとう、アンリエッタ」
全身鎧の騎士は、再び応接室の扉前に控えた。
――ん? アンリエッタ様って、確か……。
「ミア嬢、次はウィリアム君に『加護』を。聖剣技も見てみたい」
「承知致しました」
もう少しで何かを思い出しそうだったが、殿下に声をかけられて、私は考えを中断した。
「ミア、無理はしなくていいからね」
立ち上がって、耳元で囁くウィル様に頷き返すと、私は『加護』の詠唱を始める。
やはり、ウィル様に対して『加護』をかけると、聖力がぐんぐんと吸い込まれてゆく。表面にあふれそうな気配は感じられなかった。
「もう大丈夫だよ」
「――はい」
また、定着まで行かなかった。けれど、今はこれで充分だ。
「では、聖剣技を実演しますね」
やはり、身体から光の粒が自然とあふれてくることもない。
ウィル様は、刃のない木製の棒を手に取ると、聖力を身体からスムーズに移行させていく。
手の中の棒は、ただの木の棒とは思えないほど、白く神々しく輝き出した。
シュウ様も王太子殿下も感嘆の声をあげる。ウィル様は、そのまま魔法剣との類似点など、いくつか説明をし始めた。
「――説明は以上となります。最後に、武器を手放した場合をご覧いただいて、終わります」
最後にウィル様が棒をテーブルに置くと、彼の手が離れた瞬間から、ヒビが入るようにして光の粒がこぼれはじめ、光る棒はただの木の棒に戻ったのだった。
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