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第四章 「士官学校の宝具(アーティファクト)」(4)
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4
「あ、涼しい。あー涼しいわぁ」
士官学校制服の襟元を緩めて扇子で仰いでいる僕に、誰も目を合わせようとしない。
クラスメイトの誰もが顔をうつむけて、気まずそうにしている。
「あー、便利だなーこれ、すっごい涼しいぞー。なぁ、ルッ君?」
「わかったから。まつおさん、もう、わかったから」
「え、何が?」
ぱたぱたと扇子で仰ぐ僕を憐れむように見たルッ君は、それ以上何かを言いかけて、また
顔を背けた。
厳正なる適性考査によって、ヴァイリス士官学校が誇る「魔法宝物庫」から僕に授与された武器……。
それが、これだ。
扇子、せんす。
珍しい職業クラスの一つである「踊り子」の熟練者などは、鋼鉄製の「扇」を武器として華麗に舞いながら魔物を仕留めたりもするらしいが、断言してもいい、これは絶対に、誰がなんと言おうとそういった代物ではない。
鋼鉄製どころか、ぺらぺらの「竹」と呼ばれる東方の樹木を削って作られた骨組みに、同じく東方の国で作られた『和紙』が張り付けられた、まったくそれ以上ないというほどに簡素な品物だった。
いやもう、本当に断言してもいい。
この扇子を持って、実地訓練の洞窟に行ったら、僕は何もできないままゴブリンたちにボコボコにされるだろう。
「うそでしょ?」
ボイド教官が僕にコレを手渡した時、僕は思わず、こう言ったものだ。
武器と呼ぶにはあまりに軽すぎるその感触は、これが決してものすごい効力を秘めた「魔法武器」でも「魔法道具」でもないことを確信させるだけのチープさだった。
「一応、言っておくが、私がコレを選んだわけではないからな。『魔法宝物庫』がコレをお前に選んだのだ」
ボイド教官が弁解するように、僕に言った。
「……」
ひどい、ひどすぎる。
あんまりだ。
いくら僕が劣等生で、なんにも才能がないからって、これはないんじゃないか。
これはさすがに、笑えない。
僕が心底、意気消沈しているのがわかったのだろう。
他のクラスの連中が爆笑している中、ウチのクラスの連中だけは一切笑わなかった。
そんな優しい気遣いがまた、余計に辛かった。
「うーん」
バサッ、バサッ、と開いたり、閉じたりを繰り返す僕に、キムが心配そうに声をかけた。
「な、なぁ? 一応それ、『魔法宝物庫』から授与されたものなんだぞ? そんなぞんざいに扱うなって。もしかしたら、すんごいブツかもしれないだろ?」
「そう思う?」
絶対違うと思うが、実はとんでもない「魔法付与エンチャント」がなされている武器だとか……。
バサッ、バサッ、バキッ……。
「あ……」
「あ……」
開いたり閉じたりを繰り返しているうちに扇骨の部分がポッキリと折れてしまい、僕とキムは顔を見合わせた。
やっぱり、どう考えてもただの扇子だよこれ。
「うっ……ううっ……くくくっ」
「お、お前、もしかして泣いてるの? 笑ってるの?」
顔をうつむかせて肩を震わせる僕に、キムが問いかけた。
「だーもう、ちょっとそいつ、貸せ。糊付けしてやるから」
キムが僕から扇子を取り上げようとしたので、僕は断固拒否した。
「いいよもう、このままで」
「いや、貸せって。オレはこう見えて、こういう修理とか得意なんだよ」
「いや、もう良いんだって。こいつはこのままひっそりと、中庭の木の下に埋葬するんだ」
「まぁそう言うなよ。こういう物は、扱い一つで十年でも二十年でも……」
「ジジイみたいなこと言うなよ。なんでこんなボロっちぃ物を十年も二十年も……」
ビリ、ビリビリィッッ――!!
