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第二章 目指せ、一人前の吸血鬼!
17、外交と奇跡の爪痕(フォルネウス視点)
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各村を襲っていた吸血鬼の討伐を終えた俺は、数名の部下と共にリグレット王国の王城へ来ていた。
王座の間に案内され、国王のアーサーの側には豪華に着飾った若い娘と宰相ジルベルトが控えている。
女帝の行方は分からず、こちらに熱心な視線を送ってくる女の姿を見て本当はばっくれたい気持ちでいっぱいだったが、ハイグランド帝国の皇太子としての立場上、できるわけもなかった。
「我が同胞がまたご迷惑をおかけし、誠に遺憾の限りでございます。アーサー陛下の寛大なご配慮により、こうしてお目通りの機会を頂けましたこと、光栄の極みでございます」
「どうか顔を上げて下さい、フォルネウス殿下。貴殿のご協力がなければ、被害はまだ広がっていた事でしょう。此度の迅速なご協力、誠に感謝致します。時にフォルネウス殿下……」
建前上の謝礼を聞き流しながら、俺は内心ため息をついた。またきたか、と。
「両国のさらなる発展を願い、絆を深めるのはいかがでしょうか? 我が娘セシリアも成人を迎え、嫁ぐのに不自由ない完璧な教育を施してきた次第です。是非この機会にご挨拶をと思いまして」
一歩前に出た王女は綺麗な所作でカーテシーのポーズをとる。
「フォルネウス様、第二王女のセシリア・リグレットと申します。いつも我が国のために尽力して下さり、ありがとうございます」
「いいえ、私には勿体ないお言葉ですよ、セシリア様。貴方のようにお美しい方の伴侶となられる方は、とてもお幸せな事でしょうね」
社交辞令を真に受けたらしい王女は、頬を赤く染めて詰め寄る。「それでしたら、是非!」と。
「セシリア様のように国民に愛された王女様が、我々の野蛮な国に嫁がれたとなれば、国民を酷くがっかりさせてしまう事でしょう。それに蒼の吸血鬼が人々を苦しめてる今、我々がやるべき事は彼等を止めるために、喜んで助力を尽くす事が最優先だと考えております」
「フォルネウス様にはもう、充分にご助力を頂いておりますわ! だからどうか! それに私は、ずっと昔から貴方のことが……」
抑えていた魔力をわざと少しだけ緩めて、俺は王女に笑みを浮かべて話しかける。
「いけませんよ、セシリア様。迂闊なことを口にして、化物を誘惑しては。あまりにも美味しそうな貴方の血をうっかり全て飲み尽くしてしまっては、困るでしょう? 私の理性が抑えられているうちに、どうぞお逃げ下さい」
王女はカタカタと恐怖に震え、その場で腰を抜かした。しかしその瞳にはまだ、恋慕の情が見てとれる。
「酷い方……でも、私は諦めませんわよ!」
これが自国なら、「不味くて飲めない」と一言発すれば済む話だった。しかしここは他国で人間の国。下手な断り文句では、変な禍根を残しかねない。
これは面倒くさい女だなと、内心深くため息をついた。第一王女の時は、先程のように魔力を垂れ流して軽く脅せば、悲鳴を上げて逃げていったというのに。
「無理をされない方がいい。恐怖で震えられてますよ」
「今日のところは、これで下がらせて頂きますわ。でも、またお話しましょうね」
「ええ、機会があれば。アーサー陛下、それでは私もこれで失礼させて頂きます。何かあればまたご連絡下さい」
「は、はい。ど、どうぞお気をつけて」
腰を抜かして立てないでいるアーサー王に別れの挨拶をし、俺はその場を後にした。
◇
城に戻った俺は急いで医務室へと向かった。任務中に酷い怪我をした部下を見舞うためだ。
「シオン!」
「若様、そんなに血相を変えていかがなさいました?」
報告によれば、戦闘中に片足を失ったと聞いていたはずの部下が、何故かベッド横でスクワットをしている姿がそこにはあった。勿論、両足でだ。驚かない方が無理だというものだ。
「そんな事をして大丈夫なのか?!」
「はい、アリシア様が綺麗に治して下さいましたので。懸命にヒールを唱えて下さるそのお姿は、女神のようでした……流石は奇跡の聖女様ですね!」
これは、どういう事だ?
