ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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第三章 借りすぎた恩を返したい!

21、仕事中に余計な事を考えてはいけませんでした

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 翌日、私はフォルネウス様の執務室を訪ねていた。立派なバルコニーからは綺麗な星空を堪能できる、とても素敵な執務室だ。

「本日よりこちらでお世話になるアリシアと申します。至らない点も多々あるとは思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
「よく来てくれた、アリシア。待っていたぞ。まずは軽く自己紹介をしておこう。俺の側近を務めているリフィエルとガブリエルだ。昔は俺の教育係をしてくれていた者達でもある」
「アリシア、改めてよろしくお願いします」
「よく来たな、嬢ちゃん! 待ってたぜ!」
「リフィエル様、ガブリエル様、よろしくお願いします!」

 怖い上司と一緒だと聞かされていた手前、緊張していたけど、顔見知りの二人の登場にほっと胸を撫で下ろす。しかし緊張が解れたことで、あるものが異様に目につくようになった。
 とても立派な執務室。なぜか部屋の一番奥が不自然に大きなカーテンで隠されている。突貫工事で急いでつけたかのようなそれは、立派な執務室の中でとても浮いていた。

「若、いくら取り繕ったって一緒だ。男なら、潔くあるべし!」
「あ、待て! ガブリエル!」

 悲痛なフォルネウス様の叫びと同時に、ガブリエル様が豪快にカーテンを開けた。そこには、壁一面を埋め尽くすように、隠しきれない書類の山が、天井近くまで積まれていた。

「見ての通り、かなりたまっている。アリシア……大変だとは思うが、一緒に片付けてくれるか?」

 捨てられた子犬のような目でこちらをご覧になるフォルネウス様に、私は即答した。

「とてもやりがいがありますね! 誠心誠意頑張ります!」

 フォルネウス様は、何だかんだで私に甘い。激務だと言いながらほぼなにもすることがなく、給料泥棒になるんじゃないかと少なからず危惧していた。
 でもこうしてきちんと仕事があることを目にし、本当に困っていらっしゃるフォルネウス様の力になれる事がとても嬉しかった。

「フォルネウス様、まずは何をしたらよろしいですか?」
「あ、ああ! 説明するから、こちらに」
「はい、かしこまりました」

 一通り説明を受けた後、「これを渡しておこう」とフォルネウス様から小さなアクセサリーケースを受け取った。中には可愛い天使の翼をモチーフにしたイヤーカフが入っている。

「それはアリシア専用に作らせたポータブルコールだ。魔法が扱えるようになった今なら問題なく使えるだろう」
「ありがとうございます」

 でもこれ、どうやってつけるんだろう。戸惑っていると、「俺がつけてもいいか?」とフォルネウス様がさりげなくフォローしてくださった。

「はい、お願いします」
「よし、これで大丈夫だ」
「何か付けているとは思えないくらい、すごく軽いです」
「普段使いの身につける魔道具は、極力自然に馴染むよう設計してあるから、違和感も少ないはずだ。少し実験をしてみよう」

 イヤーカフから小さな音が鳴った。

「応答したい時は、イヤーカフに魔力を通すと出る事が出来る」

 言われた通りに、やってみるとイヤーカフからフォルネウス様の声が聞こえてきた。

「こちらフォルネウスだ。アリシア、どうだ? 聞こえるか?」
「はい! ちゃんと聞こえます」
「では、今度はアリシアからこちらにかけてみてくれ。やり方は……」

 一旦執務室の外に出て、フォルネウス様が説明してくださった通りにイヤーカフに魔力を通す。あらかじめ登録してある名簿が目の前に浮かび上がった。
 フォルネウス様を選んで声をかける。とは言っても実際に声に出す必要はないらしく、頭の中で話したい事を思い浮かべればそれが伝わるらしい。

「こちらアリシアです。フォルネウス様、聞こえていらっしゃいますか?」

 ドキドキしながら返事を待つこと数秒後

「こちらフォルネウスだ。どうやらうまく出来たようだな。流石アリシアだ」

 優しいフォルネウス様の声が耳元に響く。まるで耳元で囁かれているかのような感覚がして、恥ずかしかった。
 でもこれで、離れていてもフォルネウス様とお話する事が出来るのね。嬉しい。

「あ……その、アリシア……」

 えっ?! まさか……

「い、今の、聞こえていらっしゃったのですか?!」
「ああ。切り方、教えてなかったな。その、すまない……」
「い、いえ! お見苦しい声をお届けして申し訳ありませんでした!」

 は、恥ずかしすぎる!
 真っ赤になったであろう顔を水魔法で冷やしていると――

「何かあったらいつでもかけてくれ。何もなくても……君の声が聞けると、俺も嬉しい」

 フォルネウス様のその言葉で、余計に顔の火照りがとれなくなった。それと同時に、余計な気を遣わせてしまったことが大変申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 初日から何ご迷惑おかけしてるのよー!

 仕事が終わった後、私はメルムに泣きついてポータブルコールの練習に付き合ってもらった。

「姫様からの通信だったら、若様は寝ててもきっと出てくださいますよ」

 なんて冷やかされたけど、そんなご迷惑かけられないよ!

 慣れるまでは声に出して話しかけるようにしよう。そして通信してる時は、余計な事を考えてはいけない。それが今日私が身をもって知った、痛い教訓だった。





おまけ〈side.リフィエル〉

 一言一句聞き逃すまいといわんばかりに、熱心に仕事の説明を聞くアリシアの姿を見て、ガブリエルがポツリと呟いた。

「この山を目にして逃げ出さないとは、中々見込みあるな」
「彼女はすごく勉強熱心ですからね。きっと即戦力になってくれることでしょう」

 アシリアに本を紹介してきた私は知っていた。彼女の貪欲に知識を吸収しようとする探求心の強さと、その飲み込みの早さを。
 導入として子供向けに作られた本を読んでいたアリシアだが、今現在彼女が読んでいるのは、一市民として生きていくには覚える必要のない、王公貴族が習うべき知識の本へと移行していた。勿論、アリシアはその事に気付いてはいない。

「……仕込んでたのか?」
「フフフ、何の事でしょう? 私はあくまで、おすすめの本を彼女に紹介してきただけですよ」
「やっぱ、こえーな。知将のリフィエル様は」
「全ては若様のため、ですよ。彼女はきっと、即戦力になってくれますよ」
「そ、そうだな!(ありがたいことには違いないが、コイツだけは敵に回したくねぇ……)」
「私の顔に何かついていますか?」
「い、いや、何でもねぇ」

 アリシアはまだ、自分の価値を分かっていない。この国で、彼女がどれだけ特別で大切な存在であるかを。
 そう遠くない未来に、彼女は必ず皇太子妃となる。というか、なってもらわないと困る。

 若様は子供の頃から、一人の女性しか目に入らないようで、どんなに美しい令嬢を紹介されてもまるで興味を持たれなかった。
 大臣達もそれで頭を悩ませ、一時期は若様を虜にしたその人間の少女の誘拐計画まで立てられていたとは、口が避けても言えない。

 結果的に若様の怒りをかい危険だと、その計画は実行されなかった。

 経緯はどうであれ、アリシアがこの国の一員になってくれたのはハイグランド帝国にとっては、神がもたらした奇跡のような出来事だった。

 だからこそ、何れ若様の隣に並ばれた時に、誰もケチなどつけれないようにする事こそが、私の使命。そのためにも、執務と称して皇妃教育を済ませてしまいましょう。

 勉強熱心で飲み込みの早いアリシアならきっと、そつなくこなしてくれる事でしょう。

「また何か企んでるのか?」
「さて、何の事でしょう?」
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