キムと扇子の取り合いをしているうちに、扇面の和紙がびりびりに破れた。
「ああああああっ、も、もうダメだぁぁぁっ」
「な、なんだよ、お前、もう埋葬するって言っただろ」
「今日ぐらいはあおぐのに使えたかもしれないだろ」
「だからぁ、オレが修理したら十年も二十年も……」
「だぁぁぁ、やめろぉっ! 同情はいらないんだぁぁっ!!」
僕が必死に抵抗するのに、キムのおせっかいは止まらない。
「ふんっ、諦めるんだなっ! 腕力でお前がオレの力に勝てるワケが……」
「ええい、しつこい!! ええいっ、控えろっ!!控えおろう!!」
バァァァァーン――――!!!
その時だ。
突然、キムの巨体が扇子から弾かれるように後方に吹き飛んだ。
その大きな物音に、クラスメイト達が一斉にこちらを振り向いた。
当の僕とキムも、何が起こったのかまったくわからない。
キムはびっくりしたように僕と目を合わせると、そのまま立ち上がろうとして……。
「あ、あれ?」
立ち上がることができずに、片膝を付くような形で、僕の前にひざまずいた。
まるで主に対する臣従の礼のように。
「何、やってんの?」
ルッ君があきれたように、キムに問うた。
「い、いや、身体が勝手に……」
「おい、キム、こんなみじめな僕をこれ以上からかって、何が楽しいんだ」
「いや、まつおさん……、やっぱり、その扇子……、シャレにならんかもしれん……」
「え?」
キムの言葉に、僕はほとんど半壊した扇子を見つめた。
「これが?」
「お前が『控えろ』って言った途端、こう、身体が勝手に……、そうしなきゃって……」
「え、ええ?! ちょっとちょっと、それマジなのっ!? それを使うとなんでも命令できちゃうわけぇ?! す、すごくない?!」
ユキが大声を上げた。
「ふぅっ、や、やっと身動きができる……、びっくりしたぜ……」
キムが自分の身体を不思議そうに見ながら、僕に近づいた。
「……もしかしたらその扇子、今回の授与式で一番の『アタリ』かも知れんぞ?」
アタリ……、これが……?
……僕が命じたことに逆らえなくなるような「魔法道具」。
いや、もはやそんなものは「魔法道具」ではなくて、「宝具」だろう。
意思を持つ「魔法宝物庫」は、本当に劣等生の代表格みたいな僕を、そんなモノの所有者
に選んだのだろうか。
「試しにもう一度、何かやってみろよ……」
キムの言葉に、僕は手に持つ扇子をゆっくり掲げ、その先端を、ごくり、と生唾を飲み込むキムに……、ではなく、その後ろの座席でこちらを見ているメルに……。
「結婚しよう」
『なっ――!?』
キムとルッ君が、同時に声を上げた。
「ちょ、ちょっとまっちゃんっ!! あ、あんた、何考えてるの?!」
ユキが叫ぶのとほぼ同時に、ガタン、とメルが席を立ち上がった。
「そ、そんな、メルっ! だ、だめよっ、メルっ! しっかりっ!」
僕の方につか、つかと歩き始めたメルに、ユキが慌てて声を掛ける。
「お、おまえは天才か……」
ルッ君がうめいた。
「ルッ君って最っ低!!」
そんなルッ君に軽蔑しきった目を向けるユキ。
「いやいやいやいや!! な、なんで俺なの?! どう考えてもまつおさんのが最低だろ!」
「バカ者。まつおさんは勇者ではないか。貴様はメル女史にそんなことが言えるのか」
偽ジルベールが口を挟んだ。
「け、結婚……」キムがうめいた。「とりあえず、付き合ってぐらいにしたほうが良くないか」
「アンタも最っ低……」
ユキがキムの脛を思い切り蹴り飛ばした。
「そ、そんなことより、アンタたち、メルを止めなさいよっ、ほら、早くっ!!」
ユキに命じられるまま、ルッ君とキムがメルの方を振り向くが、その時にはすでに、メルは僕の眼前に迫っていた。
