ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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第三章 借りすぎた恩を返したい!

31、告白

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 フォルネウス様に連れられてやってきたのは、城内の東側にある大聖堂。大きなステンドグラスが印象的なその空間は神秘的で神々しさを感じる。

「とても綺麗ですね」
「ああ。ガラスに細工をして、月夜の明かりを浴びると最も美しく見えるようにされているのだ。ここは主に結婚式を執り行う場所なのだ」

 大聖堂内を進み、フォルネウス様は奥にある一室へと案内してくださった。正面には赤子を抱いた女神像が飾られている。足を踏み入れた瞬間、心地の良い温かさを感じる不思議な部屋だった。

「この部屋は結婚式の後、吸血鬼の伴侶となった人間を、吸血鬼にする契約の儀式を行う場所なのだ」
「そうなのですね。フォルネウス様も、ここで私を吸血鬼にして下さったのですか?」
「すまない、アリシア。本来なら人間を吸血鬼にする契約は婚姻の儀と言われ、将来を誓い合った者達が一生涯を寄り添って過ごすために行う契約なのだ。死の淵に立つ君を生かすために俺は……同意なくその儀を行ってしまった」
「えっと、つまり本来は……結婚をしてから行う儀式ということなのでしょうか?」

 思わず声が震える私に、フォルネウス様は申し訳無さそうに言葉を続ける。

「その通りだ。俺が君を吸血鬼にしてこの国へ連れてきた事で、国民達は君が皇太子妃になるためにやって来たのだと勘違いをしておるようなのだ。居心地の悪い思いをさせて、すまない……」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません! 私を助けるために、とんだご迷惑を……っ」

 皇太子様に何てことをさせてしまったんだと、私は溢れそうになる涙を必死に堪えながら頭を下げた。

「違うんだ、アリシア……君はどうしてそんなにも優しいのだ。迷惑ではない、むしろ謝らないといけないのはこちらの方だ。俺はただ私欲のために、君に望まぬ生を与えた卑怯者でしかないのだ」
「卑怯者なんかではありません。フォルネウス様の事はとても尊敬しております! だからどうか、その事で負い目を感じたり、自分を卑下されるのはお止め下さい。助けていただいて、私はとても感謝してるんですから」

 そうやって度々謝られる事が悔しかった。もし逆の立場だったとしたら、助ける方法があるのに見殺しになんて出来ないだろう。それが命の恩人だとしたらなおさらに。
 フォルネウス様の抱えていた負い目を少なからず理解した今、何とかその誤解を解きたくて懸命に訴えた。そんな私を見て、フォルネウス様は驚いたように大きく目を見開いた後、意を決したように口を開かれた。

「アリシア……」

 優しくて、穏やかな声だった。緊張した面持ちでこちらを見つめるフォルネウス様の瞳には、熱がこもっているように見える。

「ずっと、好きだった。あの時俺を助けてくれた君の事が、ずっと好きだったんだ。たとえ君の心が別の者へ向いていたとしても、それでも……失いたくなかった。こんな邪な気持ちで君を縛り付けた者に、感謝などしなくてよいのだぞ」

 そう言ってフォルネウス様は、物悲しげな表情を浮かべていらっしゃる。

 フォルネウス様が……私の事を、好き……?
 もしかして、フォルネウス様が欲しいものって……

 言葉の意味を理解して、鼓動が大きく跳ねた。その後けたたましく鳴り続ける。その感覚を私は知っている。かつて思いを寄せていたフレディお兄ちゃんに初めて感じたものとよく似ていたから。
 しかしそれよりもっと、大きな疼きだった。締め付けられるように苦しくて、でも甘酸っぱくて温かい波が引いては押し寄せる不思議な感覚に襲われる。
 目の前で突然胸を押さえ込んでしゃがみこんでしまった私に、フォルネウス様は焦燥感を滲ませながら慌てて駆け寄ってこられた。

「大丈夫か? どこか痛むのか?」
「はい、胸が苦しくて……」
「待ってろ、アリシア! すぐ医務室へ連れていく!」
「違うんです、フォルネウス様。あの、これは……」
「動くのも辛いなら、ここにコンラッドを呼ぼう」

