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終章 氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む
5-36 氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む
しおりを挟む約束の日を迎えたあと、ウィル様は魔法騎士団を退団した。
魔力が弱くなり、強力な魔法を発動することができなくなってしまったためだ。
団員は皆驚き、惜しまれながらの退団となった。
その後、ウィル様が何の仕事に就いたかというと――。
「――皆様、お久しぶりです。初めましての方は、初めまして。このたび、シュウ所長の後を継いで、魔法石研究所の所長を務めさせていただくことになりました、ウィリアム・ルーク・オースティンと申します」
魔法石研究所の事務室。
室内の一番奥で、黄金色の髪を煌めかせ、堂々と挨拶をするウィル様に、ぱちぱちと温かい拍手が贈られる。
前任の所長であるシュウ様から、ウィル様に花束が贈られると、一層大きな拍手が鳴り響いた。
シュウ様はリリー様と婚姻を結び、再び魔法師団長の役職に就くことが発表されている。
なんでも、シュウ様が退任したあと、魔法師団内での派閥争いがさらに激化し、傷害事件まで起こってしまったそうだ。
結局、シュウ様が呼び戻された形となるが、もう彼に反発するような者は、魔法師団には残っていない。
それから、リリー様は隣国へは帰らず、こちらの王国で、シュウ様と一緒に暮らすことが決まったようだ。
――その際リリー様は、隣国から一人の奉公人を引き取り、従僕として採用したのだという。
なんでも彼は、特殊な出自を持つが犯罪に手を染めて、奉仕活動に出されたばかりの男らしい。
緑色の髪と瞳を持つ彼は、奉公人として一生どこかで働かされることが決まったその日にすぐ、魔法師団長の関係者を名乗る、白い騎士服を着た男性に引き取られていったそうだ。
「――そして、本日から、新しい役職が増えました」
続くウィル様の言葉に、私は思考を中断して前を向く。
「まずは、副所長。就任するのは、研究主任としてずっと当研究所に勤めてくれていた、カスターです」
「皆さん、改めてよろしくお願いします」
カスター様は一歩前に出て、頭を下げた。
「副所長以下、新たに各部署の長を紹介します。まずは、カスター副所長の後を継ぐ、研究部の主任ですが――」
そうしてウィル様の口から、研究部、総務部、魔法部、騎士部の主任が紹介されていく。
「最後に、聖女部の主任です。――ミア」
「ミア・ステラ・エヴァンズでございます。皆様、どうぞよろしくお願い致します」
私が頭を下げると、皆温かい拍手で受け入れてくれたのだった。
「ちなみに彼女は私の婚約者です。粉をかけるのは禁止です。もし破った場合は、身をもって聖剣技の威力を体験していただくことになりますから覚悟を――」
「ちょ、ちょっと、ウィル様!」
余計なことを言うウィル様を私が止め、事務所内に笑いが巻き起こった。
ウィル様は魔力こそ大半を失ったが、磨いてきた剣術も健在だし、聖剣技は今も変わらず扱える。
「――さて、挨拶はこのぐらいにして、早速仕事にとりかかりましょう。何かあったら、何でも相談してください」
ウィル様がそう告げると、皆明るい顔で、ぱらぱらと事務所から出て行った。
「ミア、今日からまた、一緒に働けるね」
「ええ、そうですわね」
私たちも、話をしながら、扉で仕切られた所長室の中へ入っていく。
二人きりになった途端、ウィル様は真剣な顔で私に向き直る。
「どうだった? 俺、いい所長になれるかな?」
「ええ、きっと。皆様の表情を見ておりましたけれど、だいぶ好感触でしたわよ」
「そうか……一安心だな」
「ふふ」
そう言って、ふうとため息をついたウィル様には、もうかつての氷のような面影はない。それは私の前だけではなく、他の人の前でも、だ。
彼はきっと、良い所長になるだろう。
「それにしても、ウィル様、本当に変わりましたわよね。私たちの仲が険悪だったときと比べたら、別人のようですわ」
「そうだね。俺は、この三年間で、とても大切なことを学んだよ」
「大切なこと?」
「そう。――伝えることはとても大切で、けれどひどく難しいんだ」
ウィル様は、昔を思い出すように、天を仰いで目を細める。
「伝えようとする努力。歩み寄ろうとする努力。人を信じようとする努力。互いに知ろうとする努力。それに――自分の心と、大切な人の心と、素直に向き合う努力」
彼は、私と真っ直ぐに向き合った。
「だから、何度でも言う。何度でも伝えるよ。俺の想いがきみに伝わるまで、何度でも何度でも――」
氷なんか全部溶けてしまいそうな春の笑顔を浮かべて、彼は私を見つめる。
言葉になんてしなくても、この微笑みが、全てを物語っていた。
けれど。それでも。
「愛しているよ、ミア」
――わかっているからいいだろう、ということではない。
心の中だけでは、不十分なのだ。言葉も、態度も、すべてが大切な要素で。
いつでも、何度でも、私にも彼にも必要なこと。
「――私も、愛しています。ウィル様」
形にしたその言葉に、彼の口元が、さらに甘く、やわらかく綻ぶ。
それと同時に、深い口づけが、私を絡め取っていく。
「ミア……」
「ウィル様……」
長い口付けが終わり、ウィル様は私をぎゅうと抱きしめた。
私も、彼に応えて、その背にそっと腕を回す。
「――大好き。もう、離さない」
「ふふ。私もです」
私を抱く彼の腕に、力がこもる。その力も、熱も、香りも、何もかもが愛おしい。
もう、私たちがすれ違うことはない。
何か大変なことがあったとしても、喧嘩をしたとしても、私たちはもう大丈夫。
大切なことを忘れなければ、私たちはいつでも、甘い笑顔で、素直な言葉で、大きな愛で、互いを信じ愛し合っていける。
私は、彼からそっと身体を離して、顔を上げる。
――大好きな彼は、私だけを見つめて、甘く甘く微笑んでいた。
氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む・完
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