ごくっ。
思わず、生唾を飲み込んでしまう。
正面からこうして、メルの顔を見るのは久しぶりかもしれない。
流れるような美しい銀髪に、深い澄んだコバルトブルーの瞳。
透き通るような白い肌。
いつも横顔ばかり見ていた気がする。
そんなメルが、彼女の吐息が僕の鼻にかかるぐらいに近づいて……。
バキッ。
「えっ」
バキッ、グシャッ、グシャグシャグシャッ。
メルの手が、僕の半壊していた扇子を完膚なきまでに全壊させた。
「あ、ああっ、ああああああああ~~~~っ!!!!」
僕は床に散らばった扇子の残骸を慌てて拾い集めた。
「ほ、宝具が……、僕の宝具がぁぁぁぁ……っ!!!」
ひどい、ひどすぎる……。
「ね、ねぇキム……、これ……修理できる?」
残骸を拾い集めた僕を、キムが憐れむように見下した。
「いや……、さすがに無理だろ……、中庭に埋めるしかないな」
僕の宝具……、短い付き合いだったな……。
やっと、やっとこれで、僕もみんなと肩を並べられると思ったのに。
これさえあれば、僕も一人前の冒険者になれると、ほんの少し期待したのに……。
ひどい、ひどすぎる……。
ゴーン、ゴーン……。
次の講義が始まる鐘の音が鳴ると、気まずさをごまかすように、クラスメイトたちがそそくさと席に戻っていった。
ひどいお前ら……、さっきはあんなに僕の扇子がすごいって言ってたのに。
「それは、ただの扇子よ」
がっくりと肩を落とす僕に、まだ席に戻っていなかったメルが声をかけた。
「えっ?」
「さっきのは、あなた自身の力」
床に落ちていた残骸の欠片を僕の手のひらに乗せながら、メルは言った。
「そろそろ、自覚して」
それだけ言うと、メルはこちらを振り返りもせずに、自分の座席に戻っていった。
「あ、涼しい。あー涼しいわぁ」
士官学校制服の襟元を緩めて扇子で仰いでいる僕に、誰も目を合わせようとしない。
クラスメイトの誰もが顔をうつむけて、気まずそうにしている。
「あー、便利だなーこれ、すっごい涼しいぞー。なぁ、ルッ君?」
「わかったから。まつおさん、もう、わかったから」
「え、何が?」
ぱたぱたと扇子で仰ぐ僕を憐れむように見たルッ君は、それ以上何かを言いかけて、また
顔を背けた。
厳正なる適性考査によって、ヴァイリス士官学校が誇る「魔法宝物庫」から僕に授与された武器……。
それが、これだ。
扇子、せんす。
珍しい職業クラスの一つである「踊り子」の熟練者などは、鋼鉄製の「扇」を武器として華麗に舞いながら魔物を仕留めたりもするらしいが、断言してもいい、これは絶対に、誰がなんと言おうとそういった代物ではない。
鋼鉄製どころか、ぺらぺらの「竹」と呼ばれる東方の樹木を削って作られた骨組みに、同じく東方の国で作られた『和紙』が張り付けられた、まったくそれ以上ないというほどに簡素な品物だった。
いやもう、本当に断言してもいい。
この扇子を持って、実地訓練の洞窟に行ったら、僕は何もできないままゴブリンたちにボコボコにされるだろう。
「うそでしょ?」
ボイド教官が僕にコレを手渡した時、僕は思わず、こう言ったものだ。
武器と呼ぶにはあまりに軽すぎるその感触は、これが決してものすごい効力を秘めた「魔法武器」でも「魔法道具」でもないことを確信させるだけのチープさだった。
「一応、言っておくが、私がコレを選んだわけではないからな。『魔法宝物庫』がコレをお前に選んだのだ」
ボイド教官が弁解するように、僕に言った。
「……」
ひどい、ひどすぎる。
あんまりだ。
いくら僕が劣等生で、なんにも才能がないからって、これはないんじゃないか。