 立ち上がったフォルネウス様の袖を咄嗟に掴んで阻止する。

「そばに、いて欲しいです……」
「分かった! 他に何かして欲しい事はあるか?!」
「その……手を、握っててもらえませんか?」
「ああ、勿論だ!」

 フォルネウス様は、両手で私の手を包み込むように優しく握ってくれた。

 深く息を吸ってゆっくりと吐く。それを何度か繰り返して呼吸を調えたら、胸の痛みは徐々にとれていった。最後に残ったのは、心の隅まで満たされるような温かくてふわふわした気持ち。それは全て、心配そうに真剣な面持ちで手を握ってくれるフォルネウス様から与えられたものだった。

「楽になりました。ありがとうございます」
「それならよかった」

 フォルネウス様が名残惜しそうに離そうとした手を、私は握り返して口を開いた。

「あの、フォルネウス様。一つだけあると言っていた欲しいものって……」
「…………アリシア、君の事だ」

 せっかく落ち着いてきた胸の痛みがまた押し寄せてくる。しかしその痛みさえも心地よいと感じてしまうほど、その言葉が嬉しかったせいだろう。
 思わず瞳から涙が溢れだす。そんな私を見て驚いたのか、フォルネウス様の身体は硬直している。

「す、すまない! 泣くほど辛かったのだな……」
「違うんです、とても嬉しくて! どうやら私も、フォルネウス様の事が好きみたいなんです」

 言葉の意味を理解された途端、フォルネウス様の顔は真っ赤に染まった。

「アリシアが、俺を……? どうか夢ならば、このまま覚めないで欲しい……」

 片手で顔を覆って伏せてしまったフォルネウス様に、「夢にされては困ります!」と、私は慌てて抗議する。

「本当に夢ではないのだな? ドッキリでも何でもないのだな?」
「フォルネウス様って、案外心配性だったのですね」
「幻滅、させてしまったのだろうか……」
「いいえ、とても可愛いなと思っただけです」

 普段のクールな姿とは違い、不安気にこちらを見ているフォルネウス様の姿は、捨てられた子犬のように見えて母性をくすぐった。

「何十年でも、何百年でも、待つつもりだったのだ……まさかそれがこんなにも早く現実になるだなんて、思いもしなかったのだ」

 不安に揺れるフォルネウス様に、どうしたら信じてもらえるのかと考える。愛情を伝える手段と言えば……本で読んだ知識を思い出し、実行に移す事にした。

「フォルネウス様」

 名前を呼んで、そっと彼の頬に手を添える。そして自身の身を乗り出すと、額に触れるだけのキスをした。

「お慕いしております。だからこれからも、そばに居させて下さい」
「勿論だ! アリシア、一生君を愛し守り抜くと誓おう。だから俺と、その……結婚してもらえないだろうか?」
「はい、私でよければ喜んで」
「ありがとう。アリシア、よかったら左手を貸して欲しい」
「これでいいですか?」

 フォルネウス様は私の左手の薬指に、懐から取り出した指輪をはめてくださった。

「皇家に伝わる婚約指輪だ。アリシアの指にこうしてはめれる日が来るなんて、本当に夢のようだ……」

 私の手を握り締めたまま、フォルネウス様は感無量といったご様子でその光景を目に焼き付けておられる。

 私に皇太子妃なんて務まるのか、正直不安しかない。けれどフォルネウス様がこうして私を必要として下さるのならば、一番近くで支えていきたい。

 フォルネウス様に相応しいと思ってもらえるように、胸を張って隣に並んでいられるように、頑張っていこう!




〈side.???〉


「シア……私の可愛いシア……こんな檻の中に閉じ込められてしまって可哀想に。待っていてね、必ず貴女を助けてあげるから」

 二人の思いが通じあったその頃――ハイグランド帝国とリグレット王国を隔てる大河の前で、悲痛な面持ちで佇む女の姿があった。

「本当に、実行するのかい?」
「ええ、あの子を取り返すためだもの。そのためなら何を犠牲にしたって構わない。もう二度と忌まわしき吸血鬼なんかに、私の大切な家族を奪わせないわ」

 復讐の炎を宿した女の瞳は真っ直ぐに、ハイグランド帝国にそびえ立つ皇城に向けられていた。
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