ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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最終章 世界滅亡の危機を救え!

61、いざ、リグレット王国へ

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「パパの背中、楽しいな~!」

 空から見下ろす景色が楽しいようで、ブレイヴはとてもはしゃいでいた。

「ブレイヴ、落ちないようにしっかり掴まっていてくれ」
「ご安心下さい、フォルネウス様。私がしっかり支えておきますので」
「ああ、頼んだぞ」

 ドラゴンに変身したフォルネウス様の背中に乗って、私達はリグレット王国へと向かった。

 深夜の午後十一時頃。
 王都エルシークは、静寂に包まれていた。

「民家に明かりが一つもないなんて、不気味なほどに真っ暗、ですね」
「まるで人々が活動していないかのようだな……」
「この辺、とてもいやーな邪気に包まれているよ。暗くて悲しくてじめじめしてる……僕の聖域展開ではらう?」
「元凶を止めない限りはいくら祓っても、ブレイヴが消耗するだけだ。今は先へ進もう」

 しばらく進むとまるで目印のように、王城だけがきらびやかな明かりに包まれているのが見えた。

「おいおい、あからさますぎねぇか?」
「隊長、それでも行くしかないっすよ! 世界の平和がかかってるんですから!」
「いつにも増して元気だな、シオン」
「だって王都エルシークですよ! 俺、一回来てみたかったんですよ! 若様について行くにはまだ、階級が足りませんし……憧れてたんです!」
「その夢が、壊れねぇといいけどな」
「意味深な事、言わないで下さいよぉー!」
「いいか、シオン。俺達の任務は、王城に囚われた者達の捜索と保護だ。くれぐれも気を抜くんじゃないぞ」
「分かってますよ!」

 私達がパーティーに参加している間に、エリート部隊には王城に囚われた人達の捜索と保護をしてもらう事になっている。

 ファントムさんの話だと、王城内の人間の多くはどこかに監禁されているのではないかという話だった。何れは全てアンデッドに変えようとしているノアお兄ちゃんが、余計な力を付ける可能性のある吸血鬼に好んで変えるとは思えないらしい。しかも生まれたての吸血鬼の吸血衝動はかなり激しく、それを短期間で統率させるのはかなり困難だろうと。

 自身の血を与えて眷属化させて操るのは、魔力の消費も激しいらしく限度があるらしい。
 ある程度の手駒は近くに眷属として置いている可能性はあるが、それ以外の者はまとめて監禁しているのではないかという事だ。

 私達が囮としてノアお兄ちゃん達の相手をしている間に、囚われた人達が居れば保護してもらおうという作戦だ。

 私達の護衛が薄いと最後までガブリエル様は仰っていたけど、「俺達は戦いにいくわけじゃない。アリシアの家族を説得して迎えにいくんだ」というフォルネウス様の言葉に渋々納得された経緯があったりする。

「目立たないよう変化して、城内を捜索してくれ。必ず二人一組で行動し、危険だと感じたらすぐに逃げてくれ。いいな? 現場の指揮はガブリエルに任せる。何かあればすぐに連絡を。俺達は招待客として、正面から行く」
「了解した、気をつけて行くんだぞ」
「ああ、勿論だ。それでは、作戦を開始する!」

 上空でエリート部隊と分かれ、フォルネウス様は正門前に着地された。

「ブレイヴ、目立たないよう小さくなれるか?」
「うん、出来るよ!」

 ブレイヴは小さい聖獣姿に変化して、フォルネウス様の胸にポケットにすっぽりと入った。

 正門に近付くと、見計らったかのように門が開く。しかし人の気配が全くと言っていいほど感じられない。

「中に入れ、という事なのだろうな。アリシア、手を。大丈夫だ、君は必ず俺が守る」
「はい、ありがとうございます」

 差し出されたフォルネウス様の手を握って、中へ入る。私達が入った途端、逃がさないよと言わんばかりにバタンと大きな音を立てて正門が閉まった。反射的にビクッと体が震える。