これはさすがに、笑えない。
僕が心底、意気消沈しているのがわかったのだろう。
他のクラスの連中が爆笑している中、ウチのクラスの連中だけは一切笑わなかった。
そんな優しい気遣いがまた、余計に辛かった。
「うーん」
バサッ、バサッ、と開いたり、閉じたりを繰り返す僕に、キムが心配そうに声をかけた。
「な、なぁ? 一応それ、『魔法宝物庫』から授与されたものなんだぞ? そんなぞんざいに扱うなって。もしかしたら、すんごいブツかもしれないだろ?」
「そう思う?」
絶対違うと思うが、実はとんでもない「魔法付与エンチャント」がなされている武器だとか……。
バサッ、バサッ、バキッ……。
「あ……」
「あ……」
開いたり閉じたりを繰り返しているうちに扇骨の部分がポッキリと折れてしまい、僕とキムは顔を見合わせた。
やっぱり、どう考えてもただの扇子だよこれ。
「うっ……ううっ……くくくっ」
「お、お前、もしかして泣いてるの? 笑ってるの?」
顔をうつむかせて肩を震わせる僕に、キムが問いかけた。
「だーもう、ちょっとそいつ、貸せ。糊付けしてやるから」
キムが僕から扇子を取り上げようとしたので、僕は断固拒否した。
「いいよもう、このままで」
「いや、貸せって。オレはこう見えて、こういう修理とか得意なんだよ」
「いや、もう良いんだって。こいつはこのままひっそりと、中庭の木の下に埋葬するんだ」
「まぁそう言うなよ。こういう物は、扱い一つで十年でも二十年でも……」
「ジジイみたいなこと言うなよ。なんでこんなボロっちぃ物を十年も二十年も……」
ビリ、ビリビリィッッ――!!
キムと扇子の取り合いをしているうちに、扇面の和紙がびりびりに破れた。
「ああああああっ、も、もうダメだぁぁぁっ」
「な、なんだよ、お前、もう埋葬するって言っただろ」
「今日ぐらいはあおぐのに使えたかもしれないだろ」
「だからぁ、オレが修理したら十年も二十年も……」
「だぁぁぁ、やめろぉっ! 同情はいらないんだぁぁっ!!」
僕が必死に抵抗するのに、キムのおせっかいは止まらない。
「ふんっ、諦めるんだなっ! 腕力でお前がオレの力に勝てるワケが……」
「ええい、しつこい!! ええいっ、控えろっ!!控えおろう!!」
バァァァァーン――――!!!
その時だ。
突然、キムの巨体が扇子から弾かれるように後方に吹き飛んだ。
その大きな物音に、クラスメイト達が一斉にこちらを振り向いた。
当の僕とキムも、何が起こったのかまったくわからない。
キムはびっくりしたように僕と目を合わせると、そのまま立ち上がろうとして……。
「あ、あれ?」
立ち上がることができずに、片膝を付くような形で、僕の前にひざまずいた。
まるで主に対する臣従の礼のように。
「何、やってんの?」
ルッ君があきれたように、キムに問うた。
「い、いや、身体が勝手に……」
「おい、キム、こんなみじめな僕をこれ以上からかって、何が楽しいんだ」
「いや、まつおさん……、やっぱり、その扇子……、シャレにならんかもしれん……」
「え?」
キムの言葉に、僕はほとんど半壊した扇子を見つめた。
「これが?」
「お前が『控えろ』って言った途端、こう、身体が勝手に……、そうしなきゃって……」
「え、ええ?! ちょっとちょっと、それマジなのっ!? それを使うとなんでも命令できちゃうわけぇ?! す、すごくない?!」
ユキが大声を上げた。
「ふぅっ、や、やっと身動きができる……、びっくりしたぜ……」
キムが自分の身体を不思議そうに見ながら、僕に近づいた。
「……もしかしたらその扇子、今回の授与式で一番の『アタリ』かも知れんぞ?」
アタリ……、これが……?
