ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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第二章 目指せ、一人前の吸血鬼!

16、背負う者(フォルネウス視点)

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 ここ数ヵ月、リグレット王国において蒼の吸血鬼の被害が急増していた。狙われているのは王都から離れた地方の田舎町に集中している。何れも自我を失った吸血鬼が無作為に暴れまわり、人々に危害を与えていた。

 吸血鬼に噛まれた人間は吸血鬼となる。大抵は致死量の血を吸われ絶命することが多い。しかし運よく行き長らえた者は、正しい処置を行わない限り、血を欲する衝動に抗うことは難しく放っておけば無作為に人を襲う恐ろしい存在となる。

 飢えた獣のようになっている生まれたての吸血鬼が、その欲を抑えることは困難で、手した獲物の血は一滴まで残さず啜るのが普通だ。そのため、元凶となる吸血鬼を討伐すれば人々への被害は抑えられるはずなのだが、ここ数ヵ月は討伐しているにも関わらず異様に自我を失った吸血鬼の数が増え続けている。

 裏で意図的に人間を吸血鬼にしている黒幕を倒さない限り、とかげの切れた尻尾を相手にしているのと変わらなかった。かといえその尻尾を放置すれば、人々が犠牲になる。

 捜索に戻ろうとした時、ポータブルコールで連絡が入った。
 
『若! シオンが交戦中に怪我を負って片足を失った。あの強さは間違いない。シオンをやったのは、失踪していた女帝に匹敵する力の持ち主だ』

 女帝に匹敵する力、か。

 蒼の吸血鬼達の中にも階級がある。力で相手を支配するのが当たり前の蒼の吸血鬼達の世界は、弱肉強食だった。
 野心家は常にトップの首を狙い皇帝の座を奪ってきた。そうして幾度となく皇帝が移り変わる中、強大な悪の思想を持つ皇帝アザゼルが誕生した。

 そんな強大な力を持った皇帝アザゼルには三人の下僕が居た。皇帝は下僕達を競わせて人々を襲っていた。

 およそ百年前、その皇帝アザゼルを仕止めた女の吸血鬼が居た。皇帝の一番のお気に入りだった下僕の吸血鬼パメラだ。

 皇帝をはるかに凌ぐ力を手に入れたその吸血鬼パメラは女帝と呼ばれ、次の皇帝になるはずだったが、誰に何を命令することもなく姿をくらませた。

 絶対的な権力者を失くした蒼の吸血鬼達はその後、散りじりとなり各々が好き勝手に過ごして現在に至る。

『ガブリエルはシオンを連れて一旦城に戻れ。女帝の捜索はこちらで続けよう』
『分かった。後は頼んだぜ。若、見つけたら呼んでくれよ』
『ああ、分かった』

 ポータブルコールで送られてきた位置情報を視覚的に確認した俺は、ただちに現場へと向かった。鼻のきく獣に変化し、現場に残された歪な魔力の残り香を辿っていく。
 やがて辿り着いたのは、アリシアの故郷の村だった。その村に足を踏み入れた瞬間、歪な魔力の残り香が、まるで浄化されたかのように綺麗さっぱり消え去ってしまった。

 何が起こった?

 目立たないよう鳥へ変化し、村の中を捜索した。しかし、女帝の姿や気配はどこからも感じられない。村を去ろうとした時、とある民家から男女の言い争う声が聞こえてきた。

「ねぇ、フレディ。おかしいの、どこを探してもアリシアが居ないの。きっと、どこかで寂しがって泣いているに違いないわ。早く見つけてあげないと!」
「レイラ、アリシアはもうここには居ないんだよ」
「嘘よ! そんなの、嘘に決まってるわ!」
「君も見ただろう。あの晩、アリシアの遺体は吸血鬼達が持ち帰った。もうここには、居ないんだよ」
「アリシアは生きてるわ! 寂しがって泣いているの、私には分かるわ!」
「もしそうだとしても、アリシアはもう人間ではなくなってしまった。一緒には、居られないんだよ」
「……っ、アリシア……っ!」

 病的に泣き叫ぶ女性と、彼女を慰めながら疲れきったように暗い顔をした男性の姿がそこにはあった。
 それ以上、その二人の姿を見ていられなかった。どうやらそこは、アリシアの姉レイラと、彼女が思いを寄せていた相手フレデリックの新居だったらしい。
 あの事故から既に一年以上が経っている。それでもなお、人の心に残った傷はそう簡単に癒えるものではないと、ありありと見せつけられた。

 すまない……

 本当は目の前に姿を現して謝罪すべきだろう。だがあの状態の姉レイラの前に姿を現したら、さらにその悲しみを助長させるだけだ。

 吸血鬼が理由なく人の住まう国へ滞在すれば、ヴァンパイアハンターによって討伐されても文句は言えない。そんな危険があると分かっていて、俺はアリシアをここに帰す事など出来るわけがなかった。

 もしもあの時もう少し早く駆けつける事が出来ていればと、後悔の念に苛まれる。運命を狂わせてしまった人々に対する懺悔を背負いながら、女帝の捜索に戻った。
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