「大丈夫だ、いざという時は飛べば問題ない」

 私の不安を取るように、フォルネウス様がそう言って微笑んで下さった。

「パパだけずるい、僕も自分で飛びたい!」
「聖獣に翼は生えないのか? 伝承には、空を掛ける馬とか居るだろう?」
「どうだろう? 僕の体は環境によって変化するから、空を飛ばないといけない環境で育てば生えるかも?」
「中々興味深いな。じゃあ水の中で育てば水中でも生活できるようになるのか?」

 フォルネウス様の目が生き生きしてる。

「アリシア、パパが僕を水に沈めようとしてる……助けて……」
「大丈夫ですよ、ブレイヴ。フォルネウス様は貴方に興味津々なだけですから」

 聖獣の生態について、ものすごく興味が湧いちゃったんだろうなーと思ってると

「気をつけて、正面から邪気が近付いてる」

 ブレイヴが警戒した様子で開かれた正面玄関の方を見ている。

「ようこそお越し下さいました。ハイグランド帝国皇太子様、奇跡の聖女様。お二人を新リグレット王国建国記念パーティー会場へご案内します」

 エントランスから執事服を身に纏った男性が現れた。私達の返事を待たずに男性は踵を返して歩きだす。

「操られているな。距離を保って、後を追おう」
「分かりました」

 警戒しながら先へ進む。

「こちらが、パーティー会場です」

 開けられた扉の先は、楽しそうに歓談する人々や優雅に踊る人々の姿があった。
 しかし私達が会場に足を踏み入れた瞬間、ピタリと音が止んだ。演奏されていた優雅な音楽も、人々の話し声も、タップを踏むダンスの音さえも。
 その理由は簡単だった。一斉にこちらを見た人々が、そのまま静止してしまったからだ。

 嫌な予感がした。こちらを見る虚ろな人々の瞳はどうみても正気ではない。

「吸血鬼が憎い! 吸血鬼が憎い!」

 ぶつぶつとそう呟きながら一歩ずつこちらに近付いてくる。

「一旦引こう」

 私の手を引いてフォルネウス様が会場から出ようとされたけど、扉はしっかりと施錠されていて開かない。咄嗟にフォルネウス様は私を抱えて飛んだ。

 下を見ると、「紅の吸血鬼を殺せ」と物を投げつけてくる人々の姿があった。
 攻撃が当たらないようフォルネウス様は避けてくださっているけど、隠れる場所も逃げれそうな窓もない。このままでは消耗してしまうだけだ。

「フォルネウス様、私が彼等に回帰魔法を……」
「あんなに大勢にまとめて使うのは、アリシアの体に負荷がかかる」
「ですがこのままでは……」
「ここは僕に任せて。眷属化も闇属性の一種だから、僕の聖域で解けるよ。パパ、下に降りれる?」
「分かった」

 操られた人々から離れた位置で、フォルネウス様は着地された。胸ポケットから飛び出したブレイヴは呪文を唱える。

「聖域展開!」

 ブレイヴの周囲に出来た聖域は、パーティー会場を埋め尽くした。

「俺は一体……」
「こんな所で何をしていたのかしら……」

 何とか人々を正気に戻すことが出来た。けれどその時、ホール内に信じられない放送が流れた。

『皆の者、聞いてくれ。ただ今、王都エルシークは吸血鬼達に襲撃されている。其方達をそこに閉じ込めているのは、目の前に居る二人の吸血鬼だ。誇り高きリグレットの民達よ、今こそ勇敢に立ち向かう時だ。これ以上非情な吸血鬼達に、我々の権利を奪われてはならぬ!』

「アーサー王の声よ!」
「そうだ、突然吸血鬼が襲ってきて!」
「おい、扉が開かないぞ!」
「化物、こっちに来るな!」

 恐怖に泣きわめく者。
 扉を必死に開けようとする者。
 こちらに物を投げつけてくる者。

 正気を取り戻した人々は再びパニックを起こしてしまった。
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