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第五章 「はじめての依頼」(2)~(4)
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2
「じいさんが使ってた鍬が壊れちまってよ。でもほれ……、まだ使えるんさね。買い換えるのももったいないじゃろ?」
ぼろぼろの鍬を持って、おばあさんがやってきた。
「はぁ、そうですね」
「じゃから、これを誰かに修理してもらえんかなーと思っての……」
ここは冒険者ギルドなんだけどなぁ……。
職員が僕一人になった第二支部は大変ありがたいことに閑散としていた。
本部で銀星冒険者以上限定の緊急大口依頼が入った関係で、それ以下の階級の冒険者が殺到するんじゃないかと心配していたのだが、立ち寄った馴染みの冒険者のおじさんが言うには、こういう大口の依頼がある時は、下級の冒険者はなるべく邪魔しないようにするというのが、冒険者界隈の暗黙のルールらしい。
「こんなの依頼に出したら、買い換えるほうが安くなっちゃいますよ。ちょっと見せてみて」
僕はおばあさんから鍬を受け取った。
「あー、なるほど。刃の部分はまだ全然丈夫ですね。でも柄の部分の木が腐ってて、クサビもぼろぼろだから、ガタガタしてるんだ」
「ほー? あんた、直せるんけ?」
「ちょっと待っててね」
僕は冒険者ギルドの倉庫に向かった。
本来の僕の業務ではないけど、まぁいいや。……どうせヒマだし。
「あ、やっぱり。ちょうど良い感じ」
僕は稽古用の古い木剣の柄を外して、刀身を鍬の柄と交換した。
樫の木で作られているから作りは丈夫で、表面がなめらかに削られているから握り心地も悪くない。
「あとは、木剣のクサビを打ち込めば……」
倉庫から持ってきた工具箱から金槌を取り出して、木剣の柄を固定していた鉄製のクサビを鍬と柄の間に打ち込むと、グラつきが一切なくなった。
「よし、出来上がり!」
「おおお、壊れる前より使い勝手が良さげじゃねぇかい、どれ」
おばあさんが鍬を何度も振り上げる。
いつも農作業をしているからか、その動作はおばあさんの外見から想像していたよりもはるかに力強い。たぶん僕なんかよりずっと。
「完璧じゃ! 直った直った!!」
「よかった」
冒険者ギルドのホールでおばあちゃんが鍬を振り回す光景というのも、なかなか普段お目にかかれないよな、とか考えると思わず口元がほころんだ。
小遣いをくれようとしたおばあちゃんを正式な依頼じゃないからと丁重に断って、孫の婿にならんかという話を、「じゃ今度お孫さん連れてきてよ」と言って一応フラグを成立させておいて、その後もちらほら来る冒険者と雑談しつつ諸手続きをこなしていった。
……。
気づかないフリをしていたけど。
さっきから、気になってはいたんだ。
僕は自分で淹れておきながら、熱くてしばらく飲めなかったお茶に口をつけながら、ちらりと冒険者ギルドの入り口の扉に視線を送った。
扉が軽く開いて、こちらを伺うようにしている視線を感じる。
でもこちらが顔を向けると、扉が閉まる。
最初はキムあたりがからかいに来たのかと思ったけど、それにしてはずいぶんしつこい。
……ふぅ。確認してみるか。
どうせヒマだしな。
「……あいつしかいねぇの?」
「さっきからずっとそうだよ。ずっとひとりでサボってるよ」
「どうする? そうだんしてみる?」
「うーん、でも、たよりにならなそうじゃない?」
「だよな、あいつずっとサボってるもんな。 ……あれ、いなくなったぞ」
「僕はサボってない。これは『サービス残業』っていうんだ」
『うわっ!!』
急に後ろから当の本人に声を掛けられて、冒険者ギルドの扉を覗き込んでいた3人の子供たちがびっくりして振り向いた。
3
「ぼくたちは『いらい』しにきたんだ!」
一番やんちゃそうな黒髪短髪の少年が言った。名前はユータ。
「ほかのひとはいないの? おにいさんでかいけつできるとはおもえないんだけど」
