ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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最終章 世界滅亡の危機を救え!

63、ヤンデレお兄ちゃんと仲良くなりたい

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 とりあえず、何とかここを抜け出してフォルネウス様達と合流しなくては。

 まずは状況確認!

 休憩室のような部屋は、入口のドアが一つあるだけで窓もない。ドアノブを回してみるも、もちろん開かない。壁に仕掛けがないか探してみたけど、何もなかった。
 ポータブルコールでフォルネウス様に話しかけてみたものの、何の反応もない。手で水の玉を出そうとしても出ないし、どうやら魔法が使えない特殊な空間に閉じ込められてしまっているようだ。

 お兄ちゃんは言った。私をノアお兄ちゃんに献上するのが使命だって。それならノアお兄ちゃんに会う機会が必ずあるだろう。どうやら今は、そのチャンスにかけるしかなさそうだ。

 フォルネウス様達が人々を守ってくれている間に、私はノアお兄ちゃんを頑張って説得してみよう。絶対に仲良くなって、世界征服なんて止めさせる!

 そのためにも今は、無駄に体力を使わず温存しよう。ソファーに腰掛けてしばらく待っていると、ガチャリとドアの開く音がした。

「やぁ、奇跡の聖女様。どうだい、閉じ込められた気分は?」

 長い前髪で右目を隠した、銀髪の比較的小柄な男性がそこには立っていた。微笑みを浮かべてはいるけど、その蒼い瞳は氷のように冷たい印象だった。
 大丈夫、嫌われているのは最初から分かっている。今私がやるべき事は、仲良くなるために何としてもノアお兄ちゃんの興味を引く事だ!

「ノアお兄ちゃん、素敵な部屋を用意してくれてありがとう! 少し疲れてたから助かったよ!」

 にっこりと笑顔でお礼を言った。私の反応が予想外すぎたのか、ノアお兄ちゃんはポカンとした顔でこちらを見ている。

「…………は?」
「そんな他人行儀な呼び方嫌だよ。私の名前はアリシア。ノアお兄ちゃんの妹だよ!」
「誰が君の兄だって? 勘違いも甚だしいね」
「だってパメラお姉ちゃん言ってたよ? 今度弟を紹介してくれるって。お姉ちゃんの弟なら、私にとってはお兄ちゃんだよ!」
「パメラ様が、僕を弟だと……思っている?!」
「そうだよ。だからノアお兄ちゃんに会えるのを、ずっと楽しみにしてたんだから!」
「僕に会うのが楽しみ? なに馬鹿なことを言ってるんだい君は。今から何をされるか分かってるのかい?」
「一緒に遊んでくれるんでしょう?」
「あ、遊ぶ……?!」

 ありがとう、ブレイヴ。貴方が持っていきたいと言ってくれた物が役に立つわ!

「ノアお兄ちゃんと一緒に遊びたくて、カードゲームを持ってきたんだ」
「何で僕が、こんな下らないもので遊ばなければならないのさ」

 ノアお兄ちゃんは私の持っているカードを叩き落とした。

「何でそんな酷いことするの……」

 落ちたカードを拾い集めながら、私は言った。大丈夫、最初は拒絶されても仕方ない。今は少しでも、興味を持ってもらう事が先決だ。

「もしかして、負けるのが怖いの?」

 全てのカードを綺麗に整えた後、私はノアお兄ちゃんを少し挑発してみた。

「は? そんなわけないだろう!」
「じゃあ遊ぼうよ!」
「いいよ、遊んであげる」

 にっこりとノアお兄ちゃんはそう言って微笑んだ後、私の顎に手を掛けて強制的に目線を合わせた。

「ただし、君の血を吸った後にね」

 恐ろしいほど冷たい目で見下された。でも、私は諦めないからね!

「なーんだ、お腹空いてたんなら早く言ってよ!」
「…………は?」

 ノアお兄ちゃんの手を引いて、ソファーに座らせた。

「家族で血を分け合うのは、向こうでは当たり前の事なんだよ。さぁ、遠慮なく飲んで!」

 両手を広げて無害だよーってアピールする。

「君、分かってるの?」
「君じゃない、私はアリシアだよ」
「あーもう、アリシアは分かってるの? 僕はこのまま、君の血を吸い付くしてしまうかもしれないんだよ」
「そんなにお腹空いてたの? ノアお兄ちゃん、普段からきちんと食事とらないとダメだよ! そうだ、いいものがあるからあげるね!」

 私はポケットからリュミエールで買った一口クッキーを取り出した。ブレイヴのおやつにと思って持ってきてた奴だけど、仕方ない。この部屋じゃ魔法が使えないせいで、収納用キューブを起動できない。ごめんね、ブレイヴ。後でいっぱい買ってあげるから許してね。