本来なら初級魔法の「ヒール」に、そのように酷いけがを治すほどの効果はない。せいぜい小さな切り傷などを治す程度のものなのだ。欠損部分を補うなど、上級魔法の「リザレクション」を唱えてやっと、ほんの数ミリ治療できるくらいだ。それさえも術者の消耗が激しすぎるため、何回も多用できるものではない。
あの短期間でここまで綺麗に治すなど、本来ならありえない事だ。そこまで考えて、背中をつららで撫でられたような嫌な寒気を感じた。
「アリシアは、アリシアは今、どこに居る?!」
どれだけ無理をしてシオンの怪我を治したのか。その消費はかなり激しかったに違いない。動揺を隠しきれない俺に、「落ち着かれて下さい」と後方から声がかけられる。騒ぎを聞きつけてやってきた、宮廷医師のコンラッドだった。
「若様。アリシア様は今、特別魔法治療室でお休みになっておられます」
「アリシアは無事なのか?!」
「魔力が回復すれば、じきに目を覚まされるでしょう。ご安心下さい」
案内された部屋では、アリシアが寝台に横になっていた。その隣で、メルムがアリシアの長い髪を優しく櫛でといていた。
「アリシアの容態はどうだ?」
「容態は落ち着いているそうです。姫様、とても綺麗なお顔で眠られていますよ。まるで、こちらへ初めておいでになった時のように……っ!」
「そうか……」
俺はそっと優しくアリシアの手を取った。いつも温かかったその手は今、驚くほどに冷たかった。熱を分け与えるかのように、しばらく俺はアリシアの手を両手で包み込んでいた。
「アリシア。お願いだ、どうか目を覚ましてくれ」
特別魔法治療室に、俺の放った言葉がむなしく響いていた。
王座の間に案内され、国王のアーサーの側には豪華に着飾った若い娘と宰相ジルベルトが控えている。
女帝の行方は分からず、こちらに熱心な視線を送ってくる女の姿を見て本当はばっくれたい気持ちでいっぱいだったが、ハイグランド帝国の皇太子としての立場上、できるわけもなかった。
「我が同胞がまたご迷惑をおかけし、誠に遺憾の限りでございます。アーサー陛下の寛大なご配慮により、こうしてお目通りの機会を頂けましたこと、光栄の極みでございます」
「どうか顔を上げて下さい、フォルネウス殿下。貴殿のご協力がなければ、被害はまだ広がっていた事でしょう。此度の迅速なご協力、誠に感謝致します。時にフォルネウス殿下……」
建前上の謝礼を聞き流しながら、俺は内心ため息をついた。またきたか、と。
「両国のさらなる発展を願い、絆を深めるのはいかがでしょうか? 我が娘セシリアも成人を迎え、嫁ぐのに不自由ない完璧な教育を施してきた次第です。是非この機会にご挨拶をと思いまして」
一歩前に出た王女は綺麗な所作でカーテシーのポーズをとる。
「フォルネウス様、第二王女のセシリア・リグレットと申します。いつも我が国のために尽力して下さり、ありがとうございます」
「いいえ、私には勿体ないお言葉ですよ、セシリア様。貴方のようにお美しい方の伴侶となられる方は、とてもお幸せな事でしょうね」
社交辞令を真に受けたらしい王女は、頬を赤く染めて詰め寄る。「それでしたら、是非!」と。
「セシリア様のように国民に愛された王女様が、我々の野蛮な国に嫁がれたとなれば、国民を酷くがっかりさせてしまう事でしょう。それに蒼の吸血鬼が人々を苦しめてる今、我々がやるべき事は彼等を止めるために、喜んで助力を尽くす事が最優先だと考えております」
「フォルネウス様にはもう、充分にご助力を頂いておりますわ! だからどうか! それに私は、ずっと昔から貴方のことが……」