……僕が命じたことに逆らえなくなるような「魔法道具」。
いや、もはやそんなものは「魔法道具」ではなくて、「宝具」だろう。
意思を持つ「魔法宝物庫」は、本当に劣等生の代表格みたいな僕を、そんなモノの所有者
に選んだのだろうか。
「試しにもう一度、何かやってみろよ……」
キムの言葉に、僕は手に持つ扇子をゆっくり掲げ、その先端を、ごくり、と生唾を飲み込むキムに……、ではなく、その後ろの座席でこちらを見ているメルに……。
「結婚しよう」
『なっ――!?』
キムとルッ君が、同時に声を上げた。
「ちょ、ちょっとまっちゃんっ!! あ、あんた、何考えてるの?!」
ユキが叫ぶのとほぼ同時に、ガタン、とメルが席を立ち上がった。
「そ、そんな、メルっ! だ、だめよっ、メルっ! しっかりっ!」
僕の方につか、つかと歩き始めたメルに、ユキが慌てて声を掛ける。
「お、おまえは天才か……」
ルッ君がうめいた。
「ルッ君って最っ低!!」
そんなルッ君に軽蔑しきった目を向けるユキ。
「いやいやいやいや!! な、なんで俺なの?! どう考えてもまつおさんのが最低だろ!」
「バカ者。まつおさんは勇者ではないか。貴様はメル女史にそんなことが言えるのか」
偽ジルベールが口を挟んだ。
「け、結婚……」キムがうめいた。「とりあえず、付き合ってぐらいにしたほうが良くないか」
「アンタも最っ低……」
ユキがキムの脛を思い切り蹴り飛ばした。
「そ、そんなことより、アンタたち、メルを止めなさいよっ、ほら、早くっ!!」
ユキに命じられるまま、ルッ君とキムがメルの方を振り向くが、その時にはすでに、メルは僕の眼前に迫っていた。
ごくっ。
思わず、生唾を飲み込んでしまう。
正面からこうして、メルの顔を見るのは久しぶりかもしれない。
流れるような美しい銀髪に、深い澄んだコバルトブルーの瞳。
透き通るような白い肌。
いつも横顔ばかり見ていた気がする。
そんなメルが、彼女の吐息が僕の鼻にかかるぐらいに近づいて……。
バキッ。
「えっ」
バキッ、グシャッ、グシャグシャグシャッ。
メルの手が、僕の半壊していた扇子を完膚なきまでに全壊させた。
「あ、ああっ、ああああああああ~~~~っ!!!!」
僕は床に散らばった扇子の残骸を慌てて拾い集めた。
「ほ、宝具が……、僕の宝具がぁぁぁぁ……っ!!!」
ひどい、ひどすぎる……。
「ね、ねぇキム……、これ……修理できる?」
残骸を拾い集めた僕を、キムが憐れむように見下した。
「いや……、さすがに無理だろ……、中庭に埋めるしかないな」
僕の宝具……、短い付き合いだったな……。
やっと、やっとこれで、僕もみんなと肩を並べられると思ったのに。
これさえあれば、僕も一人前の冒険者になれると、ほんの少し期待したのに……。
ひどい、ひどすぎる……。
ゴーン、ゴーン……。
次の講義が始まる鐘の音が鳴ると、気まずさをごまかすように、クラスメイトたちがそそくさと席に戻っていった。
ひどいお前ら……、さっきはあんなに僕の扇子がすごいって言ってたのに。
「それは、ただの扇子よ」
がっくりと肩を落とす僕に、まだ席に戻っていなかったメルが声をかけた。
「えっ?」
「さっきのは、あなた自身の力」
床に落ちていた残骸の欠片を僕の手のひらに乗せながら、メルは言った。
「そろそろ、自覚して」
それだけ言うと、メルはこちらを振り返りもせずに、自分の座席に戻っていった。
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