ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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第一章 目覚めたら吸血鬼……!?

5、カルチャーショック

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「おはようございます、姫様」
「おはようございます、メルム」

 夕日が沈んだ頃に起きて、「おはよう」と挨拶を交わすことに、妙な違和感を感じていた。しかし体はこちらの方が馴染むようで、よく寝てスッキリした感覚が心地良い。
 月明かりが、太陽のように感じるなんて不思議ね。

 ほぼ一年間寝たきりだった身体は、最初の数日、思うように動かなかった。けれど吸血鬼となって身体能力が上がったおかげか、人間の時とは比べ物にならないくらいその回復力は早かった。

「それでは姫様、お着替えしましょう。どのようなドレスが好みですか?」

 クローゼットにズラリと並べられた、煌びやかなドレスの数々。

 め、目がー!
 眩しくて思わずその輝きを手で遮る。

「あの、これって……」
「勿論姫様のドレスですよ」

 日替わりで着替えても、最低一ヶ月はかかるだろう枚数のドレスがそこには用意されている。
 最初に目覚めた時も、まるでお姫様が着るようなナイトウェアを着せられていた。それは毎日、メルムが渾身的に世話をしてくれていたからだと後で知った。

「お気に召すものがございませんか? それならば、すぐに追加で……」
「このドレス! このドレスすごくいいですね!」

 これ以上追加されたらたまったものじゃない。咄嗟に私は一番近くにあったブルーのドレスを掴む。

「姫様にとてもお似合いの素敵なドレスですね。では次は、靴と装飾品を──」

 高級感漂う靴と装飾品の数々に、あまりにも眩しすぎて私は直視出来なかった。

「あの、似合うものをメルムが選んでくれませんか? その、私、あまりセンスには自信がなくて……」
「かしこまりました! 姫様にお似合いの一品を、このメルムがしっかりと選ばさせて頂きます!」

 こうしてメルムの手によって綺麗に飾り立てられた。鏡に映る自分を見て、まるで別人だと思わずにはいられなかった。
 髪は綺麗に結い上げられ、顔には化粧を施されている。先程私が適当に掴んだブルーのドレスに合うようメルムが選んでくれた靴と装飾品がマッチし、統一感のあるお洒落な装いに大変身していた。まるで良い身分のお嬢様にでもなったかのように。

 背筋がピンと引き締まる。
 よ、汚さないようにしなければ!

「それでは姫様、お食事にしましょう」

 ティーカートに乗せられてきたのは、一見するとワインのような瓶とグラスだった。

「右から順に、新鮮な若鳥ブラッドに厳選された子牛ブラッド、高位吸血鬼の混合ブラッドになります。そしてこちらは──」

 説明を聞く限り、とりあえずこの瓶に入っているのが全て何かの血液だという事は分かった。

「それとも、私の血を飲まれますか? 姫様の一部にしてもらえるのならこのメルム、一片の悔いなしでございます!」

 頬を赤らめてそんな事を言うメルムに、私は即答した。

「いえ、その若鳥ブラッドを下さい」

 残念ですというメルムに呟きは聞かなかった事にした。

 フォルネウス様に頂いた血は確かに美味しかった。でも誰かの皮膚を傷つけてもらうのには、どうしても抵抗がある。

 メルムはそれで良くても、私は嫌だ!
 瓶詰めの血液があって良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。

 若鳥ブラッドをグラスに注いでもらい、一口飲む。

 うっ、何これ?!
 腐った卵のような味がした。
 しかし、吐き出すわけにもいかず、必死にこらえて飲み込んだ。二口目など、飲めるわけがなかった。

「姫様、顔色が……」
「あまり、好みの味ではなかっただけです」
「でしたら違うのにしてみましょう」

 一口ずつ、色んな血を飲んだ。しかしどれもこの世のものとは思えない、不味さだった。
 折角用意してもらった食事を不味いなどと言えるわけがなく、必死に飲み込んだ。

「お、おごちそうさまでした。色んな味を堪能できて美味しかったです」
「それはよかったです! どのブラッドがお気に召されましたか?」
「これ……かな?」

 用意された血の中から、一番マシな不味さの瓶を指差して答える。

「かしこまりました。では次回からこちらを多目にご準備させて頂きますね」
「は、はい……ありがとうございます」

 それからメルムは、毎日数種類のブラッドボトルを用意してくれた。

「今日は城下で今話題の新鮮な羊ブラッドと、西部地方で大人気の新鮮な牛ブラッドを取り寄せてみました!」

 私が美味しいといったブラッドに追加で、古今東西から取り寄せた話題のブラッドを数種出してくれる。しかしそのどれもがとても飲めたものじゃなく、一口だけ口に含んで何とか飲み込むのが精一杯だった。

 私が飽きないようにと、メルムが気を遣ってくれているのがよく分かる。それに居候の身分で食事が不味いなんて贅沢を、言えるわけがない。

 幸いなことに、食事とは別にあるティータイムで喉を潤す事は出来た。添えられたスイーツを食べれば、多少はお腹も満たされる。ほのかな甘味を感じる程度で人間の時ほど美味しさを感じる事は出来ないけれど、あの不味い血を飲むよりはよかった。

 だけど、次第に体に力が入りづらくなってきた。私、吸血鬼としてやっていけるのかしら。どうしよう、不安しかない。
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