ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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第四章 貴方の隣に相応しくなりたい!

33、回帰魔法『リバース』

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「若様、アリシア、少しよろしいですか?」

 執務が終わった後に、リフィエル様に呼び止められた。

「頼まれていた件の調査が終わりましたので、こちらの資料を見て頂けますか?」
「流石リフィエル! 仕事が早いな!」
「私も拝見してよろしいのですか?」
「ええ、これはアリシアの魔法に関する事ですので」

 リフィエル様に渡された資料に目を通すと、回帰魔法について詳しく調べてあった。

 時空点Aを起点として時空点Bまでの距離をαとした時……つらつらと書かれた難しい単語の続出に、正直今の私には理解するのが難しい。

「なるほど、そういうことか!」

 フォルネウス様は簡単に内容を理解されたようだ。うぅ、どうしよう。

「アリシア。簡単に説明すると回帰魔法とは、指定した時間まで魔法をかけた対象の時間を巻き戻して復活させる魔法です。そしてこれは、かつて始祖ネクロード様だけが使えた聖属性魔法の一つだと言われています」

 困っていたらリフィエル様が分かりやすく説明してくれた!

「分かりやすく教えて頂きありがとうございます」
「こちらこそ、急いでいたので論文のように堅苦しくなってしまい申し訳ありません。見解があっているか少し実験をしたいのですが、少しお時間を頂けないでしょうか?」
「はい、勿論です」
「現在アリシアが唱えている『ヒール』は本来回復魔法の呪文です。これを正しい回帰魔法の呪文『リバース』に置き換えたら、今より魔法の能力が格段に上がると思うのです」
「『リバース』と唱えながら魔法をかければ良いのですか?」
「はい、そうです。例えるなら今のアリシアは、回復魔法を唱えながら無理やり回帰魔法を使っている状態です。これらをきちんと分離させて正しい魔法が使えるようになれば、両者の魔法はより強い力を発揮するようになるはずです」

 リフィエル様は戸棚から紙を二枚取り出すと、その一枚に一から五までの数字を書かれた。

「この紙に、今まで通りのヒールをかけてもらえますか?」
「分かりました」

 私がヒールを唱えると、紙に書かれた数字が書いた順とは逆にさっと消えた。
 リフィエル様は違う紙に、再び同じように一から五までの数字を書かれた。

「今度はこちらに、『リバース』と唱えながら魔法をかけて頂けますか?」
「分かりました」

 言われた通りにリバースと唱えると、さっと書かれた数字が消え、紙が木くずになってしまった。

「ざ、材料にまで戻ったぞ?!」
「やはり、私の見識で間違いはないようです
ね」
「ど、どうしましょう! 紙を一枚無駄にしてしまいました!」

 貴重な紙が!

「アリシア、気にする所はそこなのか?!」
「だって、紙はすごく高価なものですよ……」
「安心してくれ。ここでは簡単に作れるから、気にやむことはないぞ」

 焦る私を落ち着かせるように、フォルネウス様は優しく頭を撫でて下さった。

「アリシア。君の魔法次第では、この木くずは再び紙に戻るとこが出来るかもしれません」
「本当ですか?!」
「はい。では戻せるのか実験してみましょう。今度はこの木くずのある空間に魔法をかけるイメージで、『リバース』と唱えてもらえますか?」
「分かりました」

 空間をイメージしながら慎重にゆっくりと魔力を注いで、私は『リバース』と唱えた。すると木くずはゆっくりと紙に戻り、リフィエル様が書いた数字が浮かび上がってまた消えた。

「よかった、紙が元通りになりました!」

 木くずになった紙が元通りになって、わたしはほっと安堵のため息を漏らす。

「なるほど。対象を紙から紙のある空間に変えた事で、この空間で起こった出来事がそのまま巻き戻ったということか」
「ええ、その通りです。魔法をかける対象を変えることで、如何様にも巻き戻す事が出来るようですね」
「なぁリフィエル、俺もやってみてもいいか?」
「構いませんが、これはきっとアリシアにしか出来ない事だと思いますけどね」
「何故分かるんだ?」
「私もやってみましたが、うんともすんとも言いませんでした」
「なるほど……だが、俺も多少は回復魔法が使える。実験するくらいはいいだろう?」

 フォルネウス様の目がキラキラ輝いてるわ。

「ええ、どうぞ」

 フォルネウス様は紙に数字を書くと『リバース』と唱えられた。けれど、なんの変化も訪れない。

「な、何故だ!」
「だから言ったでしょう。これはアリシアにしか出来ないと」
「何故、アリシアにしか出来ないんだ?!」
「それは勿論彼女が、奇跡の聖女だからですよ」

 そこでまた、あの銅像を引っ張り出してくるんですか?!