「栄養もとれるクッキーだよ。美味しいから食べてみて」

 一つ先につまんで食べて見せて、毒なんて入ってないよーってアピールしたつもりなんだけど、訝しげにノアお兄ちゃんはこっちを見てる。

「いらないよ」
「サクサクとしたプレーンクッキーの食感と、イチゴジャムの甘味と酸味がマッチして、すごく美味しいんだよ! 一個でいいから食べてみて?」
「どうせ、中に毒でも仕込んで来たんでしょ?」

 そう言って鼻で笑うノアお兄ちゃんの前で、私は一口クッキーを手で半分に割った。そしてその半分を自分で食べてみせる。

「ほら、毒なんて入ってないでしょ。いいから、つべこべ言わずに食べてみてよ!」

 半ば強引にノアお兄ちゃんの口にクッキーを押し付けると、開いていたからすんなり入った。恨めしげにこちらを睨みながら、仕方なくモグモグと咀嚼するノアお兄ちゃん。ゴクンと飲み込んだ後、とても驚いた顔をして「…………悪くない、味だね」と呟いた。

「ねっ、美味しいでしょ?」
「他にも栄養のとれる色んなお菓子をお土産に持ってきたから、後で食べてね。この中に入ってるよ。魔力を通すと取り出せるよ」

 お土産を収納したキューブを、ノアお兄ちゃんの手に乗せてぎゅっと握らせた。

「さぁ、まだお腹空いてるでしょ。早く私の血を飲んで!」

 隣のソファーに腰を掛けると、戸惑った様子でノアお兄ちゃんはこちらを見ている。

「アリシア、君は馬鹿なの?」
「少なくとも、天才とは思ってないよ?」
「くっ、なにそれ…………ははははは!」

 ノアお兄ちゃんが笑った!

「もう、笑ってないで飲んでよ!」
「はいはい、そんなに飲んで欲しいなら飲んであげるよ。元々、君の血を奪うつもりで来たんだから」

 ノアお兄ちゃんは私の手をとって腕に噛みつこうとしたけど、私はそこで待ったをかけた。

「待って、腕じゃ美味しくないよ!」
「え……?」
「フォルネウス様が仰ってたの。心臓に近いほど美味しいんだって。だから、噛むならこっちだよ」

 自分の首筋を指差して、教えてあげた。ノアお兄ちゃんは私を抱き寄せると、首筋に牙を立てた。

 魔法が使えない今、これは掛けだった。

 こちらに来る前、リフィエル様は仰っていた。もしブレイヴの聖域展開も回帰魔法も使えない状態に陥った場合、一つだけノアお兄ちゃんを止める事が出来る可能性があるもの。それは、お姉ちゃんの血だって。

 自分を吸血鬼にした者の血は、された者には特別な効果――強い吸血衝動やマイナス感情を打ち消す鎮静効果があると。

 私の中にはお姉ちゃんの血も流れている。飲めば飲むほど、ノアお兄ちゃんの強い狂気が消えてくれるといいんだけど。

「ノア、お兄ちゃん……一緒に、あっちで暮らそうよ。きっと、楽しい……から。私が、独りになんて、させないよ……」

 誰か一人でも、昔のノアお兄ちゃんをこうして抱き締めてあげれる人が居たら、少しは未来も変わっていたのかな。

 どうか、諦めないで。
 少しだけ周りに目を向けて。
 ハイグランド帝国に来てくれたら、きっと寂しくないから。

「…………アリシア?」

 戸惑った声色でノアお兄ちゃんが私の名前を呼んだ。顔を上げたいけど、体に力が入らない。

「どう? ノア、お兄ちゃん……すこしは……おなか、いっぱいに……なった? えんりょせずに、のんでね……」
「しっかりしろ、アリシア! ほら、僕の血を飲むんだ!」

 何故か泣きそうな声色で、ノアお兄ちゃんがそう叫んだ。

「ごめんね……ちからが、はいらないの……」

 ノアお兄ちゃんは自分の腕を切って、私に血を飲ませてくれた。でもそれでは足りなくて、意識が飛びそうになるのを何とか堪えて声を絞り出した。どうしても渡して置かなきゃならないものがあるから。

「ノア、お兄ちゃん……これを、受け取って……」

 私はお姉ちゃんから預かっていたキューブを渡した。

「お姉ちゃんから、ノアお兄ちゃんへの……プレゼント、だよ。あっちは寒い日も多いから、マフラーやセーターを……編んだんだって……他にも、いろいろ……」
「パメラ様が、僕のために……?!」
「うん、そうだよ……ぜんぶ、ノアお兄ちゃんの、ため……お姉ちゃん、ツンデレだから……私が、預かってたの……」
「アリシア……っ?! しっかりしてくれ!」

 私の顔を覗き込むノアお兄ちゃんの頬に、そっと手を伸ばして優しく撫でる。昔よく、お姉ちゃんがしてくれたように。

「大丈夫、ノアお兄ちゃんは……独りじゃ、ないよ……私も、お姉ちゃんも、ついてるから……ね。寂しい、思いなんて……させないよ……」

 どうかこの思いが、ノアお兄ちゃんに届きますように……限界だった私は、そのまま意識を手放してしまった。
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