抑えていた魔力をわざと少しだけ緩めて、俺は王女に笑みを浮かべて話しかける。
「いけませんよ、セシリア様。迂闊なことを口にして、化物を誘惑しては。あまりにも美味しそうな貴方の血をうっかり全て飲み尽くしてしまっては、困るでしょう? 私の理性が抑えられているうちに、どうぞお逃げ下さい」
王女はカタカタと恐怖に震え、その場で腰を抜かした。しかしその瞳にはまだ、恋慕の情が見てとれる。
「酷い方……でも、私は諦めませんわよ!」
これが自国なら、「不味くて飲めない」と一言発すれば済む話だった。しかしここは他国で人間の国。下手な断り文句では、変な禍根を残しかねない。
これは面倒くさい女だなと、内心深くため息をついた。第一王女の時は、先程のように魔力を垂れ流して軽く脅せば、悲鳴を上げて逃げていったというのに。
「無理をされない方がいい。恐怖で震えられてますよ」
「今日のところは、これで下がらせて頂きますわ。でも、またお話しましょうね」
「ええ、機会があれば。アーサー陛下、それでは私もこれで失礼させて頂きます。何かあればまたご連絡下さい」
「は、はい。ど、どうぞお気をつけて」
腰を抜かして立てないでいるアーサー王に別れの挨拶をし、俺はその場を後にした。
◇
城に戻った俺は急いで医務室へと向かった。任務中に酷い怪我をした部下を見舞うためだ。
「シオン!」
「若様、そんなに血相を変えていかがなさいました?」
報告によれば、戦闘中に片足を失ったと聞いていたはずの部下が、何故かベッド横でスクワットをしている姿がそこにはあった。勿論、両足でだ。驚かない方が無理だというものだ。
「そんな事をして大丈夫なのか?!」
「はい、アリシア様が綺麗に治して下さいましたので。懸命にヒールを唱えて下さるそのお姿は、女神のようでした……流石は奇跡の聖女様ですね!」
これは、どういう事だ?
本来なら初級魔法の「ヒール」に、そのように酷いけがを治すほどの効果はない。せいぜい小さな切り傷などを治す程度のものなのだ。欠損部分を補うなど、上級魔法の「リザレクション」を唱えてやっと、ほんの数ミリ治療できるくらいだ。それさえも術者の消耗が激しすぎるため、何回も多用できるものではない。
あの短期間でここまで綺麗に治すなど、本来ならありえない事だ。そこまで考えて、背中をつららで撫でられたような嫌な寒気を感じた。
「アリシアは、アリシアは今、どこに居る?!」
どれだけ無理をしてシオンの怪我を治したのか。その消費はかなり激しかったに違いない。動揺を隠しきれない俺に、「落ち着かれて下さい」と後方から声がかけられる。騒ぎを聞きつけてやってきた、宮廷医師のコンラッドだった。
「若様。アリシア様は今、特別魔法治療室でお休みになっておられます」
「アリシアは無事なのか?!」
「魔力が回復すれば、じきに目を覚まされるでしょう。ご安心下さい」
案内された部屋では、アリシアが寝台に横になっていた。その隣で、メルムがアリシアの長い髪を優しく櫛でといていた。
「アリシアの容態はどうだ?」
「容態は落ち着いているそうです。姫様、とても綺麗なお顔で眠られていますよ。まるで、こちらへ初めておいでになった時のように……っ!」
「そうか……」
俺はそっと優しくアリシアの手を取った。いつも温かかったその手は今、驚くほどに冷たかった。熱を分け与えるかのように、しばらく俺はアリシアの手を両手で包み込んでいた。
「アリシア。お願いだ、どうか目を覚ましてくれ」
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