「若様。この国で一番魔力の高い貴方が、どうして人間だった魔力を持たないアリシアの血を美味しく飲めたのか分かりますか?」
「俺にとって、アリシアが特別だからだ」
「若様だけではなく、彼女はきっと人間の中でも特別な存在だったのです」

 そんな事を言われても、全然実感がない。

「どう特別なのだ?」
「それは私にも分かりませんが、仮説であれば二つほどお話できます」
「見解を聞こうか」
「まず一つ目の仮説は、皇妃陛下のようにアリシアの先祖に何かしら特別な力を持つ者が居たのではないかと思われます」
「ソフィー様は、どんな力をお持ちなのですか?」

 あの時仰られていた不気味な予知夢の謎が解けるかもしれない。

「母上は古代文明の遺跡を守り続けてきた星詠み一族の末裔なのだ。吸血鬼になって、たまにおぞましい未来の断片が見える事があるらしい」
「三百年前の大厄災は、皇妃陛下の予知夢があったからこそ防げました」

 三百年前!?
 ソフィー様もリフィエル様も、今おいくつなのかしら……

「そうだったのですね。ですが私は辺境の田舎に住むただの平民です。特にご先祖様が特別だったなど聞いたこともありませんし、村の伝承にもそのような能力を持った方の存在は残されておりません。多分それは違うのではないかなと思うのですが……」
「失われた伝承がないとも限りませんが、現状は確認のしようがありません」
「確かにそうだな。二つ目は?」
「二つ目の仮説は、アリシアの中には強い蒼の吸血鬼の血が流れていて、潜在的に強大な魔力を持っていたのではないかと思われます。若様がアリシアの血を美味しく飲めたのは、その可能性もあるのではないかと思うのです」
「あの時飲んだアリシアの血は、今まで飲んだ物と比べ物にならない程の美味しさだったのは、よく覚えている」
「それはフォルネウス様が、お腹をすかせていらしたからではありませんか?」
「不味い血の味は、アリシアもよく知っているだろう? 腹が減っていたとしても、我慢しないと飲めないようなものが、美味しいと感じる事はない気がする」
「確かに、そうですね」

 腐った卵のような味のする血を、お腹が空いても美味しいとは思わなかった。

「それに蒼の吸血鬼が、吸血衝動を抑えられるとも思えない。血を吸うことだけにしか快楽を産み出せない彼等の血が、どうやってアリシアに渡るというのだ? その仮説も正しいとは言いきれないな」
「回帰魔法が何故始祖ネクロード様にしか使えなかったのか。それは彼の能力を紅と蒼で分けたからじゃないかと、私は考えています。もし仮にアリシアが、何らかの要因で蒼の吸血鬼の血を取り込んでおり、紅の吸血鬼である若様の血で完全な吸血鬼に目覚めた。その場合、分かたれた紅と蒼の強大な力を継承したアリシアだけが、この回帰魔法を使える説明がつくのです」
「理論上はそうかもしれないが、現実的には無理であろう」
「そうなのです。ですから最初に私も分からないと申し上げたでしょう」
「確かにそうだな」
「大切なのはアリシアが我が国にとって、とても特別な存在であるという事です」
「それは間違いないな」
「というわけで、新たな聖女像の建設を急ぎましょう」
「ああ、そうだな!」
「ちょっと待って下さい! 何ですか、新たな聖女像って!」
「それは勿論『奇跡の聖女像パートⅡ』ですよ、アリシア」
「あの、もしかして……最初に奇跡の聖女像を建てるように提案されたのはリフィエル様ですか?!」
「はい、そうですが何か?」

 元凶! 全てもの元凶がここに居た!

 その後、何とかフォルネウス様に頼み込んでパートⅡの建設は阻止してもらった。

 それから回帰魔法について実験を重ね、とある事実が分かった。

 物にかけた場合は、イメージした時間まで遡らせる事が出来る。サイズやどこまで巻き戻すかで魔力の消費が変わるけれど、生物を回帰させるより消費は遥かに少ない。

 生物に回帰魔法をかけた場合、何をどこまで戻すのか細かくイメージすることで部分的にかける事が出来る。

 例えば怪我したとある部位だけなど、場所を指定して治す場合、指定した体の状態だけがその時間まで巻き戻り、記憶には影響がない。

 ただし魔法をかける対象を生き物全体にした場合、その人の記憶や感情、体の状態全てがその時間まで戻ってしまう事が分かった。意図的に全てを対象にイメージするのはかなり疲れる作業であるため、普段誤って使ってしまう事がない事に少しだけほっとした。
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