頭が良さそうな黒い髪の長い男の子がヨマ。
「でもこわいひとじゃなさそうだから、このおにいちゃんにいってみよ?」
くりくりっとした赤毛の巻き髪がかわいらしい女の子がニーナ。
「えっと、どんな依頼をしにきたの?」
冒険者ギルドに依頼ができるのは、冒険者ギルドの会員だけだ。
冒険者じゃなくても会員にはなれるが登録料が必要だし、そもそも子供は登録できない。
でも、せっかく来たのに無下に追い返すのもかわいそうだから、話ぐらいは聞いてあげよう。
……どうせヒマだし。
「あのね、『おばけたいじ』をしてほしいの」
「おばけ……おばけがいるの?」
「おばけがいるからおばけたいじをいらいにきたんだよ」
ニーナに聞き返すと、ヨマから辛辣すぎるツッコミが飛んできた。
「なんだ、おれたちをうたがうのかよ!」
「いいや、君たちが3人で、何度もためらいながら勇気を持ってここまで来たんだから、きっと君たちは本当に「おばけ」を見たんだろう。信じるよ」
「……なんだよ、おとなにしちゃはなせるじゃねーか」
「かれはおとなじゃないよ。まだこどもだとおもう」
お前に言われたくないわ、とツッコミたくなるのを僕は必死に我慢した。
「だから教えて。どこで、どんな風に『おばけ』を見かけたの?」
4
「……というわけなんだ」
「で、それを引き受けちゃったってわけ?」
C組のみんなに昨日の子供たちの話をすると、ユキが呆れたように聞いてきた。
いいかげん、僕の机を乳置き場にするのはやめてもらいたい。
「そ。ちなみに報酬は期待していていいそうです」
「おいおい、小さい子供から報酬を取るのかよ?」
キムが言った。
「まぁ、子供が考える報酬だから、たいしたことないと思うけど。……バッタの死骸とか」
バッタの死骸ならコイツにあげようと思う。
「ほら、教育の一環だよ。仕事を頼んで報酬を支払うっていう、社会の仕組みを学べるわけだ。それに、子供の依頼はギルドでは受理できないからさ」
「……ふぅん、安請け合いにならないといいけど」
呆れたように言うユキに、僕は反論した。
「安請け合いって、子供にとっては深刻なトラブルなんだから、力になってあげてもいいだろ? どうせ冒険者じゃない僕たちは正式な依頼も受けられないんだし……」
「それはそうだけど、その子達の言っていることが本当なんだとしたら、「おばけ」は私達にとっても深刻な問題じゃないかしら」
「おばけ」なんてまったく怖がりそうもないメルの意外な言葉に、僕は思わず口元が緩んだ。
「深刻な問題? 『おばけ』なんて実在しないのに?」
「するわよ」「するぞ」「するよ」「するする」「するワヨ」「するな」
当たり前だと思っていたことをクラスメイトから一斉に否定されて、僕は目を丸くした。
会話に参加していなかった偽ジルベールまで……。
「え、するの?」
「アンタはほんっとに何も知らないのね!! いい? おばけのイメージそのまんまのゴーストやファントム、魔術師の死霊のレイス、恐怖が実体化したスペクター、ヴァイリス近辺に出没する『おばけ』だけでもたーくさんいるわよ!」
「ま、まじで」
なぜか聞いたことがある名前ばかりだけど……。
「奴らのような霊体は厄介でな、普通の剣などでは攻撃が通らんのだ、メル女史の『青釭剣』のような魔法武器でもあれば別だがな……」
「やだもー、まつおさんこわーいー」
偽ジルベールが説明してくれた。
ジョセフィーヌと花京院は二人で自分たちが見たことのあるおばけについてああでもない、こうでもないと盛り上がっている。
「言ったでしょ! だから安請け合いだって言ったのよ!!」
「で、でもほら! 物理攻撃がダメなら、魔法なら通るんじゃ……」
「ふむ、総じて火炎系の魔法は比較的通るらしい。無論、一番効果があるのは神官どもが使う『神聖魔法』だがな……」
「でも、オレたちはまだ魔術師ギルドにも登録できないし、まともに魔法が使えるとなると、英才教育を受けているAクラスの連中とか……」
「あ、そうだ、ミヤザワくん! ミヤザワくんなら火球魔法が撃てるから……」
僕たちがミヤザワくんの方を一斉に向くと、ミヤザワくんはガタン、と立ち上がった。
「むむむむむむむりむりむり!! 無理だよう!! ぼ、ぼくはその、霊とかそういうのダメなんだ!! あ、次の魔法講習に行かなきゃ!! それじゃ!!」
あんなに素早く動けたんだ……。
脱兎のごとく走り去っていったミヤザワくんの背中を見送ってから、僕は言った。
「まぁ、ミヤザワくんは後で確保するとして」
「おまえ、鬼だな……」
キムがミヤザワくんの未来を哀れむように言った。
「神聖魔法が得意な人っているのかな。……もちろん、Aクラス以外で」
王族など、上級貴族の集団であるAクラスに頼み事をするようなコネはもちろんない。
それに、僕はまぶしすぎる金髪の真ジルベールの顔を思い浮かべた。
うまくいえないけど、あの人にだけは貸しを作らないほうがいい気がしていた。
「あ!知ってる!! たしか、Bクラスにすごい人がいるわよ! 神聖魔法の使い手で、9歳の時に『聖女』の称号を獲得したっていう人が!!」
ユキが叫んだ。
あいかわらず、他の生徒の情報にやたら詳しい。
「聖女?」
「『神託』という神様のお告げみたいなのを聴くことができる者に与えられる称号だな」
「お告げが聴けたら男でも『聖女』なの? 『聖男』?」
「くわしくは知らんが、信仰心の厚い女性にしか聴こえぬらしい」
偽ジルベールのわかりやすい説明に礼を言うと、閣下は右手を軽く上げて読書に戻った。
Bクラス、下級貴族たちのクラスか……。
話しかけづらいことに代わりはないが、Aよりはマシか。
「……本当にあなたで解決するつもりなの?」
「うーん、だって引き受けちゃったしなぁ……。まぁ、とりあえずできるだけのことはやってみるよ」
そう告げると、メルは表情を変えずに「そう」とだけ答えた。
それにしても、9歳で「聖女」の称号を得た才媛かぁ……。
きっと、白い服が似合って「あらあら~」が口癖の、ものすごい癒やし系な雰囲気の女性に違いない。
「じいさんが使ってた鍬が壊れちまってよ。でもほれ……、まだ使えるんさね。買い換えるのももったいないじゃろ?」
ぼろぼろの鍬を持って、おばあさんがやってきた。
「はぁ、そうですね」
「じゃから、これを誰かに修理してもらえんかなーと思っての……」
ここは冒険者ギルドなんだけどなぁ……。
職員が僕一人になった第二支部は大変ありがたいことに閑散としていた。
本部で銀星冒険者以上限定の緊急大口依頼が入った関係で、それ以下の階級の冒険者が殺到するんじゃないかと心配していたのだが、立ち寄った馴染みの冒険者のおじさんが言うには、こういう大口の依頼がある時は、下級の冒険者はなるべく邪魔しないようにするというのが、冒険者界隈の暗黙のルールらしい。
「こんなの依頼に出したら、買い換えるほうが安くなっちゃいますよ。ちょっと見せてみて」
僕はおばあさんから鍬を受け取った。
「あー、なるほど。刃の部分はまだ全然丈夫ですね。でも柄の部分の木が腐ってて、クサビもぼろぼろだから、ガタガタしてるんだ」
「ほー? あんた、直せるんけ?」
「ちょっと待っててね」
僕は冒険者ギルドの倉庫に向かった。
本来の僕の業務ではないけど、まぁいいや。……どうせヒマだし。
「あ、やっぱり。ちょうど良い感じ」
僕は稽古用の古い木剣の柄を外して、刀身を鍬の柄と交換した。
樫の木で作られているから作りは丈夫で、表面がなめらかに削られているから握り心地も悪くない。
「あとは、木剣のクサビを打ち込めば……」
倉庫から持ってきた工具箱から金槌を取り出して、木剣の柄を固定していた鉄製のクサビを鍬と柄の間に打ち込むと、グラつきが一切なくなった。
「よし、出来上がり!」
「おおお、壊れる前より使い勝手が良さげじゃねぇかい、どれ」
おばあさんが鍬を何度も振り上げる。
いつも農作業をしているからか、その動作はおばあさんの外見から想像していたよりもはるかに力強い。たぶん僕なんかよりずっと。
「完璧じゃ! 直った直った!!」
「よかった」
冒険者ギルドのホールでおばあちゃんが鍬を振り回す光景というのも、なかなか普段お目にかかれないよな、とか考えると思わず口元がほころんだ。
小遣いをくれようとしたおばあちゃんを正式な依頼じゃないからと丁重に断って、孫の婿にならんかという話を、「じゃ今度お孫さん連れてきてよ」と言って一応フラグを成立させておいて、その後もちらほら来る冒険者と雑談しつつ諸手続きをこなしていった。
……。
気づかないフリをしていたけど。
さっきから、気になってはいたんだ。
僕は自分で淹れておきながら、熱くてしばらく飲めなかったお茶に口をつけながら、ちらりと冒険者ギルドの入り口の扉に視線を送った。
扉が軽く開いて、こちらを伺うようにしている視線を感じる。
でもこちらが顔を向けると、扉が閉まる。
最初はキムあたりがからかいに来たのかと思ったけど、それにしてはずいぶんしつこい。
……ふぅ。確認してみるか。
どうせヒマだしな。
「……あいつしかいねぇの?」
「さっきからずっとそうだよ。ずっとひとりでサボってるよ」
「どうする? そうだんしてみる?」
「うーん、でも、たよりにならなそうじゃない?」
「だよな、あいつずっとサボってるもんな。 ……あれ、いなくなったぞ」
「僕はサボってない。これは『サービス残業』っていうんだ」
『うわっ!!』
急に後ろから当の本人に声を掛けられて、冒険者ギルドの扉を覗き込んでいた3人の子供たちがびっくりして振り向いた。
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「ぼくたちは『いらい』しにきたんだ!」
一番やんちゃそうな黒髪短髪の少年が言った。名前はユータ。
「ほかのひとはいないの? おにいさんでかいけつできるとはおもえないんだけど」
頭が良さそうな黒い髪の長い男の子がヨマ。
「でもこわいひとじゃなさそうだから、このおにいちゃんにいってみよ?」
くりくりっとした赤毛の巻き髪がかわいらしい女の子がニーナ。
「えっと、どんな依頼をしにきたの?」
冒険者ギルドに依頼ができるのは、冒険者ギルドの会員だけだ。
冒険者じゃなくても会員にはなれるが登録料が必要だし、そもそも子供は登録できない。
でも、せっかく来たのに無下に追い返すのもかわいそうだから、話ぐらいは聞いてあげよう。
……どうせヒマだし。
「あのね、『おばけたいじ』をしてほしいの」
「おばけ……おばけがいるの?」
「おばけがいるからおばけたいじをいらいにきたんだよ」
ニーナに聞き返すと、ヨマから辛辣すぎるツッコミが飛んできた。
「なんだ、おれたちをうたがうのかよ!」
「いいや、君たちが3人で、何度もためらいながら勇気を持ってここまで来たんだから、きっと君たちは本当に「おばけ」を見たんだろう。信じるよ」
「……なんだよ、おとなにしちゃはなせるじゃねーか」
「かれはおとなじゃないよ。まだこどもだとおもう」
お前に言われたくないわ、とツッコミたくなるのを僕は必死に我慢した。
「だから教えて。どこで、どんな風に『おばけ』を見かけたの?」
4
「……というわけなんだ」
「で、それを引き受けちゃったってわけ?」
C組のみんなに昨日の子供たちの話をすると、ユキが呆れたように聞いてきた。
いいかげん、僕の机を乳置き場にするのはやめてもらいたい。
「そ。ちなみに報酬は期待していていいそうです」
「おいおい、小さい子供から報酬を取るのかよ?」
キムが言った。
「まぁ、子供が考える報酬だから、たいしたことないと思うけど。……バッタの死骸とか」
バッタの死骸ならコイツにあげようと思う。
「ほら、教育の一環だよ。仕事を頼んで報酬を支払うっていう、社会の仕組みを学べるわけだ。それに、子供の依頼はギルドでは受理できないからさ」
「……ふぅん、安請け合いにならないといいけど」
呆れたように言うユキに、僕は反論した。
「安請け合いって、子供にとっては深刻なトラブルなんだから、力になってあげてもいいだろ? どうせ冒険者じゃない僕たちは正式な依頼も受けられないんだし……」
「それはそうだけど、その子達の言っていることが本当なんだとしたら、「おばけ」は私達にとっても深刻な問題じゃないかしら」
「おばけ」なんてまったく怖がりそうもないメルの意外な言葉に、僕は思わず口元が緩んだ。
「深刻な問題? 『おばけ』なんて実在しないのに?」
「するわよ」「するぞ」「するよ」「するする」「するワヨ」「するな」
当たり前だと思っていたことをクラスメイトから一斉に否定されて、僕は目を丸くした。
会話に参加していなかった偽ジルベールまで……。
「え、するの?」
「アンタはほんっとに何も知らないのね!! いい? おばけのイメージそのまんまのゴーストやファントム、魔術師の死霊のレイス、恐怖が実体化したスペクター、ヴァイリス近辺に出没する『おばけ』だけでもたーくさんいるわよ!」
「ま、まじで」
なぜか聞いたことがある名前ばかりだけど……。
「奴らのような霊体は厄介でな、普通の剣などでは攻撃が通らんのだ、メル女史の『青釭剣』のような魔法武器でもあれば別だがな……」
「やだもー、まつおさんこわーいー」
偽ジルベールが説明してくれた。
ジョセフィーヌと花京院は二人で自分たちが見たことのあるおばけについてああでもない、こうでもないと盛り上がっている。
「言ったでしょ! だから安請け合いだって言ったのよ!!」
「で、でもほら! 物理攻撃がダメなら、魔法なら通るんじゃ……」
「ふむ、総じて火炎系の魔法は比較的通るらしい。無論、一番効果があるのは神官どもが使う『神聖魔法』だがな……」
「でも、オレたちはまだ魔術師ギルドにも登録できないし、まともに魔法が使えるとなると、英才教育を受けているAクラスの連中とか……」
「あ、そうだ、ミヤザワくん! ミヤザワくんなら火球魔法が撃てるから……」
僕たちがミヤザワくんの方を一斉に向くと、ミヤザワくんはガタン、と立ち上がった。
「むむむむむむむりむりむり!! 無理だよう!! ぼ、ぼくはその、霊とかそういうのダメなんだ!! あ、次の魔法講習に行かなきゃ!! それじゃ!!」
あんなに素早く動けたんだ……。
脱兎のごとく走り去っていったミヤザワくんの背中を見送ってから、僕は言った。
「まぁ、ミヤザワくんは後で確保するとして」
「おまえ、鬼だな……」
キムがミヤザワくんの未来を哀れむように言った。
「神聖魔法が得意な人っているのかな。……もちろん、Aクラス以外で」
王族など、上級貴族の集団であるAクラスに頼み事をするようなコネはもちろんない。
それに、僕はまぶしすぎる金髪の真ジルベールの顔を思い浮かべた。
うまくいえないけど、あの人にだけは貸しを作らないほうがいい気がしていた。
「あ!知ってる!! たしか、Bクラスにすごい人がいるわよ! 神聖魔法の使い手で、9歳の時に『聖女』の称号を獲得したっていう人が!!」
ユキが叫んだ。
あいかわらず、他の生徒の情報にやたら詳しい。
「聖女?」
「『神託』という神様のお告げみたいなのを聴くことができる者に与えられる称号だな」
「お告げが聴けたら男でも『聖女』なの? 『聖男』?」
「くわしくは知らんが、信仰心の厚い女性にしか聴こえぬらしい」
偽ジルベールのわかりやすい説明に礼を言うと、閣下は右手を軽く上げて読書に戻った。
Bクラス、下級貴族たちのクラスか……。
話しかけづらいことに代わりはないが、Aよりはマシか。
「……本当にあなたで解決するつもりなの?」
「うーん、だって引き受けちゃったしなぁ……。まぁ、とりあえずできるだけのことはやってみるよ」
そう告げると、メルは表情を変えずに「そう」とだけ答えた。
それにしても、9歳で「聖女」の称号を得た才媛かぁ……。
きっと、白い服が似合って「あらあら~」が口癖の、ものすごい癒やし系な雰囲気の女性に違いない。
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