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第二章 二度目の旅路
5-11 作戦会議
しおりを挟む「その作戦というのは?」
『あのね、それはねぇ……』
私たちは、オルとルトをじっと見つめて、言葉を待つ。
しかし――、
『ぼくたち、よく知らないんだぁ』
期待に反して、返ってきたのはそんな回答だった。
「し、知らないの?」
『うん。ごめんねー』
『ぼくたちは、できるだけたくさんの魔獣を連れて、聖女たちが乗った馬車を襲えって命令されたんだ。作戦の最初を飾る、大切な役目だって』
『作戦の目的も、なんにも聞いてないんだ。それに、あたしたちは先遣隊だったから、この後の流れとかも知らないの。ごめんね』
「そっか……」
知らないのなら仕方がないとはいえ、私は思わず肩を落とした。
『あ、でもでも、頭数だけでいったら、ぼくたちが最大戦力だったはずさ』
私の期待に沿えなかったと思ったのか、二匹は、慌てて知っている情報を話してくれた。
ブランの時もそうだったが、浄化した魔獣は、どうもその聖女と騎士に恩義を感じるらしい。オルとルトも、もはや魔族側ではなく、私たちの味方をしてくれるようだ。
『えっと、アイツの元に残ってるのは、一昨日突撃した数の半分ぐらいかな? 低位、中位の魔獣と……』
『個々の強さが僕たちと同じか、それより強い、高位魔獣たちが何匹か』
「オルやルトよりも強いの?」
『うん、ぼくたちよりずっと強い個体もいるよ』
『頭が鶏で胴体が蛇の、猛毒を持った魔獣とか。石化の魔眼を持つ、一つ目の水牛とか』
「うわあ、強そうね……」
猛毒や石化など、聞くだけで恐ろしい。『解毒』や『浄化』で、治しきれるのだろうか。
――どちらにせよ、私たち聖女のサポートも、今後の戦いではさらに必要になってきそうだ。
「それに加えて、半分とはいえあの魔獣の群れが来たら……私たちにも、治しきれないかもしれないわ」
一昨日の戦いでも、死者こそ出なかったものの、かなりギリギリの戦いだった。魔獣の群れに加えて、強力な魔獣が何体も出てきたりしたら、少なからず被害が出てしまうだろう。
『それは大丈夫かも』
しかし、オルとルトは、私の懸念をはっきりと否定した。
『強い奴らが攻撃すると、他の魔獣たちも巻き込んじゃうの。だから、来るなら一匹ずつ当たってくると思う』
『ぼくたちみたいに群れで戦うタイプは、高位魔獣では逆に珍しいんだよ』
『とはいえ、アイツら、一匹ずつでも強いんだけどね』
『どこで襲ってくるかはわからないけど、一昨日の戦いの結果を見て、次の手を考えてると思うな』
「そっか……」
そこでようやく言葉を発したのは、ブラン経由で二匹の話を聞いていた、ウィル様だった。
「……来るとしたら、死の山に入ってからだろうな」
「山に入ってから? どうしてですか?」
「あの山は、馬車では進めない。かといって、パーティーを分断して水竜に何往復もして運んでもらうのも、相応の危険が伴うし……そもそも現実的ではない」
私は、頷いた。水竜は、私たちを運んでくれた天竜と同じぐらいの大きさだ。一度では、多くても五人程度しか運べない。
「――もちろん、魔女に下界へ降りてきてもらうわけにもいかない。つまり、守りが一番おろそかになるのが、死の山に入った後なんだ」
「なるほど……」
「特に危険なのが、視界が悪いガス地帯と、魔女の館直前の、二箇所だ。ブランは苦しそうにしていたが、毒を持つ魔獣なら、毒ガスにも耐性を持つ可能性がある」
「確かに、ガス地帯は危険かもしれませんわね。ですが、魔女の館直前というのは?」
魔女の館の手前は、開けた石灰棚の地形だ。むしろ魔獣を迎え撃つには適しているように思える。
それに、巨大鳥やその傘下の獣たち、聖獣たちや、漆黒の天竜もいる。逆に、そこまで行ってしまえば安全なような気がしなくもないのだが。
しかし。
ウィル様は、それに答えず、私に質問を投げかけた。
「――奴らの最大の目的は、なんだと思う?」
「目的……ですか?」
「ああ。俺は、『紅い目の男』の最終目的は、魔王の復活にあると思う。今まで、奴は自分が傷つくことを避けるために、婉曲的な方法をとってきた。だが、ここに来て策のほとんどが潰されてしまい、なりふり構っていられなくなっているのだろう」
「ええ。そうですわね。だからこそ、私たちを道中で止めるために、魔獣を集めて襲ってきたのでしょう?」
ウィル様は頷く。
「その通りだよ。それで、最大戦力である双頭犬軍団を当ててきたけれど、襲撃は上手くいかなかった。後に残っている魔獣は、個々の力こそ大きいが、連携のできない奴ら。なら、いかに強力だろうと、後方からの聖女の支援がたくさんついている俺たちを、普通の方法で破ることはできない」
ウィル様は、自信たっぷりに言い切った。
一対多であれば、一昨日のように致命傷を負う前に下がって回復する、ヒットアンドアウェイ戦法が有効である。
それに、毒や魔眼など、敵が何をしてくるかがわかっていれば、結界や魔法で、ある程度防ぐことも可能だ。魔法騎士団なら負けないという自信があるのだろう。
「となると、だよ。魔族側は、魔女に致命傷を負わせることで、魔王を復活させることができる。なら、聖女たちが通るために地竜がウロボロスを解除するのを見計らって、天竜を強力な魔獣に引きつけさせ、その隙に魔女の館に潜入するのが一番簡単だと思わない?」
「……! そうかもしれません」
むしろ、そう言われたら、考えれば考えるほど、それが魔族側にとって最善の策なのではないかと思えてきた。
だが、そうなると、もう一つ疑問点が湧いてくる。
「でも、それだったら、こちら側の戦力が整っている今ではなくて、これまでいくらでもチャンスがあったのではありませんか? 魔族なら、地竜が自らウロボロスを解くのを待たなくても、ウィル様のように無理矢理超えていくことができるのでは?」
「……うん。可能だろうね。でも、今までそうしなかったのは多分、優先順位の問題だよ」
「優先順位?」
「聖女たちの力を確実に削いでおかないと、魔王が復活したとしても、再び倒されてしまう可能性があるだろう? だから、魔女の元を訪れることよりも、聖魔法と聖剣技の弱化を優先したんだ」
聖女が外に出られない仕組みを作り、神殿騎士に制約魔法をかけて『加護』のイレギュラーが発生しないようにする。
魔族の数が減り、聖女たちの数は増えているのだから、ひとりひとりの力が弱くなっていたとしても、数で立ち向かってきたら、魔王に対して充分な脅威になると考えたのだろう。
「そして、その目論見は途中までうまくいっていた。俺が時間遡行する前は、完全に奴の思い通りにことが運んでいたんだろう――その最終段階がおそらく、魔族にとって最後の脅威である、魔法騎士団の殲滅だったんだ」
ウィル様は、何かを思い出したのだろう。
そう言って眉を寄せ、苦しそうな表情をしたのだった。
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