156 / 193
第一章 変わりゆく王国
5-2 いってきます
しおりを挟む先のクーデター関係者の処遇、ガードナー侯爵の現状、そしてシュウ様の婚約。
私たちが王都を離れていた一ヶ月あまりの間に起こった大きな出来事を、あらかた聞き終わると、次は私たちが話をする番となった。
王都に帰還する際に泊まった宿から魔法通信を入れたり、事前に報告書を作成、手配したりしていたので、話はスムーズに進む。
魔女がその身をもって魔王の呪いを封じ込めていること。
私とウィル様、魔法石に込められた聖力を全て合わせても、呪いを解くには力不足だったこと。
シナモン様が連絡要員として、魔女の館に残ったこと。
クロム様が水竜の湖付近の街に滞在し、その傍ら、ステラ様たちの行方を追っていること。
「――報告は以上となります」
「おおむね報告書通りだな。クロム殿の所属は魔法石研究所預かりだから構わないとして、シナモン嬢の件は、魔法騎士団に報告したのか?」
「ええ。父――魔法騎士団長は、『勝手なことを』と呆れていましたが、必要性も理解してくれました。もちろん、魔女の件、魔王の呪いの件も報告済みです」
「そうか」
先程までと一転、すっかり仕事モードに切り替わったシュウ様は、報告書から目を上げる。そうして、ウィル様を、いつも通りの理知的な瞳で見据えた。
「それで――ウィリアム君は、この研究所の、今後に向けての課題をどう見る?」
「魔法石研究所にしていただきたいことは、通常の研究業務に加え、聖魔法『解呪』を込めた魔法石の量産。そして、聖女たちと騎士たちの訓練を続けていくこと。すなわち、おおむねこれまで通りに活動すれば良いかと思います。――ただ」
ウィル様は、一度言葉を切ると、顎に手を当てた。そうして、考えをまとめるように、話を続ける。
「魔法騎士団は、これから……いえ、すでに、ですが……、今までに輪をかけて多忙になるでしょう。魔王が関わっているとなれば、王国にとって一大事ですから」
勇者も、大聖女も、英雄も、今はもういない。賢者も、灰の森から動けない。
そして、力を貸してくれる聖獣たちも、当時に比べてかなり減ってしまったという。
魔王が復活してしまえば、次はもう、止めることができないかもしれない。
「魔王の復活を阻止するためにも、魔女の館に、できる限り多くの聖女たちを送り込まねばなりません。そのために、協力してくれる聖女たちの確保と、安全の担保が必要となります」
「ああ。そうだな。それも、なるべく早急に、だ」
「ええ。魔法騎士団は、魔獣退治などこれまでの業務に加えて、教会への捜査や、姿を消した魔族の捜索――猫の手も借りたい状況です」
教会の上層部は、これまでの状況証拠からして、確実に魔族と関連がある。
そして、魔族の望みはおそらく、魔王を復活させることだ。魔族が聖女に直接手を下すには危険が伴うため、時間をかけてその力を弱体化させることを狙ったのだろう。
魔族が王弟殿下に働きかけて、戦争を起こそうとしたのも、おそらくそれが関係している。聖女が教会の外――前線に出れば、魔獣や隣国の兵士をけしかけて倒せる可能性が上がるからだ。
死の山に住む魔女にも攻撃の手は及んでいない。それは、聖獣たち――主にドラゴンたちが彼女を強固に守っているからだと、魔女は推測している。
魔族には、聖力を込めた攻撃でしか致命的なダメージは与えられない。普通の人間程度の攻撃は、魔族にとっては痛くも痒くもないという。
しかし、聖獣や、人間の中でも特に強い者の繰り出す高火力の攻撃ならば、存在を滅することこそできないものの、ダメージを負わせることは可能らしい。
魔族もドラゴンたちの強さを知っているから、直接魔女に手を出そうとは思わないのだろう。
ただ、裏を返せば、聖獣たちの守護が及ばない場所――死の山からある程度離れている地点では、魔族に襲われる危険性があるということだ。
「教会の問題を解決し、聖女たちを納得させる。それだけでなく、彼女らが狙われることのないよう、安全確保も必要……そのために、魔族や魔獣の脅威を取り除かなくてはならないということだな」
「ええ。特に、魔女の元に向かう途中は、どうしても警備が薄くなる。聖女たちが結界に囲まれた教会内にいるときよりも、移動中を狙う方が、魔族にとっては圧倒的に楽ですからね」
聖女は闇魔法によって起きた異常を治すことはできるが、魔法や魔獣の攻撃を防ぐことができるわけではない。
訓練を積んだ一人前の聖女であれば、結界を張らなくとも、闇魔法による干渉はある程度吹き散らすことも可能だ。しかし、物理的な干渉――具体的には、魔獣の爪や牙、属性魔法や武器で襲われたら、普通に傷を負う。
結界魔法や、魔獣避けの魔道具があるとはいえ、大人数での移動には警護に綻びが出やすく、危険が伴うだろう。
「とにかく、今後は、魔法石研究所に人員を割くことが出来なくなる可能性が高い。つまりこれから、この研究所と聖女様たちを守れるのは、神殿騎士たちだけになります。ですから、現状の魔法騎士ありきの警備体制ではなく、人員配置を見直す必要があると考えます」
「そうだな。神殿騎士たちの配備に関しては、早急に再考しよう。ウィリアム君も、魔法騎士団に戻るのか?」
「はい。今日も、これから詰め所に向かう予定です」
シュウ様の問いかけに、ウィル様は首肯した。
「そうか。寂しくなるが、頑張れよ」
「ええ。シュウさんも、お元気で。ミアを、よろしくお願いします」
ウィル様は、私の方を見て、寂しそうに微笑んだ。
今後は、ウィル様は魔法騎士団、私は魔法石研究所と、別々の場所で過ごすことになる。
とはいえ、私は今もオースティン伯爵家に泊まらせてもらっているので、業務後や休日になればすぐに顔を合わせることができるのだが。
「――ああ。ミア嬢も含めて、こちらにいる聖女たちは、必ず守ると約束しよう」
「ありがとうございます。――ミア」
「はい」
「その……、気をつけてね」
ウィル様は、心配そうに私を見つめたかと思うと、結局一言だけ告げた。
私は、口元をほころばせる。きっと、最近はほとんどの時間を一緒に過ごしていたから、少しでも離れると心配なのだろう。
まるでお子様扱いのようにも思えるけれど、それは、不器用なウィル様の、精一杯の愛の形なのだと、今はもう知っている。
「――ええ。ウィル様も、お仕事頑張って下さい。どうか、無茶なことはなさらないで」
「うん。ブラン、ミアのことを頼むよ」
「きゅう」
ウィル様は、耳を立てて会話を見守っていたブランを床から抱き上げると、私の腕の中に預けた。
従魔は主人と念話が使えるし、ウィル様は潜入捜査などにも駆り出されることになる。
そのため、ブランは私のそばに置いておく方が安心だと判断し、ブランにも了承を得たらしい。
「じゃあ、今までお世話になりました」
「ああ。またいつでも訪ねてこい」
「ウィル様、いってらっしゃいませ」
「……ふふ。いってきます」
ウィル様は私に柔らかく微笑むと、マントを翻して事務室から出て行ったのだった。
16
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる